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11.親子喧嘩(オーバン王太子)
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「無理じゃないですよ。もうアンリエットは侯爵家から外れました。
もう、私がオーバン様の婚約者になっているはずです!」
「「「はぁぁ!?」」」
俺がジョアンヌを問い詰める前に、ジョアンヌの隣にいた侯爵が取り乱す。
「お前!いったい何をしたんだ!?」
「え?……お父様、どうして怒っているの?」
「どうして勝手にそんなことをしたんだ!」
「でも、お父様だって言っていたじゃない。オーバン様の妃になるのは私だって!」
「それはまだ先の話だと言っただろう!?」
ジョアンヌは自分がしでかしたことの重大さがわかっていないのか、
侯爵に叱られても平然としている。
……え、俺の婚約者がジョアンヌになっているだと?
「どうして今じゃダメなのよ」
「アンリエットは侯爵家から外さずに、
陛下の許可をもらって婚約の契約書のほうを変える予定だったんだ!」
「でもね、お父様、オーバン様が私を婚約者にしてもいいって言ってくれたのよ?
お父様に相談しようと思ったのに、全然屋敷に帰ってこないから、
仕方なくお母様に相談したんだから」
まずいと思った時には遅かった。
ずっと黙って聞いていた父上がジョアンヌの言葉を確認するように聞いた。
「それは本当なのか?」
「本当です!アンリエットの前でオーバン様が言ってくれたんです!」
「ほう……オーバン、本当なのか?」
「いえ、あの……冗談のつもりで」
「冗談であっても、アンリエットの前で言ったのだな?」
「……はい。ですが、本気ではありません!」
「だろうな」
本気ではないとわかってもらってほっとしたが、
問題はまだ何も解決していない。
「ルメール侯爵、アンリエットを侯爵家から外さない予定だったのは、
どういう考えがあってのことだ?」
「え……あの、オビーヌ侯爵領との取引ができなくなるからです」
「オビーヌ侯爵領?ああ、アンリエットの実母の」
「はい。オビーヌ侯爵領で作られる銀細工は、
オビーヌ侯爵家の血筋のものがいなければ商売することを認められません。
今、ルメール侯爵家の商会が王都で銀細工を売ることができるのは、
オビーヌ侯爵の孫であるアンリエットがいるからです。
ルメール侯爵家の籍から外してしまえば、うちは銀細工を売ることができなくなります」
そんな契約があったとは知らなかった。
オビーヌ侯爵領で作られる銀細工は王都の貴族だけでなく、
他国の貴族も欲しがる人気の品だ。
ルメール侯爵家の商会で売れなくなればかなりの痛手だろう。
「ああ、そういう契約であったのか。
だが、それだけではないよな?」
「……え」
「魔力を全部吸わせる契約をさせたのは侯爵だな?」
「……」
「アンリエットがいなくなった結果、王都中の貴族が倒れた。
今までアンリエットが結界に必要な魔力のほとんどをまかなっていたからだ」
「は?いや、そんなわけないと思います。たかが一人の令嬢ですよ?」
侯爵はアンリエットの魔力の多さを知らなかったらしい。
では、なんのために魔力すべてを取り上げるような真似をしたのか。
「侯爵のせいで八歳から毎日すべての魔力を吸われていたからだろう。
魔力の器が成長して、今ではそれだけの魔力量になってしまっている。
それが突然いなくなったから、貴族たちは数年ぶりに魔力を吸われることになった」
「……もしや、今朝から体調が悪かったのは」
「そのせいだ。おかげで今は結界を一時停止している。
十年前から貴族全員で供給できていたならば、
こんなことにはならなかっただろうに。
ルメール侯爵、どう責任をとるんだ?」
「……申し訳ありません」
侯爵が深く頭を下げるけれど、謝ったところでどうしようもない。
王都の結界はアンリエットが戻らない限り、復活することができない。
今はまだ何も異常はないが、もし魔獣が入り込んできたら。
王都の中は安全だと思っている平民たちは大騒ぎになるに違いない。
「アンリエットがどこに行ったのか心当たりはあるか?
まずは一刻も早く連れ戻さなくてはならない。
祖父母がいるのなら、オビーヌ侯爵領に行ったのか?」
「……アンリエットは馬車が怖くて乗れません。
ですので、遠くには行っていないでしょう」
「そういえばそうだったな。
旅先で両親が馬車に乗っているところを襲われたのだったな。
そのせいでルメール侯爵家に行けずに王宮に住まわせていたのか」
「おそらく、アンリエットが侯爵家から外されたことを知って、
侍女と護衛が連れて逃げたのでしょう」
「侍女と護衛が?」
「はい。二人はアンリエットに同情しておりました。
もし、馬車に乗って逃げたのなら、
無理やり眠らせて連れ去ったのではないでしょうか」
「アンリエットが自分の意思で逃げたのではないと?」
「アンリエットにそのような意思はありません。
人形のように素直で従順な性格ですから。
きっとまだ王都内に隠れていると思います」
人形……たしかにアンリエットは人形のようだった。
少しも成長せず、何を言っても素直にうなずくだけ。
笑った顔も怒った顔も見たことがない。
銀色の髪にはっきりとした青目。
整った顔立ちに凹凸のない身体。
美しいのだが、面白みがないと思っていた。
だからこそ、ジョアンヌと仲良くしているのを見せつけると、
表情は変わらなくても声がいらだっているのが楽しかった。
まさか、それがきっかけでこんなことになるとは。
「その侍女と護衛を探させよう。名前と特徴は?」
「ランとレンです。茶髪茶目で背が高く、目つきが悪いです」
「よし、わかった。侯爵の処罰はアンリエットが見つかってからだ。
見つからないようであれば、覚悟しておけ」
「は、はい!」
もう、私がオーバン様の婚約者になっているはずです!」
「「「はぁぁ!?」」」
俺がジョアンヌを問い詰める前に、ジョアンヌの隣にいた侯爵が取り乱す。
「お前!いったい何をしたんだ!?」
「え?……お父様、どうして怒っているの?」
「どうして勝手にそんなことをしたんだ!」
「でも、お父様だって言っていたじゃない。オーバン様の妃になるのは私だって!」
「それはまだ先の話だと言っただろう!?」
ジョアンヌは自分がしでかしたことの重大さがわかっていないのか、
侯爵に叱られても平然としている。
……え、俺の婚約者がジョアンヌになっているだと?
「どうして今じゃダメなのよ」
「アンリエットは侯爵家から外さずに、
陛下の許可をもらって婚約の契約書のほうを変える予定だったんだ!」
「でもね、お父様、オーバン様が私を婚約者にしてもいいって言ってくれたのよ?
お父様に相談しようと思ったのに、全然屋敷に帰ってこないから、
仕方なくお母様に相談したんだから」
まずいと思った時には遅かった。
ずっと黙って聞いていた父上がジョアンヌの言葉を確認するように聞いた。
「それは本当なのか?」
「本当です!アンリエットの前でオーバン様が言ってくれたんです!」
「ほう……オーバン、本当なのか?」
「いえ、あの……冗談のつもりで」
「冗談であっても、アンリエットの前で言ったのだな?」
「……はい。ですが、本気ではありません!」
「だろうな」
本気ではないとわかってもらってほっとしたが、
問題はまだ何も解決していない。
「ルメール侯爵、アンリエットを侯爵家から外さない予定だったのは、
どういう考えがあってのことだ?」
「え……あの、オビーヌ侯爵領との取引ができなくなるからです」
「オビーヌ侯爵領?ああ、アンリエットの実母の」
「はい。オビーヌ侯爵領で作られる銀細工は、
オビーヌ侯爵家の血筋のものがいなければ商売することを認められません。
今、ルメール侯爵家の商会が王都で銀細工を売ることができるのは、
オビーヌ侯爵の孫であるアンリエットがいるからです。
ルメール侯爵家の籍から外してしまえば、うちは銀細工を売ることができなくなります」
そんな契約があったとは知らなかった。
オビーヌ侯爵領で作られる銀細工は王都の貴族だけでなく、
他国の貴族も欲しがる人気の品だ。
ルメール侯爵家の商会で売れなくなればかなりの痛手だろう。
「ああ、そういう契約であったのか。
だが、それだけではないよな?」
「……え」
「魔力を全部吸わせる契約をさせたのは侯爵だな?」
「……」
「アンリエットがいなくなった結果、王都中の貴族が倒れた。
今までアンリエットが結界に必要な魔力のほとんどをまかなっていたからだ」
「は?いや、そんなわけないと思います。たかが一人の令嬢ですよ?」
侯爵はアンリエットの魔力の多さを知らなかったらしい。
では、なんのために魔力すべてを取り上げるような真似をしたのか。
「侯爵のせいで八歳から毎日すべての魔力を吸われていたからだろう。
魔力の器が成長して、今ではそれだけの魔力量になってしまっている。
それが突然いなくなったから、貴族たちは数年ぶりに魔力を吸われることになった」
「……もしや、今朝から体調が悪かったのは」
「そのせいだ。おかげで今は結界を一時停止している。
十年前から貴族全員で供給できていたならば、
こんなことにはならなかっただろうに。
ルメール侯爵、どう責任をとるんだ?」
「……申し訳ありません」
侯爵が深く頭を下げるけれど、謝ったところでどうしようもない。
王都の結界はアンリエットが戻らない限り、復活することができない。
今はまだ何も異常はないが、もし魔獣が入り込んできたら。
王都の中は安全だと思っている平民たちは大騒ぎになるに違いない。
「アンリエットがどこに行ったのか心当たりはあるか?
まずは一刻も早く連れ戻さなくてはならない。
祖父母がいるのなら、オビーヌ侯爵領に行ったのか?」
「……アンリエットは馬車が怖くて乗れません。
ですので、遠くには行っていないでしょう」
「そういえばそうだったな。
旅先で両親が馬車に乗っているところを襲われたのだったな。
そのせいでルメール侯爵家に行けずに王宮に住まわせていたのか」
「おそらく、アンリエットが侯爵家から外されたことを知って、
侍女と護衛が連れて逃げたのでしょう」
「侍女と護衛が?」
「はい。二人はアンリエットに同情しておりました。
もし、馬車に乗って逃げたのなら、
無理やり眠らせて連れ去ったのではないでしょうか」
「アンリエットが自分の意思で逃げたのではないと?」
「アンリエットにそのような意思はありません。
人形のように素直で従順な性格ですから。
きっとまだ王都内に隠れていると思います」
人形……たしかにアンリエットは人形のようだった。
少しも成長せず、何を言っても素直にうなずくだけ。
笑った顔も怒った顔も見たことがない。
銀色の髪にはっきりとした青目。
整った顔立ちに凹凸のない身体。
美しいのだが、面白みがないと思っていた。
だからこそ、ジョアンヌと仲良くしているのを見せつけると、
表情は変わらなくても声がいらだっているのが楽しかった。
まさか、それがきっかけでこんなことになるとは。
「その侍女と護衛を探させよう。名前と特徴は?」
「ランとレンです。茶髪茶目で背が高く、目つきが悪いです」
「よし、わかった。侯爵の処罰はアンリエットが見つかってからだ。
見つからないようであれば、覚悟しておけ」
「は、はい!」
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