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二部第十九章
商人、井戸を掘る
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流石特注仕様の装甲車。
上から石が降ってこようが枝が落ちて来ようが、何なら槍や魔法が降ってきても問題なさそうだ。
何かが当たる音に最初は驚いたものの、大丈夫だとわかってからは特に気にすることも無くあっという間に問題の山道を通り過ぎた。
後は南の村まで一直線・・・なんだけど。
俺に一体何をやらせようというのだろうか。
「到着する前に質問があるのですが。」
「一つならいいわよ。」
「何をさせたいんです?」
「言ったでしょ、直接説明してもらうだけよ。」
「質問の答えになっていません、何をですか?」
「口で言うのが難しいから直接って言ったのよ、答えになったかしら?」
なったようななっていないような・・・。
まぁ、この人にこれ以上言ったって明確な答えは期待できそうにない。
大人しく到着を待つとしよう。
「なによ、もうおしまいなの?」
「抵抗は無意味だと悟りましたから。」
「それは良い兆候ね。」
「説明すれば早く店に戻れる。店に戻れば、仕事が出来る。仕事が出来れば、早く休暇を貰える。そうですよね?」
「えぇ、そうよ。可愛い子供たちが待っているんだから。」
子供を人質に取られていた戦国武将なんかはこんな気持ちだったんだろうか。
あぁ、早く顔が見たい。
「ちなみに、今日はリュシアがママと呼んだそうよ。」
「マジですか!」
「はっきりと顔を見て答えたそうだから間違いないんじゃないかしら。」
そんな歴史的瞬間に立ち会えないとは・・・。
何という事だ。
「早く帰らないと名前呼んでもらえないわよ。」
鬼だ。
昔は冗談めかして言っていたが、やはり間違いではなかった。
鬼女が目の前にいる。
これは何としてでも早く家に戻らなければ・・・。
馬車よもっと速く走れ!
とか何とかやっている間に、何事も無く南の村へと到着した。
「イナバ様お疲れさまでした!」
「いえ、こちらこそありがとうございました。さすが装甲車ですね。」
「先ほども攻撃を受けましたが特に問題ありませんでした。あれが噂の変異した魔物ですか。」
「そのようです。今の所は大きな被害が無いのと、追い詰めることが難しい為このような方法をとるしかないんですよね。」
「それは致し方ないかと。」
「では行ってきます。」
先に馬車を下り、ついでメルクリア女史の手を取って下ろしてあげる。
こういう気配りも出来る部下の仕事だ。
「・・・特に変わりないように思えますが。」
「見た目はね。」
ぱっと見大きな変化はない。
違いがあるとすれば村の人の顔に生気が戻っていることぐらいだろうか。
特殊な馬車の登場に村の人が集まってくる。
と、あそこにいるのは・・・。
「あ、イナバ様だ!」
「な、言っただろあの人だって。」
「イナバ様どうしたんですか?」
集まっていた中にはあの三人組も含まれていた。
見た感じ元気そうで何よりだ。
「お久しぶりです、変わりありませんか?」
「はい!お陰様で問題ありません。」
「畑の方も問題ないよな。」
「あぁ、あれから病気は広がってないし・・・問題は水だけどそれもイナバ様が何とかしてくれるって話だしな。」
「え?」
俺が何とかする?
慌ててメルクリア女史の方を見ると満足そうにニヤリと笑っていた。
俺が水を?
どういうことだ?
「メルクリアさん、いったい何をさせたいんですか?」
「貴方にしかできない仕事よ。シュリアン商店のイナバというよりも、精霊師のイナバとしてかしら。はいこれ、ププト様とフェリス様からの要望書、報酬も書いてあるから目を通してね。」
しれっと一枚の手紙を差し出すメルクリア女史。
蜜蝋でしっかりと封をされたその手紙にはププト様の紋章と魔術師ギルドの紋章が隣り合わせで刻印されていた。
大勢の人が見ている手前、急いでそれを開封し中を確認する。
『サンサトローズ領主プロンプトより精霊師イナバの力をお借りしたい。水不足の村に新たな水を用意してくれ。』
『水の精霊の力を借りればまだ余力のある水脈を見つけられるはずだ。後はそこに井戸を掘れば問題ない、頑張りな。』
要約するとこんな感じだ。
『無いのなら掘ってしまえ井戸水を』
ってな感じか?
「井戸を掘る・・・?」
「そうよ。残り僅かな水脈から水を引くぐらいなら新しい水脈から掘ればいいのよ。幸いこの地域は多数の水脈が交差しているみたいだし、少し離れてもいいから当りが見つかれば十分よ。」
「でも、どうやって掘るんですか?」
「それはウチの仕事、商店連合の実力を舐めるんじゃないわよ。井戸ぐらい二日で掘って見せるわ。」
「なるほど、それで私を呼んだんですか。」
「貴方にしかできない仕事だもの。依頼は成功報酬制、報酬は直接ププト様からもらってね。」
出来ればシュリアン商店のイナバとして仕事がしたかったけど、村の状況を考えればそうも言ってられない。
村人と畑、そのどちらも守るためには新しい水が必要なのだ。
「・・・わかりました。じゃあさっさと終わらせて仕事に戻りましょう。」
「そう来なくっちゃ。」
わざわざ装甲車を用意するほどの依頼かどうかはさておき、見つけさえすれば後はやってくれるらしいので、井戸の前まで移動して彼女の名前を呼んだ。
「ディーちゃん、来てくれるかな。」
「・・・シュウちゃん、呼んだ?」
井戸の中から水が噴き上がり、顔の高さ辺りで水球を形成する。
それはみるみるうちに人の形をとり、見慣れたいつもの姿へと変化した。
その様子に周りにいた村の人達が驚きと歓声の声を上げる。
彼らにとっては命を救ってくれた恩人みたいなものだから当然だよな。
「来てくれてありがとう。」
「どういたしまして。ドリちゃんには、伝えておいたよ?」
「そっか、ありがとう。何か言ってた?」
「うーんとね、変なのはいるけど、害はないから様子を見る、だって。」
「そっか。」
森の中に入り込んだ変異ポイズンマウスは今の所問題なしっと。
余程の事が無ければそのまま放置、問題があれば駆除って所だろう。
「今日は、どうしたの?」
「実は新しい水場を探しているんだ。ここの水はもうだめなんだよね?」
「うん、どんどん少なくなってるから、時間の問題かな。」
「ここから離れていてもいいんだ。出来るだけ太い水脈を探してほしいんだけど、できる?」
「お安い御用だよ。」
さすが水の精霊。
目に見えない水脈もディーちゃんにかかればお茶の子さいさいのようだ。
「じゃあ、ついてきて。」
「わかった。」
フヨフヨと宙に浮かびながらディーちゃんが移動を始める。
その後ろを俺とメルクリア女史、それといつの間に用意したのかスコップを肩に担いだ三人組がついていく。
村の真ん中を通過し、そのまま北の方へ。
村を出て街道から離れた道なき道をまっすぐに北上し続ける。
と、その途中で乾いた川に出た。
「ここが例の乾いてしまった川ですか。」
「そのようね、降雨不足と魔石鉱山での出水による地下水の減衰が原因・・・と考えられているわ。」
「そこの所どうなのかな、ディーちゃん。」
「うーん、確かに地下水は無いけど・・・。」
「けど?」
「何か大きなものが、邪魔してる・・・のかな。」
うーん、その邪魔をしている何かが知りたいんだけど・・・。
そこは自分で調べるしかないだろう。
精霊は決して使役しているのではない。
俺とディーちゃんとの関係はあくまでも対等。
何かを願えば対価が必要になる。
俗にいう等価交換の法則にのっとっているわけだ。
まぁ、対価がいつもほっぺにチューとか好きだと囁くとか程度なので等価交換かどうかは本人にしかわからないんだけども。
本人がいいのなら俺は何も言うまい。
「大きな何かねぇ。」
「この川をたどればいいのかな?」
「ううん、たどっても最初が枯れてるだけ。」
「この先が魔石鉱山に繋がっているのは確認済みだから、やっぱり奥まで探索するしかない様ね。」
「この二日の調査では魔物はほとんど見当たらなかったようですし、冒険者じゃなくて工夫を募集した方がいいんじゃないですか?」
「そんなこと言って何かあってからでは遅いのよ。」
「まぁわかりますけどねぇ・・・。」
工夫は戦えないが冒険者は戦える。
特に変異した魔物が出てくるような場所だと余計に冒険者を頼るしかないわけだ。
冒険者は何でも屋。
間違いではないけどさぁ。
「水脈はまだ先?」
「うん。みんな絡み合って、くっついてるから、そうじゃないのは、もう少し先。」
なるほどな。
少ない水脈と絡んでしまったら、結局そこに吸われておわりになるから独立した奴が必要なのか。
勉強になります。
乾いた川を抜けさらに北上する事一刻程。
大きな枯れ木の手前でディーちゃんが止まった。
「ここ。」
「え、ここ?」
「うん。この樹の下に水脈があるよ。」
枯れ木の周りはごつごつとした岩場になっている。
見た感じ水のあるような場所には見えないけど・・・。
精霊様がると言ってるんだからあるんだろう。
「この樹はそのせいで枯れたのかな?」
「うん。水脈が動いて、根っこが腐っちゃったの。」
「という事はそんなに深くなさそうね。村から遠いのがアレだけど、帰りは下り坂だし運搬用の馬車を用意すれば何とかなるでしょ。」
「じゃあ掘るか!」
「おぅ!掘ろうぜ!」
「僕は周りを警戒しておくよ。岩場の陰から襲われたくもないしね。」
これだけ奥に来るとどこから魔物が出てきてもおかしくない。
それに、岩場にはあまり見たくない痕跡も見受けられた。
「何かが爪を研いだあとでしょうか・・・。」
「ウルフ種かボア種のそのどちらかってとこかしら。」
「どちらにしろ警戒する必要があります。」
「今は周りにいないみたい。」
「なら安心かな。ありがとうディーちゃんこれでみんなが助かるよ。」
「えへへ、どういたしまして。」
「それでお礼なんだけど・・・。」
さて、今回は何を言われるかな?
いつもと違ってちょっと面倒な事だったから覚悟しておかないと。
「それじゃあねぇ、ドリちゃんが寂しがってるから、早く戻ってきて。」
「え、それだけ?」
「私の泉にも来てほしいな。赤ちゃんも、待ってるよ。」
「うん。出来るだけ早く帰る事にするよ。」
「まってるね。」
いつもはこちらからだが、今日はディーちゃんが右のほっぺにキスをして姿を消した。
家に帰るだけでいいだなんて、でもこれで口実が出来たな。
「と、いう事で早急に帰宅する用事が出来ました。なんでしたらこのまま馬車で戻して頂いても構いませんが?」
「それはあの二人に聞きなさいよ。」
「では頑張るようにお伝えください。私は馬車で戻る事にします。」
「水の精霊がそう願ったのなら仕方ないわね。二人には私から言っておくわ。」
「宜しくお願いします。」
よし!これでみんなの顔が見られるぞ。
当初は三日に一度は帰るつもりだったんだ。
それを一日もずらしちゃったんだから、それぐらいのわがままは許されていいはずだ。
後ろでは枯れ木の下を二人が一生懸命に掘っている。
流石元農夫、スコップの使い方が絶妙だ。
なんなら武器を振り回すよりも上手いんじゃないだろうか。
って、こんな事言ったら怒られるな。
「あ!水だ!」
「まじかよ!うわ、本当だ。土が湿って来てる。」
「もうですか?」
「さすがにこれじゃ浅すぎるわ、大丈夫かしら。」
井戸っていえば10mぐらい掘るものだと思っていたけれど、まだ1mぐらいしか掘れていない。
そんなに浅くて大丈夫なんだろうか。
その辺の知識はさすがにないぞ。
「どうします?」
「場所は分かりましたし一度戻りましょう。専門家にお願いするのが一番です。」
「そうね、下手に穴をあけるよりかはいいかもね。」
「でもこれで何とかなりそうだな!」
「あぁ、ちょっと遠いけどこれで畑も安心だ。」
村から一刻以上離れた井戸。
通常利用としては使いにくいけれど、緊急避難と考えれば決して悪くもない。
道はそんなに急じゃないし、荒れてもいない。
時間と安全さえ確保できれば十分使用できるだろう。
安全に関しては冒険者ギルドから護衛を手配してもいいし、重点的にこの辺りの魔物を狩ってもらってもいい。
何なら、井戸の近くに小屋を作ってそこで休んでもらうっていう手もある。
もしかしたらいずれここを拠点に村が出来るかもしれないしね。
何はともあれこれでププト様とフェリス様からの要望には応えられただろう。
依頼料も貰えるし悪い仕事じゃなかった。
「では急ぎ村に戻りましょう。そして私は家に帰ります。」
「本当に帰るの?」
「当たり前じゃないですか。精霊様のお願いを反故にするわけにはいきません。」
「私としては魔石鉱山の方も頑張ってもらいたいんだけど?」
「それはそれ、これはこれです。こっちの仕事を依頼したのは何を隠そうメルクリアさん貴女じゃないですか。」
「確かにそうね。」
「上司直々の依頼を達成したんです。それぐらい許されていいのでは?」
「わかったからそんな風に言わないでよね。言い換えれば私のおかげで家に戻れるんだから、そうでしょ?」
確かにそうだ。
メルクリア女史が呼んでくれなかったら俺は家に帰るタイミングを逃していただろう。
そういう意味では感謝しなければならないのかもしれない。
「ではお互いさまという事で。」
「すぐ馬車に乗れば夕刻には店につくわよね?」
「おそらくは。」
「じゃあ先に戻ってエミリア達に伝えてくるわ。気を付けて帰るのよ。」
「え、ちょっと!」
引き留める間もなくメルクリア女史は黒い壁の向こうへと消えてしまった。
残されたのは俺と三人組だけ。
魔物は居ないと言っていたけれど・・・。
「駆け足で戻りましょうか。」
「それがいいと思います。」
「い、急ごうぜ!」
「あぁ!」
何かあってからでは遅すぎる。
大急ぎで村に戻り、村人たちの歓声を背中で聞きながら俺はサンサトローズ行きの馬車へと飛び乗るのだった。
その後家に戻り久々の再開を満喫するのだが・・・。
上から石が降ってこようが枝が落ちて来ようが、何なら槍や魔法が降ってきても問題なさそうだ。
何かが当たる音に最初は驚いたものの、大丈夫だとわかってからは特に気にすることも無くあっという間に問題の山道を通り過ぎた。
後は南の村まで一直線・・・なんだけど。
俺に一体何をやらせようというのだろうか。
「到着する前に質問があるのですが。」
「一つならいいわよ。」
「何をさせたいんです?」
「言ったでしょ、直接説明してもらうだけよ。」
「質問の答えになっていません、何をですか?」
「口で言うのが難しいから直接って言ったのよ、答えになったかしら?」
なったようななっていないような・・・。
まぁ、この人にこれ以上言ったって明確な答えは期待できそうにない。
大人しく到着を待つとしよう。
「なによ、もうおしまいなの?」
「抵抗は無意味だと悟りましたから。」
「それは良い兆候ね。」
「説明すれば早く店に戻れる。店に戻れば、仕事が出来る。仕事が出来れば、早く休暇を貰える。そうですよね?」
「えぇ、そうよ。可愛い子供たちが待っているんだから。」
子供を人質に取られていた戦国武将なんかはこんな気持ちだったんだろうか。
あぁ、早く顔が見たい。
「ちなみに、今日はリュシアがママと呼んだそうよ。」
「マジですか!」
「はっきりと顔を見て答えたそうだから間違いないんじゃないかしら。」
そんな歴史的瞬間に立ち会えないとは・・・。
何という事だ。
「早く帰らないと名前呼んでもらえないわよ。」
鬼だ。
昔は冗談めかして言っていたが、やはり間違いではなかった。
鬼女が目の前にいる。
これは何としてでも早く家に戻らなければ・・・。
馬車よもっと速く走れ!
とか何とかやっている間に、何事も無く南の村へと到着した。
「イナバ様お疲れさまでした!」
「いえ、こちらこそありがとうございました。さすが装甲車ですね。」
「先ほども攻撃を受けましたが特に問題ありませんでした。あれが噂の変異した魔物ですか。」
「そのようです。今の所は大きな被害が無いのと、追い詰めることが難しい為このような方法をとるしかないんですよね。」
「それは致し方ないかと。」
「では行ってきます。」
先に馬車を下り、ついでメルクリア女史の手を取って下ろしてあげる。
こういう気配りも出来る部下の仕事だ。
「・・・特に変わりないように思えますが。」
「見た目はね。」
ぱっと見大きな変化はない。
違いがあるとすれば村の人の顔に生気が戻っていることぐらいだろうか。
特殊な馬車の登場に村の人が集まってくる。
と、あそこにいるのは・・・。
「あ、イナバ様だ!」
「な、言っただろあの人だって。」
「イナバ様どうしたんですか?」
集まっていた中にはあの三人組も含まれていた。
見た感じ元気そうで何よりだ。
「お久しぶりです、変わりありませんか?」
「はい!お陰様で問題ありません。」
「畑の方も問題ないよな。」
「あぁ、あれから病気は広がってないし・・・問題は水だけどそれもイナバ様が何とかしてくれるって話だしな。」
「え?」
俺が何とかする?
慌ててメルクリア女史の方を見ると満足そうにニヤリと笑っていた。
俺が水を?
どういうことだ?
「メルクリアさん、いったい何をさせたいんですか?」
「貴方にしかできない仕事よ。シュリアン商店のイナバというよりも、精霊師のイナバとしてかしら。はいこれ、ププト様とフェリス様からの要望書、報酬も書いてあるから目を通してね。」
しれっと一枚の手紙を差し出すメルクリア女史。
蜜蝋でしっかりと封をされたその手紙にはププト様の紋章と魔術師ギルドの紋章が隣り合わせで刻印されていた。
大勢の人が見ている手前、急いでそれを開封し中を確認する。
『サンサトローズ領主プロンプトより精霊師イナバの力をお借りしたい。水不足の村に新たな水を用意してくれ。』
『水の精霊の力を借りればまだ余力のある水脈を見つけられるはずだ。後はそこに井戸を掘れば問題ない、頑張りな。』
要約するとこんな感じだ。
『無いのなら掘ってしまえ井戸水を』
ってな感じか?
「井戸を掘る・・・?」
「そうよ。残り僅かな水脈から水を引くぐらいなら新しい水脈から掘ればいいのよ。幸いこの地域は多数の水脈が交差しているみたいだし、少し離れてもいいから当りが見つかれば十分よ。」
「でも、どうやって掘るんですか?」
「それはウチの仕事、商店連合の実力を舐めるんじゃないわよ。井戸ぐらい二日で掘って見せるわ。」
「なるほど、それで私を呼んだんですか。」
「貴方にしかできない仕事だもの。依頼は成功報酬制、報酬は直接ププト様からもらってね。」
出来ればシュリアン商店のイナバとして仕事がしたかったけど、村の状況を考えればそうも言ってられない。
村人と畑、そのどちらも守るためには新しい水が必要なのだ。
「・・・わかりました。じゃあさっさと終わらせて仕事に戻りましょう。」
「そう来なくっちゃ。」
わざわざ装甲車を用意するほどの依頼かどうかはさておき、見つけさえすれば後はやってくれるらしいので、井戸の前まで移動して彼女の名前を呼んだ。
「ディーちゃん、来てくれるかな。」
「・・・シュウちゃん、呼んだ?」
井戸の中から水が噴き上がり、顔の高さ辺りで水球を形成する。
それはみるみるうちに人の形をとり、見慣れたいつもの姿へと変化した。
その様子に周りにいた村の人達が驚きと歓声の声を上げる。
彼らにとっては命を救ってくれた恩人みたいなものだから当然だよな。
「来てくれてありがとう。」
「どういたしまして。ドリちゃんには、伝えておいたよ?」
「そっか、ありがとう。何か言ってた?」
「うーんとね、変なのはいるけど、害はないから様子を見る、だって。」
「そっか。」
森の中に入り込んだ変異ポイズンマウスは今の所問題なしっと。
余程の事が無ければそのまま放置、問題があれば駆除って所だろう。
「今日は、どうしたの?」
「実は新しい水場を探しているんだ。ここの水はもうだめなんだよね?」
「うん、どんどん少なくなってるから、時間の問題かな。」
「ここから離れていてもいいんだ。出来るだけ太い水脈を探してほしいんだけど、できる?」
「お安い御用だよ。」
さすが水の精霊。
目に見えない水脈もディーちゃんにかかればお茶の子さいさいのようだ。
「じゃあ、ついてきて。」
「わかった。」
フヨフヨと宙に浮かびながらディーちゃんが移動を始める。
その後ろを俺とメルクリア女史、それといつの間に用意したのかスコップを肩に担いだ三人組がついていく。
村の真ん中を通過し、そのまま北の方へ。
村を出て街道から離れた道なき道をまっすぐに北上し続ける。
と、その途中で乾いた川に出た。
「ここが例の乾いてしまった川ですか。」
「そのようね、降雨不足と魔石鉱山での出水による地下水の減衰が原因・・・と考えられているわ。」
「そこの所どうなのかな、ディーちゃん。」
「うーん、確かに地下水は無いけど・・・。」
「けど?」
「何か大きなものが、邪魔してる・・・のかな。」
うーん、その邪魔をしている何かが知りたいんだけど・・・。
そこは自分で調べるしかないだろう。
精霊は決して使役しているのではない。
俺とディーちゃんとの関係はあくまでも対等。
何かを願えば対価が必要になる。
俗にいう等価交換の法則にのっとっているわけだ。
まぁ、対価がいつもほっぺにチューとか好きだと囁くとか程度なので等価交換かどうかは本人にしかわからないんだけども。
本人がいいのなら俺は何も言うまい。
「大きな何かねぇ。」
「この川をたどればいいのかな?」
「ううん、たどっても最初が枯れてるだけ。」
「この先が魔石鉱山に繋がっているのは確認済みだから、やっぱり奥まで探索するしかない様ね。」
「この二日の調査では魔物はほとんど見当たらなかったようですし、冒険者じゃなくて工夫を募集した方がいいんじゃないですか?」
「そんなこと言って何かあってからでは遅いのよ。」
「まぁわかりますけどねぇ・・・。」
工夫は戦えないが冒険者は戦える。
特に変異した魔物が出てくるような場所だと余計に冒険者を頼るしかないわけだ。
冒険者は何でも屋。
間違いではないけどさぁ。
「水脈はまだ先?」
「うん。みんな絡み合って、くっついてるから、そうじゃないのは、もう少し先。」
なるほどな。
少ない水脈と絡んでしまったら、結局そこに吸われておわりになるから独立した奴が必要なのか。
勉強になります。
乾いた川を抜けさらに北上する事一刻程。
大きな枯れ木の手前でディーちゃんが止まった。
「ここ。」
「え、ここ?」
「うん。この樹の下に水脈があるよ。」
枯れ木の周りはごつごつとした岩場になっている。
見た感じ水のあるような場所には見えないけど・・・。
精霊様がると言ってるんだからあるんだろう。
「この樹はそのせいで枯れたのかな?」
「うん。水脈が動いて、根っこが腐っちゃったの。」
「という事はそんなに深くなさそうね。村から遠いのがアレだけど、帰りは下り坂だし運搬用の馬車を用意すれば何とかなるでしょ。」
「じゃあ掘るか!」
「おぅ!掘ろうぜ!」
「僕は周りを警戒しておくよ。岩場の陰から襲われたくもないしね。」
これだけ奥に来るとどこから魔物が出てきてもおかしくない。
それに、岩場にはあまり見たくない痕跡も見受けられた。
「何かが爪を研いだあとでしょうか・・・。」
「ウルフ種かボア種のそのどちらかってとこかしら。」
「どちらにしろ警戒する必要があります。」
「今は周りにいないみたい。」
「なら安心かな。ありがとうディーちゃんこれでみんなが助かるよ。」
「えへへ、どういたしまして。」
「それでお礼なんだけど・・・。」
さて、今回は何を言われるかな?
いつもと違ってちょっと面倒な事だったから覚悟しておかないと。
「それじゃあねぇ、ドリちゃんが寂しがってるから、早く戻ってきて。」
「え、それだけ?」
「私の泉にも来てほしいな。赤ちゃんも、待ってるよ。」
「うん。出来るだけ早く帰る事にするよ。」
「まってるね。」
いつもはこちらからだが、今日はディーちゃんが右のほっぺにキスをして姿を消した。
家に帰るだけでいいだなんて、でもこれで口実が出来たな。
「と、いう事で早急に帰宅する用事が出来ました。なんでしたらこのまま馬車で戻して頂いても構いませんが?」
「それはあの二人に聞きなさいよ。」
「では頑張るようにお伝えください。私は馬車で戻る事にします。」
「水の精霊がそう願ったのなら仕方ないわね。二人には私から言っておくわ。」
「宜しくお願いします。」
よし!これでみんなの顔が見られるぞ。
当初は三日に一度は帰るつもりだったんだ。
それを一日もずらしちゃったんだから、それぐらいのわがままは許されていいはずだ。
後ろでは枯れ木の下を二人が一生懸命に掘っている。
流石元農夫、スコップの使い方が絶妙だ。
なんなら武器を振り回すよりも上手いんじゃないだろうか。
って、こんな事言ったら怒られるな。
「あ!水だ!」
「まじかよ!うわ、本当だ。土が湿って来てる。」
「もうですか?」
「さすがにこれじゃ浅すぎるわ、大丈夫かしら。」
井戸っていえば10mぐらい掘るものだと思っていたけれど、まだ1mぐらいしか掘れていない。
そんなに浅くて大丈夫なんだろうか。
その辺の知識はさすがにないぞ。
「どうします?」
「場所は分かりましたし一度戻りましょう。専門家にお願いするのが一番です。」
「そうね、下手に穴をあけるよりかはいいかもね。」
「でもこれで何とかなりそうだな!」
「あぁ、ちょっと遠いけどこれで畑も安心だ。」
村から一刻以上離れた井戸。
通常利用としては使いにくいけれど、緊急避難と考えれば決して悪くもない。
道はそんなに急じゃないし、荒れてもいない。
時間と安全さえ確保できれば十分使用できるだろう。
安全に関しては冒険者ギルドから護衛を手配してもいいし、重点的にこの辺りの魔物を狩ってもらってもいい。
何なら、井戸の近くに小屋を作ってそこで休んでもらうっていう手もある。
もしかしたらいずれここを拠点に村が出来るかもしれないしね。
何はともあれこれでププト様とフェリス様からの要望には応えられただろう。
依頼料も貰えるし悪い仕事じゃなかった。
「では急ぎ村に戻りましょう。そして私は家に帰ります。」
「本当に帰るの?」
「当たり前じゃないですか。精霊様のお願いを反故にするわけにはいきません。」
「私としては魔石鉱山の方も頑張ってもらいたいんだけど?」
「それはそれ、これはこれです。こっちの仕事を依頼したのは何を隠そうメルクリアさん貴女じゃないですか。」
「確かにそうね。」
「上司直々の依頼を達成したんです。それぐらい許されていいのでは?」
「わかったからそんな風に言わないでよね。言い換えれば私のおかげで家に戻れるんだから、そうでしょ?」
確かにそうだ。
メルクリア女史が呼んでくれなかったら俺は家に帰るタイミングを逃していただろう。
そういう意味では感謝しなければならないのかもしれない。
「ではお互いさまという事で。」
「すぐ馬車に乗れば夕刻には店につくわよね?」
「おそらくは。」
「じゃあ先に戻ってエミリア達に伝えてくるわ。気を付けて帰るのよ。」
「え、ちょっと!」
引き留める間もなくメルクリア女史は黒い壁の向こうへと消えてしまった。
残されたのは俺と三人組だけ。
魔物は居ないと言っていたけれど・・・。
「駆け足で戻りましょうか。」
「それがいいと思います。」
「い、急ごうぜ!」
「あぁ!」
何かあってからでは遅すぎる。
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〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
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カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
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侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
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【なろう掲載】
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