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悪夢5
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来月の日曜日の夕方に、学校の屋上から手を繋いだまま飛び降りようという話になった。
なんでもその日は、香澄が昔飼ってた猫の命日なのだとか。
だからどうしても、その日に死にたかったらしい。
夕方なのは、『なんとなくロマンチックだろ?』とのこと。
俺はその日…… 学校の屋上へは、行かなかった。
直前になって、怖くなったからだ。
――俺が、死ぬ……?
いやだ、しにたくない。こわい。
別に死んでもいいやって思ってた筈なのに、
いざ死を前にすると、これほどまでに恐ろしい。
約束の時間になっても、俺は家から出ずにベッドの中でガタガタと震えていた。
布団に包まって、現実から逃げるように目を強く瞑った。
――アイツはどうなったかな?
――まさか一人で死ぬのか?
…………そんなわけないよな。
俺が来なかったら、きっと香澄だって諦めて家に帰るはず。
そうして明日になれば、また笑って話ができるはずだ。
『なんで来なかったの?』って責めるかもしれないけど……
そしたら素直に謝ればいいんだ。
それで仲直りして、心中の話はなかったことになる。
それでいい。
きっとそうなる筈だ。
だから、大丈夫……。
そう、自分に言い聞かせて、俺は眠りに落ちた。
そして、次の日、学校から電話があって、香澄が死んだ事を知らされた。
――…………
――……
あの日、あの時、あの場所で、香澄は一人で死んだのだ。
約束を破った俺を待っていてはくれずに、一人で飛び降りて死んだ。
それ以来、俺は定期的にこうして香澄の夢を見る。
夢の中で、香澄が死に続けるのだ。
俺はいつも香澄を助けられずに、見捨てて自分だけ逃げる。
そんなことを繰り返す夢。
これは、きっと、香澄の呪い。
約束を守らなかった俺への、復讐。
「もう許してくれよ……」
俺の少年の日の思い出は、香澄の血肉で赤黒く汚れている。
その汚れは俺の心にこびり付いて、取れる気配がない。
「お前は俺のトラウマが生み出した妄想なのか?
それとも亡霊なのか?」
「どっちでもいいじゃない、そんなの。
僕が亡霊だろうと、ただの夢だろうと、君が僕の夢を見ているという事実は、変わらないのだから。
それより早く一緒に来て。見てよ。夕方の屋上だよ。
夕やけがキレイだね。君が死に損なったあの日、あの時を、今、もう一度やり直そう」
「香澄、ごめん……ごめん……ごめんな。
約束破ったこと、後悔してる。
でも俺は………………死ぬのが、怖いんだ」
「それからの君の人生は、全然上手く行ってないはずだよ?
僕の件がトラウマになった君は益々内向的になって、
学校に通えなくなって、当然就職もできなくて、ずっと家に引き籠って、親のすねかじり。
そんなのもう生きて居たって仕方ないじゃないか。
だから早く僕のところへおいでよ」
――こっちは楽しいよ?
そう言って香澄が俺へと手を伸ばし、俺を誘う。
俺を死へと導こうとする。
「そりゃ、生きていたくはないさ……。
でも死ぬのが怖い、怖いんだ。怖かったんだ、俺」
「それでも僕は何度でも君の前に現れるよ。
君が来てくれるまで、何度でも化けて出てやる」
「ごめん」
「……そろそろ朝だ。じゃあね」
香澄が屋上のフェンスをよじ登り、
そのまま笑みを浮かべながら下へと落ちて行った。
暫くしてグチャ、という人間が潰れる音がした。
一連の動きがまるでスローモーションのように見えて、なんだか美しかった。
「香澄……」
この夢が、心因性のものなのか、それとも本当に亡霊なのかは分からない。
分からないけれど、きっとまた俺は香澄が死ぬ夢を見る。
それは、きっと、俺が死ぬまで続くのだろう。
「う……」
目眩がして、意識が覚醒していくのを感じる。
目が覚める合図だ。
俺が香澄のところに行くまで、俺は俺を許せない。
香澄も、俺を許さない。
俺は許されない。
すぐにまた、香澄に会える。
そう、この、不思議な悪夢の中で…………
この夢の中で香澄は何度でも、自分の死にざまを俺に見せつける。
そうやって俺をあの世へと誘うんだ。
それはきっと、俺が死ぬまで続くのだろう。
なんでもその日は、香澄が昔飼ってた猫の命日なのだとか。
だからどうしても、その日に死にたかったらしい。
夕方なのは、『なんとなくロマンチックだろ?』とのこと。
俺はその日…… 学校の屋上へは、行かなかった。
直前になって、怖くなったからだ。
――俺が、死ぬ……?
いやだ、しにたくない。こわい。
別に死んでもいいやって思ってた筈なのに、
いざ死を前にすると、これほどまでに恐ろしい。
約束の時間になっても、俺は家から出ずにベッドの中でガタガタと震えていた。
布団に包まって、現実から逃げるように目を強く瞑った。
――アイツはどうなったかな?
――まさか一人で死ぬのか?
…………そんなわけないよな。
俺が来なかったら、きっと香澄だって諦めて家に帰るはず。
そうして明日になれば、また笑って話ができるはずだ。
『なんで来なかったの?』って責めるかもしれないけど……
そしたら素直に謝ればいいんだ。
それで仲直りして、心中の話はなかったことになる。
それでいい。
きっとそうなる筈だ。
だから、大丈夫……。
そう、自分に言い聞かせて、俺は眠りに落ちた。
そして、次の日、学校から電話があって、香澄が死んだ事を知らされた。
――…………
――……
あの日、あの時、あの場所で、香澄は一人で死んだのだ。
約束を破った俺を待っていてはくれずに、一人で飛び降りて死んだ。
それ以来、俺は定期的にこうして香澄の夢を見る。
夢の中で、香澄が死に続けるのだ。
俺はいつも香澄を助けられずに、見捨てて自分だけ逃げる。
そんなことを繰り返す夢。
これは、きっと、香澄の呪い。
約束を守らなかった俺への、復讐。
「もう許してくれよ……」
俺の少年の日の思い出は、香澄の血肉で赤黒く汚れている。
その汚れは俺の心にこびり付いて、取れる気配がない。
「お前は俺のトラウマが生み出した妄想なのか?
それとも亡霊なのか?」
「どっちでもいいじゃない、そんなの。
僕が亡霊だろうと、ただの夢だろうと、君が僕の夢を見ているという事実は、変わらないのだから。
それより早く一緒に来て。見てよ。夕方の屋上だよ。
夕やけがキレイだね。君が死に損なったあの日、あの時を、今、もう一度やり直そう」
「香澄、ごめん……ごめん……ごめんな。
約束破ったこと、後悔してる。
でも俺は………………死ぬのが、怖いんだ」
「それからの君の人生は、全然上手く行ってないはずだよ?
僕の件がトラウマになった君は益々内向的になって、
学校に通えなくなって、当然就職もできなくて、ずっと家に引き籠って、親のすねかじり。
そんなのもう生きて居たって仕方ないじゃないか。
だから早く僕のところへおいでよ」
――こっちは楽しいよ?
そう言って香澄が俺へと手を伸ばし、俺を誘う。
俺を死へと導こうとする。
「そりゃ、生きていたくはないさ……。
でも死ぬのが怖い、怖いんだ。怖かったんだ、俺」
「それでも僕は何度でも君の前に現れるよ。
君が来てくれるまで、何度でも化けて出てやる」
「ごめん」
「……そろそろ朝だ。じゃあね」
香澄が屋上のフェンスをよじ登り、
そのまま笑みを浮かべながら下へと落ちて行った。
暫くしてグチャ、という人間が潰れる音がした。
一連の動きがまるでスローモーションのように見えて、なんだか美しかった。
「香澄……」
この夢が、心因性のものなのか、それとも本当に亡霊なのかは分からない。
分からないけれど、きっとまた俺は香澄が死ぬ夢を見る。
それは、きっと、俺が死ぬまで続くのだろう。
「う……」
目眩がして、意識が覚醒していくのを感じる。
目が覚める合図だ。
俺が香澄のところに行くまで、俺は俺を許せない。
香澄も、俺を許さない。
俺は許されない。
すぐにまた、香澄に会える。
そう、この、不思議な悪夢の中で…………
この夢の中で香澄は何度でも、自分の死にざまを俺に見せつける。
そうやって俺をあの世へと誘うんだ。
それはきっと、俺が死ぬまで続くのだろう。
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