クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?

gacchi(がっち)

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31.もう一つの離宮

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ずっと身体の痛みや熱で満足に眠れていなかったサハル王子は、
久々にぐっすり眠れてしばらく起きそうになかった。
起きた後の様子も見たいし、まだジルとの話も思っていない。
ジルに抱き上げられたまま、離宮の外に出ると、もう一つ奥の離宮に連れて行かれた。
サハル王子の離宮よりもこじんまりとしているが、日当たりは良さそうな離宮だった。
窓の外には池が見える。王宮の裏側に位置しているのだろう。

「ここはどこ?」

「俺の持っている離宮。」

「ジルの持っている離宮?」

「ああ。俺も王族だから。」

その言葉を聞いて、お義父様が話してくるように言った意味がわかった。
本当なら婚約する前に知っておかなければいけない話だ。
それなのに私が王女だという話も、ジルが王族だという話もお互い避けてしまっていた。
お義父様があきれてしまったのも無理はない。

「お互い話が足りなかったみたいね。ジルの話もしてくれる?」

「ああ。まず、父上は王族のままだ。
 陛下の他に王族が父上しかいなかったからね。
 そして産まれたのが俺。まだ陛下には子供がいなかった。
 本当は陛下に王子が2人産まれた時点で父上と俺は王族から外れる予定だった。
 だけど、産まれたサハルとシャハルはどちらも魔力量で欠点があった。
 王太子にするわけにはいかないと判断されてしまった。
 今、陛下が倒れたら父上が国王になる。その後は、俺が継ぐことになるだろう。
 サハルたちの妹のジャニスは魔力量は問題ないけど、国王は無理だろう。
 勉強嫌いで王政について学ぼうともしないんだ。」

「ジルが王太子なの?」

「まだ決まっていないけどね。迷ってる。
 リアと出会う前は俺が国王になって、
 シャハルかジャニスの子どもを養子にすればいいかと思ってた。
 俺自身が結婚することはできないと思っていたから。
 他に何かすることも無いし、他に継げるものがいないなら仕方ないかって。」

「今、迷ってるのはどうして?」

「リアだよ。リアに会って、怖くなった。
 リアが王太子なんて嫌だ、王妃になるなんて無理って言うかもしれないと思って。
 今の俺は国王になるよりもリアの側にいたい。
 …リアが結婚してくれなくても、近くにいたいんだ。
 どうしても嫌だって言うなら、少し離れるけど…。」

「離れるのは少しだけなんだ。」

思わず笑ってしまう。魔力を与えなくても良くなっているのに、
相変わらず一緒の寝台で寝ている。
抱きかかえられるようにして眠るのにも慣れてしまっていた。
朝起きて、着替えるために離れるのに苦痛を感じてしまうほどに。
どうして離れられるなんて思えるだろう。
わかっていて、聞いてしまった自分が意地悪だなって思う。

「…嫌なんだ。叶うならずっと一緒にいたい。
 こうして抱きしめて、リアと笑っていたい。
 そう思うと、王太子とかどうでもよくなってしまって。
 …リアが無理だって言うなら断るよ。」

「…それについては少し悩んでもいい?」

「やっぱり嫌だよね。」

髪に顔をうめるように項垂れてくる。息が首筋にかかってくすぐったい。
すぐ近くにジルの顔があるのを感じて顔をあげる。
そのままジルの頬にキスすると、きつく抱きしめられ深く口づけられる。
あぁ、もう離れられない。

「ジルが好き。」

ちっとも離してくれないキスの合間に打ち明ける。
ジルの動きが止まって、驚いたように見つめられた。
ようやく自分の気持ちを伝えられそうな気がした。

「ジルが好きなの。大好き。
 ジルは不安に思っていたようだけど、
 サハル王子に先に会っていたとしても好きにはならなかった。
 ジルだから、一緒にいたいし、好きだって思うの。
 王妃になるのはもう少し悩ませて?だけど、そばにいるわ。」

「リア、ありがとう。卒業したらすぐに結婚しよう。
 王妃のことは嫌なら逃げるから言って。」

「…王妃のことは逃げないように覚悟を決めるまで待って。
 一応、私だって王族なの。弱気だけど…。
 ゆっくり考える時間をくれる?」

「いいよ。大丈夫。まだ学生だから。
 決めてもすぐに王太子になるわけじゃない。ゆっくり考えて。
 今は気持ちが通じたことが何よりうれしい。」

「うん。」

今この場で魔力を流してしまってもいいくらい結婚する覚悟はできた。
だけどサハル王子の治療に使ってしまって、流す魔力がそんなに無かった。
今日はあきらめて、またゆっくり時間が取れる時に流せばいい。
減ってしまった魔力を足してくれるように、
ジルからゆっくりと流れてくる魔力がただ心地よかった。

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