生まれ変わったら極道の娘になっていた

白湯子

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従兄弟との再会

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私は自室に篭っていた。会合の時は出てきてはいけないと父から言われていたのだ。

ヤスが入院してしまい希望が消えたなか、私に残されたのはあの膨大な量のお見合い写真だ。最初こそはその存在感に違和感を感じまくっていたが、最近では見慣れてしまい、もはや部屋のインテリアだ。慣れというものは恐ろしい。
そのお見合い写真に手を伸ばすと思いきや、その横にある本棚から一冊のファイルを手にとった。そして、1枚1枚じっくりと捲る。

「何度見てもこの俳優さん素敵……!熟したこの感じが堪らんっ!!」

私が長年かけて作った、好みの俳優コレクションである。昔、中学生だった弟に見つかり、ゴミのような目で見るだけではおさまらず、私の目の前で燃やされたのはまだ記憶に新しい。あの時は本気で泣いた。それ以来、誰にも見つからずに隠していたものだ。

暗い気持ちのままでは気が滅入ってしまう。会合の時はこちらの屋敷に人はめったに来ることがない。
私は軽い気持ちで縁側で見る事を決めた。
この時の私にラリアットをかましてやりたい。


早速、このコレクションのことがバレてしまった。しかも見ず知らずの男性にだ。ナンテコッタ。男性はあからさまに引いている。
あぁ!そうよね!!ドン引きしちゃうわよねっ!!!私だっていきなり男性が「女はやっぱり40代からだよなー!熟したこの感じが堪らん!」とか言ってたら間違いなくドン引きするわよっ!!!!

…………オワッタ……。

この男性がここに居るということは、組関係の方なのだろう。きっとこのことは瞬く間に噂が広がり、そして弟の耳にも入り、ついには姉弟の関係を切るという最悪の事態になってしまう恐れがある。そんなの嫌だ。口止めをしなくてはっ!しかし、なんと言えば良いのかがわからない。極道の方に口止めとか、何それ、私の心臓が止まるわ。

「……あ…。」

男が何かを発した。何だろう。
「黙ってて欲しいなら、それに似合った額、用意できるんだよなぁ?」的なことを言うのだろうか。私の体はマナモードのようにブルブルと震えてしまう。男が口を開いた瞬間、目をつぶる。や、殺られる!

「結婚してください。」
「……えっ。」

……………………………………………………。

それは何かの隠語ですか?
そんなことを言ったら殺されそうだ。もうどうして良いのかわからず、男性の様子を伺ってしまう。
……改めて見るとデカイ……。190センチぐらいあるのではないだろうか。そして、どんな強面のおじさんなんだろうと思っていたら、意外にも若い方だった。髪は短く切り揃えられた黒髪にほどよく焼けた肌。目元は涼しげで、頼れるお兄さん、という感じだ。きっと、定期的に鍛えているのだろう。スーツの上からでも、ガッチリとした体格の良さがよくわかる。

「す、すまないっ!!」
「えぇっ!?」

男性はその大きい体が嘘のように、俊敏な土下座を披露する。ゴッという鈍い音をたて、頭を埋め込んだ。比喩ではない。本当にゆかに頭を埋め込んだのだ。

「俺はいきなり何ということをぉぉぉぉお!!」

そう叫びながら更に頭を埋め込む。バキバキと鳴ってはいけないような音さえ聞こえる。

「きゃぁぁぁぁ!?あ、頭を上げてくださいっ!お願いですから、これ以上頭を埋め込まないでぇぇぇ!」

私は必死に男性を引き上げようとする。ここで邪魔するのが体格差だ。女性の平均サイズよりちょっと上の私ではびくともしない。
とうとう頭全体が床の中にすっぽりと入ってしまい、パッと見、体しかないように見える姿は何ともシュールな光景だ。

「違うだっ!いや、違わなくはないのか……?やっぱり違うんだっっ!!」
「わかりましたから!そろそろ出てきてください!!」
「椿!お前は何もわかっていない!あぁ、すまないぃぃ!!」
 
椿……………。
それは紛れもなく私の名前だ。

「なぜ、私の名前を知っているのですか?」

ドリルのように動いていた男性はピタリとその動きを止める。

「つ、椿なのか…?」
「えぇ、そうですけど…。どこかでお会いしましたっけ?」
「……………忍だ。」

SINOBU?
一瞬、漢字変換が出来なかった。

「八島、忍…。…従兄弟の…。」

その言葉に目を見張る。
嘘でしょ…!?
幼い頃の忍と似てもにつかない。昔の忍はもっとふくよかで、小柄であった。成長というのは恐ろしい。まるで、親戚の子どもが育って久々に会うオバチャンのような気持ちだ。

「あらあら…!こんなに大きくなって…!」
「…お前も…綺麗になったと、思う…。」
「あらあら!」

忍は頭を埋め込んだまま話す。こんな経験は最初で最後だろう。
そして、忍がお世辞を言えるまで成長していたとは驚きだ。記憶の中にある忍は餓鬼大将のような男の子だった。だからこそ忍の成長は素直に嬉しい。
ちなみに、私は生まれ変わっても前世と見た目が全く変わっていない。せっかく生まれ変わったのだ。美人なオプションとか付けて欲しいものだ。ついでに肉がつかない体なら尚嬉しい。

「せっかくの再会なんだし、顔を見ては話さない?」
「あぁ…。」

忍はぐっと腕に力を入れる。
……………。

「抜けない。」
「はい?」

今何と言った?
再び手を床について立ち上がろうとする。その姿はまるで生まれたての小鹿のようだ。つい、応援してしまいたくなる。

「……………抜けない。」
「……………。」



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