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第11章 クラス対抗魔法球技戦編
バトルボール3年決勝
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「あはは、ヴァンちゃんってば、ずいぶん気合い入ってるねー」
自分たちの試合を次に控え、選手控室でその時を待つヴァン・ブレンダークに、クラスメートであり、同じ生徒会のメンバーでもあり、そして同じくバトルボールに出場するミクリナ・フェンサーが声をかける。
「えっ、そりゃまぁ決勝だし。うちのクラスは他は全部負けてしまったから、生徒会メンバーとしては、せめて1つくらいは勝ちたいじゃないか」
「あはは。理由は本当にそれだけなのかなー?」
「え、どういうことだ?」
「またまた、しらばっくれちゃってー。会長に良いとこ見せたいからじゃないのかなー?」
「えっ、いや、別にそういう訳では」
「ヴァンちゃんはわかりやすいなー」
明らかに動揺するヴァンを見て笑うミクリナ。
「まぁじゃあミクちゃんも良いとこ見せちゃいますかねー」
「え?ミクも会長に?」
「『ミクも』って言っちゃってるじゃん。ヴァンちゃん墓穴掘ってるよ」
「……はーぁ、相手が会長じゃなぁ。手強いなぁ」
ミクリナはヴァンに聞こえない微かな声でそう呟いた。
3年生のバトルボール決勝に出場する選手たちがコートに現れると、みなが拍手で迎える。
「いくぞ、ミク。頼んだよ」
「任せなさい。ヴァンちゃんには砂粒1つ付けさせないよ」
試合開始の合図と同時に選手たちは相手の様子を伺いながら詠唱を開始する。
しかし、ヴァンとミクリナはその場から微動だにしない。ヴァンはサンドボールの詠唱をしながら辺りを見回す。そして、その左に寄り添うミクリナはいつもと同じように笑いながら地面に付きそうな袖をパタパタとさせている。
最初に詠唱を終了させたのはヴァンだった。早くそして正確な詠唱だ。そしてヴァンは1人の選手に狙いを定めるとサンドボールを放った。サンドボールは見事に相手に命中し、ヴァン達のチームが先制点を獲得した。
「今日は一段と気合い入ってんな。なんや会長にえぇかっこ見せようとしてるんか?」
「え、ちょっ、ちょっと何変な事言ってるのよ」
突然シヴァにそう言われて慌てふためき、人差し指を立てて、しーっとシヴァを制する仕草をするフリージア。
「お互い好き合うてるんなら、はよ付き合うたらえぇやんか」
シヴァはひそひそ声でそう言った。
「もっ、ものには順序って言うものが…それに私としては今は待ちの状態って言うか、なんていうか…」
フリージアはごにょごにょと口ごもる。
「あいつもあいつやな。まぁヴァンはえぇとこの坊ちゃんやしな。色々あるんか知らんが、うかうかしてたら先越されんで?」
「えっ、ちょっと、誰っ、誰に?」
「……鈍いんはお互い様か…」
シヴァはため息をついて試合に目線を戻す。その視線の先にいたのは小さな小さな同級生だった。
その場から動こうとしないヴァンは相手にとっては格好の標的だ。ヴァンを狙ってサンドボールが飛んでくる。しかし、その攻撃がヴァンに当たることはなかった。ミクリナがそのだぼだぼの長い袖を鞭のようにしならせてサンドボールをはたき落としたのだ。
その後もミクリナは両手の袖を器用に駆使して防御したり、時に袖を包帯のように解き、それをバネのようにして地面を叩き跳躍したりして、その小さな体を縦横無尽に動かしてヴァンに飛んでくる攻撃を全て弾き返していった。
「あれは『装備換装』の応用かな?」
自分たちのクラスの試合が終わり、一緒に試合を見ていたルーシッドはサラに質問した。
「そうね。ミク先輩は自分の魔法で作った改造制服を使った攻撃を得意とする魔法使いよ。袖の部分の形状や強度を自在に変化させて操ることから『継ぎ接ぎ』の異名で知られているわ。継ぎ接ぎはあの魔法自体の固有名でもあるわね」
「ライカ先輩、あれはアウラの『身体延長』ですか?」
「さすがルーシィだね。そうだね、あれは身体延長だ。装備換装と身体延長を組み合わせた使用法はクシダラでは珍しくないけどね。まぁでもあんな使い方は見たことないかな。クシダラ出身でない魔法使いがあそこまで使いこなしているのも見たことがないね。確かにあそこまでいくとオリジナル魔法と言ってもいい類のものかも知れないね」
試合はミクリナとヴァンの活躍もあり、ヴァン達のクラスの勝利で終わったのだった。
「お疲れ、ミク」
「うん、ヴァンちゃんもね~。ねぇ、ヴァンちゃん。今日のミクちゃん、どうだった?」
「え、どうって。いつも通り魔力操作も完璧だったけど?」
「むー、そうじゃなくてー。今日のミクちゃんも可愛かった?」
「え、可愛い?」
「むー」
「あぁ、まぁ、いや…可愛いんじゃないか、うん」
拗ねたように頬を膨らますミクリナにどきっとして、目を逸らし少し曖昧に答えるヴァン。
「えへへ。あのね、ヴァンちゃん」
ヴァンはミクリナに目線を戻した。
「ヴァンちゃんは今日もとーってもかっこよかったよ」
少し頬を赤らめて、無邪気な子供のように笑ってそう言うミクリナに対して、ヴァンはまたどきっとした。
「さ、行こ。会長たちが待ってるよ~」
「えっ、あぁ、うん」
ヴァンはミクリナに対して今まで感じたことがないその気持ちが何なのか整理できないまま、いつも通り袖をぶんぶん振りながら歩くミクリナについていくのだった。
その後、残りの学年の決勝戦も全て終了し、1週間に渡って行われた学年別クラス対抗魔法球技戦の全日程が終了した。
自分たちの試合を次に控え、選手控室でその時を待つヴァン・ブレンダークに、クラスメートであり、同じ生徒会のメンバーでもあり、そして同じくバトルボールに出場するミクリナ・フェンサーが声をかける。
「えっ、そりゃまぁ決勝だし。うちのクラスは他は全部負けてしまったから、生徒会メンバーとしては、せめて1つくらいは勝ちたいじゃないか」
「あはは。理由は本当にそれだけなのかなー?」
「え、どういうことだ?」
「またまた、しらばっくれちゃってー。会長に良いとこ見せたいからじゃないのかなー?」
「えっ、いや、別にそういう訳では」
「ヴァンちゃんはわかりやすいなー」
明らかに動揺するヴァンを見て笑うミクリナ。
「まぁじゃあミクちゃんも良いとこ見せちゃいますかねー」
「え?ミクも会長に?」
「『ミクも』って言っちゃってるじゃん。ヴァンちゃん墓穴掘ってるよ」
「……はーぁ、相手が会長じゃなぁ。手強いなぁ」
ミクリナはヴァンに聞こえない微かな声でそう呟いた。
3年生のバトルボール決勝に出場する選手たちがコートに現れると、みなが拍手で迎える。
「いくぞ、ミク。頼んだよ」
「任せなさい。ヴァンちゃんには砂粒1つ付けさせないよ」
試合開始の合図と同時に選手たちは相手の様子を伺いながら詠唱を開始する。
しかし、ヴァンとミクリナはその場から微動だにしない。ヴァンはサンドボールの詠唱をしながら辺りを見回す。そして、その左に寄り添うミクリナはいつもと同じように笑いながら地面に付きそうな袖をパタパタとさせている。
最初に詠唱を終了させたのはヴァンだった。早くそして正確な詠唱だ。そしてヴァンは1人の選手に狙いを定めるとサンドボールを放った。サンドボールは見事に相手に命中し、ヴァン達のチームが先制点を獲得した。
「今日は一段と気合い入ってんな。なんや会長にえぇかっこ見せようとしてるんか?」
「え、ちょっ、ちょっと何変な事言ってるのよ」
突然シヴァにそう言われて慌てふためき、人差し指を立てて、しーっとシヴァを制する仕草をするフリージア。
「お互い好き合うてるんなら、はよ付き合うたらえぇやんか」
シヴァはひそひそ声でそう言った。
「もっ、ものには順序って言うものが…それに私としては今は待ちの状態って言うか、なんていうか…」
フリージアはごにょごにょと口ごもる。
「あいつもあいつやな。まぁヴァンはえぇとこの坊ちゃんやしな。色々あるんか知らんが、うかうかしてたら先越されんで?」
「えっ、ちょっと、誰っ、誰に?」
「……鈍いんはお互い様か…」
シヴァはため息をついて試合に目線を戻す。その視線の先にいたのは小さな小さな同級生だった。
その場から動こうとしないヴァンは相手にとっては格好の標的だ。ヴァンを狙ってサンドボールが飛んでくる。しかし、その攻撃がヴァンに当たることはなかった。ミクリナがそのだぼだぼの長い袖を鞭のようにしならせてサンドボールをはたき落としたのだ。
その後もミクリナは両手の袖を器用に駆使して防御したり、時に袖を包帯のように解き、それをバネのようにして地面を叩き跳躍したりして、その小さな体を縦横無尽に動かしてヴァンに飛んでくる攻撃を全て弾き返していった。
「あれは『装備換装』の応用かな?」
自分たちのクラスの試合が終わり、一緒に試合を見ていたルーシッドはサラに質問した。
「そうね。ミク先輩は自分の魔法で作った改造制服を使った攻撃を得意とする魔法使いよ。袖の部分の形状や強度を自在に変化させて操ることから『継ぎ接ぎ』の異名で知られているわ。継ぎ接ぎはあの魔法自体の固有名でもあるわね」
「ライカ先輩、あれはアウラの『身体延長』ですか?」
「さすがルーシィだね。そうだね、あれは身体延長だ。装備換装と身体延長を組み合わせた使用法はクシダラでは珍しくないけどね。まぁでもあんな使い方は見たことないかな。クシダラ出身でない魔法使いがあそこまで使いこなしているのも見たことがないね。確かにあそこまでいくとオリジナル魔法と言ってもいい類のものかも知れないね」
試合はミクリナとヴァンの活躍もあり、ヴァン達のクラスの勝利で終わったのだった。
「お疲れ、ミク」
「うん、ヴァンちゃんもね~。ねぇ、ヴァンちゃん。今日のミクちゃん、どうだった?」
「え、どうって。いつも通り魔力操作も完璧だったけど?」
「むー、そうじゃなくてー。今日のミクちゃんも可愛かった?」
「え、可愛い?」
「むー」
「あぁ、まぁ、いや…可愛いんじゃないか、うん」
拗ねたように頬を膨らますミクリナにどきっとして、目を逸らし少し曖昧に答えるヴァン。
「えへへ。あのね、ヴァンちゃん」
ヴァンはミクリナに目線を戻した。
「ヴァンちゃんは今日もとーってもかっこよかったよ」
少し頬を赤らめて、無邪気な子供のように笑ってそう言うミクリナに対して、ヴァンはまたどきっとした。
「さ、行こ。会長たちが待ってるよ~」
「えっ、あぁ、うん」
ヴァンはミクリナに対して今まで感じたことがないその気持ちが何なのか整理できないまま、いつも通り袖をぶんぶん振りながら歩くミクリナについていくのだった。
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