悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません

由香

文字の大きさ
6 / 11

第6話 騎士の本音と兄の牽制

しおりを挟む

 距離を置く、と決めたはずだった。

 それなのに、私は毎日、無意識に彼を探していた。

(いない……)

 学園の廊下。
 中庭。
 図書室の窓際。

 以前なら必ず感じていた視線が、今日はない。

(……当たり前よね)

 自分でお願いしたのだから。

 けれど胸の奥が、妙に落ち着かない。

 その日の午後、学園で小さな騒ぎが起きた。

「魔導実験棟で事故が――!」

 廊下がざわつく。

 嫌な予感がした。

(原作イベント……?)

 破滅フラグではなかったが、学園内で起こるトラブルの一つだ。

 私は足を止めようとした。

(関わらない方がいい)

 だが、人の流れに押され、気づけば実験棟の近くまで来ていた。

 ――そのとき。

 床が軋み、魔力が暴走する。

「危ない!」

 声と同時に、強く腕を引かれた。

 視界が回り、次の瞬間、私は誰かの胸に抱き込まれていた。

「……っ」

 聞き慣れた鼓動。

 顔を上げる。

「カイン……」

「怪我は?」

 低い声。
 距離を置いていたはずの彼が、そこにいた。

「ありません……」

「ならいい」

 彼は私を庇うように立ち、暴走する魔力へ向き直る。

 次の瞬間、鮮やかな剣閃。

 魔力が霧散し、周囲が静まった。

「すご……」

 思わず漏れる。

 彼は振り返り、少しだけ困ったように言った。

「距離を置く約束だった」

「……はい」

「だが、危険なら話は別だ」

 胸が締め付けられる。

(ずるい……)

 騒ぎのあと、私は兄たちに囲まれた。

「無事か!」

「怪我は!」

「誰が近くにいた!」

 三方向からの質問。

「カインが……助けてくれました」

 一瞬、空気が凍る。

 次兄がカインを睨む。

「約束を破ったな」

「護衛としての判断だ」

「言い訳だ」

 長兄が間に入る。

「落ち着け。結果的に守られた」

「……」

 三兄は静かに私を見つめた。

「セレ、怖かった?」

「……はい。でも」

 私は正直に言った。

「助けてもらえて、安心しました」

 兄たちは黙り込む。

 その夜、書斎。

 カインは兄たちに呼び出されていた。

 私は部屋の外で、思わず足を止める。

「妹に近づきすぎだ」

「自覚はある」

「では引け」

「それはできない」

 はっきりとした声。

 胸が高鳴る。

「理由は?」

「守りたいからだ」

 沈黙。

 次兄が低く唸る。

「……それだけか」

「それだけで十分だ」

 長兄が問う。

「感情は?」

「……ある」

 心臓が跳ねた。

「だが、彼女を縛るつもりはない」

「なら、なぜそばにいる」

「彼女が安心するからだ」

 その言葉に、兄たちは言葉を失った。

 書斎の扉が開く。

 私は慌てて物陰に隠れた。

 カインは立ち止まり、こちらを見た。

(……バレてる)

「聞いていたか」

「……少し」

 彼は静かに言った。

「距離を置くと言ったな」

「……はい」

「だが、俺は君を守る」

「それは……」

 私は言葉に詰まる。

「恋は、破滅するんです」

「それは誰が決めた」

「……原作が」

 言ってしまった。

 彼は首を傾げる。

「原作?」

「いえ……」

 しばらくの沈黙。

「俺は、君が幸せでいる未来しか考えない」

「……」

「それが破滅だと言うなら」

「……」

「俺が覆す」

 心臓が、うるさい。

(ダメなのに)

 その夜、眠れなかった。

 恋は危険。
 でも――

 彼の本音は、あまりにもまっすぐで。

(……逃げきれない)

 そう、思ってしまった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...