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1年前の出来事
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船は予定より早く着いた。
船長にお礼を言って船を降りた。早いから誰もいないだろうと思ったらキリアン・バークレーが迎えにきてくれていた。
「キリアン!」
「おかえり、ララ」
私たちはすぐハグをした。ん?ちょっと逞しくなった?
「なに?」
「ううん、なんでもない」
あまりにも早くてロレンス子爵の迎えの馬車が見当たらなかった。
「商会の事務所で少し休む?」
キリアンの好意に甘えることにした。
「ええ、ありがとう。私、キリアンに聞きたいことがたくさんあるのよ」
「…だいたいわかるよ」
バークレー商会の事務所の応接室に通された。ウッディな調度品と少し硬めのソファ、落ち着いた雰囲気だ。
商談とはこういうところでするのかしら?
「さて…と。どこから話そう?」
キリアン手ずから入れてくれたお茶を飲みながら(とっても美味しい!)私はこう切り出した。
「まずは1年前なにがあったか?」
「聖女お披露目の儀式が神殿であったのは知っている?」
ノストルム王国には代々聖女が存在する。
“ティラーンの丘”と呼ばれる場所に神殿が建っていてそこで神事が行われるのだ。
我が国唯一の宗教、“ティラーン教”だ。
信者は国民の7割弱といったところか、平民や下級の貴族たちに人気で上級貴族にはあまり受け入れられていない。
唯一の宗教ではあるがこれが世に出る前は多神教であった。上位の貴族などは先祖代々自分の家の神を信じているのだろう。
そんなわけで信者が多いにも関わらず国教にはなっていなかった。
「去年の春、『聖女エレニ誕生の儀』と称して盛大なセレモニーが行われたんだ。
でも…そうだな、年明け頃から大々的な宣伝が始まったんだ。なんせみんな名前すら知らなかったろ?
だから『聖女エレニ』と聞いただけでみんな熱くなった。下地としてはばっちりだ。」
神殿には聖女になり得る力を持った子どもが数名集められる。
ところが今回はひとりだった。
幼い頃から神殿で生活し、修行している。世間はそれくらいは周知しているが、なるほど名前までは知らなかったな。
「ここからはまあ、ウチの従業員たちの話になるけど…というのも俺は仕事で海外に行ってたから直接観てないんだ」
でもあまりにも熱を帯びて話していたから印象に残っているとその時の話をしてくれた。
当日神殿はものすごい賑わいであった。
当初神殿の中の礼拝堂で儀式が行われる予定であったが、あまりに人が集まったので急きょ神殿の前庭で行われた。
現在の最高責任者ルーメン枢機卿の挨拶で始まった。
「みなさん、みなさん、今日のよき日にこのようにたくさんお集まりいただきありがとう!
神様もお喜びでしょう!
幼きころより修行し、16歳となられた今日この日、正式な聖女となられましたエレニ様でございます。どうぞ‼︎」
声に促され、ひとりの小柄な少女が神殿より進み出た。
ハリのある真っ白な法衣のドレスと薄いベージュのロングベールに身を包み、手には立派な杖を携えていた。
「聖女エレニ、どうぞみなさんにお言葉を」
一歩前に出てベールを上げ、仰ぐように空を見たその顔はまだあどけなさは残るものの凛とした美しさで聖女の風格は充分であった。
「本日、神より重要なお役目を仰せつかりました。エレニと申します。以後お見知りおきを。
僭越ではございますがわたくしの修行の成果をご覧いただきましょう」
初めて聞く美しい声となにが始まるのだろうと言う期待とで場内は興奮状態であった。
やがて数人の怪我人や病人が運ばれてきた。
聖女エレニはそれぞれに近づき、ある人には手をかざし、またある人には持っていた杖を振ってみせた。すると…
「す、すごい!歩けるぞ!」
「目が…見えるわ!」
「…呼吸が楽になりました」
次々と奇跡をおこした。
「このとおり!聖女エレニには『癒しの力』があるのです。これは初代聖女、大聖女ティラーンに匹敵する力なのです!」
ルーメン枢機卿が誇らしげにこう叫んだ。
「「「おぉ~」」」
みんな感嘆の声をもらした。
聖女エレニは再び観衆の前に立った。
「みなさんに大切なお話があります。
…初めは名も無き教えでありました。
それが初代聖女の出現により名を賜りました。ティラーン教と。
形を得たこの教えはみんなの心に小さな火を灯しました。
そしてその灯火が神様を呼ぶのです。
なんと!神様はこの地に降り立ちます!
大聖女ティラーンの先導で神はこの神殿の奥の院に降臨するのです!」
場内は騒然とした。
「昨晩、わたくしはこのお告げを受けました。ただわたくしの力不足で日にちまではわかりませんでした。
そこでいつお見えになっても大丈夫なよう、奥の院を、神殿を整えなければなりません。
みなさんだけが頼りです。
たくさんのお力添えをお待ちしております。」
聖女エレニは微笑んで
「…みなさん、ここは少し暑うございますね。
涼しくして差し上げますわ」
そう言うと踊るようにして杖を振った。そして天をさし仰いだ。
…すると晴れているというのに霧雨が降ってきた。
「なんということだ!」
「奇跡だ!」
人々は歓声を上げ狂喜した。
霧雨は一瞬で終わり神殿に虹がかかった。
「どう思う?」
キリアンは真顔だ。
「どうって…帝国にいたせいかしら、あまり響かないわ」
「俺もだよ。熱く語る従業員に引いたわっ」
キリアンはため息混じりに
「あれから寄進合戦さ。みんな競うように寄進してる。
許容範囲内ならいいが、身上潰した奴もいる。」
「!」
私はことの重大さに青ざめた。
「そんな!神殿側はそれを良しとしているの?
国は?なんの手もうたないの?」
「遠回しにねだったんだ。神殿サイトは大喜びさ。
国もこの騒ぎを下手に止めたら暴動になりかねない。今は静観している状態だ。」
こんなことになってたなんて!
家族は?友は?大丈夫だろうか?
船長にお礼を言って船を降りた。早いから誰もいないだろうと思ったらキリアン・バークレーが迎えにきてくれていた。
「キリアン!」
「おかえり、ララ」
私たちはすぐハグをした。ん?ちょっと逞しくなった?
「なに?」
「ううん、なんでもない」
あまりにも早くてロレンス子爵の迎えの馬車が見当たらなかった。
「商会の事務所で少し休む?」
キリアンの好意に甘えることにした。
「ええ、ありがとう。私、キリアンに聞きたいことがたくさんあるのよ」
「…だいたいわかるよ」
バークレー商会の事務所の応接室に通された。ウッディな調度品と少し硬めのソファ、落ち着いた雰囲気だ。
商談とはこういうところでするのかしら?
「さて…と。どこから話そう?」
キリアン手ずから入れてくれたお茶を飲みながら(とっても美味しい!)私はこう切り出した。
「まずは1年前なにがあったか?」
「聖女お披露目の儀式が神殿であったのは知っている?」
ノストルム王国には代々聖女が存在する。
“ティラーンの丘”と呼ばれる場所に神殿が建っていてそこで神事が行われるのだ。
我が国唯一の宗教、“ティラーン教”だ。
信者は国民の7割弱といったところか、平民や下級の貴族たちに人気で上級貴族にはあまり受け入れられていない。
唯一の宗教ではあるがこれが世に出る前は多神教であった。上位の貴族などは先祖代々自分の家の神を信じているのだろう。
そんなわけで信者が多いにも関わらず国教にはなっていなかった。
「去年の春、『聖女エレニ誕生の儀』と称して盛大なセレモニーが行われたんだ。
でも…そうだな、年明け頃から大々的な宣伝が始まったんだ。なんせみんな名前すら知らなかったろ?
だから『聖女エレニ』と聞いただけでみんな熱くなった。下地としてはばっちりだ。」
神殿には聖女になり得る力を持った子どもが数名集められる。
ところが今回はひとりだった。
幼い頃から神殿で生活し、修行している。世間はそれくらいは周知しているが、なるほど名前までは知らなかったな。
「ここからはまあ、ウチの従業員たちの話になるけど…というのも俺は仕事で海外に行ってたから直接観てないんだ」
でもあまりにも熱を帯びて話していたから印象に残っているとその時の話をしてくれた。
当日神殿はものすごい賑わいであった。
当初神殿の中の礼拝堂で儀式が行われる予定であったが、あまりに人が集まったので急きょ神殿の前庭で行われた。
現在の最高責任者ルーメン枢機卿の挨拶で始まった。
「みなさん、みなさん、今日のよき日にこのようにたくさんお集まりいただきありがとう!
神様もお喜びでしょう!
幼きころより修行し、16歳となられた今日この日、正式な聖女となられましたエレニ様でございます。どうぞ‼︎」
声に促され、ひとりの小柄な少女が神殿より進み出た。
ハリのある真っ白な法衣のドレスと薄いベージュのロングベールに身を包み、手には立派な杖を携えていた。
「聖女エレニ、どうぞみなさんにお言葉を」
一歩前に出てベールを上げ、仰ぐように空を見たその顔はまだあどけなさは残るものの凛とした美しさで聖女の風格は充分であった。
「本日、神より重要なお役目を仰せつかりました。エレニと申します。以後お見知りおきを。
僭越ではございますがわたくしの修行の成果をご覧いただきましょう」
初めて聞く美しい声となにが始まるのだろうと言う期待とで場内は興奮状態であった。
やがて数人の怪我人や病人が運ばれてきた。
聖女エレニはそれぞれに近づき、ある人には手をかざし、またある人には持っていた杖を振ってみせた。すると…
「す、すごい!歩けるぞ!」
「目が…見えるわ!」
「…呼吸が楽になりました」
次々と奇跡をおこした。
「このとおり!聖女エレニには『癒しの力』があるのです。これは初代聖女、大聖女ティラーンに匹敵する力なのです!」
ルーメン枢機卿が誇らしげにこう叫んだ。
「「「おぉ~」」」
みんな感嘆の声をもらした。
聖女エレニは再び観衆の前に立った。
「みなさんに大切なお話があります。
…初めは名も無き教えでありました。
それが初代聖女の出現により名を賜りました。ティラーン教と。
形を得たこの教えはみんなの心に小さな火を灯しました。
そしてその灯火が神様を呼ぶのです。
なんと!神様はこの地に降り立ちます!
大聖女ティラーンの先導で神はこの神殿の奥の院に降臨するのです!」
場内は騒然とした。
「昨晩、わたくしはこのお告げを受けました。ただわたくしの力不足で日にちまではわかりませんでした。
そこでいつお見えになっても大丈夫なよう、奥の院を、神殿を整えなければなりません。
みなさんだけが頼りです。
たくさんのお力添えをお待ちしております。」
聖女エレニは微笑んで
「…みなさん、ここは少し暑うございますね。
涼しくして差し上げますわ」
そう言うと踊るようにして杖を振った。そして天をさし仰いだ。
…すると晴れているというのに霧雨が降ってきた。
「なんということだ!」
「奇跡だ!」
人々は歓声を上げ狂喜した。
霧雨は一瞬で終わり神殿に虹がかかった。
「どう思う?」
キリアンは真顔だ。
「どうって…帝国にいたせいかしら、あまり響かないわ」
「俺もだよ。熱く語る従業員に引いたわっ」
キリアンはため息混じりに
「あれから寄進合戦さ。みんな競うように寄進してる。
許容範囲内ならいいが、身上潰した奴もいる。」
「!」
私はことの重大さに青ざめた。
「そんな!神殿側はそれを良しとしているの?
国は?なんの手もうたないの?」
「遠回しにねだったんだ。神殿サイトは大喜びさ。
国もこの騒ぎを下手に止めたら暴動になりかねない。今は静観している状態だ。」
こんなことになってたなんて!
家族は?友は?大丈夫だろうか?
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