人間嫌いの狐王に、契約妻として嫁いだら溺愛が止まりません

由香

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第10話 番になった朝

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 目を覚ました瞬間、違和感はなかった。

 ――それが、違和感だった。

 紗夜は、しばらく天井を見つめてから、ゆっくりと視線を下ろす。

 そこにあったのは、見慣れたはずの狐の尾。
 昨夜と同じように、腰から脚までをやさしく包み込んでいる。

「……夢じゃ、ない」

 呟いた声は、少し掠れていた。

「夢であるものか」

 すぐそばから、低い声が返ってくる。

 玄耀は目を閉じたまま、しかし確かに起きていた。
 腕は、しっかりと紗夜の背中に回されたままだ。

「おはよう、番」

 その一言で、心臓が跳ねる。

「お、おはようございます……玄耀」

 名で呼ぶと、満足そうに喉が鳴った。

「よろしい」

 狐王は、そう言って頬に軽く顔を埋める。
 擦り寄せる仕草は、完全に狐だった。

「……近いです」

「近くなければ意味がない」

 当然のように返され、言葉を失う。

 ――昨日まで、“形式上の妻”だったはずなのに。

 今は、疑いようもなく“番”として扱われている。

「……皆さん、もう起きてますよね」

「起きているだろうな」

「……このまま出たら」

「問題ない」

 即答だった。

「むしろ、見せる」

「み、見せる?」

「俺の番だと」

 さらりと言われて、紗夜は顔が熱くなる。

 玄耀は、紗夜の反応を楽しむように目を細めた。

「嫌か?」

「……嫌、では……」

 言い切れないのを察したのか、玄耀は少しだけ声を落とす。

「無理はさせない」

 その言葉に、胸がじんわりと温かくなった。

「……でも」

 紗夜は、そっと玄耀の衣を掴む。

「隠すのは、嫌です」

 その瞬間。

 玄耀の瞳が、はっきりと光を増した。

「……言ったな」

 低く、楽しげな声。

「なら、徹底的に番扱いするが?」

「……覚悟は、します」

 そう答えると、玄耀は満足そうに笑った。

 朝餉の場は、いつもより静まり返っていた。

 理由は、明白。

 狐王が、番を隣に座らせている。

 距離は近い。
 尾は自然に絡み、離れる気配がない。

「……番さま」

 恐る恐る声をかけてきた家臣に、玄耀は機嫌よく頷いた。

「紹介しよう」

 紗夜の肩に、堂々と手を置く。

「俺の番だ」

 空気が、一瞬で変わった。

 驚き、安堵、納得。
 さまざまな感情が、あやかしたちの間を走る。

「……おめでとうございます」

 最初に膝をついたのは、年長の狐だった。

 それを皮切りに、次々と祝福の言葉が重なる。

 紗夜は、胸がいっぱいになって、深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

 その仕草すら、玄耀は見逃さない。

「……可愛いな」

 耳元で囁かれ、思わず肩が跳ねる。

「玄耀……人前です」

「番に、可愛いと言って何が悪い」

 まったく悪びれない。

 食後、城内を歩けば、玄耀は常に隣にいた。

 一歩も離れない。
 手も、自然に繋がれる。

「……離れませんね」

「当然だ」

 即答。

「番が視界に入らない状況など、耐えられん」

「……重症ですね」

 冗談めかして言うと、玄耀は少し考えるような顔をした。

「否定はしない」

 そして、真剣な声で続ける。

「失う可能性があると知った」

 昨夜のことを、思い出す。

「……二度と、あんな思いはしたくない」

 紗夜は、ぎゅっと指を握り返した。

「私もです」

 その答えに、玄耀は満足そうに目を細める。

 夜。

 再び、同じ寝所。

 だが、昨夜とは違う。

 迷いも、不安も、ない。

「……番」

 呼ばれるたび、胸が甘く締めつけられる。

「……はい」

 玄耀は、紗夜の額にそっと額を重ねた。

「今日は、ここまでだ」

「……え?」

「焦らす」

 低く笑う。

「覚悟を、育てる」

 尾が、ゆっくりと絡み直される。

「……毎日、少しずつ」

 紗夜は、小さく息を吐いた。

「……意地悪です」

「番には、優しい」

 そう言いながら、しっかりと抱き寄せる。

「……一生、離さない」

 その言葉は、もう脅しではなかった。

 確かな約束だった。

 紗夜は、胸に顔を埋める。

「……お願いします」

 その一言で、玄耀の腕が、さらに強くなる。

 ――契約は、終わった。

 ここからは、番としての時間。

 甘く、静かで、逃げ場のない日々が、始まる。




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