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第十二話 魔王城は今日もぴかぴかです
しおりを挟む結婚式当日。
魔王城は、かつてないほど磨き上げられていた。
「柱よし。赤絨毯よし。玉座、反射率完璧」
私は腕を組んで頷く。
「王妃様、本日は主役でございます」
「床も主役です」
侍女たちが困った顔で微笑む。
今日は魔界と人類、合同の式典。
停戦を象徴する、歴史的な一日。
その中心にいるのが。
元清掃係。
人生、何が起きるか分からない。
◇
大広間。
魔族と人間が並んで座っている。
最初は距離があった椅子も、今日は少し近い。
祭壇の前に立つのは。
黒の正装を纏った魔王。
角はそのまま。
威圧感もそのまま。
でも、どこか落ち着かない様子。
「緊張してます?」
「していない」
即答。
指がわずかに震えている。
「手、冷たいですよ」
「……うるさい」
小さく息を吐く姿に、胸が温かくなる。
◇
式が始まる。
誓約の文が読み上げられる。
「魔王は誓う。争いを不要とし、対話を選ぶことを」
ざわめきはない。
皆、真剣に聞いている。
「王妃は誓う。両界を繋ぐ架け橋となることを」
私の番。
深呼吸。
「私は誓います」
大広間に声が響く。
「戦争より掃除を優先することを」
一瞬、沈黙。
そして、笑いが広がる。
「汚れは放置すると悪化します」
続ける。
「憎しみも同じです。だから私は、磨きます」
心を。
関係を。
未来を。
静かな拍手が起こる。
勇者が、最前列で頷いている。
◇
指輪交換。
魔王の手が、私の指に触れる。
「逃げるなよ」
「逃げません」
「命令ではない」
「分かってます」
赤い宝石の指輪がはめられる。
次は私。
黒い金属の指輪を、彼の指へ。
「重くないですか」
「お前より軽い」
「失礼ですね」
小さな笑い。
◇
「誓いの口づけを」
静寂。
あの白い空間とは違う。
今度は、皆が見ている。
魔王が一瞬だけ迷う。
「……触れていいか」
「毎回確認しなくていいです」
少し背伸びする。
唇が重なる。
今度は恐る恐るではない。
温かく、確かに。
拍手が爆発する。
魔族も人間も、同じ音を立てている。
◇
式後。
玉座の間。
夜。
喧騒が遠のき、静けさが戻る。
「王妃」
「まだ慣れません」
「慣れろ」
隣に座る。
壊れたはずの床は、完璧に修復済み。
「結局、あなたは努力型でしたね」
「当然だ」
「理由、増えましたか」
魔王は少し考え、言う。
「今日だけで百は増えた」
「具体的に」
「お前が笑った回数」
胸が跳ねる。
「ずるいですね」
「何がだ」
「そういうの」
魔王は私の手を取る。
強くもなく、弱くもなく。
「ミオ」
「はい」
「世界はまだ不安定だ」
「知ってます」
「だが」
赤い瞳が柔らぐ。
「俺の隣は、安定している」
ふっと笑う。
「安全保障ですね」
「国家規模だ」
肩にもたれる。
もう、帰る場所を探さなくていい。
ここが、私の世界。
「明日も会議ですよ」
「分かっている」
「その前に」
立ち上がる。
棚から雑巾を取り出す。
「何をする」
「仕上げ磨きです」
魔王が呆れた顔をする。
「新婚初夜だぞ」
「床が光ってからです」
数秒の沈黙。
やがて。
魔王が立ち上がる。
「貸せ」
「え」
「共にやる」
王が雑巾を握る。
最強のラスボスが、床を磨く。
それが今の世界の象徴。
光と闇が、並んでしゃがんでいる。
「……平和ですね」
「まだ途中だ」
「でも始まりました」
「ああ」
床に映る二人の影。
ぴかぴかに磨かれた未来。
魔王城の清掃係は。
今日も床を磨く。
隣には、努力型の魔王。
世界平和は、足元から。
そして。
恋もまた、足元から。
玉座の間は、今日もぴかぴかです。
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