蜜柑色の希望

蠍原 蠍

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蜜柑色の彼と色褪せた世界

2 ※修正済み

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「え、亮介の友達?」
「名前なんていうの?」
 
 少し戸惑った様子で僕を見つめる彼等の視線に居心地悪く、身を捩った。
 彼等は僕を上から下まで品定めをするように目線を上下させている事が眉を寄せるが、聞かれておいて答えないのも如何なものかと思い至り、僕は渋々口を開く。
 
「…黒瀬だけど」
「見かけた事ないけど、中学この辺?」
「…違うよ」
「いつ、仲良くなったんだ?」
「…………」
「まだ、仲良くなってねぇんだ」
「なんだそれ?」
「これから仲良くなるつもり」
「芦家の片想いみたいだな」
「どういう知り合いなの?」
「んー、秘密かな」
「えっ、どんな関係なんだよ本当に?」
 
 今まで僕の事を何も気にしなかった人間達が、芦家が僕の話題を出しただけで話しかけてくる事が、不愉快を増強させ僕は口を噤む。
 それに変わるように、この輪の中心にいる芦家が代わりに答え、興味津々の様子で更に話は進んでいく。
 彼らは僕と芦家の繋がりが気になるらしく、探っているようだが芦家は一応僕の過去の事を言うつもりはないのか、はぐらかしていたがその言い方では人の好奇心を煽るだろうと、僕は目を細め、フンと鼻を小さく鳴らした。
 
「あーっ!わかった!黒瀬くん、ずっと黙ってるから芦家が友達になってあげようとしてるんでしょ?」
 
 その時、肩で切り揃えられた髪は艶やかに潤ませた、手入れされているのが良くわかる黒髪を持った細身の女子生徒が、閃いたと叫んだ声に僕は顰めた眉を更に濃くする。
 全く、勘違いも甚だしい。
 
「…何を言って」
「だって黒瀬くん、すっごい真面目そうだし…なんか凄い私立行きそうな感じそうで、なんて言うか芦家とタイプ全然ちがうじゃんっ、だから芦家が気にかけてあげてんのかなって!」
「あーっ、きっとそうだよー白石さんっ……流石の洞察力…」
「……まあでも確かに、タイプはちょっと違う感じすんな、真面目そう」
 
「…そうなの?亮介」
「全然違ぇんだけどな」
 
 クイーンビーと思わしきその女子生徒、白石が発言した直後に彼女を全肯定するように同調する男とそれに続く。
 その後に、一人だけ芦家を亮介と呼ぶ男が彼に問いかけると、芦家はしっかりとそれを否定したが、白石の弁舌は止まる事なはなかった。
 
「芦家、優しいじゃん?誰にでも分け隔てなく接してあげるしさ…、いつも中学でも陰キャに優しくしてあげてたじゃん」
 
 その言葉に僕は前に聞いていたスクールカーストの話を思い返した。
 スクールカーストにはその言葉通り階級があり、上位階級、中位階級、下位階級と別れていて、芦家はその一番上のジョックであり、その彼を取り囲んでいるこの場にいる者は上位階級なのだろう。
 しかし、僕は違うのだと言う事を白石は言っているのだと、察した。
 ナード、それは昔教えてもらったスクールカーストの最下位に存在する人間。
 僕にこの話を教えてくれたクラスメイト、ウィリアムは昔自分はそこの位置に属していたと彼は言った。
 ここまでは登り詰めると何も言われないけど、男のくせにピアノなんて弾いてるとそう言われることも多くて大変だったんだよ、なんて遠い目をしていた彼の言葉を思い出す。
 そして今言われた言葉を、鑑みるにこのスクールカーストに位置付けられた僕の階級はは下位下級の位置なのだろうと理解する。
 そして理解したと同時に、腹に溜まった薄暗い気持ちが僕の声帯を震わせる事になる。
 
「…くだらない」
「…え?」
「ん?」
 
「くだらない、と言ったんだよ」
「っ、え、何、いきなり?」
「うおぃっ、白石さんにいきなり何だよ…っ!?」
 
 僕が白けた目を向けると、白石は目を丸くして赤いリップが施された唇を震わせて目を丸する。それと同時に白石に鼻の下を伸ばした男が、僕に対して威嚇するように叫んだ為、僕は面倒になって椅子から立ち上がる。
 何てレベルの低い話に巻き込まれたのだと、うんざりした。
 
「この際だから言うけれど、僕はそこの彼、芦家に話しかけられるが不愉快なんだ」
「え、何?いきなり、最低なんだけど…」
「は…?」

 苛立ちに任せて、この数日間で溜まった鬱憤を勢いに任せて直球に伝えれば、芦家以外の人間達は僕の言葉に目を丸くするのを冷ややかに見つめる。聞いていた話以上にレベルの低いやり取りに僕はそもそも感情を抑える事が上手くはないせいで、溜まった鬱憤を吐き出し、これ以上その場に留まりたくなくて去ろうとした時、女子特有の高い声が張り上げられた。
 
「待ってよ!そんなの、芦家に悪いと思わない訳?!」
「思わない、僕は彼があまり得意じゃない」
「…ひど…っ」
「おいっ!白石さんを傷つけるなっ」
「きっついな…、何だよ本当…」

「一旦、ストップ」

 殺伐とした中に響く彼の静かな、けれど芯が通った声に僕は振り返り、その声の蜜柑色の髪色をした椅子に座っている彼を一瞥をくれると、彼は困ったように笑った。
 
「えーと、こういうのやめようぜ…?…まず、黒瀬は悪くねぇからみんなでやめてな、俺が最初に嫌な思いさせちまったんだ、だから俺がわりぃんだ」
「…………」
「あ、そうなのか…?」
「そういやちょっと前なんかあったな、その時か」
 
「…っ、それにしたって今の言い方は酷いじゃん!私、芦家の事凄い知ってるけど、絶対人に酷いことなんて言わないのにそこまで怒るなんて、黒瀬くんが変だよ…っ」
「…白石だっけ?俺の事、庇ってくれてありがとう、でも、本当に俺が悪いこと言ったからさ」
「じゃあっ、何て言って黒瀬くん怒らせたのか教えてよ…っ!」
「…内容はいいだろ、これは俺の黒瀬の話なんだし」
「無理っ!芦家が酷いことなんて絶対言わないのに納得できないっ!本当に酷いこと言ったなら教えてよ!!」
 
 僕は深く少しずつ吐いて、目を閉じた。何故こんな面倒な事になったのか、何が何だか分からなかったしカースト最上位グループと僕が揉めているのを見て、外野のクラスメイト達もヒソヒソと喋りながら此方の窺っているのが分かった。
 僕はもうどっちが良いとかどっちが悪いとか、どうでもよくてこの低レベルな会話を終わらせたくて、真実を口にする事にした。
 
「『指、そんなに握りしめない方がいいぞ、折角、綺麗な指なのに』」
 
 その言葉を口にした時の、その場から見えた芦家以外の一体何を言っているんだと、ポカンと間の抜けた表情を晒す彼らに僕は続ける。此処は学校、別に来たくもなくて来た場所なのだから勉強だけしておけば良い場所な筈だ。だからもう、それを言ってしまえば反対に僕に関わってこないだろうと思って、口を開く。
 
「彼は僕にそう言って、それで僕が怒ったんだよ」
「…は?何それ、そんなの怒らせる事じゃないじゃん…っ!」
「えぇ?わけわかんねぇ…」
「何なんだ…?コイツ…?」
 
 僕がそう伝えた瞬間、芦家以外の人間の表情が人それぞれ、深くか浅くかはあるものの嫌悪感が滲む表情を晒したのを認めて、僕はその場を後にしようとした。
 
「黒瀬っ」
「…っ」
 
「芦家!追いかけなくて良いってっ」
「…亮介、今はやめておけよ」
 
 芦家の声を無視して僕は廊下に出る。
 全く、朝から彼のせいで最近は連続で問題が起こって、うんざりさせられる。
 僕は胸ポケットにしまってあったスマホの時間を一瞥して、ホームルームの時間のチャイムが鳴るまで頭を冷やそうと人気のない場所がないか、探しに散策しようと足を早めたが丁度いい場所は見つける事が出来ず、僕は教室の近くを当てもなくただフラフラと、海を漂う海月のように意味もなく彷徨い、チャイムが鳴ってしまった為、教室へと帰るしか無く僕は憂鬱さを隠さずに、足を引きずるようにすごすごと教室に向かった。
 
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