魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第11章 クラス対抗魔法球技戦編

エリアボール1年決勝②

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エリアボール1年決勝に臨む2チームがコートに向かい合うようにして並び、顔を合わせる。

「お互いに良い試合をしましょうね」
アザレア・ディライトは笑顔でそう言った。

「あぁ、そうだね」
ちょうどアザレアの正面にいたランダルが笑い返した。


両チームが自軍のエリアにつき、試合開始の合図が鳴る。


エリアボールは自分のチームのボールを魔法を使って飛ばし、相手チームのエリアに着弾させて自分のエリアとし、さらに同じエリアにボールを当てることでポイントが入る。最終的には獲得したポイント数か、もしくはエリア数によって勝敗が決まるゲームだ。
相手のボールを妨害することも可能だが、魔法を使用して行わなければならないためかなり難しい。そのため基本的なエリアボールの試合は点の取り合いとなる傾向がある。
本来の意図としては、防御魔法と攻撃魔法、両方をバランスよく練習できるゲームとして製作されたのだろうが、結局のところひたすら攻撃した方が効率的だという結論に至ってしまったのだ。

しかし、ルーシッドは知ってか知らずか、相手のボールを防御するための手段を当たり前のように使ってきた。

それは『魔法具を使用して相手のボールを』という戦法である。

エリアボールのルールでは『防御は魔法を使用しなければならない』となっている。当然、素手で掴んだり叩いたり、普通の鉄の棒などで弾き返したりすることはルール違反であるが、それが『魔法を』魔法具であればルール違反にはならない。
ルーシッドがこの前の試合のために作成した魔法具は『風を吹き出す魔法具』だ。魔法の威力は調整しているが、夏の避暑用などに一般的に使われている魔法具とほとんど同じものだ。違いは風をだということだ。魔法具の後方から風を吹き出すことで、魔法具を振る威力を増強し、ほとんど自分の力を使うことなく対象物を弾き返せるというものだ。
これまで魔法具を使用して防御しようとする試みが全くされなかった訳ではない。だが、魔法具の有用な使い方を誰も見い出せなかっただけなのだ。

「アザリー!お願い!」
「えぇ、ありがと!ファイアボール!」

アザレアは赤と白の混色、『桃色の魔力』の魔法使いだ。使える基本属性は火と光。土の魔法は使えないため、ボールを直接的に動かすことはできない。
エリアボールにおいて攻撃する際には、ボールに付与魔法エンチャントマジックをかけて操作するか、アザレア達が今やったように、最初は別の魔法使いにボールを操作してもらい、敵のエリア上空から別の魔法を使ってボールで攻撃するかのどちらかが正攻法だ。

今回、アザレアは付与魔法エンチャントマジックを使ってボールそのものを操作する方法ではなく、外的な力を加えてボールを弾き出すという戦法を取った。
この方法は、特定のエリアを狙うことは難しくなるが威力は高くなるので、相手がどこを狙っているのか判断しにくく、防御しにくくなるため、確実にエリアを確保することができる攻撃的戦法として広く用いられている。
特に今回のように、相手が確実な防御手段を持っている場合には、少しでもその隙をつく可能性があるこの戦法が有効と思われた。


アザレアのファイアボールによって弾き飛ばされたボールが弾丸のように上空から飛んでくる。

クリスティーンは、ボールに魔法が当たる前に、ファイアボールが当たる方向から落下点を予測し、自分の近くのエリアに迫ってくるボールめがけて走り、そのままボールを

「なっ……!?」

弾き返されて操作権を失ったボールが、放物線を描いて自分のエリアに戻ってくるのを見て愕然とするアザレア。


「きゃーっ、かっこいー!」
「クリス様素敵~!」

会場からはクリスティーンに歓声が飛び、その声に笑顔で手を振って返すクリスティーン。
それは全部1年生女子生徒からの声だった。クリスティーンはその言動や立ち振る舞いからか、男子より女子から人気があった。


「あれは……脛当てグリーブタイプの魔法具か?」
「なるほどね…あれだとこの前の試合と同じで魔法具で防御していることになるし、脚へのダメージもないわね。はぁ…ほんとよく考えるわね」
シヴァの問いに対して感心したようにも呆れたようにも取れる反応で返すフリージア。

シヴァとフリージアが考察したように、クリスティーンが使用しているのは、脚に装着するタイプの魔法具だった。今回出場しているクリスティーン、リリアナ、ランダル、レガリーの4人は全員がこの魔法具を装備していた。
ルーシッドが考えた火の移動魔法フレアアクセルが使える4人は、魔法具を使わずとも自分の移動速度を上昇させたり、それを応用して、キックやパンチの速度を上昇し威力を高めることはできる。
しかし、それだと直接的にボールを弾き返しているのは自分の足だという判断がされ、反則となってしまう可能性があるため、わざわざ魔法具を使用しているのだ。
もちろん、フリージアが言っていた、脚をガードするためというのも理由の1つではある。

「あの子たちはバトルボールに出てましたしね。近接戦闘を得意とする印象なので、あの魔法具は本人たちにとっても使いやすいんでしょうね」
「でもあれって脛当てグリーブ付与魔法エンチャントマジックをかけて、自分の足を強引に動かしているわけよね?よく上手く動かせるわよね~。私なら足が変な方向にいっちゃって怪我したり、転んじゃったりしそうだわ」
「あの魔法具は使用者本人の魔力を使用するものですからね。バトルボールで使用していた火の移動魔法の要領で使用できるのではないでしょうか?」
「だとしても、火を吹き出す方向や威力の調整はそんな簡単なもんやないで」
ヴァンとフリージアに対してシヴァはそう答えた。自身も付与魔法エンチャントマジックを使う魔法使いとして、その難しさはよく理解しているのだろう。

「それにそもそもの身体能力も大したもんや。まだまだ私らの知らん逸材がいるもんやなぁ」



「火でダメなら……」

アザレアは先ほどとは別の魔法の詠唱を開始した。

その時だった。


バンッ!


という音と共にアザレアのチームはエリアを1つ奪われた。アザレア達はボールを目でとらえることができたわけではなく、審判からのコールによって自分たちがエリアを1つ失ったことを知る。

アザレアは思わず詠唱を中断して、後ろを振り返る。しかし、そこにはすでにボールは無かった。そして、向き直り相手チームを見渡すが、誰もボールは持っていない。

「……え?
ど、どこから攻撃してるの?」

アザレア達が辺りをきょろきょろと見渡しているその時だった。アザレアは一瞬だけそのボールを目でとらえることができた。
なんとそのボールは先ほどと寸分違わず同じエリアに着弾し、1点を獲得した。そして、次の瞬間には


「上空だわ!上空から攻撃されてる!」
アザレアがそう言って空を指差すと、他のチームメイトは空を見上げる。しかし、そこには何も無い。

「え?どこ?」
「全然見えないわ」
「そんな高い所から正確に同じエリアを狙うなんて不可能なんじゃ?」

空を見上げながら、そう話しているアザレア達をあざ笑うかのように、今度はアザレア達の背後にボールが着弾する。アザレア達はもう1つエリアを失った。


「あんな高い所から、あの速度で攻撃しかけられたら、そらひとたまりもないな」
アザレア達に同情するかのようにシヴァがそう言った。

「使用している魔法は見たところ雷の魔法だとは思いますが…だとしても、あれだけ正確に攻撃できる方法がわかりませんね。それに、攻撃した瞬間に上空に戻っていくのも不思議です」
「せやな…エリアボールはただでさえ狙うんが難しいのに、あんなに高い所までボール持ってったら、自分のボールと相手のエリア同時に視界に入れられへんぞ?
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるで適当にやってんならともかく、2回連続で同じエリアに当てよった。ありゃ狙ってやってんで?」


「攻撃しているのはキリエ君だろう。キリエ君の俯瞰の魔眼ホートスコピーなら上空から相手のエリアを狙うことなど、造作もないだろう」


観客席の通路側からから声がして生徒会カウンサルのメンバーが目を向けると、そこには風紀ギルドサーヴェイラのギルド長マーシャが立っていた。

「なるほどね。マーシャ、お疲れ様。巡回中?」
「やぁ、リジー。まぁね」
フリージアに笑いかけられ、笑顔で答えるマーシャ。

「それでマーシャさん、その俯瞰の魔眼ホートスコピーってなんです?」
「あぁ、シヴァ君はキリエ君の最初の試合見てなかったっけか。キリエ君は私と同じ魔眼持ちサードアイホルダーなのさ。彼女の能力は一言で説明するのは難しいんだが、『視界を操作する眼』と言ったらいいのかな?
あの子は2つの視界を同時に見ることができるんだよ。あの子の目には今2つの世界が映っているはずだよ。キリエ君本人の目で見ている世界と、相手チームのエリアを上空から俯瞰して見ている世界がね」
「なっ、なんなんすか、その無茶苦茶なスキルの魔眼サードアイ…」
「まぁ便利ではあるけど、扱えるかどうかは別の話だと思うね。2つの世界が同時に見えるなんて処理しきれず頭の中がぐちゃぐちゃになってしまいそうだよ。目が回って酔いそうだね。
まぁでも仮に使いこなせたとしたら自分の背後もカバーできるし、近接戦闘でも相当強力な魔眼サードアイであることは間違いないだろうね」
そう言って、マーシャは肩をすくめて苦笑いした。

「確かにそうですね…ですがエリアボールのアタッカーとしては最強かも知れませんね」
「1回戦の水の飛行魔法を駆使したシアンさんをアタッカーから外してくるなんて、どういうつもりなのかしらと思ったけど…こんな人材を決勝まで温存してるなんてねぇ…」

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