【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

4章 攫われた二人

許せないこと

「何故このような事を！？」
先に口を開いたのは、クレア様でした。
「何故、ねぇ。」
すると夫人は狂ったように笑い出しました。その姿は楽しそうであり、不気味でした。

「だって、ずるいじゃない。」
夫人は笑いながら言いました。
「お前が生まれてきたせいで私はやってもいない浮気を疑われ、伯爵家を追い出されたのよ！！」
目にはゆらゆらと揺れる怒りの炎が宿っていました。
「それなのに、お前は公爵令嬢になって次期王妃ですって？出来損ないのお前が？そんなの不公平じゃない。」
「レイ様の努力の結果です！」
「そこの茶髪、クレアと言ったわね。聖女だか何だか知らないけど、あまり調子に乗らない方がいいわ。全く、あんたもハルティアの王も見る目が無いわね。こんなゴミのどこがいいんだか。」

　その言葉を聞いた瞬間、私は痛みも何もかも忘れて立ち上がりました。恐れていた気持ちなど何処吹く風。ただ大切な人たちを侮辱された怒りで夫人に詰め寄りました。

「私ならいくら何を言ってもいいです！でも他の、私の大切な人たちを侮辱するなら、いくら貴方でも容赦しません！！」

胸ぐらに掴みかかり、声を荒らげていました。以前なら絶対に考えられなかった行動でした。

　きっと、私は心のどこかで不安だったのでしょう。またあの日々に戻ることが。そんな事あるはずないと分かっていながら、どこかトラウマに囚われている自分がいました。
　けど、それももう終わりです。

「口ごたえしないでちょうだい！この親不孝者が！」
「私の親は貴方や伯爵ではありません！お父様やお母様、お兄様が本当の家族です！」

　だって、ほら、こんなにも。私はトラウマを壊す力を持っていたんです。
　私を大切にしてくれた人が、認めてくれた人がいるのです。私はもう「出来損ないのレイ・オラルト」では無いのです。

　そう思うと、伯爵夫人にも自然と立ち向かえました。

「っ本当に生意気よ！なんで私ばっかりこんな目にあうの！？」

　伯爵夫人……いえ、もう伯爵家もなく夫人でもないのでただのレナリシアさんですね。レナリシアさんはブツブツ言葉を紡ぎながら出口に戻っていきます。

「ありもしない不貞で離縁され、実家に出戻りしたら肩身の狭い思いをしたってのに！馬車が盗賊に襲われて、生き残るために盗賊相手に娼婦の真似事をさせられ、何とか気に入られて裏稼業に手を染めたら家から勘当されるし！仕方なく食いつなぐために仕事をしていたらあの方に拾われて、仕事を手伝う内に憎いあの子を見つけたら王妃になる？笑わせんじゃないわよ。任務のついでに殺す許しを貰ったら、出来損ないの分際で逆らうなんて身の程知らずも甚だしいわ！」



　レナリシアさんは扉の前に来ると、怒りに満ちた目をしながら振り返りました。

「いいこと？あんた達はあの方の手のひらの上なのよ。救援が来る前に殺されるのよ！」

そう言い残すと、バタン！と乱暴に扉を閉めました。心に恐怖は無く、負け犬の遠吠えにしか聞こえませんでした。