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第2話 破滅フラグより兄の監視が重い
しおりを挟む学園に登校するだけで、ここまで大事になるとは思わなかった。
「……本当に、ここまで必要ですか?」
馬車の中、私は向かいに座る長兄アレクシスを見つめながら尋ねた。
「当然だ」
「当然ですね」
「当然だな」
三方向から即答が返ってくる。
今日は久しぶりの学園登校日。
破滅回避のため、目立たず静かに過ごす――はずだった。
しかし馬車の前後には護衛騎士。
同乗者は長兄(仕事を半休)、次兄(訓練をサボり)、三兄(研究院に遅刻確定)。
(これ、私が護衛されてるっていうか……)
国家機密の移送では?
「セレフィーナ」
「はい……」
長兄は書類から目を離さず、淡々と言う。
「最近、学園内で不審な動きはないか」
「ありません」
「誰かが君に近づいたり」
「ありません」
「視線を感じたり」
「ありません」
嘘ではない。
なぜなら――近づく前に排除されているからだ。
学園に到着すると、噂が一気に広がった。
「見た? あの馬車……」
「三兄全員揃ってる……」
「どれだけ溺愛されてるの……」
(お願いだから放っておいて……)
私は兄たちに囲まれたまま校舎へ入る。
「では、昼休みに迎えに来る」
「午後の授業後もな」
「放課後の予定は白紙ですよね?」
「白紙です……」
兄たちは満足そうに頷き、ようやく去っていった。
(やっと一人……)
ほっと息をついた、その瞬間。
「セレフィーナ様!」
明るい声がかかる。
振り返ると、金色の髪を揺らす少女が立っていた。
間違いない――原作ヒロインだ。
(来た……!)
胸がどくりと鳴る。
彼女こそ、私の破滅の引き金。
関わらなければ、未来は安全。
「ごきげんよう」
私は完璧な令嬢スマイルで一礼し、距離を取ろうとした。
――が。
「あの、よろしければ一緒に授業へ行きませんか?」
(誘われた!?)
内心で悲鳴を上げる。
「い、いえ、私は……」
断ろうとした、その瞬間。
「失礼」
すっと影が差した。
気づけば、長身の騎士が私とヒロインの間に立っていた。
「彼女は急いでいます」
冷静で低い声。
(……誰?)
彼は騎士団の制服を纏い、鋭い眼差しを向けている。
「兄の……友人です」
次兄レオンハルトの声が、どこからともなく聞こえた。
「任せた」
「了解」
(任せたって何!?)
ヒロインは困惑しつつも引き下がり、私はそのまま騎士に連れられて移動することになった。
「……あの」
「怪我は?」
「してません」
「体調は?」
「問題ありません」
質問が兄たちと同じ。
(まさか……)
「あなたは?」
「王国騎士団所属。カイン・ヴァルグリス」
それが、彼との初対面だった。
無口で、冷静で、でも――
歩幅を私に合わせ、混雑を自然に避けてくれる。
(……この人だけ、普通……?)
教室前で立ち止まる。
「ここまででいい」
「ありがとうございました」
彼は一瞬だけ視線を落とし、静かに言った。
「無理はするな」
その一言に、胸がわずかに揺れた。
(ダメダメダメ。恋=破滅)
私は自分に言い聞かせ、席につく。
だが授業中、気づけば視線を感じていた。
廊下側の窓。
そこに立つ、騎士の影。
(見張ってる……)
昼休み。
「セレ!」
次兄が当然のように現れ、隣に座る。
「さっきの子、誰だ?」
「ただのクラスメイトです」
「近づくな」
(即断)
三兄も紅茶を差し出しながら微笑む。
「人付き合いは慎重に」
「……はい」
私は理解した。
破滅フラグは、もう関係ない。
――この学園で一番危険なのは、兄たちの過保護だ。
けれど。
昼休みの終わり際、遠くで目が合った。
騎士カイン。
彼は何も言わず、ただ小さく頷いた。
(……安心する)
それが、すべての始まりだった。
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