59 / 61
59.前触れ
エリナが王宮に来なくなって半年。
あと二か月もすれば生まれるという時期になって、
朝、目が覚めた時に身体の異常を感じた。
熱っぽい。そしてなんだか身体がだるい。
これは……竜化する前の状態だ。
クレアが竜化する前、こんな感じだった。
発熱してから竜化するまで、三日くらいだったはず。
竜王様から数年後だろうと言われてから四年半。
ついにこの時が来てしまった。
ぐずぐずしていられないと思い、すぐにルークを起こす。
隣で寝ていたルークは、私の体調が悪いと気がついて真っ青になる。
「熱!?どうしよう。
エリナがいないのに誰に診てもらえばいいんだ」
「大丈夫……これって、竜化する前の熱だと思う。
クレアがそうだったから」
「……竜化」
状況を理解したのか、ルークの顔が険しくなる。
「お願いがあるの。
竜化する前に、巣に連れて行って欲しいの」
「巣に?」
「竜化する前にちゃんと二人で話がしたい」
「……わかった。クライブ様に説明して休む許可を取ってくる」
竜化したら、ルークが番か番じゃないのかわかる。
そして、番じゃなかったとしたら。
ルークを受け入れるかどうか、私が決めなくちゃいけない。
結婚してから、ずっと穏やかだけど幸せな夫婦生活だった。
身体をつなげることはなくても、抱きしめられてくちづけするだけでも、
十分に幸せだったけれど。
番じゃなかったら、どちらかを選ばなくてはいけない。
ルークを選ぶのか、本当の番を待つのか。
ずっと考えていた。ルークはもう覚悟を決めている。
選ぶのは私だって。
少しして、ルークが部屋に戻ってきた。
「クライブ様とハンスの許可は取った。
後のことはラディとクレアに任せた。
用意ができたなら、行こうか」
「うん」
だるいけれど動けないほどではない。
テラスに出て、竜化したルークの背に乗る。
建物がなくなって隙間だらけになった王都を見ながら、巣へと向かう。
山の中に降りて、湖の近くまで歩く。
あの時は未完成だった建物が完成していた。
中に入ると、人が快適に暮らせるようになっている。
たまに入れ替えしているのか、食料も用意されていた。
「そろそろかもしれないと思って、
いつここに来ても大丈夫なようにしていたんだ」
「そうなんだ、ありがとう」
大丈夫なようにしていたのは、食料だけじゃなく、
心の準備もかもしれない。
私が断ったとしてもルークは笑うのだろう。
リディがそう決めたのならいいよって。
自分の幸せも欲しいけれど、誰かから奪うような人ではない。
それでも命を懸けてでも私が欲しいと思ってくれたこと、うれしかった。
二人だけの夕食を作り、静かに食べる。
もっといろんなことを話すのかと思ったけれど、
夫婦になってから話し尽くすほど話していた。
残るのは、番のことだけ。
いつものように二人でベッドに横になったけれど、眠れる気がしない。
ルークも同じようで、起きているのがわかる。
抱きしめられたまま、二人とも動けない。
覚悟を決めて、ルークを呼ぶ。
「眠れないのか?」
「うん」
「不安……なのか?」
多分、ルークが考えている不安とは違う。
この覚悟を受け入れてもらえるかどうか、
ルークは嫌がるかもしれない。
「話をしてもいい?」
「ああ」
「私が竜化して、ルークが番じゃないってわかったとしたら」
抱きしめていた腕がきゅうっと強くなる。
聞きたくないけど、聞かなきゃいけない、ルークの身体がそう言ってる。
「それでもルークの鱗を私に渡したいって気持ち、変わっていない?」
「変わってない。俺はリディの番になりたい。
偽物でもいい。少しの間でもいい。リディの番になりたいんだ」
気持ちが変わったとは思っていないけれど、
それを確認しなければ話がすすまない。
「それって、ルークは覚悟を決めたってことよね?」
「そうだよ」
「じゃあ、私が何を選んでも、その覚悟を受け入れてくれる?」
「……受け入れるよ。
俺の気持ちは伝えた。選ぶのはリディだ。
その選択に従う」
「うん」
よかった。その一言が欲しかった。
「もし番じゃなかったら、ルークの鱗をちょうだい。
ルークを私の番にするわ」
「……リディ」
ルークの泣きそうな声が聞こえる。
うれしさのあまり、抱きしめる力が強くなる。
でも、待って。続きがあるの。
「そして、私の鱗をルークに渡すわ。
私の本当の番になってほしいの」
「………は?」
ずっと考えていた。
番じゃなくても、ルークにそばにいてほしい。
だけど、偽物の番にしたくなかった。死んでほしくないから。
「私が鱗をルークに渡せば、私の本当の番がわからなくなる。
そうしたら、ルークは殺されない。
ルークが私の本当の番になるの」
「ちょっと待って!そんなことしたら!」
「番だったとしても、そうするつもりよ。
私はルーク以外の番を持つ気がないの。
ルークが死んだら、私も一緒に連れて行って?」
「…だ、だめだ。そんなことしたらリディが」
「私は、生贄だったアリーのようにはなりたくないの」
「っ!?」
番だとか、子どもを守るとか、
そういうこと以前の問題なのかもしれない。
忘れられるわけがない。
生贄アリーとして育てられた自分を。
好きでもない男の子どもを産まされて処刑された、
私の母である生贄アリーのことも。
あと二か月もすれば生まれるという時期になって、
朝、目が覚めた時に身体の異常を感じた。
熱っぽい。そしてなんだか身体がだるい。
これは……竜化する前の状態だ。
クレアが竜化する前、こんな感じだった。
発熱してから竜化するまで、三日くらいだったはず。
竜王様から数年後だろうと言われてから四年半。
ついにこの時が来てしまった。
ぐずぐずしていられないと思い、すぐにルークを起こす。
隣で寝ていたルークは、私の体調が悪いと気がついて真っ青になる。
「熱!?どうしよう。
エリナがいないのに誰に診てもらえばいいんだ」
「大丈夫……これって、竜化する前の熱だと思う。
クレアがそうだったから」
「……竜化」
状況を理解したのか、ルークの顔が険しくなる。
「お願いがあるの。
竜化する前に、巣に連れて行って欲しいの」
「巣に?」
「竜化する前にちゃんと二人で話がしたい」
「……わかった。クライブ様に説明して休む許可を取ってくる」
竜化したら、ルークが番か番じゃないのかわかる。
そして、番じゃなかったとしたら。
ルークを受け入れるかどうか、私が決めなくちゃいけない。
結婚してから、ずっと穏やかだけど幸せな夫婦生活だった。
身体をつなげることはなくても、抱きしめられてくちづけするだけでも、
十分に幸せだったけれど。
番じゃなかったら、どちらかを選ばなくてはいけない。
ルークを選ぶのか、本当の番を待つのか。
ずっと考えていた。ルークはもう覚悟を決めている。
選ぶのは私だって。
少しして、ルークが部屋に戻ってきた。
「クライブ様とハンスの許可は取った。
後のことはラディとクレアに任せた。
用意ができたなら、行こうか」
「うん」
だるいけれど動けないほどではない。
テラスに出て、竜化したルークの背に乗る。
建物がなくなって隙間だらけになった王都を見ながら、巣へと向かう。
山の中に降りて、湖の近くまで歩く。
あの時は未完成だった建物が完成していた。
中に入ると、人が快適に暮らせるようになっている。
たまに入れ替えしているのか、食料も用意されていた。
「そろそろかもしれないと思って、
いつここに来ても大丈夫なようにしていたんだ」
「そうなんだ、ありがとう」
大丈夫なようにしていたのは、食料だけじゃなく、
心の準備もかもしれない。
私が断ったとしてもルークは笑うのだろう。
リディがそう決めたのならいいよって。
自分の幸せも欲しいけれど、誰かから奪うような人ではない。
それでも命を懸けてでも私が欲しいと思ってくれたこと、うれしかった。
二人だけの夕食を作り、静かに食べる。
もっといろんなことを話すのかと思ったけれど、
夫婦になってから話し尽くすほど話していた。
残るのは、番のことだけ。
いつものように二人でベッドに横になったけれど、眠れる気がしない。
ルークも同じようで、起きているのがわかる。
抱きしめられたまま、二人とも動けない。
覚悟を決めて、ルークを呼ぶ。
「眠れないのか?」
「うん」
「不安……なのか?」
多分、ルークが考えている不安とは違う。
この覚悟を受け入れてもらえるかどうか、
ルークは嫌がるかもしれない。
「話をしてもいい?」
「ああ」
「私が竜化して、ルークが番じゃないってわかったとしたら」
抱きしめていた腕がきゅうっと強くなる。
聞きたくないけど、聞かなきゃいけない、ルークの身体がそう言ってる。
「それでもルークの鱗を私に渡したいって気持ち、変わっていない?」
「変わってない。俺はリディの番になりたい。
偽物でもいい。少しの間でもいい。リディの番になりたいんだ」
気持ちが変わったとは思っていないけれど、
それを確認しなければ話がすすまない。
「それって、ルークは覚悟を決めたってことよね?」
「そうだよ」
「じゃあ、私が何を選んでも、その覚悟を受け入れてくれる?」
「……受け入れるよ。
俺の気持ちは伝えた。選ぶのはリディだ。
その選択に従う」
「うん」
よかった。その一言が欲しかった。
「もし番じゃなかったら、ルークの鱗をちょうだい。
ルークを私の番にするわ」
「……リディ」
ルークの泣きそうな声が聞こえる。
うれしさのあまり、抱きしめる力が強くなる。
でも、待って。続きがあるの。
「そして、私の鱗をルークに渡すわ。
私の本当の番になってほしいの」
「………は?」
ずっと考えていた。
番じゃなくても、ルークにそばにいてほしい。
だけど、偽物の番にしたくなかった。死んでほしくないから。
「私が鱗をルークに渡せば、私の本当の番がわからなくなる。
そうしたら、ルークは殺されない。
ルークが私の本当の番になるの」
「ちょっと待って!そんなことしたら!」
「番だったとしても、そうするつもりよ。
私はルーク以外の番を持つ気がないの。
ルークが死んだら、私も一緒に連れて行って?」
「…だ、だめだ。そんなことしたらリディが」
「私は、生贄だったアリーのようにはなりたくないの」
「っ!?」
番だとか、子どもを守るとか、
そういうこと以前の問題なのかもしれない。
忘れられるわけがない。
生贄アリーとして育てられた自分を。
好きでもない男の子どもを産まされて処刑された、
私の母である生贄アリーのことも。
あなたにおすすめの小説
『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい
歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、
裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会
ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った
全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。
辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。
愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。