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10.呼び出し(オーバン王太子)
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「宰相、結界を一時的に消せ」
「え?ですが……」
「そうでなければ騎士たちも動けん。アンリエットがいなくなったんだぞ。
すぐに探さなければならない。
アンリエットがいなくなったら、この国は終わるぞ」
「……わかりました。
すぐに結界を解除いたします」
俺たちは父上の執務室に戻り、宰相が王都の結界を一時的に解除した。
腕輪をしていない俺たちには変化がわからないが、
これで貴族たちが魔力を吸われることはなくなる。
数時間後、ようやく騎士や文官、侍女たちが王宮に来始めた。
だが、一度魔力を吸われたら戻るまで時間がかかるのか、
顔色が悪くふらついているものばかりだ。
ある程度騎士がそろったところで、
宰相が指示を出して、アンリエットの捜索が始まる。
もう夕方に近い時間になってしまっている。
早く探さないといけないのに……。
焦っていると、ようやく昨日のアンリエットの行動が報告された。
「陛下、昨日の日中にアンリエット様のところに、
妹のジョアンヌ様が来ていたそうです。
そして夕方にルメール侯爵家の使いの馬車が来ていたと」
「もしや、アンリエットはルメール侯爵家にいるのか?
すぐに使いを送って、ルメール侯爵とジョアンヌを呼び出せ!」
ジョアンヌがアンリエットのところに?
仲が悪いはずだが、何の用で行ったんだ?
ルメール侯爵家に使いを送ったが、なかなか侯爵は来ない。
廊下に出て、窓から馬車着き場をながめていると、
後ろから声をかけられる。
振り向いたら、第二王子のエミールだった。
「なんだ、エミールか」
「なんだじゃないよ。兄上、何が起きているんだ?
母様が不安がっているから様子を見に来たんだ」
「なんでもないよ」
側妃から生まれたエミールは、側妃の宮に住んでいる。
一つしか年が違わないこともあって、
俺が王太子になるかどうか十歳まで待たされた。
金髪茶目の俺と銀髪緑目のエミールは顔立ちも違う。
一つ下のくせに身体はエミールの方が大きいし、
王子教育もエミールの方が早く終わっている。
今でもエミールを王太子にという声があるのは知っている。
だが、アンリエットの婚約者は俺だ。
アンリエットが俺に惚れている限り、問題ないと思っていたのに。
「これだけ騒ぎになっているのに、何でもないことはないだろうに。
もしかして、アンリエット様に何かあった?」
「……どうしてそう思うんだ?」
「え?だって、婚約者には大事にされないし、
義家族には冷たくされているし、
逃げたくなってもおかしくないなってずっと思ってたんだ。
あれ……?本当に逃げちゃったの?」
「逃げてはいない……」
逃げたわけはない。アンリエットが俺から離れるわけがない。
「そう?でも、婚約者をジョアンヌにする予定だって、
学園で噂になっているようだし」
「噂だと?」
「違うの?兄上がそう言ったんでしょう?」
「そんなことはありえない!」
ジョアンヌが来るとアンリエットが嫉妬するのが面白かっただけで、
本気でジョアンヌに変えようなんて思うわけがない。
「ふうん。そうなんだ。兄上もいいかげんに素直にならないと、
大事なものが消えてから後悔しても遅いと思うけどね」
「うるさい」
「そう、まぁ俺には関係ないけど」
エミールは会話をする気がなくなったのか、
首をすくめて離れていく。
側妃の宮に戻るつもりなのか。
それにしても学園で噂だと?
婚約者をジョアンヌにすると言ったのは、王宮で一度きりだ。
どうしてそれが噂になるんだ。
疑問に思っていたら、ルメール侯爵が王宮に到着したと知らされる。
謁見室に父上と移動して待っていると、ルメール侯爵とジョアンヌが入ってくる。
やはり二人も魔力を吸われていたのか、疲れた顔をしている。
ジョアンヌはいつもとは違い、髪が乱れたままだ。
急いで王宮に来るように言ったからだろうか。
「ルメール侯爵、ジョアンヌ、来てもらったのは、
アンリエットのことを聞きたいからだ。
アンリエットは侯爵家にいるのか?」
「うちにですか?いませんが?」
「侯爵家に行ったわけではないのか……。
昨日、侯爵はアンリエットのところに使いを送ったのだろう?
何の用があったのだ?」
「使いですか?
いえ、アンリエットのところには何も」
どうしてここに呼び出されたのかわからない、
そんな困惑しているような顔の侯爵に不安が募る。
「何も?……ジョアンヌ、お前はアンリエットの部屋に行ったそうだな。
何の用があったのだ?」
皆がジョアンヌを見ると、ジョアンヌはなぜかうれしそうに笑う。
「実は……オーバン様が私を婚約者にしてくれるというので、
アンリエットにその話をしに行ってました」
「「「は?」」」
俺と父上と侯爵の声が重なる。
ジョアンヌはそれにはかまわずに満面の笑みで話し続ける。
「学園に入ってからオーバン様と親しくさせてもらっていて、
アンリエットと婚約者を交換したいと言ってもらえて……
私、とってもうれしくて」
「ちょっとまて、ジョアンヌ。何の話をしているんだ?」
「え?オーバン様がこの前言ってくれたことですよ?
アンリエットなんて魔力なしだから王太子妃にふさわしくない、
私のほうがよっぽどいいから交換してしまおうって」
「それは……無理だと終わった話だろう」
「無理なんかじゃないです。
だって、アンリエットを侯爵家の籍から外せばいいのだもの」
「だから、それは署名が必要だから無理だって」
「無理じゃないですよ。もうアンリエットは侯爵家から外れました。
もう、私がオーバン様の婚約者になっているはずです!」
「「「はぁぁ!?」」」
俺がジョアンヌを問い詰める前に、ジョアンヌの隣にいた侯爵が取り乱す。
「お前!いったい何をしたんだ!?」
「え?……お父様、どうして怒っているの?」
「え?ですが……」
「そうでなければ騎士たちも動けん。アンリエットがいなくなったんだぞ。
すぐに探さなければならない。
アンリエットがいなくなったら、この国は終わるぞ」
「……わかりました。
すぐに結界を解除いたします」
俺たちは父上の執務室に戻り、宰相が王都の結界を一時的に解除した。
腕輪をしていない俺たちには変化がわからないが、
これで貴族たちが魔力を吸われることはなくなる。
数時間後、ようやく騎士や文官、侍女たちが王宮に来始めた。
だが、一度魔力を吸われたら戻るまで時間がかかるのか、
顔色が悪くふらついているものばかりだ。
ある程度騎士がそろったところで、
宰相が指示を出して、アンリエットの捜索が始まる。
もう夕方に近い時間になってしまっている。
早く探さないといけないのに……。
焦っていると、ようやく昨日のアンリエットの行動が報告された。
「陛下、昨日の日中にアンリエット様のところに、
妹のジョアンヌ様が来ていたそうです。
そして夕方にルメール侯爵家の使いの馬車が来ていたと」
「もしや、アンリエットはルメール侯爵家にいるのか?
すぐに使いを送って、ルメール侯爵とジョアンヌを呼び出せ!」
ジョアンヌがアンリエットのところに?
仲が悪いはずだが、何の用で行ったんだ?
ルメール侯爵家に使いを送ったが、なかなか侯爵は来ない。
廊下に出て、窓から馬車着き場をながめていると、
後ろから声をかけられる。
振り向いたら、第二王子のエミールだった。
「なんだ、エミールか」
「なんだじゃないよ。兄上、何が起きているんだ?
母様が不安がっているから様子を見に来たんだ」
「なんでもないよ」
側妃から生まれたエミールは、側妃の宮に住んでいる。
一つしか年が違わないこともあって、
俺が王太子になるかどうか十歳まで待たされた。
金髪茶目の俺と銀髪緑目のエミールは顔立ちも違う。
一つ下のくせに身体はエミールの方が大きいし、
王子教育もエミールの方が早く終わっている。
今でもエミールを王太子にという声があるのは知っている。
だが、アンリエットの婚約者は俺だ。
アンリエットが俺に惚れている限り、問題ないと思っていたのに。
「これだけ騒ぎになっているのに、何でもないことはないだろうに。
もしかして、アンリエット様に何かあった?」
「……どうしてそう思うんだ?」
「え?だって、婚約者には大事にされないし、
義家族には冷たくされているし、
逃げたくなってもおかしくないなってずっと思ってたんだ。
あれ……?本当に逃げちゃったの?」
「逃げてはいない……」
逃げたわけはない。アンリエットが俺から離れるわけがない。
「そう?でも、婚約者をジョアンヌにする予定だって、
学園で噂になっているようだし」
「噂だと?」
「違うの?兄上がそう言ったんでしょう?」
「そんなことはありえない!」
ジョアンヌが来るとアンリエットが嫉妬するのが面白かっただけで、
本気でジョアンヌに変えようなんて思うわけがない。
「ふうん。そうなんだ。兄上もいいかげんに素直にならないと、
大事なものが消えてから後悔しても遅いと思うけどね」
「うるさい」
「そう、まぁ俺には関係ないけど」
エミールは会話をする気がなくなったのか、
首をすくめて離れていく。
側妃の宮に戻るつもりなのか。
それにしても学園で噂だと?
婚約者をジョアンヌにすると言ったのは、王宮で一度きりだ。
どうしてそれが噂になるんだ。
疑問に思っていたら、ルメール侯爵が王宮に到着したと知らされる。
謁見室に父上と移動して待っていると、ルメール侯爵とジョアンヌが入ってくる。
やはり二人も魔力を吸われていたのか、疲れた顔をしている。
ジョアンヌはいつもとは違い、髪が乱れたままだ。
急いで王宮に来るように言ったからだろうか。
「ルメール侯爵、ジョアンヌ、来てもらったのは、
アンリエットのことを聞きたいからだ。
アンリエットは侯爵家にいるのか?」
「うちにですか?いませんが?」
「侯爵家に行ったわけではないのか……。
昨日、侯爵はアンリエットのところに使いを送ったのだろう?
何の用があったのだ?」
「使いですか?
いえ、アンリエットのところには何も」
どうしてここに呼び出されたのかわからない、
そんな困惑しているような顔の侯爵に不安が募る。
「何も?……ジョアンヌ、お前はアンリエットの部屋に行ったそうだな。
何の用があったのだ?」
皆がジョアンヌを見ると、ジョアンヌはなぜかうれしそうに笑う。
「実は……オーバン様が私を婚約者にしてくれるというので、
アンリエットにその話をしに行ってました」
「「「は?」」」
俺と父上と侯爵の声が重なる。
ジョアンヌはそれにはかまわずに満面の笑みで話し続ける。
「学園に入ってからオーバン様と親しくさせてもらっていて、
アンリエットと婚約者を交換したいと言ってもらえて……
私、とってもうれしくて」
「ちょっとまて、ジョアンヌ。何の話をしているんだ?」
「え?オーバン様がこの前言ってくれたことですよ?
アンリエットなんて魔力なしだから王太子妃にふさわしくない、
私のほうがよっぽどいいから交換してしまおうって」
「それは……無理だと終わった話だろう」
「無理なんかじゃないです。
だって、アンリエットを侯爵家の籍から外せばいいのだもの」
「だから、それは署名が必要だから無理だって」
「無理じゃないですよ。もうアンリエットは侯爵家から外れました。
もう、私がオーバン様の婚約者になっているはずです!」
「「「はぁぁ!?」」」
俺がジョアンヌを問い詰める前に、ジョアンヌの隣にいた侯爵が取り乱す。
「お前!いったい何をしたんだ!?」
「え?……お父様、どうして怒っているの?」
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