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1149.転売屋は鯛を釣る
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感謝祭は早くも五日目。
なんていうか昨日のコンサートがすごすぎてもう感謝祭が終わってしまったような錯覚すら覚えてしまう。
ほんとうに凄かった。
羊男の熱狂ぶりを正直笑っていたような感じはあったのだが、そうなるのも頷ける。
ファンになったかと聞かれれば話は別だが、それでもまた聞きたいと思ってしまうよなぁ。
いまいちファンになれなかったのは彼女の本当の姿を知っているから。
舞台の上で歌を披露する姿だけではないごく当たり前の少女だと思うと、むしろそっちの方を応援したくなってしまうのは中身がオッサンだからなんだろうか。
まぁ商売人としては化粧品の方で今後もお世話になるので会う事もそれなりにあるだろう。
これも御縁だし、良い物をしっかりと提供して国中に化粧品のすばらしさを広めてもらおうじゃないか。
「なるほど、メインになるような奴がないのか。」
「どれも美味しく仕上がってはいますが、やっぱり一番の縁起物が欲しい所です。」
「縁起物となると、やっぱり尾頭付きだよなぁ。」
「オカシラツキ?」
「頭と尻尾がついている状態って意味だ。確か意味は最初から最後まで全うする、ようは一年中元気で過ごせますようにって意味だな。」
「そういう意味なら冒険者も食べたがるんじゃない?」
コンサート翌日。
余韻もほどほどに年明けのおせち料理について食堂で話し合っていたのだが、箱詰め作業は進んでいるものの全てを埋めきることが出来ないでいた。
それならば新たな縁起物を手配しなければと知恵を絞りだしている間に思いついたのが縁起物の代名詞尾頭付き。
昔はなんでこんなものがとも思ったものだが、塩焼きは日持ちするし見栄えも良いので派手好きの貴族には喜ばれる事だろう。
魚食も結構浸透してきているので、今なら忌避感なく受け入れられるはずだ。
なんていうか小京都ならぬ小西方みたいになってきているなぁ。
別にそうだからといって非難されることもないし、本当にいい国だよここは。
「冒険者もなぁ。だが、おせちそのものは単価が高いし正直これを買うとは思えないんだが。」
「別にこんなにたくさんじゃなくてもいいのよ。金運アップと健康と、冒険者が喜びそうなのを詰め合わせた小さいのがあればそれで十分。なんなら尾頭付きだっけ、それだけでも売れるんじゃないかしら。」
「うーむ、そうなると栗きんとんと尾頭付きと黒豆と・・・ハルカ、どう思う?」
「材料はありますので何とかなりますが、尾頭付きが間に合うかどうかですね。貴族用ので約100匹、加えて冒険者用ともなるとかなりの量が必要になります。」
尾頭付きといえば鯛が一番有名だが、こっちの世界でとなるとなにがいいんだろうか。
前に港町でレッドパーゲルという魚が鯛っぽい感じだったので美味しくいただいたが、結構な大きさだったのでそれをおせちに入れるのは難しいだろう。
箱の大きさを考えるとあまり大きいのは入れられない。
それならばいっそ別添えするという手もあるのだが、それでは隙間を埋めるという本来の目的を達成できないことになる。
いい感じの大きさでかつ美味しくさらには見栄えのいい魚。
そんな都合のいい奴がダンジョンにいるだろうか。
「この箱に入るぐらいの大きさだったらいいのよね?」
「まぁ、そうなるな。できれば色合いが綺麗で赤っぽい感じだとぴったりだ。」
「それならケラススパーゲルなんてどうかしら、そこそこの大きさだしピンク色で可愛い感じよ。確か焼けば赤くなったはずだからシロウの条件にも当てはまるわ。」
「数は手に入りますか?」
「んー、餌の準備は必要だけどそれさえ見つかれば今日中になんとかなるんじゃないかしら。」
そんな都合のいい素材があるのかと若干疑ってしまうのだが、あるんだったら手に入れない理由はない。
詳しく聞くと食用に向いているらしくダンジョンで食べ物に困ったときに焼いて食べることがあるのだとか。
問題があるとすればそいつの狩猟方法。
特別な餌にしか食いつかないらしいのだが、そいつを手に入れるのが少し大変らしい。
主にビジュアル的な方で。
エリザはあまり気乗りしないような感じだったが、金になるとわかってやらないのは俺の信条に反する。
幸い感謝祭も後半に入り暇を持て余す冒険者が増えているらしいので相場以上の依頼料を出して無理やりその餌を確保することにした。
その間に準備を済ませてダンジョンの奥に広がる大海原へと潜ることに。
「何度来てもこの光景にはなれないな。」
「天井があるのに海が広がっているというのは不思議な感覚です。」
「洞窟の中と考えることもできるのだがそれにしては天井が高すぎる。ま、それを言い出したらダンジョンなんて不思議の塊だからな、気にした方が負けか。」
ダンジョンの中には草原地帯や海、溶岩地帯など様々な空間が存在している。
基本的には別空間という考え方らしいのでそういう特殊な空間が多数存在できるのだとか。
その辺は難しい話なので割愛するが、ともかくそんな特殊空間だからこそこうやって海に行かずして釣りができるというわけだ。
「これが例の餌か。確かに見た目はよくないよなぁ。」
「でもこれじゃないと食いつかないのよ。胃に入る前に回収するし内臓は食べないから大丈夫なはずなんだけど・・・やっぱりねぇ。」
エリザがひきつった顔で餌の入った入れ物を見ている。
足元に置かれた大きめの入れ物には無数の蟲。
てっきり芋虫系かと思ったのだが、そいつは無数の足を動かしながら必死に逃げ出そうと這い回っている。
『ブラッドセンチピード。無数の足を動かして集団で獲物に襲い掛かる非常に危険な蟲。襲われた獲物は全身の血液を抜かれ、干物のようになってしまう。熱に弱く火を焚いていれば近づいてくることはないが、巣の存在に気付かずに野営をして襲われる事件が年に数回起きている。ケラススパーゲルの餌。最近の平均取引価格は銅貨5枚。最安値銅貨1枚最高値銅貨8枚、最終取引日は本日と記録されています。』
吸血百足といえばいいんだろうか、赤黒い体をしたそいつは獲物の血を吸う危険な蟲らしい。
なんでまたケラススパーゲルがそんなのを餌にしているのかはわからないが、もしかするとその桜色は魔物の血液で染まっているのかもしれない、そんなことも勘ぐってしまう。
でもまぁ味は申し分ないらしいし、消化する前に回収してしまえば問題はない。
尾頭付きとはいえ内臓は取り出すので餌を見て卒倒するようなことはないだろう。
海老で鯛を釣る・・・ではなく、百足で鯛を釣る。
「ま、時間もないしさっさと始めるか。」
「手は入れちゃだめよ。」
「そんな怖いことできるかよ。」
火ばさみ的なもので一匹だけ捕まえ、お尻の部分と頭の部分を足で抑えつつ真ん中に釣り針を刺す。
かなり暴れるが思ったよりも簡単に針は通った。
竿の先に糸が垂れていて重りと餌だけが先についているようなシンプルなつくりだがこんなので本当に釣れるんだろうか。
突堤のようになっている場所から海を覗き込むと、ものすごく深くなっているのがわかる。
アーロイに作ってもらった偏光サングラスのおかげで水の中もよく見えるなぁ。
大小さまざまな魚が足元を優雅に泳いでいるが、その前を百足が通り過ぎてもほとんどの魚は見向きもしないようだ。
そのまま待つこと数分。
突然餌の周りを泳いでいた魚が逃げ出し、竿が一気に引っ張られた。
かなり油断していたので危なく海に落ちそうになったが、何とか踏みとどまって竿を引っ張って抵抗する。
「ちょっと大丈夫!?」
「なんとか。」
「落ちないでよ、落ちたら食われるわよ。」
「怖いこと言うなよ。」
「本当の事よ。ケラススパーゲルは群れで襲ってくるんだから。」
そういうことは早く言えよな。
ミイラ取りがミイラじゃないけど、釣りに行って釣る対象に食われるとかシャレにならない。
幸い引きはそこまで強くなく、腰を落とせば十分に対処できる程度だった。
アラクネの糸はそうそうなことで切れることもなく、そのまま根競べをしていると案外簡単に水面付近に姿を現した。
そのままエリザが網を入れ、一気に掬い上げる。
「おー、見事なもんだ。」
「見とれてないで早く餌とっちゃいなさいよ。」
「おっと、そうだったそうだった。」
地面でビチビチと跳ねるケラススパーゲルの口を掴んで餌と一緒に針を外す。
すぐに後ろに設置した生簀代わりの入れ物に放り込んでやると、すいすいと元気よく泳ぎ始めた。
『ケラススパーゲル。その名の通り桜色をしており可食部が多く非常に美味。ただし釣り上げるためにはブラッドセンチピードを餌にする必要がありそれ以外の餌に食いつくことはない。群れで生活している為、一匹釣り上げることができれば大量に手に入れることができる。最近の平均取引価格は銅貨31枚、最安値銅貨25枚最高値銅貨50枚、最終取引日は本日と記録されています。』
一匹銅貨30枚として、これを銀貨1枚で売れば十分に儲けが出る。
釣り上げたのはおよそ30cmほどだが、この大きさならおせちに入れるには十分だ。
「よし、ガンガン吊り上げるぞ。」
「え、なんで?」
「は?群れで来ている今がチャンスだろ。」
「そうなんだけど、別に釣り上げる必要はないわよ?」
エリザはいったい何を言っているんだろうか。
海に入ろうものなら群れで襲われるんだぞ?
それなら安全な上から釣り糸を垂らすのが一番じゃなかろうか。
そんな俺を見て首をかしげるエリザだったが、大量の百足が入った入れ物をそのまま海に落としてしまった。
着水と同時に桜色の魚が餌に食らいつく。
あれだ、水族館で見たピラニアの餌やりみたいだ。
バシャバシャと音を立てて水面付近に群がるケラススパーゲルに向かって今度は別の物を構えるエリザ。
「嘘だろ。」
「これが一番効率いいのよ。」
そういうや否や、手にした網を海に向かって勢いよく投げる。
重りのついたそれは広がりながら弧を描くようにして落下し、バシャバシャと群がるケラススパーゲルの上に覆いかぶさった。
網の先につながった紐がエリザの手につながっており、暴れまわるケラススパーゲルがエリザを水中に引っ張り込もうとしているようだ。
だがそうは問屋が卸さない。
エリザの怪力をすれば大量の魚など敵ではないようで、少しずつ地上へと引き上げられた。
まさに一網打尽。
「ね、釣り上げる必要なんてなかったでしょ?」
「まぁなぁ。」
「ほら、食いついた餌を引っ張り出さないと後が大変よ。」
「へいへい、頑張らせていただきます。」
なんだろうこの無力感。
海老で鯛を釣る、ならぬ網で鯛を引っ張り上げる。
今日は一日釣り三昧だと思いきや、まさか最初の一投で終わってしまうとは思ってなかった。
確かに効率はいいし、短時間で持ち帰らないといけないことを考えるとこの方法が一番だとは思う。
でもなんていうか、情緒というかそういうのが一切ないよなぁ。
金儲けにそんなのはいらない、そう言われるとそこまでなんだけども。
そんな気分のまま地上でビチビチと跳ねまわるケラススパーゲルを捕まえては、口の中から餌をかき出し生簀の中へ。
あっという間に生簀の中で身動きが取れなくなるぐらいに大量の獲物を手に入れることができた。
後はこれを地上に持ち帰って血抜きと内臓処理をするだけだ。
それだけなんだが・・・。
「何よ。」
「別に、これで無事におせちもできそうだなっておもっただけだ。」
「それだけじゃないでしょ。」
「そんなことないぞ、エリザのおかげで今回もいい儲けになりそうだ。」
今回はエリザのおかげで問題は解決。
おせちができれば更なる儲けも期待できる。
まさにエリザ様様って感じだろう。
「わかったわよ、次はもっと大きな魚を釣りに行きましょ」
「楽しみにしてる。」
「そんなに釣りがしたかったの?」
「そういうわけじゃないんだが、折角の二人っきりがもったいないと思っただけだ。」
「ふふ、じゃあもう少しゆっくりする?」
「しない、さっさと帰らないと感謝祭が終わってしまうからな。」
「オッケー、じゃあ急いで帰りましょ。」
ゆっくりしたいのは山々だが今は楽しい楽しい感謝祭が行われている。
残すところあと二日。
今年一年を締めくくるべく最後の金儲けが待っている。
と、その前に明日はオークションがあったはずだ。
今回は軽く参戦する程度だが、果たして何が出てくるのやら。
海老で鯛を釣る。
そんなことが起きたら面白いんだけどなぁ。
なんていうか昨日のコンサートがすごすぎてもう感謝祭が終わってしまったような錯覚すら覚えてしまう。
ほんとうに凄かった。
羊男の熱狂ぶりを正直笑っていたような感じはあったのだが、そうなるのも頷ける。
ファンになったかと聞かれれば話は別だが、それでもまた聞きたいと思ってしまうよなぁ。
いまいちファンになれなかったのは彼女の本当の姿を知っているから。
舞台の上で歌を披露する姿だけではないごく当たり前の少女だと思うと、むしろそっちの方を応援したくなってしまうのは中身がオッサンだからなんだろうか。
まぁ商売人としては化粧品の方で今後もお世話になるので会う事もそれなりにあるだろう。
これも御縁だし、良い物をしっかりと提供して国中に化粧品のすばらしさを広めてもらおうじゃないか。
「なるほど、メインになるような奴がないのか。」
「どれも美味しく仕上がってはいますが、やっぱり一番の縁起物が欲しい所です。」
「縁起物となると、やっぱり尾頭付きだよなぁ。」
「オカシラツキ?」
「頭と尻尾がついている状態って意味だ。確か意味は最初から最後まで全うする、ようは一年中元気で過ごせますようにって意味だな。」
「そういう意味なら冒険者も食べたがるんじゃない?」
コンサート翌日。
余韻もほどほどに年明けのおせち料理について食堂で話し合っていたのだが、箱詰め作業は進んでいるものの全てを埋めきることが出来ないでいた。
それならば新たな縁起物を手配しなければと知恵を絞りだしている間に思いついたのが縁起物の代名詞尾頭付き。
昔はなんでこんなものがとも思ったものだが、塩焼きは日持ちするし見栄えも良いので派手好きの貴族には喜ばれる事だろう。
魚食も結構浸透してきているので、今なら忌避感なく受け入れられるはずだ。
なんていうか小京都ならぬ小西方みたいになってきているなぁ。
別にそうだからといって非難されることもないし、本当にいい国だよここは。
「冒険者もなぁ。だが、おせちそのものは単価が高いし正直これを買うとは思えないんだが。」
「別にこんなにたくさんじゃなくてもいいのよ。金運アップと健康と、冒険者が喜びそうなのを詰め合わせた小さいのがあればそれで十分。なんなら尾頭付きだっけ、それだけでも売れるんじゃないかしら。」
「うーむ、そうなると栗きんとんと尾頭付きと黒豆と・・・ハルカ、どう思う?」
「材料はありますので何とかなりますが、尾頭付きが間に合うかどうかですね。貴族用ので約100匹、加えて冒険者用ともなるとかなりの量が必要になります。」
尾頭付きといえば鯛が一番有名だが、こっちの世界でとなるとなにがいいんだろうか。
前に港町でレッドパーゲルという魚が鯛っぽい感じだったので美味しくいただいたが、結構な大きさだったのでそれをおせちに入れるのは難しいだろう。
箱の大きさを考えるとあまり大きいのは入れられない。
それならばいっそ別添えするという手もあるのだが、それでは隙間を埋めるという本来の目的を達成できないことになる。
いい感じの大きさでかつ美味しくさらには見栄えのいい魚。
そんな都合のいい奴がダンジョンにいるだろうか。
「この箱に入るぐらいの大きさだったらいいのよね?」
「まぁ、そうなるな。できれば色合いが綺麗で赤っぽい感じだとぴったりだ。」
「それならケラススパーゲルなんてどうかしら、そこそこの大きさだしピンク色で可愛い感じよ。確か焼けば赤くなったはずだからシロウの条件にも当てはまるわ。」
「数は手に入りますか?」
「んー、餌の準備は必要だけどそれさえ見つかれば今日中になんとかなるんじゃないかしら。」
そんな都合のいい素材があるのかと若干疑ってしまうのだが、あるんだったら手に入れない理由はない。
詳しく聞くと食用に向いているらしくダンジョンで食べ物に困ったときに焼いて食べることがあるのだとか。
問題があるとすればそいつの狩猟方法。
特別な餌にしか食いつかないらしいのだが、そいつを手に入れるのが少し大変らしい。
主にビジュアル的な方で。
エリザはあまり気乗りしないような感じだったが、金になるとわかってやらないのは俺の信条に反する。
幸い感謝祭も後半に入り暇を持て余す冒険者が増えているらしいので相場以上の依頼料を出して無理やりその餌を確保することにした。
その間に準備を済ませてダンジョンの奥に広がる大海原へと潜ることに。
「何度来てもこの光景にはなれないな。」
「天井があるのに海が広がっているというのは不思議な感覚です。」
「洞窟の中と考えることもできるのだがそれにしては天井が高すぎる。ま、それを言い出したらダンジョンなんて不思議の塊だからな、気にした方が負けか。」
ダンジョンの中には草原地帯や海、溶岩地帯など様々な空間が存在している。
基本的には別空間という考え方らしいのでそういう特殊な空間が多数存在できるのだとか。
その辺は難しい話なので割愛するが、ともかくそんな特殊空間だからこそこうやって海に行かずして釣りができるというわけだ。
「これが例の餌か。確かに見た目はよくないよなぁ。」
「でもこれじゃないと食いつかないのよ。胃に入る前に回収するし内臓は食べないから大丈夫なはずなんだけど・・・やっぱりねぇ。」
エリザがひきつった顔で餌の入った入れ物を見ている。
足元に置かれた大きめの入れ物には無数の蟲。
てっきり芋虫系かと思ったのだが、そいつは無数の足を動かしながら必死に逃げ出そうと這い回っている。
『ブラッドセンチピード。無数の足を動かして集団で獲物に襲い掛かる非常に危険な蟲。襲われた獲物は全身の血液を抜かれ、干物のようになってしまう。熱に弱く火を焚いていれば近づいてくることはないが、巣の存在に気付かずに野営をして襲われる事件が年に数回起きている。ケラススパーゲルの餌。最近の平均取引価格は銅貨5枚。最安値銅貨1枚最高値銅貨8枚、最終取引日は本日と記録されています。』
吸血百足といえばいいんだろうか、赤黒い体をしたそいつは獲物の血を吸う危険な蟲らしい。
なんでまたケラススパーゲルがそんなのを餌にしているのかはわからないが、もしかするとその桜色は魔物の血液で染まっているのかもしれない、そんなことも勘ぐってしまう。
でもまぁ味は申し分ないらしいし、消化する前に回収してしまえば問題はない。
尾頭付きとはいえ内臓は取り出すので餌を見て卒倒するようなことはないだろう。
海老で鯛を釣る・・・ではなく、百足で鯛を釣る。
「ま、時間もないしさっさと始めるか。」
「手は入れちゃだめよ。」
「そんな怖いことできるかよ。」
火ばさみ的なもので一匹だけ捕まえ、お尻の部分と頭の部分を足で抑えつつ真ん中に釣り針を刺す。
かなり暴れるが思ったよりも簡単に針は通った。
竿の先に糸が垂れていて重りと餌だけが先についているようなシンプルなつくりだがこんなので本当に釣れるんだろうか。
突堤のようになっている場所から海を覗き込むと、ものすごく深くなっているのがわかる。
アーロイに作ってもらった偏光サングラスのおかげで水の中もよく見えるなぁ。
大小さまざまな魚が足元を優雅に泳いでいるが、その前を百足が通り過ぎてもほとんどの魚は見向きもしないようだ。
そのまま待つこと数分。
突然餌の周りを泳いでいた魚が逃げ出し、竿が一気に引っ張られた。
かなり油断していたので危なく海に落ちそうになったが、何とか踏みとどまって竿を引っ張って抵抗する。
「ちょっと大丈夫!?」
「なんとか。」
「落ちないでよ、落ちたら食われるわよ。」
「怖いこと言うなよ。」
「本当の事よ。ケラススパーゲルは群れで襲ってくるんだから。」
そういうことは早く言えよな。
ミイラ取りがミイラじゃないけど、釣りに行って釣る対象に食われるとかシャレにならない。
幸い引きはそこまで強くなく、腰を落とせば十分に対処できる程度だった。
アラクネの糸はそうそうなことで切れることもなく、そのまま根競べをしていると案外簡単に水面付近に姿を現した。
そのままエリザが網を入れ、一気に掬い上げる。
「おー、見事なもんだ。」
「見とれてないで早く餌とっちゃいなさいよ。」
「おっと、そうだったそうだった。」
地面でビチビチと跳ねるケラススパーゲルの口を掴んで餌と一緒に針を外す。
すぐに後ろに設置した生簀代わりの入れ物に放り込んでやると、すいすいと元気よく泳ぎ始めた。
『ケラススパーゲル。その名の通り桜色をしており可食部が多く非常に美味。ただし釣り上げるためにはブラッドセンチピードを餌にする必要がありそれ以外の餌に食いつくことはない。群れで生活している為、一匹釣り上げることができれば大量に手に入れることができる。最近の平均取引価格は銅貨31枚、最安値銅貨25枚最高値銅貨50枚、最終取引日は本日と記録されています。』
一匹銅貨30枚として、これを銀貨1枚で売れば十分に儲けが出る。
釣り上げたのはおよそ30cmほどだが、この大きさならおせちに入れるには十分だ。
「よし、ガンガン吊り上げるぞ。」
「え、なんで?」
「は?群れで来ている今がチャンスだろ。」
「そうなんだけど、別に釣り上げる必要はないわよ?」
エリザはいったい何を言っているんだろうか。
海に入ろうものなら群れで襲われるんだぞ?
それなら安全な上から釣り糸を垂らすのが一番じゃなかろうか。
そんな俺を見て首をかしげるエリザだったが、大量の百足が入った入れ物をそのまま海に落としてしまった。
着水と同時に桜色の魚が餌に食らいつく。
あれだ、水族館で見たピラニアの餌やりみたいだ。
バシャバシャと音を立てて水面付近に群がるケラススパーゲルに向かって今度は別の物を構えるエリザ。
「嘘だろ。」
「これが一番効率いいのよ。」
そういうや否や、手にした網を海に向かって勢いよく投げる。
重りのついたそれは広がりながら弧を描くようにして落下し、バシャバシャと群がるケラススパーゲルの上に覆いかぶさった。
網の先につながった紐がエリザの手につながっており、暴れまわるケラススパーゲルがエリザを水中に引っ張り込もうとしているようだ。
だがそうは問屋が卸さない。
エリザの怪力をすれば大量の魚など敵ではないようで、少しずつ地上へと引き上げられた。
まさに一網打尽。
「ね、釣り上げる必要なんてなかったでしょ?」
「まぁなぁ。」
「ほら、食いついた餌を引っ張り出さないと後が大変よ。」
「へいへい、頑張らせていただきます。」
なんだろうこの無力感。
海老で鯛を釣る、ならぬ網で鯛を引っ張り上げる。
今日は一日釣り三昧だと思いきや、まさか最初の一投で終わってしまうとは思ってなかった。
確かに効率はいいし、短時間で持ち帰らないといけないことを考えるとこの方法が一番だとは思う。
でもなんていうか、情緒というかそういうのが一切ないよなぁ。
金儲けにそんなのはいらない、そう言われるとそこまでなんだけども。
そんな気分のまま地上でビチビチと跳ねまわるケラススパーゲルを捕まえては、口の中から餌をかき出し生簀の中へ。
あっという間に生簀の中で身動きが取れなくなるぐらいに大量の獲物を手に入れることができた。
後はこれを地上に持ち帰って血抜きと内臓処理をするだけだ。
それだけなんだが・・・。
「何よ。」
「別に、これで無事におせちもできそうだなっておもっただけだ。」
「それだけじゃないでしょ。」
「そんなことないぞ、エリザのおかげで今回もいい儲けになりそうだ。」
今回はエリザのおかげで問題は解決。
おせちができれば更なる儲けも期待できる。
まさにエリザ様様って感じだろう。
「わかったわよ、次はもっと大きな魚を釣りに行きましょ」
「楽しみにしてる。」
「そんなに釣りがしたかったの?」
「そういうわけじゃないんだが、折角の二人っきりがもったいないと思っただけだ。」
「ふふ、じゃあもう少しゆっくりする?」
「しない、さっさと帰らないと感謝祭が終わってしまうからな。」
「オッケー、じゃあ急いで帰りましょ。」
ゆっくりしたいのは山々だが今は楽しい楽しい感謝祭が行われている。
残すところあと二日。
今年一年を締めくくるべく最後の金儲けが待っている。
と、その前に明日はオークションがあったはずだ。
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『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
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