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第三部 未来
母と娘
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(エレノア視点)
執務室に佇む母様、は王妃の風体をしていた。なので殿下と呼ぶ必要がある。
「貴方の答えを聞かせてください、王女。」
「はい、王妃殿下の仰せのままに。」
私もエリオスと同じく、課題を出されていた。私の方は直球に「次期国王に相応しいのはどちらか」というものだったが。国王陛下と王妃殿下の跡を継ぎ、国を導く座に意見する、すなわち国の命運を左右する意思表示だ。
殿下の自分と同じ、空色の瞳。透き通るような色、私の全てを見透かすような色。この方の前では、嘘も何もかもを見抜かれてしまう気がする。
「私が、次期国王に相応しいと思うのは……」
ゴクリ、唾を飲み込む。単語一つ一つが張り詰めた感情をまとっているのを感じた。
そして、それを言葉にした。
「私自身です。私が、史上初の女王になってみせます。」
それは、意思表示であり、決意。
それは、傲慢な自信であり、不安な宣誓。
「それは、何故ですか?」
冷たい声に、身体が震えた。空色の瞳からは何の感情も読み取れない。殿下が私の意志をどう受け取ったのか、それを読み取ることは不可能だ。
けれど、ここで怖気付いてはいけない。何としても、自分の意思を貫き通す。
「今のハルティアに必要なのは、変革です。伝統も大切ですが、それに囚われただけでは良い国にはならない。」
「そうですね。」
「前例のない女王が即位することで、王家から変革の兆しを示すことができます。」
「女王即位に反対する人々はどうするつもりですか?」
「まず、王女派の人々を……」
私は女王即位までの道のりを話した。
エリオスを推す第一王子派は、敵ではない。それぞれ考えがあって、私の前に立っているだけだ。対立する人々全て排斥していては貴族がいなくなってしまう。
大切なのは、高め合うこと。対立派の意見で初めて気づく自分の問題点や、逆に彼らの間違いにも気付くことができる。
怖気付いてはいけない。自信が無い様子を見せてはいけない。堂々と、自分の意志を主張しろ。たとえそれが綺麗事でも、それを実現させる鋼の決意を見せつけろ。
「私なら、国王陛下と王妃殿下が成し遂げた革命を引き継ぎ、より豊かな国にできるでしょう。いえ、必ずできます!」
どれだけ長く話していたのだろう。手が汗ばみ、息をつくのも忘れていた。
これだけ私が王になりたいのは、一番の高みで国に尽くしたいからだ。民の思い、貴族の思い、その全てを受け止める。この身を投じる。
それが、私の望む未来だった。
そこまで言い切ると、殿下はふわりと優しく微笑んだ。
「王女の意志、しっかり聞き届けました。陛下にも伝えておきます。」
「はい。」
脱力する身体を必死に立たせ、殿下の目を見据える。
「それと、1つ訂正しなければなりません。」
「訂正、ですか。」
「革命を成し遂げたのは私と陛下だけではありません。私と陛下、エメリック公爵を初めとした多くの貴族と民の存在があってこそ。一人では成し遂げられるものなんてありません、それを忘れないように。」
何が最善かなんて、誰にも分からない。けれどこれだけは言える。私はこの時の殿下の言葉を笑顔を一生忘れないだろう。
執務室に佇む母様、は王妃の風体をしていた。なので殿下と呼ぶ必要がある。
「貴方の答えを聞かせてください、王女。」
「はい、王妃殿下の仰せのままに。」
私もエリオスと同じく、課題を出されていた。私の方は直球に「次期国王に相応しいのはどちらか」というものだったが。国王陛下と王妃殿下の跡を継ぎ、国を導く座に意見する、すなわち国の命運を左右する意思表示だ。
殿下の自分と同じ、空色の瞳。透き通るような色、私の全てを見透かすような色。この方の前では、嘘も何もかもを見抜かれてしまう気がする。
「私が、次期国王に相応しいと思うのは……」
ゴクリ、唾を飲み込む。単語一つ一つが張り詰めた感情をまとっているのを感じた。
そして、それを言葉にした。
「私自身です。私が、史上初の女王になってみせます。」
それは、意思表示であり、決意。
それは、傲慢な自信であり、不安な宣誓。
「それは、何故ですか?」
冷たい声に、身体が震えた。空色の瞳からは何の感情も読み取れない。殿下が私の意志をどう受け取ったのか、それを読み取ることは不可能だ。
けれど、ここで怖気付いてはいけない。何としても、自分の意思を貫き通す。
「今のハルティアに必要なのは、変革です。伝統も大切ですが、それに囚われただけでは良い国にはならない。」
「そうですね。」
「前例のない女王が即位することで、王家から変革の兆しを示すことができます。」
「女王即位に反対する人々はどうするつもりですか?」
「まず、王女派の人々を……」
私は女王即位までの道のりを話した。
エリオスを推す第一王子派は、敵ではない。それぞれ考えがあって、私の前に立っているだけだ。対立する人々全て排斥していては貴族がいなくなってしまう。
大切なのは、高め合うこと。対立派の意見で初めて気づく自分の問題点や、逆に彼らの間違いにも気付くことができる。
怖気付いてはいけない。自信が無い様子を見せてはいけない。堂々と、自分の意志を主張しろ。たとえそれが綺麗事でも、それを実現させる鋼の決意を見せつけろ。
「私なら、国王陛下と王妃殿下が成し遂げた革命を引き継ぎ、より豊かな国にできるでしょう。いえ、必ずできます!」
どれだけ長く話していたのだろう。手が汗ばみ、息をつくのも忘れていた。
これだけ私が王になりたいのは、一番の高みで国に尽くしたいからだ。民の思い、貴族の思い、その全てを受け止める。この身を投じる。
それが、私の望む未来だった。
そこまで言い切ると、殿下はふわりと優しく微笑んだ。
「王女の意志、しっかり聞き届けました。陛下にも伝えておきます。」
「はい。」
脱力する身体を必死に立たせ、殿下の目を見据える。
「それと、1つ訂正しなければなりません。」
「訂正、ですか。」
「革命を成し遂げたのは私と陛下だけではありません。私と陛下、エメリック公爵を初めとした多くの貴族と民の存在があってこそ。一人では成し遂げられるものなんてありません、それを忘れないように。」
何が最善かなんて、誰にも分からない。けれどこれだけは言える。私はこの時の殿下の言葉を笑顔を一生忘れないだろう。
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