魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第9章 パーティー対抗戦編

パーティー対抗戦⑮ 戦況⑩ 決着

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「さて、どうする?もう優勝の見込みはなさそうだけど?」
クリスティーンがジョンにそう尋ねた。
「あぁ、だがこのままただ負けるというのも癪だ。最後にこの試合をひっかき回してやろう」
そう言うと、ジョンは連絡用の『音の魔法具』を取り出して発動し、森全体に響き渡るほどのボリュームでこう言った。


「今から光が上がるところに旗を持ったやつがいるぞぉ!!」


そう言って、今度は連絡用の『光の魔法具』を発動した。すると空中に閃光弾が打ちあがった。


「ははは!なるほどね!自分たちの勝ちはなくても乱闘状態にして、とりあえず私たちのパーティーの勝つ可能性を少しでも減らそうという魂胆ね!いいわよ、乗ってあげようじゃない!」

するとヒルダはスマホ型魔法具リムレットアンスール(言葉)の文字を刻み、ルーン魔法を発動する。
そしてこちらも森全体に響き渡るほどの声でこう言った。

「今から炎が上がるところに旗を持ったやつがいるわよー!どっからでもかかってきなさーい!」

そして、ᚲ ケーン(火)のルーン魔法を発動すると、地上から上空に火の玉が上がった。


「ははは…自ら敵を呼んでやがる…参ったな…」
ジョンはお手上げだというように諸手を上げた。



「うわぁ~、何か面白いことになってるね」
ルーシッドはそのやり取りを離れたところで聞きながら言った。
現在、ルーシッドはジョンのパーティーの旗とヘンリエッタのパーティーの旗の2本を所有している。
「ルーシィ、他人事じゃありませんよ。囲まれています」
エアリーは警戒するように周りを見ながら言う。今は特に探索魔術を使っているわけではないので、純粋にエアリー自身の目や耳で情報を感じ取っているのだろう。

「そうだね。誰のパーティーだろうね」
「それはわかりませんが…どうしますか?」
「まぁ旗2本あるし、1本は


「ねぇ…あれ、どう思う?」
ルーシッドの様子を影から伺っていたのはランダル達だった。レガリーにそう尋ねられたランダルは、先ほどのルーシッドの奇行について考えていた。
先ほどルーシッドは自分が持っていた旗を地面に立てて、そのままどこかへ行ってしまったのだ。
「明らかに罠だ」
「まぁそうよね…でも…」
「どっちにしろあと少しで試合は終わりだ。罠だろうが何だろうが行ってみるしかないんじゃね?」
「あぁ、ビリーの言う通りだ。これがこの試合のラストチャンスだ。行こう」
ランダル達は周りを警戒しながら旗に近づく。


「…何も無いわね」
そして恐る恐るランダルが旗に触れようとすると…
「こ、これは何だ…透明な何かがあって旗が取れない!」
「なるほどね、これがルーシィの無色の魔力ってやつね」
ランダルにそう言われて、レガリーはその透明な箱をコンコンとノックした。
「これって破壊できるのかしら?」
「いや、無理だよ」
「!?」
突然、自分たち以外の声が会話に入ってきたので、ランダルとレガリーはびっくりして声の主を探した。
そして、後ろを振り向くとそこにはルーシッドがいた。
「な、いつの間に…!」

空間掌握エリア アンダー コントロール
状態コンディション拘束バンディッジ

2人が何かをする前にルーシッドは魔術名を発する。
すると、2人は身動きが取れなくなり、その場に立ち尽くした。

「その箱は、無色の魔力の結合を最高レベルにしてるから、並大抵の攻撃では壊せないと思うよ」
「なるほど…これはもしかして、あの入学試験の摸擬戦の時に使っていた技かい?」
ランダルがその技を身をもって体験したことにより納得したようにそう言った。
「そうだね。空間掌握エリア アンダー コントロールって言って、一定空間を命令によって自由に操作できる状態、いわゆるスタンバイ状態の無色の魔力で満たすことで、自分の制御下に置く魔術だよ。まぁ、操作魔法オペレイトマジックの応用技術だけど」
「相変わらずとんでもない力ね…こんなの無敵じゃない…」
「そうでもないよ。この魔術の最大の欠点は相手を制御できないことだから。だからこうして罠を張ったんだけど…でもそっちもさすがにそれは読んでたみたいだね。まだ誰か隠れてるね」
「そこまで分かっていたか」
ランダルは自分たちの作戦が完全に読まれていたので笑った。

念のためビリーには隠れて様子を伺ってもらっているが、だからと言ってこの事態を覆すような名案も思いつかない。

その時だった。
「わー!」
と大きな声を挙げながら、ルーシッドの背後からアヤメとビリーが駆け出してきた。

状態コンディション拘束バンディッジ

ルーシッドは少しびっくりして後ろを振り返ったが、すぐにそう言って2人を拘束した。

「あはは、一か八か駆け出してはみたもののやーっぱりダメでしたかぁ」
「だから言ったじゃん、アヤちゃん」
「いやぁ、面目ない。しかしこの魔術はすごいですね。全く体が動きません」
「あぁ、そうだな。これを身をもって体験できるたぁ、いい冥土の土産になったなぁ」
2人がそんなくだらない話を白々しくしている。
ルーシッドは何かが引っかかるというように頭を掻いた。

この2人はわざと自分たちに注意を向けるかのように大声を出しながら走ってきた。
ただ自棄になって飛び出したということもないだろう。
ということはこの2人はおとり?
ダンディー達の残るパーティーメンバーはあと1人。
ラコッテ・テラコッタだ。
ラコッテの魔力は赤黄黒の3色混合の『焼き土色』。

ルーシッドは、はっとして旗の方に向き直った。
するとそこにはラコッテがいた。
だが、ラコッテがいたのは地上ではなくだった。
旗の下の地面に穴が開けられていて、そこからラコッテが顔を覗かせていたのだ。

「なるほど。なかなか考えたね。『土の魔法』でトンネルを掘って下から旗を取る作戦だね。悪くない作戦よ」

しかしラコッテは旗を取ることが出来なかった。

「これ…下にも無色の魔力がある…」
ラコッテは地面から出てきた。トンネルは旗のすぐ近くのところから掘られていたようだ。
「念には念をってやつです」
ルーシッドが無色の魔力の結合を解きつつ旗を手に取り、ひらひらと振って見せた。

「完全にルーシィの方が一枚上手うわてだったようだ。完敗だ」
ランダルはふっと笑った。


その時、試合終了の合図が鳴り響いたのだった。


「こんな作戦を考えるなんてやるじゃない、3人共。2人が大声挙げて飛出してきた時は、びっくりしたわよ」

試合が終わり、全員が結果発表を聞くために最初の位置に歩いて戻っていく。
最後に一緒の場所にいたので、ランダル達とルーシッドは一緒に歩いていた。
最後のラコッテの作戦について、レガリーがそう称賛した。

「いやぁ、まぁそれほどでも」
「いや、考えたのラコちゃんだからな、アヤちゃん」
「あはは。まぁでも2人が時間稼ぎしてくれたお陰でトンネル掘ることできたよ。私の魔力じゃ本当に短い距離しか掘れないから」
アヤメとビリーの掛け合いを笑いながらラコッテがそう答えた。
「ラコッテが僕たちの後ろからダッシュしてきたときはびっくりしたね」
ランダルも笑顔でそう言った。
「それこそ一か八かだったけどね~」
ラコッテが恥ずかしそうに答える。
「いや、巧みな連携で隙をついたなかなか良い作戦だったよ。一応全面無色の魔力で覆ってたから助かったけど、覆ってなかったら時間的に言って旗を取られて負けてたね」
ルーシッドもラコッテの大胆な作戦に賛辞を贈るのだった。


「はい、皆さん。お疲れさまでした。それでは結果発表します」
全員が集まったところで、リサがそう言った。

「最終的な旗の所持数は、キリエさんのパーティーが、ヘンリエッタさんのパーティーが1本、シアンさんのパーティーがでした。ということで、今回の優勝はキリエさんのパーティーです。結果はこうなりましたが、どのパーティーも色々と趣向を凝らして、またそれぞれのパーティーの特徴を生かした作戦を立てていて、なかなか良い攻防でしたよ」
「ちょ、ちょっと先生、待ってください!」
リサが試合の講評を述べていると、ルビアが割って入った。
「はい、ルビアさん、どうしました?」
「私たちのパーティー4本旗を持っているんですけど?」
「あぁ、キミが持っているのは偽物だよ、ルビアくん」
リスヴェルがくすくすと笑いながらそう言った。
「え、にっ、偽物?」
「あぁ、そうさ。本物はシアンくんが持っているよ」
「そんなのズルい!」
「だが、ルール違反ではない」
「じゃ、じゃあ、あの柵をチラチラと気にしていたロッテのあれは演技だったって言うの!?」
信じられないというようにルビアがそう言って自分の方を見たのでシャルロッテはビクッとした。
「そうよ~。なかなかの演技者でしょ?」
それを見て面白そうに笑いながらロイエが答えると、シャルロッテは恥ずかしそうにうつむく。
「うぅ~、すっかり騙されたわ…」
がっくりと肩を落とすルビア。

「はい、皆さーん。色々と話したいこともあるでしょうが、ひとまずこれで終わりにしましょう。後は寮に戻ってからね。優勝したキリエさんのパーティーに賞品の『ケーキ引換券』を進呈します」
皆が拍手をする。

「先生、このケーキって何個食べれるんですか?」
ルーシッドがもらったケーキ引換券を見ながら質問する。
「好きなだけどうぞ?何種類も準備してあるみたいよ?元々同率優勝とかもあり得るから余分に準備してあるし。ルーシッドさん、ケーキ好きなのね~」
リサが笑いながら言うと、ルーシッドはこう言った。

「いやまぁ、好きは好きですけど…じゃあ5人分くらい注文して、結果的に食べきれないから皆に分けてしまっても仕方ないですよね?」
それを聞いてリサは目を見開いた。そして少しの間の後でにやりと笑ってこう言った。

「そうね、それは仕方ないわね」

クラスがどっと沸いた。

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