ピエロと伯爵令嬢

白湯子

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食後は食休みをしましょう

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「ご馳走様…。」

結局私はサンドイッチを全て平らげた。
美味しいのだが、量が多すぎる
。最後の方は男が無理矢理口に入れるので、拷問のような時間だった。

食休み中、気になっていたことを男に尋ねる。

「…今日ってパレードの何日目?」

私は1回寝てしまったので、今の時間帯がよくわかっていない。
外を見れば闇に閉ざされており、かろうじて夜だということは分かる。
夜。
こんな時間まで屋敷に戻らないことは今まで一度もなかった。

『パレードの二日目。』
「―っ!」

書かれている数字に目を見張る。

(嘘…。)

1時間ぐらい寝ていたと思っていたが、そんなに眠り込んでいたとは…!

兄が帰ってくるのはパレード3日目の朝だ。
今帰らないと間に合わない。

シャラリ…

右手がずっしり重い。

「…。」

自身の右手を見てため息をつく。
これでは帰れはない。

男は結婚したくないのならここにいればいいと言ってくれた。
素直に嬉しい誘いだが、貴族である以上それは許されない。
そんなことをしたらあの兄が黙ってはいないだろう。
あの兄のことだ。権力とお金をフル活用し、このサーカスを潰す可能性だって大いに考えられる。
そんなのは駄目だ。
男の居場所が無くなってしまう。

1番よい選択は兄と結婚することだ。
男の優しさに甘えれば、最悪の結果が待っている。
それを忘れてはならない。

では、どうやって屋敷に帰ろうか。

(…素直に言ってみようかしら。)

「ねぇ。」
『?』
「そろそろ邸に帰りたい。」
『…。』

部屋の気温がガクッと下がった!
男が無言で私の顔を見つめてくる。私は蛇に睨まれた蛙のように固まった。
おかしい、男の目は仮面で隠れている筈なのに何故睨まれているような感覚に陥っているのだろう。
背中に嫌な汗が流れた。
どうやら選択を間違ったらしい。

「っていう冗談よ。」
『チェルシーは冗談言うの上手いね。』

(本気ですから…。)

こういう時、自分の表情筋が死んでいて本当良かったと思う。

『良かった。チェルシーが本当に帰るって言ったら、足も繋ごうとした所だよ。あ、繋がれたい?』
「そんなわけないでしょ。」

全力で首を横に振る。
右手だけでなく、足まで拘束されたらたまったもんじゃない。

『だよね。』

そう書かれている紙を見せながら、肩を落とす男。
何故、残念そうなんだ。
少し危機感を感じ男から離れようとするが、右手が拘束されているため、わずかなすき間しか作れない。
それなのに、男は無情にもその距離を詰めてくる。

『今のところは繋いだりしないから逃げないでよ。』
「…。」

(いまのところって言った。今のところはって言ったわ、この男。)

自分の身を守れるのは自分だけだ。
私は警戒心を解くことなく、胃に悪い食休みを過ごすのであった。


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