魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第11章 クラス対抗魔法球技戦編

教員会議①

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ギルドマスター会議が行われている同時刻、ディナカレア魔法学院の教員たちによる教員会議が行われていた。ギルドマスターたちと同じく、最優秀選手の教員部門を選出するためである。
全校生徒参加型の対抗戦などでは、最優秀選手が全校生徒による投票の他に、ギルドマスター、教員、生徒会カウンサルの3つの部門から選ばれることが通例となっている。これは最優秀選手が単なる人気投票やファン投票になってしまいがちなため、偏りなく実力をしっかり評価するために設けられたものである。

今回の魔法球技戦など、ディナカレア魔法学院で行われている課外イベントの多くは、基本的に生徒たちの自主開催イベントという位置づけであり、先生たちは積極的に口出しをしたり、助力をしたりはしない。
もちろん、生徒が無許可で開催しているわけではなく、学校側と話し合い、連携して行っているイベントであり、クラスでの作戦会議や競技練習の際にも、担任や副担任は必要とあらばアドバイスをしたりすることはある。どのくらい先生が関わるかは特に決まりはなく、そのクラスの状況や先生によって変わってくる。だが、基本的に1年生のクラスは先生が主体となって進めていくことが多く、勝手がわかってくる2年生以降は徐々に生徒たちが主体になっていく傾向があった。

しかし、ルーシッド達のクラスの担任のリサ・ミステリカと副担任のリスヴェル・ブクレシュティは、今回の球技戦に関してはほとんどと言っていいほど口出ししていなかった。
というか、口出しする余地がなかったという方が正しい。総リーダーのシアン・ノウブルと参謀役のルーシッド・リムピッドの仕切りが完璧すぎて出る幕がなかったのだ。

リサは当然会議に出席していたが、会議に身が入らず、この1週間のことをあれこれと考えていた。というのも、リサ本人も副担任のリスヴェル・ブクレシュティも、こういった会議自体が初めてだったので、とりあえず座って傍観しているだけという感じだった。会議は主に学長や副学長、ベテランの先生たちの発言によって進んでいた。


ルーシッドは驚いたことに、最初は魔法球技のルールすらわかっていなかったが、ルールを理解した後は何というか……

そう、相変わらずだった。

ルーシッドの魔法に関する膨大な知識量と、その既存の魔法の概念に全くとらわれない大胆な発想力にはこれまでも何度も驚かされてきた。クラスのチーム演習やパーティー対抗戦、地下迷宮探索、期末テストなどで、ルーシッドは圧倒的な才能を見せてきた。
しかし、今回の魔法球技戦で彼女が見せた実力はそれを遥かに超えていた。今までの彼女の力などお遊び程度だったと言われても納得ができるぐらい、本当に人間業とは思えない働きぶりだった。
ルーシッドは、今まで長年プレイしてきた人が誰も思いつきもしないような戦略や、考えてもそれを実行する方法がなかったような戦略を立て、それを実行するためにわざわざ魔法具や新魔法を考えたりしていた。

ある時には前日に実際にプレイする選手と話し合っている最中に面白そうな案が出ると、次の日にはもう魔法具の試作品を完成させて来たりしていた。そのすごさをよくわかっていないクラスメイト達は
「もうできたの?速い!さすがはルーシィだね!」
などと言っていたし、ルーシッドも特に大変な様子もなく飄々としていたが、正直これはそんな軽い評価で済ませてよいレベルのものではない。既存の魔法具を複製させるだけでも数日かかるのが普通なのに、一晩で全く新しい魔法具を完成させてくるなんて、普通の作り方では絶対にあり得ない。彼女の頭の中では、恐らく魔法具を組み立てる前にすでにその完成形が組みあがっているのだろう。そしてその設計図を完全な形で造形できる技術を有しているのだろう。彼女は妖精を使役することはできないが、無色の魔力を鉄に変換して造形することはできると言っていた。

そのことだけでもあり得ない話なのだが、質が悪いのはそれが魔法具のグラム(実際に目に見えて起動し、使用する部分)の製造だけに限った話だということである。魔法具を作るためには、魔法詠唱文を旋律へと翻訳する作業が残っている。すでに翻訳が完成しているものならまだしも、一から翻訳をしていくとなると、何日あれば良いという問題ではない。その翻訳作業が終わらないために、まだ実用化されていない魔法具が多々あるのだ。

それらを全て含めて彼女は一晩で済ませてきたのだ。

以前、地下迷宮探索の時にクラスメイトのジョン・ブラウンが持ってきた魔法具の作成を手伝ったのもルーシッドだということだが、あの魔法具もまだ一般的には翻訳が終了していない『鉄の生成魔法』を行使できる魔法具だった。そして、明らかに普通の魔法具よりも演奏時間が短かった。その時にも薄々気づいてはいたのだが、恐らく彼女はほぼ全ての魔法詠唱文の文法と、魔法具に使用する旋律の関係性を完全に把握しているに違いない。そんなことが可能なのかどうか今までは半信半疑だったが、今回の魔法球技戦を通してリサは確信した。

しかも、その全ての知識を独学で得たというのだ。

彼女は、自分は魔法が使えないから他の魔法使いが実戦にあてる時間を全部勉強に当てることができたからだと言っていたが、自分が同じ状況に置かれたとしても絶対に同じ結果にはならないだろう。いや、それは恐らく他の魔法使いも同じだ。
自分に魔法の才能がないとわかってしまうことが、その魔法使いの人生にどれほどの影響を及ぼすだろうか。

それは最悪の運命を決定づけられるのと同じほど残酷なことだ。

その段階で、進学できる可能性も、魔法職につける可能性も消えてしまうのだ。はっきり言ってしまえば、どんなに勉強しても時間の無駄なのだ。しかも彼女の場合は、魔力が弱いのではなくという判定を突き付けられたのだ。この世界において魔力がないということは、すなわちという意味に等しい。持つ力、妖精との盟約により妖精を使役し魔法を行使する力を持たないということは、人の姿はしていても人ではないのと同じことだ。そんなレッテルを小さいころに突き付けられた者の人生はどれほど悲惨だっただろう。自分ならまともな精神を保てるとは思えない。生き続けるという選択をできるかどうかも疑わしい。生きる価値を見出せないのだから。

だが、彼女は運命に負けなかった。むしろその運命に抗い、そして打ち勝った。

そしてこの世界最高の頭脳と、最強の力を手に入れた。

それは、私たちのような借り物の力ではなく、自らの手でつかみ取った彼女自身の力だ。

そんな壮絶な状況を経験したからこそ得られた力だとすればそれも納得せざるおえない。あの力がそうした人生の奈落の底から這いあがったものだけが得られる力だとすれば、それはこの世界で彼女だけがたどり着けた境地のようなものなのだろう。

そんな彼女に誰が対抗することができるだろうか。

だから、今回の全種目優勝という快挙すら、彼女にとってはそんなに驚くことでもないのかも知れない。
同学年に彼女に敵う人などいるはずもないのだから。
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