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第11章 クラス対抗魔法球技戦編
バトルボール③
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1年5クラス対2クラスのバトルボールの試合が始まった。この試合に勝った方が、明日行われる1年バトルボール決勝に駒を進めることとなる。
もはや当たり前となった光景であるが、試合開始の合図と同時に選手たちが動き出し、相手の動向を伺いながら魔法の詠唱を開始する。
バトルボールのフィールドには遮蔽物はないので、まずは最優先にすべくは相手に狙われにくくすることである。相手チームもルーシッド達のクラスの詠唱速度は十分警戒しているので、先制されることは止むを得ないと考えているのだろう。しかし、いかに詠唱が速くても、魔法を狙ったところに当てられるかどうかは別の話なので、とりあえず一か所にとどまらないことで被弾を避けれる可能性は高まることは間違いない。
その点が、対人戦であるバトルボールと他の魔法球技との違いと言える。
しかし、一人フェリカだけはその場から動かず、口も動かさず、腕を組んで立っていた。見た目には攻撃してくださいと言わんばかりの隙だらけの状態である。
「なんのつもりや…?」
シヴァが不思議そうにつぶやく。
観客にも相手選手にも動揺が走る。
「なんだかレイみたいね?」
試合を観戦に来ていたクレア・グランドは、隣で腕を組んで試合を見ているレイチェル・フランメルにそう話しかけた。
レイチェルはその様子を見て、ただにやりと笑った。
レイチェルたちのクラスは去年と同じくバトルボールとストライクボールで決勝進出を決めていた。今日の午前中は完全にオフだったので、ルーシッドのクラスの試合を見に来ていたのだった。
5クラスの出場メンバーはフェリカの他に、ルビア・スカーレット、ロイエ・ネイプルス、オリヴィア・アライオン、ライム・グリエッタの4人が出場していた。
第一試合とは打って変わって、フェリカ以外の全員が黄の魔力を持ち、土の魔法を使えるというオーソドックスなオーダーだ。
フェリカを除く4人はいち早く詠唱を完了させた。
「あれは…何や?」
「うーん、構え的にはマジックアローのように思えるけど…ルビアさんのはストライクボールの時にも使っていた魔法ね…でも攻撃にはサンドボール以外使えないし、何に使うつもりなのかしら…」
ルビアが両手に作り出したのは、もはやこの魔法球技戦によってルビアの代名詞ともなったルビアのオリジナル魔法『両翼の射手』だった。
そして、ロイエが手にしたのは、火を弓状の形とした一般的な中距離攻撃用魔法『ファイアアロー』だ。バトルボールではなく、ストライクボールなどではよく使われる魔法だ。
そして、オリヴィアとライムが手にしていたのは同じくマジックアローの1つ、『ウィンドアロー』だった。
ウィンドアローは、他のマジックアローとは異なり見た目には見えない。これは本人にも見ることはできない。効果としても、風の矢が飛んでいくというもので、見えない弓で見えない矢を射るという魔法であり狙いが付けづらい。風の魔法は狙撃には向かず、マジックアローの中では最も人気のない魔法である。風の魔法であれば、細かい狙いでなく、大まかな狙いで良いウィンドカッターなどの方が人気で使いやすい。いずれにしてもバトルボールで使用されることはない魔法だ。
それぞれが魔法の武器を構え狙いを定めつつ、4人同時にこう唱えた。
「装填」
すると、それぞれの魔法の武器の前に土のボールが形成される。
そして、オリヴィアとライム、ロイエは左手で弓の弦を引き絞るような仕草をする。オリヴィアとライムは仕草だけだが、ロイエが弦を引き絞ると、それに合わせて火の矢が形成される。
それはちょうど土のボールの後方から伸びるようにして形成されたので、見えないが恐らくオリヴィアとライムも同じようになっているのだろう。
ルビアの『両翼の射手』は人差し指で引き金を引くだけで良いので、ただ構えて相手に狙いを定める。
そして、4人は次のように言って、各々その左手の弦を離し、両手の引き金を引いた。
「発射」
すると、土のボールが勢いよく放たれた。合計で5つの土のボールが放たれたが、そのうちの3つが相手選手にヒットした。ボールがヒットした選手たちは、詠唱を中断してしまったため、もう一度最初から唱え直しだ。
ここが決闘やバトルボールなどの攻撃を当て合う競技の難しいところである。敵の攻撃を受けてもなおひるむことなく詠唱を続けられるほど強靭な精神を持った魔法使いはそうそういるものではない。その点では、ルーシッドの短縮詠唱法により、確実に先制を取れる5クラスは圧倒的に有利であった。
「あちゃー、外れちゃったか」
「ドンマイドンマイ、どんどん撃ってこー」
外してしまったライムをオリヴィアが励ます。4人が再び『装填』と告げると、新たな土のボールが形成された。
「なるほど、バトルボールで使用する土の魔法『サンドボール』に、『マジックアロー』と『両翼の射手』を組み合わせたのね」
「いや、簡単にゆうとるけど、そんな簡単なもんやないぞ…あれは付与魔法やのうて合成魔法や」
それを見て納得したように言うフリージアに対して、シヴァが突っ込みを入れた。
付与魔法は物体に魔法特性を付与する魔法の総称である。例えば、ボールから風を発生させて、ボールに動力源をつけて自発的に飛ばすということはできる。
しかし、付与魔法は、実際に形が存在しているものにしかかけることができない。
『サンドボール』は土の魔法でできたボールではあるが、このボールが形を維持できているのは、魔法使いが魔力によって形を維持しているからである。土の魔法による造形魔法は基本的に全て同じである。これは物体と認識されないために付与魔法を重ね掛けすることはできない。
土の魔法の上位魔法の『石の魔法』、あるいは『鉄の魔法』などはこれとは異なり、造形魔法によって形を形成すると、魔法を終了した後でもその形は維持されるため、付与魔法をかけることができる。
それに加えて、4人が『サンドボール』を形成する前に、すでに武器を構える姿勢を取っていたことからも、風の魔法を付与しているわけではないということが伺える。付与魔法であれば、先にボールを準備しておく必要があるからだ。
これを実現するためには、大本の部分である魔法詠唱文を作り替える必要がある。つまり、最初から『土でできた弾を魔法の矢で発射する』という1つの魔法として発動するようにすれば良いのである。
しかしこれは、シヴァの言う通り口で言うほど簡単ではない。
バトルボールの最も重要なルールとして「攻撃には土で作ったボール(すなわち『サンドボール』)しか使用してはならない」というものがある。
もし仮に、今4人がやったように、サンドボールを他の魔法を使用して射出し威力を上げるというような魔法が存在しているなら、当の昔に使われているはずなのである。
そんな魔法がないからこそ、バトルボールの戦略としては、いかに魔法によって速く動いてボールを交わすかの『身体強化』、いかにボールを防ぐかの『防御』に重きが置かれているのである。
『サンドボール』という魔法に関しては、一切改良がなされてこなかった、というか改良の余地はないと思われていたのである。
4人はその常識を軽く打ち破って見せた。
「そもそも『マジックボール』は『終了条件指定詠唱』のはずやろ。やつらは今、『追加詠唱』でサンドボールを作り出しとるやないか。あれは『終了条件未指定詠唱』による『操作魔法』や。サンドボールとは全く別もんの魔法や」
「マジックアローは『操作魔法』だし、そっちの詠唱文を基軸にしてるんじゃないかしら?」
「どっちにしてもありえへん!すでにもう何百年も前に詠唱文が確立している『マジックアロー』と『マジックボール』っつう古典魔法を組み合わせた新しい合成魔法の詠唱文を作り出すなんてありえへん!
……なんやそれ、自分で言ってても意味わからんすぎて、混乱してきたわ…」
シヴァはうめき声を上げて頭を抱えた。
「確かにね。でも、聞いたところによると、昨日一番のニュースでもあった『水の飛行魔法』も2つの水の魔法を組み合わせた合成魔法らしいわ。ルーシィさんならそれも可能ということかしらね」
「ほんまなんやねん、あいつ。あいつにとっては新しい魔法を作り出すことなんて、a piece of cake(朝飯前)ゆうことか?」
「と、とりあえず、フェリカを同時に攻撃するわよ!」
魔法の詠唱が終了し、手にサンドボールを作り出した相手選手の1人はそう言った。先ほど、ルビアたちのボールがヒットしなかった2人の選手が、フェリカの両サイドに回り込みサンドボールを放つ。
確かにサンドボールは直撃した。
フェリカではなく相手選手に。
「なっ……いっ、今、何が起きた?」
「……ボールがフェリカさんにぶつかる寸前で反転して、ものすごい速度で飛んでいったように見えたけど…?」
「相手が自分の魔力で操作している物質を、魔法を上書きして自分の魔法として奪い返したっつうことか?そんな芸当ホンマにできるんか?」
「相手が使役している妖精よりも高位の妖精を使役すれば…」
「でもあいつはDランクやないか…絶対無理やろ…」
自分たちが放ったサンドボールが反転して飛んできて自分たちに直撃し、訳もわからず呆然としている相手選手に向かって、フェリカはこう告げた。
「どうした?もう終わりか?ならこちらから行くぞ?」
もはや当たり前となった光景であるが、試合開始の合図と同時に選手たちが動き出し、相手の動向を伺いながら魔法の詠唱を開始する。
バトルボールのフィールドには遮蔽物はないので、まずは最優先にすべくは相手に狙われにくくすることである。相手チームもルーシッド達のクラスの詠唱速度は十分警戒しているので、先制されることは止むを得ないと考えているのだろう。しかし、いかに詠唱が速くても、魔法を狙ったところに当てられるかどうかは別の話なので、とりあえず一か所にとどまらないことで被弾を避けれる可能性は高まることは間違いない。
その点が、対人戦であるバトルボールと他の魔法球技との違いと言える。
しかし、一人フェリカだけはその場から動かず、口も動かさず、腕を組んで立っていた。見た目には攻撃してくださいと言わんばかりの隙だらけの状態である。
「なんのつもりや…?」
シヴァが不思議そうにつぶやく。
観客にも相手選手にも動揺が走る。
「なんだかレイみたいね?」
試合を観戦に来ていたクレア・グランドは、隣で腕を組んで試合を見ているレイチェル・フランメルにそう話しかけた。
レイチェルはその様子を見て、ただにやりと笑った。
レイチェルたちのクラスは去年と同じくバトルボールとストライクボールで決勝進出を決めていた。今日の午前中は完全にオフだったので、ルーシッドのクラスの試合を見に来ていたのだった。
5クラスの出場メンバーはフェリカの他に、ルビア・スカーレット、ロイエ・ネイプルス、オリヴィア・アライオン、ライム・グリエッタの4人が出場していた。
第一試合とは打って変わって、フェリカ以外の全員が黄の魔力を持ち、土の魔法を使えるというオーソドックスなオーダーだ。
フェリカを除く4人はいち早く詠唱を完了させた。
「あれは…何や?」
「うーん、構え的にはマジックアローのように思えるけど…ルビアさんのはストライクボールの時にも使っていた魔法ね…でも攻撃にはサンドボール以外使えないし、何に使うつもりなのかしら…」
ルビアが両手に作り出したのは、もはやこの魔法球技戦によってルビアの代名詞ともなったルビアのオリジナル魔法『両翼の射手』だった。
そして、ロイエが手にしたのは、火を弓状の形とした一般的な中距離攻撃用魔法『ファイアアロー』だ。バトルボールではなく、ストライクボールなどではよく使われる魔法だ。
そして、オリヴィアとライムが手にしていたのは同じくマジックアローの1つ、『ウィンドアロー』だった。
ウィンドアローは、他のマジックアローとは異なり見た目には見えない。これは本人にも見ることはできない。効果としても、風の矢が飛んでいくというもので、見えない弓で見えない矢を射るという魔法であり狙いが付けづらい。風の魔法は狙撃には向かず、マジックアローの中では最も人気のない魔法である。風の魔法であれば、細かい狙いでなく、大まかな狙いで良いウィンドカッターなどの方が人気で使いやすい。いずれにしてもバトルボールで使用されることはない魔法だ。
それぞれが魔法の武器を構え狙いを定めつつ、4人同時にこう唱えた。
「装填」
すると、それぞれの魔法の武器の前に土のボールが形成される。
そして、オリヴィアとライム、ロイエは左手で弓の弦を引き絞るような仕草をする。オリヴィアとライムは仕草だけだが、ロイエが弦を引き絞ると、それに合わせて火の矢が形成される。
それはちょうど土のボールの後方から伸びるようにして形成されたので、見えないが恐らくオリヴィアとライムも同じようになっているのだろう。
ルビアの『両翼の射手』は人差し指で引き金を引くだけで良いので、ただ構えて相手に狙いを定める。
そして、4人は次のように言って、各々その左手の弦を離し、両手の引き金を引いた。
「発射」
すると、土のボールが勢いよく放たれた。合計で5つの土のボールが放たれたが、そのうちの3つが相手選手にヒットした。ボールがヒットした選手たちは、詠唱を中断してしまったため、もう一度最初から唱え直しだ。
ここが決闘やバトルボールなどの攻撃を当て合う競技の難しいところである。敵の攻撃を受けてもなおひるむことなく詠唱を続けられるほど強靭な精神を持った魔法使いはそうそういるものではない。その点では、ルーシッドの短縮詠唱法により、確実に先制を取れる5クラスは圧倒的に有利であった。
「あちゃー、外れちゃったか」
「ドンマイドンマイ、どんどん撃ってこー」
外してしまったライムをオリヴィアが励ます。4人が再び『装填』と告げると、新たな土のボールが形成された。
「なるほど、バトルボールで使用する土の魔法『サンドボール』に、『マジックアロー』と『両翼の射手』を組み合わせたのね」
「いや、簡単にゆうとるけど、そんな簡単なもんやないぞ…あれは付与魔法やのうて合成魔法や」
それを見て納得したように言うフリージアに対して、シヴァが突っ込みを入れた。
付与魔法は物体に魔法特性を付与する魔法の総称である。例えば、ボールから風を発生させて、ボールに動力源をつけて自発的に飛ばすということはできる。
しかし、付与魔法は、実際に形が存在しているものにしかかけることができない。
『サンドボール』は土の魔法でできたボールではあるが、このボールが形を維持できているのは、魔法使いが魔力によって形を維持しているからである。土の魔法による造形魔法は基本的に全て同じである。これは物体と認識されないために付与魔法を重ね掛けすることはできない。
土の魔法の上位魔法の『石の魔法』、あるいは『鉄の魔法』などはこれとは異なり、造形魔法によって形を形成すると、魔法を終了した後でもその形は維持されるため、付与魔法をかけることができる。
それに加えて、4人が『サンドボール』を形成する前に、すでに武器を構える姿勢を取っていたことからも、風の魔法を付与しているわけではないということが伺える。付与魔法であれば、先にボールを準備しておく必要があるからだ。
これを実現するためには、大本の部分である魔法詠唱文を作り替える必要がある。つまり、最初から『土でできた弾を魔法の矢で発射する』という1つの魔法として発動するようにすれば良いのである。
しかしこれは、シヴァの言う通り口で言うほど簡単ではない。
バトルボールの最も重要なルールとして「攻撃には土で作ったボール(すなわち『サンドボール』)しか使用してはならない」というものがある。
もし仮に、今4人がやったように、サンドボールを他の魔法を使用して射出し威力を上げるというような魔法が存在しているなら、当の昔に使われているはずなのである。
そんな魔法がないからこそ、バトルボールの戦略としては、いかに魔法によって速く動いてボールを交わすかの『身体強化』、いかにボールを防ぐかの『防御』に重きが置かれているのである。
『サンドボール』という魔法に関しては、一切改良がなされてこなかった、というか改良の余地はないと思われていたのである。
4人はその常識を軽く打ち破って見せた。
「そもそも『マジックボール』は『終了条件指定詠唱』のはずやろ。やつらは今、『追加詠唱』でサンドボールを作り出しとるやないか。あれは『終了条件未指定詠唱』による『操作魔法』や。サンドボールとは全く別もんの魔法や」
「マジックアローは『操作魔法』だし、そっちの詠唱文を基軸にしてるんじゃないかしら?」
「どっちにしてもありえへん!すでにもう何百年も前に詠唱文が確立している『マジックアロー』と『マジックボール』っつう古典魔法を組み合わせた新しい合成魔法の詠唱文を作り出すなんてありえへん!
……なんやそれ、自分で言ってても意味わからんすぎて、混乱してきたわ…」
シヴァはうめき声を上げて頭を抱えた。
「確かにね。でも、聞いたところによると、昨日一番のニュースでもあった『水の飛行魔法』も2つの水の魔法を組み合わせた合成魔法らしいわ。ルーシィさんならそれも可能ということかしらね」
「ほんまなんやねん、あいつ。あいつにとっては新しい魔法を作り出すことなんて、a piece of cake(朝飯前)ゆうことか?」
「と、とりあえず、フェリカを同時に攻撃するわよ!」
魔法の詠唱が終了し、手にサンドボールを作り出した相手選手の1人はそう言った。先ほど、ルビアたちのボールがヒットしなかった2人の選手が、フェリカの両サイドに回り込みサンドボールを放つ。
確かにサンドボールは直撃した。
フェリカではなく相手選手に。
「なっ……いっ、今、何が起きた?」
「……ボールがフェリカさんにぶつかる寸前で反転して、ものすごい速度で飛んでいったように見えたけど…?」
「相手が自分の魔力で操作している物質を、魔法を上書きして自分の魔法として奪い返したっつうことか?そんな芸当ホンマにできるんか?」
「相手が使役している妖精よりも高位の妖精を使役すれば…」
「でもあいつはDランクやないか…絶対無理やろ…」
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