初雪はクリスマスに

シュウ

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一章 出会いは寒空の下で

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 どこか遠いところで、様々な音や声がしていた気がする。
 ケントが目を開けると、女の子の顔が目の前にあった。

「よかった! 無事だったのね」

 安心したように、ほっと息を吐く。
 その息は白く、ケントの鼻にあたる。

(この子誰だろう?)

 ぼんやりしたした意識で、ケントはそんなことを考えていた。
 知らない顔だった。
 でも大人っぽい雰囲気で、ずいぶん整った顔立ちをしている。
 かかった息は、なんだかいい匂いがした。

「君は……」
 
 だれだかわからないが、女の子の前でかっこうわるい姿を見せるわけにはいかない。
 上半身を起こそうとするが、背中に強い痛みが走った。

「いつっ!!」
 と、うめき声を上げてしまう。
 
「無理したらダメよ」

 女の子の声に、素直にケントは従った。
 母さんに同じことを言われても、きっと反抗するのになぜだろう。

「大丈夫? 頭は痛くない? ちゃんと意識がある?」

 一つ一つ順番にうなづいていく。
 だんだんと意識がはっきりとしてきた。
 背中に上着を通して、コンクリートの冷たさが感じられる。
 でも頭はそれ以上に温かいもので支えられていた。
 すごく安心出来る温かさだった。 

「自分がどうなったか、覚えている?」
「おれは……」

 そうだ、思い出した。
 地面に引き倒されたケントは、そのまま少年たちに暴力を受けたのである。
 
「くそッ」

 思いだして、涙があふれてきた。
 傷口が痛むが、暴力をうけたことに対しての涙ではない。
 自分が無力だったのが悔しかったからだ。

 ふと顔にやさしい感触があった。
 女の子が涙を、ハンカチでぬぐってくれているのだと気付くのに少し時間がかかった。

「ごめ、いいよ、てか、ちがくて!」
 
 見知らぬ女の子に涙をみられたのと、それに触れられた恥ずかしさから言葉がうまくでてこない。
 顔がかあっと熱くなるのを感じた。
 
「これは弱虫だからじゃなくて、おれはただ!」
「わかっているわよ」

 慌てふためくケントに、女の子は静かに肯定してくれる。

「あなたは誰よりも勇敢な子だって、知っているから」

 涙をぬぐう手をとめると、彼女は続けた。
 
「お礼が遅れてごめんね。助けてくれてありがとう。おかげで助かったわ」

 にっこりと彼女は笑う。
 笑顔にしばし見取れていたケントは、この子がさきほど助けようとした子だとようやく気付いた。
 帽子を深く被っていたので、勝手に男の子だと思っていたのだ。

「あなたすごいのね。自分より大きな相手に人を助けるために向かうなんて、普通できることじゃないわ」
「そ、そんなの当然、だし」
「君をこんなめに合わせた子達は、今おまわりさんが追いかけているから。君のおかげだよ」

 空が見えた。
 太陽が冬空の上から光を降らしている。
 それがすぐ側の彼女の顔を照らしていて、なんだか物語で見た天使のように見えた。
 心臓がびっくりするほど大きな音を立てている。
 あまりにも大きくて、それが聞こえているんじゃあないかと心配した。

「どうしたの? まだどこかいたい?」
「う、ううん。大丈夫!」

 どぎまぎしながらケントは応える。
 そしてようやく自分の頭にある温かさが、彼女のひざであることに気付いた。
 自分の置かれている状況が、ひどく恥ずかしい。
 でもこの状況がずっと続いて欲しい。
 二つの感情が交じり合っていた。

「おまわりさん、この子目を覚ましましたよ」

 彼女が近くの誰かに声をかける。
 すぐ目の前で声が聞こえているのに、ひどくそれが遠くに感じた。
 彼女のひざのぬくもりと、自分の心臓の音だけがやたらケントの世界だった。
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