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マンションに走って戻ると、ぼくはスコップをもってすぐに外に出た。
路面線路の上に立つと、スコップで雪をかきだしはじめる。
幸い雪はもうやんでいる。これ以上積もることはないはずだ。
今更運行の休止が、改善されたりなんかしないかもしれない。
そもそも短いとはいえ、線路はそれなりの長さになる。
ぼく一人でどこまで出来るかわからない。
でも立ち止まってはいられなかった。
はじめの数回はたいしたことがない。
でも何十回と繰り返していくと腕は疲れ、腰がずいぶんと痛くなってくる。
手はひどく冷たいのに、身体は逆に暑くて服の中は汗ばんでいた。
ふうっと腰と頭をあげる。
ぼくが雪かきをした後はしっかりと線路が現れている。
努力の効果は確かにでていた。
そして後ろを振り向く。
雪は線路を覆い尽くし、遙か先まで続いている。
線路の先は見えそうにない。
「あきらめるもんか」
心がくじけそうになるのを、必死で自分に言い聞かせる。
ここで手を止めたら、本当に彼女と会うことは出来ないんだ。
気合いを入れ直し、一心不乱に雪かきを続ける。
「――トヨジ!」
ぼくを呼ぶ声に、一度手を止めて顔を上げた。
コートに身を包んだ松川君が立っていた。
足下は雪でずいぶんと汚れている。
ああ、彼も何度もここに見に来たんだとわかった。
「何をしているんだ?」
「見てわかるでしょ。雪かきだよ」
「おまえ何キロあると思っているんだ! 一日で一人でやれるわけないだろう」
「でもやらないと前に進めない」
ぼくは、いつだってやる前からあきらめていた。
クラスのみんなや、両親と人間関係を構築することも。
演劇をやっていきたいという、気持ちさえも。
確かにぼくはコミュ障だし、演劇の脚本を書くなんてだいそれたこと人に話す趣味ではない。
だけど、それはあきらめていいってことじゃない。
この世はいす取りゲームみたいなもの。
松川君のように座るいすが決まっている特別な人間はいるし、ぼくはいすに座る瞬発力も判断力も欠けている人間なのは、間違いないかもしれない。
でも、いす取りゲームに参加しちゃいけないわけじゃない。
よしんばそこでいすをとれなくても、また別のいすをとればいい。
もしかしたらぼくが座ってもいい椅子が、あるかもしれないじゃないか。
でもあきらめていたら何も出来ない。
ぼくはライトに、彼女からそのことを学んだ。
今ぼくが欲しいのは彼女と最後の日を過ごすという椅子。
これだけは、最後の最後まであきらめてはいけない。
「手伝ってくれたらうれしいんだけど」
「――中学生がもう一人増えたぐらいで、結果がかわるもんか」
「そうだね」
たぶん松川君は正しい。
だから彼が手伝ってくれないことを恨むつもりはない。
ぼくは彼に笑顔をむけると、再び雪かきを再開した。
大丈夫。
少し休んだからまだまだ身体を動かせるはずだ。
少しずつ、少しずつ線路があらわになっていく。
松川君はいつの間にか姿を消していた。
でもぼくはあきらめたりしない。
きっとライトだって向こうで同じことをするはずだ。
だからぼくもがんばるんだ。
路面線路の上に立つと、スコップで雪をかきだしはじめる。
幸い雪はもうやんでいる。これ以上積もることはないはずだ。
今更運行の休止が、改善されたりなんかしないかもしれない。
そもそも短いとはいえ、線路はそれなりの長さになる。
ぼく一人でどこまで出来るかわからない。
でも立ち止まってはいられなかった。
はじめの数回はたいしたことがない。
でも何十回と繰り返していくと腕は疲れ、腰がずいぶんと痛くなってくる。
手はひどく冷たいのに、身体は逆に暑くて服の中は汗ばんでいた。
ふうっと腰と頭をあげる。
ぼくが雪かきをした後はしっかりと線路が現れている。
努力の効果は確かにでていた。
そして後ろを振り向く。
雪は線路を覆い尽くし、遙か先まで続いている。
線路の先は見えそうにない。
「あきらめるもんか」
心がくじけそうになるのを、必死で自分に言い聞かせる。
ここで手を止めたら、本当に彼女と会うことは出来ないんだ。
気合いを入れ直し、一心不乱に雪かきを続ける。
「――トヨジ!」
ぼくを呼ぶ声に、一度手を止めて顔を上げた。
コートに身を包んだ松川君が立っていた。
足下は雪でずいぶんと汚れている。
ああ、彼も何度もここに見に来たんだとわかった。
「何をしているんだ?」
「見てわかるでしょ。雪かきだよ」
「おまえ何キロあると思っているんだ! 一日で一人でやれるわけないだろう」
「でもやらないと前に進めない」
ぼくは、いつだってやる前からあきらめていた。
クラスのみんなや、両親と人間関係を構築することも。
演劇をやっていきたいという、気持ちさえも。
確かにぼくはコミュ障だし、演劇の脚本を書くなんてだいそれたこと人に話す趣味ではない。
だけど、それはあきらめていいってことじゃない。
この世はいす取りゲームみたいなもの。
松川君のように座るいすが決まっている特別な人間はいるし、ぼくはいすに座る瞬発力も判断力も欠けている人間なのは、間違いないかもしれない。
でも、いす取りゲームに参加しちゃいけないわけじゃない。
よしんばそこでいすをとれなくても、また別のいすをとればいい。
もしかしたらぼくが座ってもいい椅子が、あるかもしれないじゃないか。
でもあきらめていたら何も出来ない。
ぼくはライトに、彼女からそのことを学んだ。
今ぼくが欲しいのは彼女と最後の日を過ごすという椅子。
これだけは、最後の最後まであきらめてはいけない。
「手伝ってくれたらうれしいんだけど」
「――中学生がもう一人増えたぐらいで、結果がかわるもんか」
「そうだね」
たぶん松川君は正しい。
だから彼が手伝ってくれないことを恨むつもりはない。
ぼくは彼に笑顔をむけると、再び雪かきを再開した。
大丈夫。
少し休んだからまだまだ身体を動かせるはずだ。
少しずつ、少しずつ線路があらわになっていく。
松川君はいつの間にか姿を消していた。
でもぼくはあきらめたりしない。
きっとライトだって向こうで同じことをするはずだ。
だからぼくもがんばるんだ。
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