僕の親友に捧げる

粒豆

文字の大きさ
5 / 11

悪夢5

しおりを挟む
来月の日曜日の夕方に、学校の屋上から手を繋いだまま飛び降りようという話になった。
なんでもその日は、香澄が昔飼ってた猫の命日なのだとか。
だからどうしても、その日に死にたかったらしい。
夕方なのは、『なんとなくロマンチックだろ?』とのこと。


俺はその日…… 学校の屋上へは、行かなかった。
直前になって、怖くなったからだ。


――俺が、死ぬ……?
いやだ、しにたくない。こわい。


別に死んでもいいやって思ってた筈なのに、
いざ死を前にすると、これほどまでに恐ろしい。
約束の時間になっても、俺は家から出ずにベッドの中でガタガタと震えていた。
布団に包まって、現実から逃げるように目を強く瞑った。


――アイツはどうなったかな?

――まさか一人で死ぬのか?


…………そんなわけないよな。
俺が来なかったら、きっと香澄だって諦めて家に帰るはず。
そうして明日になれば、また笑って話ができるはずだ。
『なんで来なかったの?』って責めるかもしれないけど……
そしたら素直に謝ればいいんだ。
それで仲直りして、心中の話はなかったことになる。
それでいい。
きっとそうなる筈だ。
だから、大丈夫……。
そう、自分に言い聞かせて、俺は眠りに落ちた。



そして、次の日、学校から電話があって、香澄が死んだ事を知らされた。





――…………
――……


あの日、あの時、あの場所で、香澄は一人で死んだのだ。
約束を破った俺を待っていてはくれずに、一人で飛び降りて死んだ。
それ以来、俺は定期的にこうして香澄の夢を見る。
夢の中で、香澄が死に続けるのだ。
俺はいつも香澄を助けられずに、見捨てて自分だけ逃げる。
そんなことを繰り返す夢。
これは、きっと、香澄の呪い。
約束を守らなかった俺への、復讐。


「もう許してくれよ……」


俺の少年の日の思い出は、香澄の血肉で赤黒く汚れている。
その汚れは俺の心にこびり付いて、取れる気配がない。


「お前は俺のトラウマが生み出した妄想なのか?
 それとも亡霊なのか?」

「どっちでもいいじゃない、そんなの。
 僕が亡霊だろうと、ただの夢だろうと、君が僕の夢を見ているという事実は、変わらないのだから。
 それより早く一緒に来て。見てよ。夕方の屋上だよ。
 夕やけがキレイだね。君が死に損なったあの日、あの時を、今、もう一度やり直そう」

「香澄、ごめん……ごめん……ごめんな。
 約束破ったこと、後悔してる。
 でも俺は………………死ぬのが、怖いんだ」

「それからの君の人生は、全然上手く行ってないはずだよ?
 僕の件がトラウマになった君は益々内向的になって、
 学校に通えなくなって、当然就職もできなくて、ずっと家に引き籠って、親のすねかじり。
 そんなのもう生きて居たって仕方ないじゃないか。
 だから早く僕のところへおいでよ」

――こっちは楽しいよ?

そう言って香澄が俺へと手を伸ばし、俺を誘う。
俺を死へと導こうとする。

「そりゃ、生きていたくはないさ……。
 でも死ぬのが怖い、怖いんだ。怖かったんだ、俺」

「それでも僕は何度でも君の前に現れるよ。
 君が来てくれるまで、何度でも化けて出てやる」

「ごめん」

「……そろそろ朝だ。じゃあね」


香澄が屋上のフェンスをよじ登り、
そのまま笑みを浮かべながら下へと落ちて行った。
暫くしてグチャ、という人間が潰れる音がした。
一連の動きがまるでスローモーションのように見えて、なんだか美しかった。


「香澄……」


この夢が、心因性のものなのか、それとも本当に亡霊なのかは分からない。
分からないけれど、きっとまた俺は香澄が死ぬ夢を見る。
それは、きっと、俺が死ぬまで続くのだろう。


「う……」


目眩がして、意識が覚醒していくのを感じる。
目が覚める合図だ。
俺が香澄のところに行くまで、俺は俺を許せない。
香澄も、俺を許さない。
俺は許されない。

すぐにまた、香澄に会える。
そう、この、不思議な悪夢の中で…………

この夢の中で香澄は何度でも、自分の死にざまを俺に見せつける。
そうやって俺をあの世へと誘うんだ。

それはきっと、俺が死ぬまで続くのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

処理中です...