彼女は終着駅の向こう側から

シュウ

文字の大きさ
21 / 44

3-7

しおりを挟む
 ようやく映画が完成した。
 ライトはかなり頻繁にこちらに来ている。
 映画を撮るのがよほど楽しいのだろう。
 そんな雰囲気が彼女の全身から伝わった。
 彼女の来る頻度が増えたため、ぼくと違って忙しい松川君がなかなか日程が合わない。
 その辺りはライトの一人のシーンを増やすように、脚本を書き直して進めた。

「ショウは参加できないこと、かなり悔しいってメールで言っているよ」
 
 ライトは笑いながらそんなことを話した。
 元々は一日だけの遊び感覚だったのに、ここまでみんなが熱中しているのは不思議な感じだ。
 夏休みの後半から撮り続けていた甲斐もあり、九月の中頃には最後の所を撮り終えた。
 これで映画作りは終わりかというとそうではなく、二人の時にぼくが書いた台本を読んだライトが、

「これすごく面白いよ。次はこれにしようよ!」

 と早くも次作に意欲的で、三人の協議により次の制作も決まっている。
 ちょうどそれはライトと再会した後に書き終えたシナリオで、それを彼女が気に入ってくれたのが嬉しい。
 最後の撮影が終わったので、後は編集作業の仕上げだけだ。
 ぼくは本で得た付け焼き刃の技術で、一人行っていた。
 さすがに最後の編集は家では難しく、いくつかのテレビがある学校の視聴覚室を借りて行うことになった。
 担任の加納先生に鍵を借りるのを頼みに行くとき、かなり緊張したけど理由を話すと思ったより簡単に貸してくれた。
 加納先生が、アマチュア映画に対して非常に理解があった為だ。

「私も学生時代はよくみんなで集まってやったものだわ」

 遠くに眼を向けながら先生は言った。
 見るからに堅物のような彼女が、学生時代に仲間内で映画を撮っていたという話は驚きだった。
 出来は我ながら上等だった。
 ちゃんとした映像作品ならどこかに応募したりで、現実を見せつけられる事になるかもしれない。
 でも三人しか視聴者がいないこの作品にそれは無用だ。
 編集を終えると、鍵を返して校舎を後にする。
 撮影中にシーンの見直しを見たものの、二人には通した映像をまだ見せていない。
 二人とも完成作品を、1から見たいとのことだからだ。
 明日の日曜日に、上映会をすることが決まっている。
 鍵を返すとき、加納先生に「後で私にも見せてもらえる?」と提案されたときは言葉がつかえた。
 ライトの姿は映像で映しても、ぼくらにしか見えない。
 きっと何を写しているのか、彼女にはわからないからだ。

「冗談よ。下手すぎて人に見せるのが怖いとか気持ちはわかるから」

 幸いぼくの沈黙はそう受け取られたようだ。
 最後の仕上げだけだったので、すぐに終わると思っていたら、時計を見ると結構な時間が経っていた。
 グラウンドでは運動部の部活も終わっているか、片付けに入っている。
 サッカー部の練習も終わっているようだった。
 松川君のことだから同じサッカー部や、他の部員の友達に囲まれていることだろう。
 いくら作品の完成に興奮していても、そんな中に入れるとは思わないのでこの興奮を伝えることはあきらめる。
 校舎から出ようとして、突然不安感が起こった。
 もしかしたらまだどこか編集に妙なミスがあって、全てを台無しにしているのでは無いかと。
 時間が経ったと言っても校舎が閉まるにはまだ時間がある。
 どこかで一通り見て、何かあったら加納先生に頼み込んでみよう。
 適当な教室のドアを開けると、そこは空いていた。
 教室の真ん中ぐらいまで入ってから、カメラを構えて再生を押す。
 なにげないことが、あんなトラブルになるなんて、その時は思わなかったんだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

処理中です...