悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません

由香

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第5話 恋をすると破滅するらしいです

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 ――恋をすると、破滅する。

 それが、私の中で絶対のルールだった。

 なぜなら私は、乙女ゲームの悪役令嬢。
 ヒロインに嫉妬し、王太子に執着し、断罪される存在。

(だから、恋なんて論外)

 私は毎晩、自分に言い聞かせていた。

 それなのに。

 最近、ふとした瞬間に思い出すのは、人混みで差し出された手。
 静かで低い声。
 「無理はするな」という言葉。

(……違う違う)

 首を振って思考を振り払う。

 翌日、学園。

 私は意識的にカインを避けていた。

 廊下を歩くときは人の多い時間帯を選び、中庭には近づかず、視線を感じても振り返らない。

「セレフィーナ様?」

 それでも、声はかかる。

 振り返ると、原作ヒロイン――リリアが立っていた。

「最近、お元気なさそうですね」

「そんなことは……」

 彼女は心配そうに微笑む。

(この子、本当にいい子)

 原作では私にいじめられる存在だったはずなのに、現実の彼女は、ただ優しいだけだった。

「何か悩みがあったら、話してください」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です」

 そう答えた瞬間。

「その必要はない」

 聞き慣れた低い声。

(……来た)

 いつの間にか、カインが立っていた。

「彼女は問題ない」

「そ、そうですか……」

 リリアは少し戸惑いながらも去っていく。

「……あの」

「避けているな」

 即座に指摘された。

(バレてる……)

「理由を聞いても?」

「……聞かないでください」

 彼はしばらく私を見つめ、それ以上追及しなかった。

「分かった」

 その距離感が、余計に胸をざわつかせる。

 放課後、屋敷。

 兄たちは、すでに状況を把握していた。

「最近、カインを避けているな」

「気のせいです」

「違う」

「違いません」

 三兄ユリウスが静かに言う。

「セレ、もしかして」

「何ですか」

「恋ですか?」

「違います!!」

 即答だった。

 沈黙。

 次兄レオンハルトが腕を組む。

「……カインか」

「違います!!」

「否定が早い」

(墓穴)

 長兄は冷静に告げた。

「恋愛は禁止していない」

「……え?」

「だが、相手は慎重に選べ」

「条件は?」

「命の危険がないこと」

「曖昧すぎませんか」

 三兄が微笑む。

「具体的には、僕たちが認める相手」

(無理)

 その夜、私は一人で考え込んだ。

(恋をしたら、どうなる?)

 破滅?
 断罪?
 追放?

 でも、原作と違うことは山ほどある。

 兄たちの溺愛。
 ヒロインの無害さ。
 そして――カイン。

 翌日、学園の裏庭。

 人気のない場所を選んだはずだった。

「こんなところにいたのか」

 やはり、彼は現れる。

「……尾行ですか」

「護衛だ」

 私は深く息を吸った。

「お願いがあります」

「何だ」

「しばらく、距離を置いてください」

 彼の表情が、ほんのわずかに変わる。

「理由は?」

「……私のためです」

 沈黙。

 長い沈黙のあと、彼は言った。

「分かった」

 あっさりとした返事。

 胸が、少しだけ痛んだ。

 その日の帰り道。
 彼は本当に、一定の距離を保っていた。

(これでいい)

 そう思うのに。

 夜、眠れなかった。

 恋を避けることは、正しい。
 でも――

(こんなに、苦しいものだったっけ)

 私は布団の中で、目を閉じる。

 ――恋をすると、破滅する。

 それでも、心は否定していた。




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