彼女は終着駅の向こう側から

シュウ

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 進んでいるからには必ずゴールに着く。
 電車は亀のようにあきらめず、ついには終着駅にたどり着いた。もちろんぼくらの世界のだけど。

「ここからどうなるんだライト」
「ここで少し長めに停車して、それからまた動き出すんだ」

 さすがに世間話は一旦中断される。
 残った他の乗客が降りていく。
 といっても途中で乗った二人組の中年女性と、松葉杖をついた女性が一人だけだど。
 一緒に乗った男性は一番前の席で誰かに向けてしゃべり続けていた。
 静かな車内でその声だけが響いている。
 全員が緊張の面持ちでその時を待っている。ライトの世界へと向かう電車の発進を。
 ごくりとツバを飲んだのは松川君か。それともぼく自身だったのか。

「君たち、ここが終点だよ」

 通路からの声に三人とも我に返ってそちらを向いた。
 五十過ぎぐらいの運転手がすぐそばに顔を寄せていた。
 松川君が代表して「すみません」と謝ると、同じようにずっとぶつぶつ言っている男性に声をかける。だけど男性が突然怒鳴り散らし出したので、あきらめたらしくそのまま後部座席の方へと移っていた。

「どうするの? わたしの時はもう次の駅に向かって出発していたけど」
「後部に移ったってことはもう次の駅はないようだ。一旦降りよう」

 ぼくらはそれに頷いて電車から降りた。

「さてここはどっちの世界かな」

 松川君が楽しげにつぶやくと、駅を降りたところでまだおしゃべりをしていた中年女性の二人組に話しかけた。
 二人は好意的な言葉を松川君に返す。続いてライトが話しかけたがそれは完全に無視されたようだ。
 そして彼女は突然そのうち一人を蹴り飛ばす。
 ひやっとしたけど蹴られた女性はそんなことが起こったことすらわからないようだった。

「やっぱりここはわたしの世界じゃないみたい」

 松川君に倣ったのか、彼女も世界という言葉を使っている。

「ライトだけじゃないと駄目なのか。ちぇっ、平行世界を越える瞬間がどうなのか体験したかったのに」
「やらしい目的をもっているからじゃない?」
「オレは純粋たる好奇心だけだよ」
「ホントー? あっやしい」
「疑う奴だなあ。まあ、残念だけど他の手段に期待しよう。それよりせっかく遊びに来てくれたんだし、どこかに行こうか」
「こんな所に遊びに行くような所あるかな」

 そうは言いつつも乗り気ではあるようだった。
 大きなカバンの中からペットボトルを取りだして一口飲む。
 何が入っているかと思ったら食べ物や飲み物を入れてきたらしい。

「そうでもないさ。ここはライトの住んでいる地域の隣駅になるからな。どこか共通するものがないか探せば面白いかもしれない」
「平行世界の自分だっけ?」
「そうそれ。ライトがいなくても知っている人間はいるかもしれないだろう」
「あ、それは面白いかも」

 松川君が地図を広げ、ライトがそれをのぞき込む。
 二人の表情は、とてもいきいきとしている。
 晴れ渡った夏の空と比較しても、まけないぐらい輝いていた。
 そんな二人の表情を眺めながら、ぼくは所在なげに周囲を見渡していた。

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