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繰り返し、繰り返し
しおりを挟む忍が去った後、私は結婚について考えていた。
……やっぱり忍と結婚はできないわ。
こちらの勝手な都合に付き合わせてはいけない。
婚約を破棄させる上で問題なのは父の存在だ。父は話せば話が分かる男だ。…多分。今の気持ちを伝えれば、わかってくれるかもしれない。
思い立ったが吉日、まずは忍にこのことを伝えよう。
忍が去ってまだそんなに時間がたっていない。私は忍を探すことにした。
*****
う~ん。見つからないわねぇ。
会合が終わって、けっこう時間が経っていたらしく、屋敷の組員しかいない。
困ったわねぇ……。
探していない所といえば男子トイレか庭だ。男子トイレは精神年齢がオバちゃんであるため、入ることに躊躇しないが、組長の娘としては慎むべきだろう。
手入れが行き届いた庭に向かうのであった。
*****
靴がないことに気付き、玄関へ向かう。玄関へ向かえば外に弟が見えた。
……弟に聞けば忍が帰ったかどうかがわかるかもしれない。
今日の弟は他の組員同様、黒スーツを身に纏っている。同じ黒スーツであるはずなのに弟の姿はどこか神々しい。
そんな姿に暫し見蕩れていると、屋敷の門から一台の黒塗りの車が荒々しく入ってきた。
人の屋敷にあんな入り方、なんて非常識な方なのだろうと思っていると、その車は弟の元へ走る。
その光景は、私の中にある前世の記憶と重なった。
「陽っ!!」
私は裸足のまま弟の元へ走る。着ていたものが着物だったために走りにくいが、目の前に弟が居る限り止まるわけにはいかない。
手が、やっと弟に届いた。
そして、渾身の力で押しのけ飛び込んだ。
「ねぇさっ…!」
瞬間、私の体は車にぶち当たった。私の体に衝撃がきたということ弟は助かったのだろうか。
気付けば私の体は砂利が引いてある地面に投げ飛ばされていた。まわりは何やら騒がしい。
……。デジャヴを感じる。人を助けて死ぬなんて前世と全く一緒ではないか。生まれ変わって新しい人生を歩んでいたというのに同じ結果で幕を閉じるなんて……。
もしかしたら、人は生まれながら生き方を決められているのでは?
それとも、記憶のある私はイレギュラーな存在で、人は生まれ変わりを繰り返しているのではないだろうか。
あるいは、2度目の人生がそもそも間違えで、その2度目の人生を間違って送ってしまった罰なのだろうか。
様々な憶測が浮かぶが、死に際の私にはそれを確かめるすべはない。
いや、死に際でなくても確かめられないわよねぇ。
つい、自嘲的に笑ってしまう。
「あ…姉、さん……。いや…なんで……。」
視界に弟が入り込む。その姿は前世で助けた男の子と重なった。
……まさかね。
弟は綺麗な顔を苦しそうに歪めている。
…そんな顔じゃなくて、最期ぐらい笑顔が見たいものねぇ。
「…っ…や、やだ…やだぁ……。」
涙を私の頬へ落とし続ける弟。口調はいつもと違い拙く、まるで子供のようだ。あぁ、泣かないで。今すぐその大きくなった体を抱きしめ、涙を拭いてあげたいが体が動かない。
「……姉、さんっ…。どうして……?」
ずっと嫌われていると思っていたが、私の勘違いだったのだろうか。この涙を見るとそう思えてくる。
今、思い返せば私はずっと逃げてばかりで弟と向き合うことはなかった。
そんな臆病な姉であった私のために泣いてくれている。
あぁ、なんて愛おしい。
あの小さな男の子に言えなかったことを今、伝えたい。
「‥‥あ‥‥りが…とう……。」
「……っ。」
弟の息を飲む気配が伝わった。きっと伝わったのだろう。
良かった……。
私の意識はここで途絶えるのであった。
*****
僕の腕の中には意識を失った姉がいる。
「また……僕を置いていくの?」
声をかけても反応しなくなった姉。
「若っ!!車の手配が出来ました!!お急ぎくださいっ!」
目の前に一台の車が止まる。
僕は姉を橫抱きにし、車へと運ぶ。その時の姉の体温、体の感触、この軽さ。こんな状態で確かめたくはなかった。
「…許さないよ。姉さん?」
まだ温かい頬をひと撫でして僕は微笑んだ。
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