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第1話 悪役令嬢、転生しましたが兄が多すぎます
しおりを挟む――目を覚ました瞬間、私はすべてを思い出した。
ここは乙女ゲーム『聖薔薇の誓い』の世界。
そして私は、ヒロインをいじめ、嫉妬に狂い、最終的に断罪される――悪役令嬢セレフィーナ・ルヴェリエである。
(終わった……)
内心で頭を抱えた。
よりにもよって、断罪・婚約破棄・追放フルコンボが約束されたキャラに転生するなんて。
けれど、すぐに気を取り直す。
(大丈夫。悪役ムーブをしなければいいだけ)
ヒロインに絡まない。
王太子に近づかない。
目立たず、静かに、空気のように生きる。
――そう、完璧な破滅回避計画だった。
「セレフィーナ、起きたか」
扉が開き、低く落ち着いた声が響く。
現れたのは、銀縁眼鏡をかけた長身の青年。
この国でも指折りの宰相補佐官であり、私の長兄・アレクシスだ。
「体調はどうだ? 顔色が悪い。医師を呼ぼう」
「い、いえ、大丈夫です!」
慌てて答えると、兄は眉をひそめた。
「無理をするな。君は昔から、具合が悪くても我慢する癖がある」
(いや、それ原作セレフィーナの設定では……?)
突っ込みたい気持ちを必死に抑える。
すると今度は、勢いよく扉が開いた。
「セレ! 本当に無事か!?」
飛び込んできたのは、赤茶の髪を揺らす快活な青年。
騎士団副団長の次兄・レオンハルトだ。
「訓練を抜けてきた。怒られたら兄上が責任を取ってくれ」
「レオン、勝手なことをするな」
「妹の方が大事だろ?」
(え、騎士団ってそんな簡単に抜けていいの?)
さらに――
「兄上たち、声が大きすぎます」
最後に静かに入ってきたのは、黒髪で穏やかな笑みを浮かべる青年。
魔導研究院所属の天才、三兄・ユリウス。
「セレが驚いていますよ」
「お前が一番過保護だろうが」
「自覚はあります」
(……三人いる)
そう。
私には、原作でも有名な過保護すぎる三人の兄がいる。
だが、原作知識よりも――
(こんなに、溺愛されてたっけ……?)
ゲーム内の兄たちは確かに妹想いだったが、ここまでではなかったはずだ。
「セレフィーナ」
長兄が私の前に膝をつき、真剣な眼差しで言う。
「今日は学園は休め。念のためだ」
「えっ、でも出席日数が……」
「問題ない。私が話を通す」
「兄上、それは横暴では」
「妹の健康が最優先だ」
(誰も止めない……)
私は内心でため息をついた。
(この人たち、破滅回避以前に自由にさせてくれない……)
だが、彼らの表情はどこまでも真剣で、優しい。
「セレ」
次兄が頭を撫でてくる。
「何か困ったことがあったら、すぐ言え。誰かに嫌なことをされたら、すぐ俺に」
「相手が王族でもか?」
「もちろんだ」
(怖い怖い怖い)
三兄は微笑みながら、さらっと追い打ちをかける。
「学園内の交友関係は、僕が把握していますから」
「把握……?」
「問題があれば、事前に対処します」
(監視って言わなかった今)
私は悟った。
――破滅フラグより、兄たちの過保護の方が重い。
(でも……)
ふと、胸が温かくなる。
原作では孤独だった悪役令嬢。
だがこの世界の私は、確かに守られている。
「……ありがとうございます、兄さまたち」
そう言うと、三人は一瞬きょとんとし――
「可愛い」
「可愛いな」
「可愛いですね」
即座に一致した。
(あ、ダメだ)
私は思った。
――この家で、恋なんてできる気がしない。
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