13 / 28
従兄弟との再会
しおりを挟む私は自室に篭っていた。会合の時は出てきてはいけないと父から言われていたのだ。
ヤスが入院してしまい希望が消えたなか、私に残されたのはあの膨大な量のお見合い写真だ。最初こそはその存在感に違和感を感じまくっていたが、最近では見慣れてしまい、もはや部屋のインテリアだ。慣れというものは恐ろしい。
そのお見合い写真に手を伸ばすと思いきや、その横にある本棚から一冊のファイルを手にとった。そして、1枚1枚じっくりと捲る。
「何度見てもこの俳優さん素敵……!熟したこの感じが堪らんっ!!」
私が長年かけて作った、好みの俳優コレクションである。昔、中学生だった弟に見つかり、ゴミのような目で見るだけではおさまらず、私の目の前で燃やされたのはまだ記憶に新しい。あの時は本気で泣いた。それ以来、誰にも見つからずに隠していたものだ。
暗い気持ちのままでは気が滅入ってしまう。会合の時はこちらの屋敷に人はめったに来ることがない。
私は軽い気持ちで縁側で見る事を決めた。
この時の私にラリアットをかましてやりたい。
早速、このコレクションのことがバレてしまった。しかも見ず知らずの男性にだ。ナンテコッタ。男性はあからさまに引いている。
あぁ!そうよね!!ドン引きしちゃうわよねっ!!!私だっていきなり男性が「女はやっぱり40代からだよなー!熟したこの感じが堪らん!」とか言ってたら間違いなくドン引きするわよっ!!!!
…………オワッタ……。
この男性がここに居るということは、組関係の方なのだろう。きっとこのことは瞬く間に噂が広がり、そして弟の耳にも入り、ついには姉弟の関係を切るという最悪の事態になってしまう恐れがある。そんなの嫌だ。口止めをしなくてはっ!しかし、なんと言えば良いのかがわからない。極道の方に口止めとか、何それ、私の心臓が止まるわ。
「……あ…。」
男が何かを発した。何だろう。
「黙ってて欲しいなら、それに似合った額、用意できるんだよなぁ?」的なことを言うのだろうか。私の体はマナモードのようにブルブルと震えてしまう。男が口を開いた瞬間、目をつぶる。や、殺られる!
「結婚してください。」
「……えっ。」
……………………………………………………。
それは何かの隠語ですか?
そんなことを言ったら殺されそうだ。もうどうして良いのかわからず、男性の様子を伺ってしまう。
……改めて見るとデカイ……。190センチぐらいあるのではないだろうか。そして、どんな強面のおじさんなんだろうと思っていたら、意外にも若い方だった。髪は短く切り揃えられた黒髪にほどよく焼けた肌。目元は涼しげで、頼れるお兄さん、という感じだ。きっと、定期的に鍛えているのだろう。スーツの上からでも、ガッチリとした体格の良さがよくわかる。
「す、すまないっ!!」
「えぇっ!?」
男性はその大きい体が嘘のように、俊敏な土下座を披露する。ゴッという鈍い音をたて、頭を埋め込んだ。比喩ではない。本当にゆかに頭を埋め込んだのだ。
「俺はいきなり何ということをぉぉぉぉお!!」
そう叫びながら更に頭を埋め込む。バキバキと鳴ってはいけないような音さえ聞こえる。
「きゃぁぁぁぁ!?あ、頭を上げてくださいっ!お願いですから、これ以上頭を埋め込まないでぇぇぇ!」
私は必死に男性を引き上げようとする。ここで邪魔するのが体格差だ。女性の平均サイズよりちょっと上の私ではびくともしない。
とうとう頭全体が床の中にすっぽりと入ってしまい、パッと見、体しかないように見える姿は何ともシュールな光景だ。
「違うだっ!いや、違わなくはないのか……?やっぱり違うんだっっ!!」
「わかりましたから!そろそろ出てきてください!!」
「椿!お前は何もわかっていない!あぁ、すまないぃぃ!!」
椿……………。
それは紛れもなく私の名前だ。
「なぜ、私の名前を知っているのですか?」
ドリルのように動いていた男性はピタリとその動きを止める。
「つ、椿なのか…?」
「えぇ、そうですけど…。どこかでお会いしましたっけ?」
「……………忍だ。」
SINOBU?
一瞬、漢字変換が出来なかった。
「八島、忍…。…従兄弟の…。」
その言葉に目を見張る。
嘘でしょ…!?
幼い頃の忍と似てもにつかない。昔の忍はもっとふくよかで、小柄であった。成長というのは恐ろしい。まるで、親戚の子どもが育って久々に会うオバチャンのような気持ちだ。
「あらあら…!こんなに大きくなって…!」
「…お前も…綺麗になったと、思う…。」
「あらあら!」
忍は頭を埋め込んだまま話す。こんな経験は最初で最後だろう。
そして、忍がお世辞を言えるまで成長していたとは驚きだ。記憶の中にある忍は餓鬼大将のような男の子だった。だからこそ忍の成長は素直に嬉しい。
ちなみに、私は生まれ変わっても前世と見た目が全く変わっていない。せっかく生まれ変わったのだ。美人なオプションとか付けて欲しいものだ。ついでに肉がつかない体なら尚嬉しい。
「せっかくの再会なんだし、顔を見ては話さない?」
「あぁ…。」
忍はぐっと腕に力を入れる。
……………。
「抜けない。」
「はい?」
今何と言った?
再び手を床について立ち上がろうとする。その姿はまるで生まれたての小鹿のようだ。つい、応援してしまいたくなる。
「……………抜けない。」
「……………。」
1
あなたにおすすめの小説
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる