【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)

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50 物思い

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 少しの間。話題を変えるように、あるいは本筋を逸らすようにヴォクス夫人が言う。

「……もう暗くなってきています、リーゼロッテ様は早くお帰りになったほうが良いでしょう。明日も学園があるのですよね?」
「…………」

 リズはうなずく。返答を明言することを誤魔化されたとは思いながら、あえて追及しようとはしなかった。
 リズもまた、スクエアと結婚するつもりも、したいとも思っていなかったのだから。たとえスクエアが本当に、結婚を期に浮気をしなくなると約束したとしても。
 リズはスクエアのことが好きではないのだから。
 ヴォクス夫人がホースに目を向ける。

「ホースさん、リーゼロッテ様を自宅まで届けてあげてください。決して事故など起こさぬように」
「かしこまりました」

 ホースが恭しく答える。ヴォクス夫人はもう一度リズに向いて、別れの挨拶を述べた。

「それでは、リーゼロッテ様、ごきげんよう。また機会があれば、お食事しましょうね」
「……はい……さようなら、ヴォクス夫人……」

 貴族の娘であれば、ここでカーテシーの一つでもして別れるのだろう。リズも、したほうが良いのか少し迷ったが、結局カーテシーはせずに夫人に背を向けた。

 ……わたしは、ヴォクス夫人に好かれたいわけじゃないんだから……。

 夫人に嫌われて、婚約破棄をしてもらうこと……リズのその目的は変わっていない。ディナーをごちそうになり、長々と話し込んでしまったけれども……ヴォクス夫人とヴォクス氏が良い人だということも分かったけれども……やはり、スクエアと結婚する気にだけはなれなかったのだから。
 リズが馬車に乗り込み、ドアが閉じられる。馬が一声いななき、馬車が走り始める。

 後ろに遠くなっていくヴォクス夫人が小さく手を振っていたが、リズは前を向いたまま気づかぬふりをして、それを無視した。
 それでも夫人は馬車が見えなくなるまでそこにいて、寂しそうに手を振り続けていた。



 ぱからぱからという馬の駆ける音と、がたごとと車輪の回る音。それらが混ざった音と振動をその身に感じながら、リズは一人、馬車のなかで物思いに耽っていた。

(……ヴォクス夫人とヴォクスさんは、スクエアさんの結婚を急いでいる……)

 実際に式の日がいつになるかは分からない。しかし、リズが当初思っていたよりも早く、その日が来ることは充分ありえる可能性だった。

(……スクエアさんと結婚してしまったら、いまの生活はできなくなる……せっかく転生して異世界に来て、身体も若返ったのに、自由の身じゃなくなる……二度目の青春を過ごせなくなる……)

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