素直になるのが遅すぎた

gacchi(がっち)

文字の大きさ
10 / 16

10.マリー

しおりを挟む
「会いたかったわ!ローズマリー!」

「ミラージュ様…私もです!」

ローズマリーの目がみるみるうちに涙でおおわれ、声もうまくでない。
つられた私も何も言えず、ただ良かったと抱きしめた。

「ミラージュ様、うちの針子はマリーですわよ?」

おだやかな声でマダム・カリーナに止められ、あわてて離れた。
誰も見ていないとわかっていても、口に出してはいけなかった。

「そうね、ごめんなさい。
 マリーというのね、新しい針子さんかしら?」

「ええ、三か月ほど前に雇いましたの。
 まだまだ新人として教育しなければならないことばかりですけど、
 飲み込みが早いですし根性もあります。
 こんなに教えるのが楽しいのは久しぶりですわ。」

満足げなマダムの様子にほっとする。
マダムは私が相手だからといって嘘をつくことは無い。
本当にマリーのことを気に入ったようで安心した。
合わないようなら他の職場を紹介しようと思っていたが、
この様子ならそれは必要なさそうだ。

「そう、それはよかったわ。
 マリー。こちらでの生活はどう?困ったことは無い?」

「いいえ、何も困っていません。
 ずっとミラージュ様のドレスにあこがれていましたけど、
 そのマダム・カリーナのドレスを作る手伝いができるなんて…夢のようです。
 マダムにも皆様にも、本当に良くしていただいて。
 こんなに幸せになっていいのかと悩むくらいです!」

「それなら良かったわ。
 レイともうまくいってる?」

「…はいっ!」

マリーのはにかんだ笑顔が、ふんわりとした砂糖菓子のように見えて、
また涙が出そうになった。

自分のしたことが王族として間違っているのはわかっている。
だけど、もう見ていられなかった。
おせっかいですることを越えて手を出すことに迷いもあった。
でも…こんな風にマリーの笑顔が戻ってくれたことがうれしくて仕方なかった。



お店から出るとすぐに、待っていたリュカに手を差し出される。
その手を取って馬車へと乗ると、うれしさのあまりリュカへと抱き着く。

「おっと…どうした?
 会えたんだろう?」

「うん…うん…会えた。」

「ようやく安心できたか?」

「うん。幸せだって…うれしそうだった。」

「そっか…良かったな。
 レイのほう、会ってきたけど、あっちも大丈夫そうだ。
 騎士団長が褒めてたよ。
 細っこいわりに体力あって動きもいいって。」

「それは…一応、私の護衛だったんだもの。
 辺境騎士団に比べたら細いかもしれないけど。」

「こっちの騎士は身体がでかいからな。
 まぁ、レイもミラージュに感謝してたよ。
 生きててよかったってさ。」

「そうなんだ…良かった…。」

二人とも幸せそうで、それだけで胸がいっぱいになった。


あの日、二人が思い余って心中しようとしていると、
真っ青な顔した監視から報告が来た。

何かあった時にローズマリーを助けられるようにと、
私の護衛の一人を子爵家へとつけていた。
表向きには子爵家の募集に応じる形でもぐりこませていた。
公爵家へ行く時の馬車の護衛としてついたのがレイだった。

シャルルと会うたびに泣いて帰るローズマリーを見かねて、
ハンカチを渡すようになり、次第に優しい言葉をかけるようになり、
最終的には馬車の中で手をにぎって慰めるようになった。

それを幼いころからローズマリーを世話している侍女も見て見ないふりをした。
心が壊れそうになっているローズマリーがそれを受け入れているならと。
誰がそれを責められるだろうか。

おかしいと思った時には、もうローズマリーとレイは恋仲になっていた。

それでも、手をつなぐ以上のことはせず、節度あるものだった。
シャルルという婚約者がいることはどちらもわかっていた。
だけど、そのことに先に耐えられなくなったのはローズマリーだった。

このまま公爵家にいけば、もうレイとは会うことも無くなる。
子爵家からは侍女一人すら連れていけない。
誰も味方がいない公爵家で、シャルルを夫として受け入れなければいけない。

せめてシャルルが誠実であったなら、ローズマリーのことを好きだと言えなくても、
貴族として普通の誠意ある対応ができていたとしたら。
いくらレイのことを好きでも、その気持ちを封じて嫁いだはずだ。

貴族としての立場や責任をわかっていたはずのローズマリーが、
自分を侮辱し傷つけ続けるシャルルに抱かれるくらいなら、
清い身体のままレイを想って死んだほうがましだと思ってしまったのだ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

【完結】あなた方は信用できません

玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。 第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?

【完結】騙された侯爵令嬢は、政略結婚でも愛し愛されたかったのです

山葵
恋愛
政略結婚で結ばれた私達だったが、いつか愛し合う事が出来ると信じていた。 それなのに、彼には、ずっと好きな人が居たのだ。 私にはプレゼントさえ下さらなかったのに、その方には自分の瞳の宝石を贈っていたなんて…。

一番でなくとも

Rj
恋愛
婚約者が恋に落ちたのは親友だった。一番大切な存在になれない私。それでも私は幸せになる。 全九話。

処理中です...