15 / 44
3章 映画撮影
しおりを挟む
上機嫌で先頭を歩くライトに、ぼくらはついて行く。
自分が主演だといういうことが嬉しいのだろう。
目立つのが好きなのは、ぼくの脚本と同じである。
あの日映画を撮ろう、という話になったのだ。
ぼくがもっているカメラがその場で簡単な編集ができる本格的な奴で、それならどうせなら動画サイトにあげるような動画じゃなくて、映画にしようとライトが言い出したのである。
「ああいうのって脚本とか絵コンテとか必要じゃなかったっけ?」
「脚本ならトヨジのがあるじゃん。あ、そういえば今度見せてねって言ったのにまだみせてもらっていないや」
終業式の、あの再会した日の約束をどうやら思い出したようだった。
「で、でもぼくのは演劇であって、映画じゃないんだけど」
「まあいいじゃないか。どうせ素人映画だし、オレ達以外に見ることが出来る人間がいるわけでもないし。やってみようぜ」
松川君の鶴の一声で映画を作ることが決定する。
その日は松川君が夕方から母方の田舎にしばらく行ってくるとのことで、昼前に解散になった。
次にライトが来る前に撮影場所や他に必要な器具をそろえるという。
「楽しみだね」
とライトは帰る前にぼくに笑いかけた。
そして今日、ライトは白いワンピース姿で改札口から下りてくる。
「映画を撮るっていったらこれでしょ?」
それはぼくにはわからなかったけど、ふわふわしたスカート姿は、普段と印象が違っていて似合っていた。
「かわいいよ」と松川君が臆面もなく言い「でしょ?」とライトは当然のように受け止めて見せつけるように回る。
そういうやりとりが自然にできるかどうかが、ぼくと彼らの存在の違いなのだろう。
「撮るなら少しは見渡しが良いところがいいだろ?」
松川君の提案で撮影場所に移動することになった。
ぼくは自分のビデオカメラとマイクを台本と一緒に鞄に入れており、松川君は照明代わりといういくつかの懐中電灯と折りたたみの三脚。それからレフ板をもっていた。
朝とはいえ夏にそれなりに重量のあるものを持って歩いていると自然汗が大量に噴き出してくる。
もっていたタオルはすぐに汗まみれになった。
サッカーで外の運動になれている松川君はさすがに足取りは軽いものの、時折「あっつー」と口にしていた。
ライトはぼくら男連中を済ました顔で非常に軽やかな動きだった。
荷物が少ないというのを差し置いても一番元気だ。
やがてたどり着いたのは寂れた神社だった。
建物が朽ち果て始めていて、おそらくだいぶ前に人がいなくなったのだろう。
木も多いので自然日影も多く、涼しい反面わびしい雰囲気が強かった。
寂寥の気持ちを抱くには蝉の鳴き声がうるさすぎるけど。
小さな山にそって作られたらしく周囲は三階ぐらいの高さがあり、中心からも外れて低い建物が多いこの辺りなら充分すぎるほど見晴らしが良い。
「こんな場所があったんだね」
ライトが物珍しそうに神社の方をのぞき込んでいた。
雑草が生い茂っていて変な虫とかいそうだだけど元から気にならないのか。
それともこの世界の住人ではない自分は虫に何かされることは無いと高をくくっているのか。
その間にぼくらは準備をする。
撮影にふさわしい場所を探し、手頃な場所に三脚を立てる。
懐中電灯をふさわしい場所に置く。日差しの高さなどを計算するとどこに置くのがふさわしいか。
「トヨジ、悩みすぎると日が暮れちまうぞ。素人映画を、さらに素人が作るんだから軽くやろうぜ」
松川君に少し呆れの感情の交じった声で促され、ぼくは慌てて準備をした。
ライトが戻ってきたところで二人に台本を渡した。
今回するのはこんな話だ。
空からやってきた少女が、現地の少年と出会って恋をし、そして去っていくという古典的な話だ。
松川君の趣味もあり、SF風味にしてある。
場面の移り変わりのない同一箇所での短編台本で、長くても二十分ぐらいだと見積もっている。
二人は台本を音読しつつ、互いの台詞がおかしいのか笑い合っていた。
軽くこづき合って、小さく何かをささやき合っては楽しげな表情を向け合っている。
そういう姿を見る度に胸がきりきり痛む。
あんな風に明るい日差しの下で自然に笑う事ができない。人と触れることができない事への嫉妬だと自分でもわかっている。
そんな気持ちも、カメラをのぞき込むことで少し収まるような気がした。
カメラを通して見る世界はどこか違う。ぼくが演劇の世界に魅せられたように、カメラのフィルターを通した世界はまさしく別世界だった。
そのカメラの先にはライトが写っている。
本当の別世界からやってきた彼女はカメラに気づくと、指をいわゆるピースサインでこちらに白い歯を見せた。
「じゃあ始めるよ。最初のカットから」
これほどしっかりした声が出せることに、自分で驚いた
自分が主演だといういうことが嬉しいのだろう。
目立つのが好きなのは、ぼくの脚本と同じである。
あの日映画を撮ろう、という話になったのだ。
ぼくがもっているカメラがその場で簡単な編集ができる本格的な奴で、それならどうせなら動画サイトにあげるような動画じゃなくて、映画にしようとライトが言い出したのである。
「ああいうのって脚本とか絵コンテとか必要じゃなかったっけ?」
「脚本ならトヨジのがあるじゃん。あ、そういえば今度見せてねって言ったのにまだみせてもらっていないや」
終業式の、あの再会した日の約束をどうやら思い出したようだった。
「で、でもぼくのは演劇であって、映画じゃないんだけど」
「まあいいじゃないか。どうせ素人映画だし、オレ達以外に見ることが出来る人間がいるわけでもないし。やってみようぜ」
松川君の鶴の一声で映画を作ることが決定する。
その日は松川君が夕方から母方の田舎にしばらく行ってくるとのことで、昼前に解散になった。
次にライトが来る前に撮影場所や他に必要な器具をそろえるという。
「楽しみだね」
とライトは帰る前にぼくに笑いかけた。
そして今日、ライトは白いワンピース姿で改札口から下りてくる。
「映画を撮るっていったらこれでしょ?」
それはぼくにはわからなかったけど、ふわふわしたスカート姿は、普段と印象が違っていて似合っていた。
「かわいいよ」と松川君が臆面もなく言い「でしょ?」とライトは当然のように受け止めて見せつけるように回る。
そういうやりとりが自然にできるかどうかが、ぼくと彼らの存在の違いなのだろう。
「撮るなら少しは見渡しが良いところがいいだろ?」
松川君の提案で撮影場所に移動することになった。
ぼくは自分のビデオカメラとマイクを台本と一緒に鞄に入れており、松川君は照明代わりといういくつかの懐中電灯と折りたたみの三脚。それからレフ板をもっていた。
朝とはいえ夏にそれなりに重量のあるものを持って歩いていると自然汗が大量に噴き出してくる。
もっていたタオルはすぐに汗まみれになった。
サッカーで外の運動になれている松川君はさすがに足取りは軽いものの、時折「あっつー」と口にしていた。
ライトはぼくら男連中を済ました顔で非常に軽やかな動きだった。
荷物が少ないというのを差し置いても一番元気だ。
やがてたどり着いたのは寂れた神社だった。
建物が朽ち果て始めていて、おそらくだいぶ前に人がいなくなったのだろう。
木も多いので自然日影も多く、涼しい反面わびしい雰囲気が強かった。
寂寥の気持ちを抱くには蝉の鳴き声がうるさすぎるけど。
小さな山にそって作られたらしく周囲は三階ぐらいの高さがあり、中心からも外れて低い建物が多いこの辺りなら充分すぎるほど見晴らしが良い。
「こんな場所があったんだね」
ライトが物珍しそうに神社の方をのぞき込んでいた。
雑草が生い茂っていて変な虫とかいそうだだけど元から気にならないのか。
それともこの世界の住人ではない自分は虫に何かされることは無いと高をくくっているのか。
その間にぼくらは準備をする。
撮影にふさわしい場所を探し、手頃な場所に三脚を立てる。
懐中電灯をふさわしい場所に置く。日差しの高さなどを計算するとどこに置くのがふさわしいか。
「トヨジ、悩みすぎると日が暮れちまうぞ。素人映画を、さらに素人が作るんだから軽くやろうぜ」
松川君に少し呆れの感情の交じった声で促され、ぼくは慌てて準備をした。
ライトが戻ってきたところで二人に台本を渡した。
今回するのはこんな話だ。
空からやってきた少女が、現地の少年と出会って恋をし、そして去っていくという古典的な話だ。
松川君の趣味もあり、SF風味にしてある。
場面の移り変わりのない同一箇所での短編台本で、長くても二十分ぐらいだと見積もっている。
二人は台本を音読しつつ、互いの台詞がおかしいのか笑い合っていた。
軽くこづき合って、小さく何かをささやき合っては楽しげな表情を向け合っている。
そういう姿を見る度に胸がきりきり痛む。
あんな風に明るい日差しの下で自然に笑う事ができない。人と触れることができない事への嫉妬だと自分でもわかっている。
そんな気持ちも、カメラをのぞき込むことで少し収まるような気がした。
カメラを通して見る世界はどこか違う。ぼくが演劇の世界に魅せられたように、カメラのフィルターを通した世界はまさしく別世界だった。
そのカメラの先にはライトが写っている。
本当の別世界からやってきた彼女はカメラに気づくと、指をいわゆるピースサインでこちらに白い歯を見せた。
「じゃあ始めるよ。最初のカットから」
これほどしっかりした声が出せることに、自分で驚いた
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる