彼女は終着駅の向こう側から

シュウ

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「でさー言ってやったのよ。あんたの方がおかしいって」
「エリに言われちゃおしまいよね」

「まったく」と頷くと、エリは眉間にしわを寄せてにらみつけてきた。

「どういうことよー」
「そのまんまの意味じゃねえか」 

 カズキが大げさな身振りで大きなため息を吐くと、途端にわたしたちは爆笑で包まれた。
 エリだけが不本意そうに頬を膨らませる。それがリスみたいで、また笑いが起こった。
 席に座るときに頼んだシェイクやポテトはとっくに無くなっている。
 食べることが目的ではないので、誰もそんなことを気にしていない。

「ミスズはどうしているって?」
「待って、読んでいるはず……あ、こいつ変顔している」
「え、どれどれ?」

 全員がそれぞれのスマホをのぞき込む。
 わたしたちは仲間内で共用の、ラインでのメッセジをのぞく。
 そこには牛をバックに、本人なりに牛の顔マネをしたミスズの顔があった。
 みんなで申し合わせたように笑い声をあげた。

「マジかよ、あいつ。馬鹿じゃねえの」
「こういうのって旅行のテンションでやるよね。みんな、ミスズが北海道の家族旅行から帰ってきたら見せるから、全員消すの禁止ね」

 はーいと小学生のように素直な返事をあげる。
 みんなが同じ考えで示し合わせて同じことを言い合うのが楽しい。
 誰も同じ感想で、違うだなんて疑っていない。

「ゆっこはどうしているかな」

 ぼそっとエリが固有名詞を口にすると、何人かがわたしの顔をのぞき込む。
 エリがしまったという顔を浮かべた。そう、
 ゆっこは元々わたし達と本来ならここにいるはずだった。
 わたしがしばらく離れていた時にも彼女たちと一緒だったけど、今はもう一緒じゃあ無かった。

「誘ったんだけどね」

 それは本当だ。「うわあ、やさしー」とエリが一瞬ほっとした表情を浮かべてからはにかんだ。

「おまえよくそんなことできるな」
「あのときはわたしだって悪かったしさ。お互い馬鹿な男に浮かれていたから一緒に笑い話にしようって」
「そう? あいつあんたがいないときそれはそれはひどかったよ。わたしの方がすごいってのがにじみ出ていて。どれだけあんたの方がうざいよって言おうと思ったか」

 リノが最近息吹紫音をまねてパーマをあてた毛をなでながら毒舌を吐く。
 彼女はいない人の悪口を言って話題を共有させたり笑いを取るのが得意だ。
 彼女があげつらうゆっこのだめ出しに、案の定みんなから笑いがわき起こる。
 もちろんわたしも笑った。 

 笑いながら、「あんたわたしにもきっとそう言っていたんだね」と心の中でつぶやく。
 女子同士は本音を上手く隠しあえる。
 エリのお馬鹿キャラだって自分である程度作っているのは知っている。
 女は産まれたときから女優として生きている。
 カズキ達男子の方は、おそらくそのままだろうけど。
 そんな風にひとしきり笑い合っているところに着信音が鳴った。
 ラインの着信音ではない。わたしのスマホに入った、個人メールの音だった。

「ごめん、わたしだ」

 そう言ってメールを開く。その内容が面白くて思わず吹き出しそうになった。

「なあに、例の大学生?」 
「そんなところ」

 実をいうとその大学生とはもう別れている。
 いろいろ高い物を買ってくれるけど、正直さほど高い物に興味があるわけじゃないし、そんなにいて楽しい相手じゃ無かった。
 向こうも目的はわたし自身じゃないってみえみえだったし。
 少し薄着をしたら胸元じろじろと見ているんだもん。あれ気づかれないと思っていたのかな。
 同じ過ごすなら楽しい相手の方がいい。
 特に計算をしたり、裏を読み合ったりしない相手ならなおさらだ。

「見せてもいいよ」

 といってもおそらく彼女はこの内容を見ることはできない。
 一緒に入ってきた広告メールを見て、わたしが笑っていると思うのかも。
 わたしはあなたたちの知らないことを知っているんだよ。
 そうと思うと少し優越感に浸れておとなの余裕を持てた。
 わたししか見えないメールの差出人は、ショウとなっていた。

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