魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第9章 パーティー対抗戦編

パーティー対抗戦⑯ 打ち上げ

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ルーシッドのちょっとズルい案により、皆でケーキを食べながら対抗戦の反省会および打ち上げをすることになったルーシッドのクラス。

先生に使って良いと言われた寮の談話室に集まり、食堂からもらってきた色々な種類のケーキに、紅茶アール・ルテハーブティーエルヴ・ルテなどを入れるセットも準備していた。

食堂の担当者は4人ではとても食べきれない量のケーキを注文しても何も言わなかったし、持ち帰りたいと言ったら親切にもケーキを入れるための箱と袋も準備してくれた。まるで最初からわかっていたかのように…。もはやこの対抗戦の賞品のケーキをクラス全員で食べるのは恒例なのだろうか?

みんなでわいわいとケーキを食べながら今日の試合について話していた。

「相手の陣地を見つけるのがすごく大変だったわ…」
チョコレートケーキをつまみながらシアンが言う。
「そうねぇ、人や物を探す魔法って無いものね。あの場合どうするのが良かったのかしら」
ロイエがそれに同意して首をひねる。

「そういうのは魔法に頼ってはいけないと思うわ。地形にもよるけど、人の痕跡を観察することよ。特に今回みたいな森だったら、足跡とか草が倒れた形跡を探せば良いと思うわ。私は今回はキリィにナビゲートしてもらったからそこまで真剣に観察しなかったけど、それでもだいたいの人の流れとか、何人くらいで動いているのかとか、靴の大きさや体重、草の倒れ方とかから身長とか性別くらいなら大体判断できてたわ」
ルビアがさらっとそう言ったので、皆は一瞬静まり返った。
「え、どうしたの?」
ルビアがきょとんとして尋ねる。

「ルビィって一体何者?すごい魔法使いだとは思ってたけど、それ以上にすごすぎる気がする」
「え、そ、そう?あー、ほら、昔からかくれんぼとかして遊んでたし、それと一緒よ」
「あー、そっか。かくれんぼか。確かにそう言われてみればそうか」

ルビアの特殊なスキルは暗殺者アサシンとしてのスキルだった。子供の頃からの訓練を通してルビアは、自分の痕跡を残さずに行動する技術と、隠れている人をいち早く見つける技術を身に着けていた。
もちろん影の魔法も使用するので敵に見つかる確率は低いが、例えばもし魔法が使えない状況になったとしても任務を遂行できるように、という様々な状況を想定しておくというのが、スカーレット家の在り方だった。
それこそがミルギニア皇帝家から絶大の信頼を得ている理由だった。

「それよりも私としてはアンの作戦にすっかり騙されたわ。まさか偽物をつかまされるなんて…」
手に持っていた偽物の旗を握る手に、悔しそうに力がこもるルビア。
「へぇ、どれどれ。ちょっと私にも見せて?」
ヘンリエッタに言われて、その旗を手渡すルビア。
「ふぅ~ん。確かに良くできてるわね。本物と素材も似ているわね。これじゃあ分からなくても仕方ないわよルビィ。この旗はアンが?」
ルビアを慰めながらそう尋ねるヘンリエッタ。
「そうだよ。アンは昔から裁縫とかも得意で、ハベトロットと契約もしてるんだよ。その旗の材料も草木の魔法で育てた木を加工したやつだし」
シアンのことなのに代わりにライムが得意げに答える。
「へぇ、勉強だけじゃなくて創作系もいけるなんて、まさに才色兼備ね~」
「いえ、そんなことは。ヘティーの方が全然」
シアンは恥ずかしそうにそう言った。

「作戦と言えば、ヘティーさんのとこもすごかったね。迷彩服もだし、木の上に拠点を構えるのもだし、私全然見つけられなかったよ」
キリエが感心しつつ、ちょっと悔しそうに話す。
「まぁ完全にキリエ対策って感じだったからね~。ごめんね、狙い撃ちみたいな対策で」
オリヴィアがウィンクしながら手で謝罪のポーズを取る。
「ううん、警戒されてるのはわかってたから。それにしてもスズちゃんが近づいてきたのは全然気づかなかったなぁ」
「足に注意を集中すれば足音を消すことなんて簡単よ。それに木から木に飛び移ったりしてたし」
「そんなことできるのはスズちゃんだけだと思うけど…まぁでもヘティーさんのパーティーは攻守のバランスが取れてるね」
キリエは苦笑いする。
「そうね。私とかオリーはあんまり攻撃系は得意じゃないから、ミスズがいてくれて助かるわ」
「私は逆に作戦考えたりするのは苦手だから助かるわ」
ヘンリエッタとミスズはお互いに笑い合った。

「でもあれよね。ルビィといいスズといい、このクラスちょっと普通じゃない能力の人が多すぎるんじゃないかしら」
それを見ながらロイエは笑って言った。
「ちょっと、スズはともかく私は普通よ」
「いや、全然普通じゃないわよ、あなた…」
ルビアが心外だという風に反論すると、すかさずシアンが突っ込んだ。
「それに一番普通じゃない奴がいるじゃない」
ルビアがそう言うと、全員の目線が1人の生徒に向けられる。
「……え、私?」
そう、ルーシッドだ。
「あなた意外に誰がいるっていうのよ」
ルビアは呆れたようにため息をつく。
「そうだね。最後に戦ったけど、まるで歯が立たなかったよ」
ランダルは笑って言った。
「そう言えば、僕たちの旗を取ったのはルーシィなんだろう?一体どうやって取ったんだ?全く気付かなかったんだが…」
ジョンがずっと気になっていたことを尋ねた。
「え?普通に壁の後ろから隠れて近づいて取ったよ。鉄の形を変形させて旗をつかんで、それを上まで移動させたんだけど」
「な、なるほど。あの壁自体の材質を逆に利用されたのか…。しかしよく見えない対象物を正確につかむことができるな?」
「あー、そこはまぁ、エアリーがいるから。エアリーに旗の位置を正確に計算してもらったんだよ」
そう言われてエアリーがすっと頭を下げ、そして話し始める。
「後ろに壁を作って攻められる方向を前方に絞るというのは作戦としては悪くなかったと思います。ですが、逆に後ろに死角ができてしまったことが敗因かと思います」
「ははは、あとは君のすごさを見落としていたことかな」

「すごいと言えば、リカちゃんも相当じゃね?俺ら陣地に攻め込まれたけどなんかやばかったぜ?」
「うん、色んな属性の魔法使ってきて全然歯が立たなかったよ~」
ビリーとラコッテがそう話すと、同じく戦ったリリアナとクリスティーンもその話に加わった。
「あぁ、僕達もその後で戦ったけどまるで歯が立たなかったよ」
「あー、えっと、リカ?あのことはみんなには内緒にした方が?」
リリアナはフェリカの方を向いて尋ねる。

「ううん。この際だから皆には教えておくよ。ちょっと待ってね」
そう言って、フェリカはマリーとヒルダに心の中で話しかける。しばらくフェリカが沈黙したままなので、皆は首を傾げながらも、フェリカを待つのだった。


『皆に2人のこと話しても大丈夫?』

『私らは別に構わんぞ』
『えぇ、あなたがそれで良ければ』

『2人のことは何と呼べば?やっぱり真名は伏せた方が?』

『いやいや、真名を伏せるべきなのは、契約していない場合じゃ。それに仮に真名を知られたところで、相手の意に反して契約することはできんし、それはあくまで形式的なものじゃ。妖精が契約しても良いと思った相手に真名を伝えるという行為自体に意味があるのじゃ』

『そうなんだ。ちなみに皆にも姿を見せることってできる?』

『あぁ、もちろんできるぞ』

『じゃあお願いします』

そうフェリカが言うと、フェリカの後ろにすーっと、マリーとヒルダが現れた。

「な……こ、これは…?」
その光景に全員が大きく動揺する。

「紹介します。私と契約してくれた神位の妖精です。こちらがヴァンパイアという妖精のマリーさんです」

「いかにも。私がヴァンパイアのマリーじゃ」
マリーは威厳を出そうとしたのか、大きく胸を張った。

「神位の妖精を契約召喚した魔法使いなんてあり得ない…しかもヴァンパイアですって?」
「あぁ、純色の魔法使いですら高位の妖精止まりだ」
「って、ていうか、妖精が喋ってますよ!?神位の妖精って喋れるんですね!すごい!」
#
「神位__・__#じゃからな!」
マリーは得意げに宙を舞った。

「そしてこちらが同じく神位の妖精オーディンのヒルダさんです」

「はぁーい。こんばんわ。さっきはリカの体を借りて話してたけど、これが私の本当の声よ」
ヒルダは先ほど戦った相手を見ながら手を振った。

「神位の妖精と契約できたことだけでも驚きなのに、2人と契約しているとは…」
「あり得ないわね…」
「でも、クラス対抗戦のことを考えれば、このクラスはかなり期待できるんじゃないかしら?」
シアンはそう言った。
「確かにね。他のクラスはSランクのルビアだけに注目しているかも知れないが、実はすごい面々が揃っているね」
「私たちも負けてられないわね」
ランダルがそう言うと、レガリーが気を引き締めるようにそう返した。


「まぁ、クラス対抗戦は1学期の最後だよね。その前に期末テストがあるよ」
ルーシッドがそう言うと、皆は忘れていたこと、いや、を思い出させられたかのように絶句した。

ディナカレア魔法学院は実技だけでなく、座学も重視している。そのことが、この学院が多くの有用な魔法使いや魔法学者、魔法研究者を輩出している理由であった。そして、ディナカレア魔法学院の授業は非常にレベルが高く、テストもまた難しかった。魔法学院に入学するまでは、サラのような名家の家のものでない限りは、魔法に関しては決して十分な教育を受けてきたとは言えない学生にとっては、年に3回あるこの期末テストは大きな難題の1つだった。

この世界における魔法学院とは、私たちの世界においては高校と大学を合わせたような学校である。魔法学院に入学せずにそのまま仕事に就く魔法使いなどざらなのだ。この魔法学院を卒業できたものには、各方面から引く手あまた。将来が約束されたようなものなのである。

「ルーシィはちなみにもうテスト勉強は進めてるの?」
シアンがルーシッドに尋ねた。
「え、あー、いやしてないけど」
「私は少し始めてるんだけど、よくわからないところがいくつかあるの。もし良ければ後で教えてくれないかしら?」
「え?あ、うん。いいよ」
「良かったわ。前のチーム演習の時もそうだったけど、ルーシィがいてくれれば心強いわ」
シアンはそう言ってにっこりと笑った。
ルーシッドにとって同年代から頼られることは、この学校に入るまで経験したことがないことだった。
ルーシッドは少し嬉しく、また少しこそばがゆい気持ちになるのだった。

そして、シアンがそう言ったことに対して、じゃあ私も私もと皆が言ってくるので、少し困った顔をするルーシッドだった。
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