85 / 153
第9章 パーティー対抗戦編
パーティー対抗戦⑯ 打ち上げ
しおりを挟む
ルーシッドのちょっとズルい案により、皆でケーキを食べながら対抗戦の反省会および打ち上げをすることになったルーシッドのクラス。
先生に使って良いと言われた寮の談話室に集まり、食堂からもらってきた色々な種類のケーキに、紅茶やハーブティーなどを入れるセットも準備していた。
食堂の担当者は4人ではとても食べきれない量のケーキを注文しても何も言わなかったし、持ち帰りたいと言ったら親切にもケーキを入れるための箱と袋も準備してくれた。まるで最初からわかっていたかのように…。もはやこの対抗戦の賞品のケーキをクラス全員で食べるのは恒例なのだろうか?
みんなでわいわいとケーキを食べながら今日の試合について話していた。
「相手の陣地を見つけるのがすごく大変だったわ…」
チョコレートケーキをつまみながらシアンが言う。
「そうねぇ、人や物を探す魔法って無いものね。あの場合どうするのが良かったのかしら」
ロイエがそれに同意して首をひねる。
「そういうのは魔法に頼ってはいけないと思うわ。地形にもよるけど、人の痕跡を観察することよ。特に今回みたいな森だったら、足跡とか草が倒れた形跡を探せば良いと思うわ。私は今回はキリィにナビゲートしてもらったからそこまで真剣に観察しなかったけど、それでもだいたいの人の流れとか、何人くらいで動いているのかとか、靴の大きさや体重、草の倒れ方とかから身長とか性別くらいなら大体判断できてたわ」
ルビアがさらっとそう言ったので、皆は一瞬静まり返った。
「え、どうしたの?」
ルビアがきょとんとして尋ねる。
「ルビィって一体何者?すごい魔法使いだとは思ってたけど、それ以上にすごすぎる気がする」
「え、そ、そう?あー、ほら、昔からかくれんぼとかして遊んでたし、それと一緒よ」
「あー、そっか。かくれんぼか。確かにそう言われてみればそうか」
ルビアの特殊なスキルは暗殺者としてのスキルだった。子供の頃からの訓練を通してルビアは、自分の痕跡を残さずに行動する技術と、隠れている人をいち早く見つける技術を身に着けていた。
もちろん影の魔法も使用するので敵に見つかる確率は低いが、例えばもし魔法が使えない状況になったとしても任務を遂行できるように、という様々な状況を想定しておくというのが、スカーレット家の在り方だった。
それこそがミルギニア皇帝家から絶大の信頼を得ている理由だった。
「それよりも私としてはアンの作戦にすっかり騙されたわ。まさか偽物をつかまされるなんて…」
手に持っていた偽物の旗を握る手に、悔しそうに力がこもるルビア。
「へぇ、どれどれ。ちょっと私にも見せて?」
ヘンリエッタに言われて、その旗を手渡すルビア。
「ふぅ~ん。確かに良くできてるわね。本物と素材も似ているわね。これじゃあ分からなくても仕方ないわよルビィ。この旗はアンが?」
ルビアを慰めながらそう尋ねるヘンリエッタ。
「そうだよ。アンは昔から裁縫とかも得意で、ハベトロットと契約もしてるんだよ。その旗の材料も草木の魔法で育てた木を加工したやつだし」
シアンのことなのに代わりにライムが得意げに答える。
「へぇ、勉強だけじゃなくて創作系もいけるなんて、まさに才色兼備ね~」
「いえ、そんなことは。ヘティーの方が全然」
シアンは恥ずかしそうにそう言った。
「作戦と言えば、ヘティーさんのとこもすごかったね。迷彩服もだし、木の上に拠点を構えるのもだし、私全然見つけられなかったよ」
キリエが感心しつつ、ちょっと悔しそうに話す。
「まぁ完全にキリエ対策って感じだったからね~。ごめんね、狙い撃ちみたいな対策で」
オリヴィアがウィンクしながら手で謝罪のポーズを取る。
「ううん、警戒されてるのはわかってたから。それにしてもスズちゃんが近づいてきたのは全然気づかなかったなぁ」
「足に注意を集中すれば足音を消すことなんて簡単よ。それに木から木に飛び移ったりしてたし」
「そんなことできるのはスズちゃんだけだと思うけど…まぁでもヘティーさんのパーティーは攻守のバランスが取れてるね」
キリエは苦笑いする。
「そうね。私とかオリーはあんまり攻撃系は得意じゃないから、ミスズがいてくれて助かるわ」
「私は逆に作戦考えたりするのは苦手だから助かるわ」
ヘンリエッタとミスズはお互いに笑い合った。
「でもあれよね。ルビィといいスズといい、このクラスちょっと普通じゃない能力の人が多すぎるんじゃないかしら」
それを見ながらロイエは笑って言った。
「ちょっと、スズはともかく私は普通よ」
「いや、全然普通じゃないわよ、あなた…」
ルビアが心外だという風に反論すると、すかさずシアンが突っ込んだ。
「それに一番普通じゃない奴がいるじゃない」
ルビアがそう言うと、全員の目線が1人の生徒に向けられる。
「……え、私?」
そう、ルーシッドだ。
「あなた意外に誰がいるっていうのよ」
ルビアは呆れたようにため息をつく。
「そうだね。最後に戦ったけど、まるで歯が立たなかったよ」
ランダルは笑って言った。
「そう言えば、僕たちの旗を取ったのはルーシィなんだろう?一体どうやって取ったんだ?全く気付かなかったんだが…」
ジョンがずっと気になっていたことを尋ねた。
「え?普通に壁の後ろから隠れて近づいて取ったよ。鉄の形を変形させて旗をつかんで、それを上まで移動させたんだけど」
「な、なるほど。あの壁自体の材質を逆に利用されたのか…。しかしよく見えない対象物を正確につかむことができるな?」
「あー、そこはまぁ、エアリーがいるから。エアリーに旗の位置を正確に計算してもらったんだよ」
そう言われてエアリーがすっと頭を下げ、そして話し始める。
「後ろに壁を作って攻められる方向を前方に絞るというのは作戦としては悪くなかったと思います。ですが、逆に後ろに死角ができてしまったことが敗因かと思います」
「ははは、あとは君のすごさを見落としていたことかな」
「すごいと言えば、リカちゃんも相当じゃね?俺ら陣地に攻め込まれたけどなんかやばかったぜ?」
「うん、色んな属性の魔法使ってきて全然歯が立たなかったよ~」
ビリーとラコッテがそう話すと、同じく戦ったリリアナとクリスティーンもその話に加わった。
「あぁ、僕達もその後で戦ったけどまるで歯が立たなかったよ」
「あー、えっと、リカ?あのことはみんなには内緒にした方が?」
リリアナはフェリカの方を向いて尋ねる。
「ううん。この際だから皆には教えておくよ。ちょっと待ってね」
そう言って、フェリカはマリーとヒルダに心の中で話しかける。しばらくフェリカが沈黙したままなので、皆は首を傾げながらも、フェリカを待つのだった。
『皆に2人のこと話しても大丈夫?』
『私らは別に構わんぞ』
『えぇ、あなたがそれで良ければ』
『2人のことは何と呼べば?やっぱり真名は伏せた方が?』
『いやいや、真名を伏せるべきなのは、契約していない場合じゃ。それに仮に真名を知られたところで、相手の意に反して契約することはできんし、それはあくまで形式的なものじゃ。妖精が契約しても良いと思った相手に真名を伝えるという行為自体に意味があるのじゃ』
『そうなんだ。ちなみに皆にも姿を見せることってできる?』
『あぁ、もちろんできるぞ』
『じゃあお願いします』
そうフェリカが言うと、フェリカの後ろにすーっと、マリーとヒルダが現れた。
「な……こ、これは…?」
その光景に全員が大きく動揺する。
「紹介します。私と契約してくれた神位の妖精です。こちらがヴァンパイアという妖精のマリーさんです」
「いかにも。私がヴァンパイアのマリーじゃ」
マリーは威厳を出そうとしたのか、大きく胸を張った。
「神位の妖精を契約召喚した魔法使いなんてあり得ない…しかもヴァンパイアですって?」
「あぁ、純色の魔法使いですら高位の妖精止まりだ」
「って、ていうか、妖精が喋ってますよ!?神位の妖精って喋れるんですね!すごい!」
#
「神位__・__#じゃからな!」
マリーは得意げに宙を舞った。
「そしてこちらが同じく神位の妖精オーディンのヒルダさんです」
「はぁーい。こんばんわ。さっきはリカの体を借りて話してたけど、これが私の本当の声よ」
ヒルダは先ほど戦った相手を見ながら手を振った。
「神位の妖精と契約できたことだけでも驚きなのに、2人と契約しているとは…」
「あり得ないわね…」
「でも、クラス対抗戦のことを考えれば、このクラスはかなり期待できるんじゃないかしら?」
シアンはそう言った。
「確かにね。他のクラスはSランクのルビアだけに注目しているかも知れないが、実はすごい面々が揃っているね」
「私たちも負けてられないわね」
ランダルがそう言うと、レガリーが気を引き締めるようにそう返した。
「まぁ、クラス対抗戦は1学期の最後だよね。その前に期末テストがあるよ」
ルーシッドがそう言うと、皆は忘れていたこと、いや、忘れようとしていたことを思い出させられたかのように絶句した。
ディナカレア魔法学院は実技だけでなく、座学も重視している。そのことが、この学院が多くの有用な魔法使いや魔法学者、魔法研究者を輩出している理由であった。そして、ディナカレア魔法学院の授業は非常にレベルが高く、テストもまた難しかった。魔法学院に入学するまでは、サラのような名家の家のものでない限りは、魔法に関しては決して十分な教育を受けてきたとは言えない学生にとっては、年に3回あるこの期末テストは大きな難題の1つだった。
この世界における魔法学院とは、私たちの世界においては高校と大学を合わせたような学校である。魔法学院に入学せずにそのまま仕事に就く魔法使いなどざらなのだ。この魔法学院を卒業できたものには、各方面から引く手あまた。将来が約束されたようなものなのである。
「ルーシィはちなみにもうテスト勉強は進めてるの?」
シアンがルーシッドに尋ねた。
「え、あー、いやしてないけど」
「私は少し始めてるんだけど、よくわからないところがいくつかあるの。もし良ければ後で教えてくれないかしら?」
「え?あ、うん。いいよ」
「良かったわ。前のチーム演習の時もそうだったけど、ルーシィがいてくれれば心強いわ」
シアンはそう言ってにっこりと笑った。
ルーシッドにとって同年代から頼られることは、この学校に入るまで経験したことがないことだった。
ルーシッドは少し嬉しく、また少しこそばがゆい気持ちになるのだった。
そして、シアンがそう言ったことに対して、じゃあ私も私もと皆が言ってくるので、少し困った顔をするルーシッドだった。
先生に使って良いと言われた寮の談話室に集まり、食堂からもらってきた色々な種類のケーキに、紅茶やハーブティーなどを入れるセットも準備していた。
食堂の担当者は4人ではとても食べきれない量のケーキを注文しても何も言わなかったし、持ち帰りたいと言ったら親切にもケーキを入れるための箱と袋も準備してくれた。まるで最初からわかっていたかのように…。もはやこの対抗戦の賞品のケーキをクラス全員で食べるのは恒例なのだろうか?
みんなでわいわいとケーキを食べながら今日の試合について話していた。
「相手の陣地を見つけるのがすごく大変だったわ…」
チョコレートケーキをつまみながらシアンが言う。
「そうねぇ、人や物を探す魔法って無いものね。あの場合どうするのが良かったのかしら」
ロイエがそれに同意して首をひねる。
「そういうのは魔法に頼ってはいけないと思うわ。地形にもよるけど、人の痕跡を観察することよ。特に今回みたいな森だったら、足跡とか草が倒れた形跡を探せば良いと思うわ。私は今回はキリィにナビゲートしてもらったからそこまで真剣に観察しなかったけど、それでもだいたいの人の流れとか、何人くらいで動いているのかとか、靴の大きさや体重、草の倒れ方とかから身長とか性別くらいなら大体判断できてたわ」
ルビアがさらっとそう言ったので、皆は一瞬静まり返った。
「え、どうしたの?」
ルビアがきょとんとして尋ねる。
「ルビィって一体何者?すごい魔法使いだとは思ってたけど、それ以上にすごすぎる気がする」
「え、そ、そう?あー、ほら、昔からかくれんぼとかして遊んでたし、それと一緒よ」
「あー、そっか。かくれんぼか。確かにそう言われてみればそうか」
ルビアの特殊なスキルは暗殺者としてのスキルだった。子供の頃からの訓練を通してルビアは、自分の痕跡を残さずに行動する技術と、隠れている人をいち早く見つける技術を身に着けていた。
もちろん影の魔法も使用するので敵に見つかる確率は低いが、例えばもし魔法が使えない状況になったとしても任務を遂行できるように、という様々な状況を想定しておくというのが、スカーレット家の在り方だった。
それこそがミルギニア皇帝家から絶大の信頼を得ている理由だった。
「それよりも私としてはアンの作戦にすっかり騙されたわ。まさか偽物をつかまされるなんて…」
手に持っていた偽物の旗を握る手に、悔しそうに力がこもるルビア。
「へぇ、どれどれ。ちょっと私にも見せて?」
ヘンリエッタに言われて、その旗を手渡すルビア。
「ふぅ~ん。確かに良くできてるわね。本物と素材も似ているわね。これじゃあ分からなくても仕方ないわよルビィ。この旗はアンが?」
ルビアを慰めながらそう尋ねるヘンリエッタ。
「そうだよ。アンは昔から裁縫とかも得意で、ハベトロットと契約もしてるんだよ。その旗の材料も草木の魔法で育てた木を加工したやつだし」
シアンのことなのに代わりにライムが得意げに答える。
「へぇ、勉強だけじゃなくて創作系もいけるなんて、まさに才色兼備ね~」
「いえ、そんなことは。ヘティーの方が全然」
シアンは恥ずかしそうにそう言った。
「作戦と言えば、ヘティーさんのとこもすごかったね。迷彩服もだし、木の上に拠点を構えるのもだし、私全然見つけられなかったよ」
キリエが感心しつつ、ちょっと悔しそうに話す。
「まぁ完全にキリエ対策って感じだったからね~。ごめんね、狙い撃ちみたいな対策で」
オリヴィアがウィンクしながら手で謝罪のポーズを取る。
「ううん、警戒されてるのはわかってたから。それにしてもスズちゃんが近づいてきたのは全然気づかなかったなぁ」
「足に注意を集中すれば足音を消すことなんて簡単よ。それに木から木に飛び移ったりしてたし」
「そんなことできるのはスズちゃんだけだと思うけど…まぁでもヘティーさんのパーティーは攻守のバランスが取れてるね」
キリエは苦笑いする。
「そうね。私とかオリーはあんまり攻撃系は得意じゃないから、ミスズがいてくれて助かるわ」
「私は逆に作戦考えたりするのは苦手だから助かるわ」
ヘンリエッタとミスズはお互いに笑い合った。
「でもあれよね。ルビィといいスズといい、このクラスちょっと普通じゃない能力の人が多すぎるんじゃないかしら」
それを見ながらロイエは笑って言った。
「ちょっと、スズはともかく私は普通よ」
「いや、全然普通じゃないわよ、あなた…」
ルビアが心外だという風に反論すると、すかさずシアンが突っ込んだ。
「それに一番普通じゃない奴がいるじゃない」
ルビアがそう言うと、全員の目線が1人の生徒に向けられる。
「……え、私?」
そう、ルーシッドだ。
「あなた意外に誰がいるっていうのよ」
ルビアは呆れたようにため息をつく。
「そうだね。最後に戦ったけど、まるで歯が立たなかったよ」
ランダルは笑って言った。
「そう言えば、僕たちの旗を取ったのはルーシィなんだろう?一体どうやって取ったんだ?全く気付かなかったんだが…」
ジョンがずっと気になっていたことを尋ねた。
「え?普通に壁の後ろから隠れて近づいて取ったよ。鉄の形を変形させて旗をつかんで、それを上まで移動させたんだけど」
「な、なるほど。あの壁自体の材質を逆に利用されたのか…。しかしよく見えない対象物を正確につかむことができるな?」
「あー、そこはまぁ、エアリーがいるから。エアリーに旗の位置を正確に計算してもらったんだよ」
そう言われてエアリーがすっと頭を下げ、そして話し始める。
「後ろに壁を作って攻められる方向を前方に絞るというのは作戦としては悪くなかったと思います。ですが、逆に後ろに死角ができてしまったことが敗因かと思います」
「ははは、あとは君のすごさを見落としていたことかな」
「すごいと言えば、リカちゃんも相当じゃね?俺ら陣地に攻め込まれたけどなんかやばかったぜ?」
「うん、色んな属性の魔法使ってきて全然歯が立たなかったよ~」
ビリーとラコッテがそう話すと、同じく戦ったリリアナとクリスティーンもその話に加わった。
「あぁ、僕達もその後で戦ったけどまるで歯が立たなかったよ」
「あー、えっと、リカ?あのことはみんなには内緒にした方が?」
リリアナはフェリカの方を向いて尋ねる。
「ううん。この際だから皆には教えておくよ。ちょっと待ってね」
そう言って、フェリカはマリーとヒルダに心の中で話しかける。しばらくフェリカが沈黙したままなので、皆は首を傾げながらも、フェリカを待つのだった。
『皆に2人のこと話しても大丈夫?』
『私らは別に構わんぞ』
『えぇ、あなたがそれで良ければ』
『2人のことは何と呼べば?やっぱり真名は伏せた方が?』
『いやいや、真名を伏せるべきなのは、契約していない場合じゃ。それに仮に真名を知られたところで、相手の意に反して契約することはできんし、それはあくまで形式的なものじゃ。妖精が契約しても良いと思った相手に真名を伝えるという行為自体に意味があるのじゃ』
『そうなんだ。ちなみに皆にも姿を見せることってできる?』
『あぁ、もちろんできるぞ』
『じゃあお願いします』
そうフェリカが言うと、フェリカの後ろにすーっと、マリーとヒルダが現れた。
「な……こ、これは…?」
その光景に全員が大きく動揺する。
「紹介します。私と契約してくれた神位の妖精です。こちらがヴァンパイアという妖精のマリーさんです」
「いかにも。私がヴァンパイアのマリーじゃ」
マリーは威厳を出そうとしたのか、大きく胸を張った。
「神位の妖精を契約召喚した魔法使いなんてあり得ない…しかもヴァンパイアですって?」
「あぁ、純色の魔法使いですら高位の妖精止まりだ」
「って、ていうか、妖精が喋ってますよ!?神位の妖精って喋れるんですね!すごい!」
#
「神位__・__#じゃからな!」
マリーは得意げに宙を舞った。
「そしてこちらが同じく神位の妖精オーディンのヒルダさんです」
「はぁーい。こんばんわ。さっきはリカの体を借りて話してたけど、これが私の本当の声よ」
ヒルダは先ほど戦った相手を見ながら手を振った。
「神位の妖精と契約できたことだけでも驚きなのに、2人と契約しているとは…」
「あり得ないわね…」
「でも、クラス対抗戦のことを考えれば、このクラスはかなり期待できるんじゃないかしら?」
シアンはそう言った。
「確かにね。他のクラスはSランクのルビアだけに注目しているかも知れないが、実はすごい面々が揃っているね」
「私たちも負けてられないわね」
ランダルがそう言うと、レガリーが気を引き締めるようにそう返した。
「まぁ、クラス対抗戦は1学期の最後だよね。その前に期末テストがあるよ」
ルーシッドがそう言うと、皆は忘れていたこと、いや、忘れようとしていたことを思い出させられたかのように絶句した。
ディナカレア魔法学院は実技だけでなく、座学も重視している。そのことが、この学院が多くの有用な魔法使いや魔法学者、魔法研究者を輩出している理由であった。そして、ディナカレア魔法学院の授業は非常にレベルが高く、テストもまた難しかった。魔法学院に入学するまでは、サラのような名家の家のものでない限りは、魔法に関しては決して十分な教育を受けてきたとは言えない学生にとっては、年に3回あるこの期末テストは大きな難題の1つだった。
この世界における魔法学院とは、私たちの世界においては高校と大学を合わせたような学校である。魔法学院に入学せずにそのまま仕事に就く魔法使いなどざらなのだ。この魔法学院を卒業できたものには、各方面から引く手あまた。将来が約束されたようなものなのである。
「ルーシィはちなみにもうテスト勉強は進めてるの?」
シアンがルーシッドに尋ねた。
「え、あー、いやしてないけど」
「私は少し始めてるんだけど、よくわからないところがいくつかあるの。もし良ければ後で教えてくれないかしら?」
「え?あ、うん。いいよ」
「良かったわ。前のチーム演習の時もそうだったけど、ルーシィがいてくれれば心強いわ」
シアンはそう言ってにっこりと笑った。
ルーシッドにとって同年代から頼られることは、この学校に入るまで経験したことがないことだった。
ルーシッドは少し嬉しく、また少しこそばがゆい気持ちになるのだった。
そして、シアンがそう言ったことに対して、じゃあ私も私もと皆が言ってくるので、少し困った顔をするルーシッドだった。
0
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】名無しの物語
ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』
父が借金の方に娘を売る。
地味で無表情な姉は、21歳
美人で華やかな異母妹は、16歳。
45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。
侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。
甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。
男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。
登場人物に、名前はない。
それでも、彼らは、物語を奏でる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる