悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません

由香

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第4話 令嬢、初めての外出(護衛付き)

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 外出の許可が下りるまでに、三日かかった。

 たった三日。
 だがその間、兄たちは真剣に会議を重ね、護衛計画を練り、最終的に一枚の紙を私に差し出した。

「……これは何ですか?」

 恐る恐る尋ねると、長兄アレクシスは眼鏡を押し上げ、淡々と答える。

「外出時の規定書だ」

「規定書……」

「基本事項だ。目を通しておけ」

 紙には、びっしりと文字が並んでいた。

 一、移動は必ず馬車を使用すること
 一、徒歩移動は護衛三名以上同行
 一、声をかけられた場合は即時報告
 一、男性との会話は五分以内
 一、笑顔は禁止(誤解を招くため)

「最後の項目、必要ですか!?」

 思わず声が出た。

 三兄ユリウスはにこやかに言う。

「とても重要です」

「どこがですか」

「可愛いので」

(理由になってない)

 今回の外出理由は、学園の課題で必要な書籍を買うため。
 本屋へ行くだけだ。

 ――のに。

「では、出発だ」

 屋敷の門前には、馬車二台。
 騎士が五名。

 その中央に立つのは、カインだった。

「……護衛、多くないですか」

「想定より少ない」

「少ないんですか」

 馬車の中、私は深く息をついた。

(普通の令嬢は、こんな外出しない……)

 街に到着すると、人々の視線が集まった。

「誰だ……?」

「貴族だな」

「護衛がすごい……」

(目立たない生活、どこ)

 本屋へ向かう途中、道が混み合う。

 カインは自然に私の前へ出て、人の流れを遮った。

「こちらへ」

 短い言葉と、差し出される手。

 一瞬ためらってから、その手を取る。

 大きく、温かい。

 人混みの中でも、彼の存在は揺るがなかった。

(……安心する)

 目的の本屋に到着。

「三十分で戻る」

「はい」

 店内では、護衛が入口を固め、カインだけが同行した。

「一人で探せます」

「視界に入る位置にいる」

(それは一人じゃない)

 棚の前で本を選んでいると、背後から声がした。

「お嬢さん、その本、難しいですよ」

 振り返ると、見知らぬ青年が立っていた。

(しまった……)

 反射的に距離を取ろうとした、その瞬間。

「下がれ」

 低い声。

 カインが一歩前に出る。

「彼女に話しかける許可はない」

「な、何だよ……」

 青年は怯え、去っていった。

「……すみません」

「謝る必要はない」

 彼は淡々としていたが、視線は鋭かった。

 本を選び終え、店を出る。

「怖くありませんでしたか」

「少し……でも」

 私は正直に言った。

「守られていると、思いました」

 カインは一瞬だけ目を見開き、それから静かに頷いた。

 帰り道。

 馬車の中で、兄たちが待ち構えていた。

「異常は?」

「男性に声をかけられました」

「誰だ」

「排除は?」

「排除はしていません」

「次はする」

(次はって何)

 私は思わず言った。

「……あの、少しだけなら、自分で対応できます」

「必要ない」

「危険だ」

「我々がいる」

 三人の声が重なる。

 私は口を閉じた。

(この人たち、本気だ)

 だが、心の奥で思う。

(嫌じゃない……)

 外出は自由ではない。
 けれど、恐怖もない。

 それは――

 夜、部屋に戻ったあと、ふと思い出す。

 人混みで、手を引いてくれた感触。

(ダメだ。考えちゃ)

 恋は破滅。
 私は悪役令嬢。

 ――でも。

 初めての外出は、思っていたより、少しだけ楽しかった。




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