36 / 57
36.願い(アルフレッド)
ルーチェがシンディのようにしつこく言い寄ってこないとわかり、
馬車での旅が苦痛ではなくなった。
馬車に慣れていないルーチェは休憩の時に降りようとしても、
足が震えて降りられなくなっていた。
長時間乗っているせいでどこか痛めたのだろう。
それでも俺には何も言ってこないから、
黙って抱き上げて連れて歩く。
草が生い茂る中、小鹿のように震えている足で歩けるわけがない。
いろんな木や動物を見せてやると、
ルーチェは幼子のように目を輝かせていた。
そんな風に問題なくベルコヴァへ戻る途中、
夜中になぜかルーチェに起こされた。
隣のテントで寝ているはずのルーチェがなぜここにいる?
最初は何が起きたのかわからなかったが、
襲撃があると訴えられて目が覚めた。
城を出たことで無防備になった俺を狙ってきたらしい。
久しぶりだなと思いながら襲撃犯を始末する。
ルーチェが教えてくれなかったら手こずっていたかもしれない。
聞けば、夢で精霊が教えてくれたという。
理由はわかったけれど、
俺が襲われると知っていながらテントの中まで来るとは……。
助けるためとはいえ、危険だとは思わなかったのだろうか。
次の日、襲撃犯について何か気づいたことはないかと聞けば、
ベルコヴァの話し方をしていたという。
やはりいつもの襲撃犯か……。
もう十年以上も襲撃は続いている。
だが、どの勢力が俺を殺そうとしているのか、心当たりがありすぎてわからない。
ラウレンツを王太子にしたいという理由だけなら王妃の家で確定だが、
俺を王太子にしたくない勢力というのはたくさんありすぎる。
俺の宮の使用人を全員追い出してから襲われる機会は減ったが、
旅の間はまた狙われることも覚悟しておかなくてはいけない。
できればルーチェを巻き込みたくはないと思っていたが、
二度目の襲撃でも精霊はルーチェに危機を伝えた。
ここまで巻き込んでしまったら、事情を説明したほうがいい。
そう思ってルーチェにベルコヴァの政治的な説明をした。
少し難しいかと思ったが、ルーチェはきちんと理解してくれた。
見た目は幼女のように見えるが、中身はしっかりしている。
三度目の襲撃、もう起こされても驚くことはなかった。
だが、敵の狙いは俺ではなくルーチェだった。
しまったと思った。
今まで誰も近づけなかったのに、近づきすぎてしまっていた。
ここまで俺に近づけてしまったのなら、距離を置いても無駄だ。
人質にされてしまったら……俺はもう何もできない。
近づけたのは、俺の気持ちの問題だった。
ルーチェを大事に思い始めている。
もちろん、女性としてではない。
六歳下だからといって、妹や子どもに向けるような親愛でもない。
強いて言うのなら、人間としてそばにいてほしいと思っている。
普通に暮らしている者のように、何も考えずにルーチェと話すのが楽しい。
ここで距離を置いたことで人質にされてしまうくらいなら、
ずっと俺のそばにいてほしいと思うくらいには大事だった。
そう思ってルーチェに婚約しないかと持ち掛けた。
契約婚約のようなものだろうか。
アントシュの国王と王太子が見つかれば白紙になる可能性が高い。
それまででいいから、もう少しだけそばにいてくれたらいいと思った。
それからもう三年半が過ぎた。
アントシュの国王と王太子はまだ見つかっていない。
ここまで見つからないのなら、もう見つからないのかもしれない。
あと二年半、何もなければルーチェにこのまま結婚することになる。
十六歳になった今のルーチェのそばにいると、
ふいに抱きしめてしまいそうになる。
人形のように見えた容姿は、あいかわらず綺麗だと思うけれど、
それよりも朝起きてあくびをするところや、眠そうな時に眉を寄せてる顔のほうが好きだ。
女性として見ているなんて伝えたら傷つけてしまいそうで、まだ何も言えないけれど。
それ以前に、俺がしたことを知ったらルーチェは俺を軽蔑するかもしれない。
母上たちを閉じ込めていることを知られたくない。
いつかは、結婚する前には伝えなくてはいけないと思っているけれど。
もう少し後でにしよう。
そんな風にずっと後回しにしてきたけれど、ついに聞かれてしまった。
「……えっと、学園で噂を聞いたんです。
アルフレッド様が冷酷王子って呼ばれているって」
「ああ……それを聞いたのか」
この時が来てしまった……。
ため息をつきながら、俺はルーチェを塔へ案内した。
できれば嫌わないでほしいと願いながら。
「アルフレッド様が好きです。
だから、私を逃がさないでください」
「……ああ。ありがとう」
振り向いたら、ルーチェが涙目で笑っていた。
いいのだろうか、手を伸ばしても。
俺のそばにいてほしい、いなくならないでほしい。
そんな願いを伝えても許されるのだろうか。
抱きしめてもルーチェは逃げなかった。
そのままきつく抱きしめたら、ルーチェの手が背中に回される。
「何度でも言います。アルフレッド様が好きです」
「……俺も……俺もルーチェが好きだ」
「っ!……はい!」
好きだと伝えられたら、気持ちがぐっと楽になった。
今までのすべてが、ルーチェによって許された気がした。
馬車での旅が苦痛ではなくなった。
馬車に慣れていないルーチェは休憩の時に降りようとしても、
足が震えて降りられなくなっていた。
長時間乗っているせいでどこか痛めたのだろう。
それでも俺には何も言ってこないから、
黙って抱き上げて連れて歩く。
草が生い茂る中、小鹿のように震えている足で歩けるわけがない。
いろんな木や動物を見せてやると、
ルーチェは幼子のように目を輝かせていた。
そんな風に問題なくベルコヴァへ戻る途中、
夜中になぜかルーチェに起こされた。
隣のテントで寝ているはずのルーチェがなぜここにいる?
最初は何が起きたのかわからなかったが、
襲撃があると訴えられて目が覚めた。
城を出たことで無防備になった俺を狙ってきたらしい。
久しぶりだなと思いながら襲撃犯を始末する。
ルーチェが教えてくれなかったら手こずっていたかもしれない。
聞けば、夢で精霊が教えてくれたという。
理由はわかったけれど、
俺が襲われると知っていながらテントの中まで来るとは……。
助けるためとはいえ、危険だとは思わなかったのだろうか。
次の日、襲撃犯について何か気づいたことはないかと聞けば、
ベルコヴァの話し方をしていたという。
やはりいつもの襲撃犯か……。
もう十年以上も襲撃は続いている。
だが、どの勢力が俺を殺そうとしているのか、心当たりがありすぎてわからない。
ラウレンツを王太子にしたいという理由だけなら王妃の家で確定だが、
俺を王太子にしたくない勢力というのはたくさんありすぎる。
俺の宮の使用人を全員追い出してから襲われる機会は減ったが、
旅の間はまた狙われることも覚悟しておかなくてはいけない。
できればルーチェを巻き込みたくはないと思っていたが、
二度目の襲撃でも精霊はルーチェに危機を伝えた。
ここまで巻き込んでしまったら、事情を説明したほうがいい。
そう思ってルーチェにベルコヴァの政治的な説明をした。
少し難しいかと思ったが、ルーチェはきちんと理解してくれた。
見た目は幼女のように見えるが、中身はしっかりしている。
三度目の襲撃、もう起こされても驚くことはなかった。
だが、敵の狙いは俺ではなくルーチェだった。
しまったと思った。
今まで誰も近づけなかったのに、近づきすぎてしまっていた。
ここまで俺に近づけてしまったのなら、距離を置いても無駄だ。
人質にされてしまったら……俺はもう何もできない。
近づけたのは、俺の気持ちの問題だった。
ルーチェを大事に思い始めている。
もちろん、女性としてではない。
六歳下だからといって、妹や子どもに向けるような親愛でもない。
強いて言うのなら、人間としてそばにいてほしいと思っている。
普通に暮らしている者のように、何も考えずにルーチェと話すのが楽しい。
ここで距離を置いたことで人質にされてしまうくらいなら、
ずっと俺のそばにいてほしいと思うくらいには大事だった。
そう思ってルーチェに婚約しないかと持ち掛けた。
契約婚約のようなものだろうか。
アントシュの国王と王太子が見つかれば白紙になる可能性が高い。
それまででいいから、もう少しだけそばにいてくれたらいいと思った。
それからもう三年半が過ぎた。
アントシュの国王と王太子はまだ見つかっていない。
ここまで見つからないのなら、もう見つからないのかもしれない。
あと二年半、何もなければルーチェにこのまま結婚することになる。
十六歳になった今のルーチェのそばにいると、
ふいに抱きしめてしまいそうになる。
人形のように見えた容姿は、あいかわらず綺麗だと思うけれど、
それよりも朝起きてあくびをするところや、眠そうな時に眉を寄せてる顔のほうが好きだ。
女性として見ているなんて伝えたら傷つけてしまいそうで、まだ何も言えないけれど。
それ以前に、俺がしたことを知ったらルーチェは俺を軽蔑するかもしれない。
母上たちを閉じ込めていることを知られたくない。
いつかは、結婚する前には伝えなくてはいけないと思っているけれど。
もう少し後でにしよう。
そんな風にずっと後回しにしてきたけれど、ついに聞かれてしまった。
「……えっと、学園で噂を聞いたんです。
アルフレッド様が冷酷王子って呼ばれているって」
「ああ……それを聞いたのか」
この時が来てしまった……。
ため息をつきながら、俺はルーチェを塔へ案内した。
できれば嫌わないでほしいと願いながら。
「アルフレッド様が好きです。
だから、私を逃がさないでください」
「……ああ。ありがとう」
振り向いたら、ルーチェが涙目で笑っていた。
いいのだろうか、手を伸ばしても。
俺のそばにいてほしい、いなくならないでほしい。
そんな願いを伝えても許されるのだろうか。
抱きしめてもルーチェは逃げなかった。
そのままきつく抱きしめたら、ルーチェの手が背中に回される。
「何度でも言います。アルフレッド様が好きです」
「……俺も……俺もルーチェが好きだ」
「っ!……はい!」
好きだと伝えられたら、気持ちがぐっと楽になった。
今までのすべてが、ルーチェによって許された気がした。
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【本編完結】初恋のその先で、私は母になる
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。
王宮で12年働き、気づけば28歳。
恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。
優しく守ろうとする彼。
けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。
揺れる想いの中で、彼女が選んだのは――
自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。
これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。
※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。
本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?
神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。
カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。
(※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
【完結】病弱な妹に魔力を分け続け死ぬ寸前の私を、宮廷魔術師になった旧友が攫ってくれました。家族を捨てて幸せになっていいんですか?
未知香
恋愛
「あなたはもう十分楽しんだでしょう? 今度はミアーラの番よ」
膨大な魔力と知識を持ち、聖女候補とまで言われた、天才魔術師エリアーナ。
彼女は、病弱な妹ミアーラの為、家族に言われるまま自らの膨大な魔力を差し出すことにした。
「そうだ。私は健康で、今まで十分に楽しんできた。だから、あげるのは当然だ」
魔力を与え続けた結果、彼女は魔力を失い、容姿も衰え、社交界から姿を消してしまう事となった。
一方、妹ミアーラは姉から与えられた魔力を使い、聖女候補として称賛されるように。
家族の呪縛に縛られ、「今まで多くを貰いすぎていたのだ」と信じ、利用され続けるエリアーナ。
そんな彼女の前に現れたのは、かつての旧友であり宮廷魔術師となった青年だった。
ハッピーエンドです!
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。