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27.王家からの書簡
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次の日から、シル兄様と私の結婚式準備が始められた。
式自体の準備はそれほどないが、衣装は縫うのに時間がかかる。
私とシル兄様は採寸をして、どんな意匠にするかお義母様と相談する。
シル兄様と結婚できるなんて思ってもいなかったから、
急に言われてもどんなのがいいかわからなかったし、
シル兄様は自分の衣装には興味がないようで、
二人ともお義母様にお任せすることにした。
それでいいのかと思わなくもないけれど、
お義母様は娘の結婚式のドレスを決めるのが夢だったそうなので、
これも親孝行なのかもしれない。
シル兄様は相変わらず私を甘やかしてくれていたけれど、
距離感はさほど変わったようには見えない。
変わったのは私のほうで、
じっと見つめられると恥ずかしくなって目をそらしてしまうため、
後ろから抱きしめられることが増えたくらいだった。
結婚式の日取りが決まれば、私の覚悟もできるはず。
そう思っていたのだけど。
準備が進められていく中、王家から書簡が届いた。
その書簡には、私とシル兄様の婚約は受理できないと書かれていた。
理由は私の身元が確認できていないから、と。
そのため王宮に私を連れてくるようにとのことだったが、これは異例のことらしい。
書簡を読んだお義父様とシル兄様も困惑しているようだ。
「まさか、王宮から呼ばれるとはな」
「どういうことなんだ?」
「おそらく身分のことが問題ではない。
これはカトリーヌ嬢が何かしたのかもしれない」
「何かって」
「うちの婚約について異議申し立てをしたとか」
「は?」
婚約に異議申し立て?そんなこと他家からできるのだろうか。
オトニエル国では聞いたことがない。
「お義父様、どうしてカトリーヌ様が異議申し立てできるのですか?」
「カトリーヌ嬢と決まったわけではないが、可能性が高い。
これは婚約が決まっていたのに裏切って違う人と婚約をした場合や、
婚約者がいても先に身ごもってしまった場合などにするものだ」
「だからカトリーヌ様かもしれないと?」
「むこうは正式な見合いを申し込んでいたからな。
それをうちは断り切れないままアンリエットと婚約した。
両方の婚約話を同時に進めていたと思われても仕方ない」
「俺はカトリーヌ嬢と見合いするなんて承諾していない!」
「わかってる。これは言い掛かりのようなものだ。
それでも王家としてみれば調査しないわけにもいかない」
これが本当にウガール侯爵家からの申し立てだった場合、
パジェス侯爵家とは同等の爵位からの申し立てになる。
王家としてはどちらの言い分も聞かなくてはならない。
「では、私が王宮に行って、身元を確認できればいいのですか?」
「アンリエットの身元を確認して、
シルヴァンに他の令嬢と見合いをする気がなかったことを証明できれば。
それ以上はウガール侯爵家でも難癖付けられないはずだ」
「じゃあ、行くしかないですね、シル兄様」
「あ、ああ。あまり行きたくはないが、仕方ないな」
何か嫌なことでもあるのか、シル兄様が渋い顔をしている。
シル兄様が王都にいたのは学園にいた五年間。
私と離れて少しして学園に入学し、二十歳までいた場所。
それからは年に一度の王家主催の夜会にしか行っていないらしい。
王都にもパジェス侯爵家の屋敷があるそうだが、
オディロン様が管理している。
「ねぇ、シル兄様」
「なんだ?」
「どうして王都に行きたがらないの?」
「それは……」
「王都っていうか、王宮に行くのが嫌なの?」
「ああ、そうだな……」
「どうして?何かあるなら先に言っておいてほしい」
言いたくないことがあるのか、シル兄様の唇がきつく結ばれている。
そんなに嫌なんだろうかと視線をそらさずにいたら、
あきらめたようにため息をついた。
「俺の自意識過剰かもしれないが、第二王女に好かれている気がする」
「第二王女様?」
「ああ、学園にいた頃は兄上と一緒に呼ばれることも多かったんだ。
その頃から陛下は第一王女の降嫁先にうちを考えていたから」
「それはわかる気がするわ。
オディロン様にもし何かあればシル兄様が継ぐことになるもの」
「そうだと思う。だけど、第一王女は最初から兄上に夢中で。
俺を呼ぶ必要なんてなかったと思うよ」
シル兄様が学園にいた頃から第一王女はオディロン様に夢中?
なのに、婚約の話はこれから……
「ねぇ、第一王女様って何歳なの?」
「来年、学園を卒業する十九歳だよ。
兄上が二十八だから九歳年下になるかな。
今年のうちに婚約して、卒業したらすぐに結婚したいんだと思う」
私より一つ年上なんだ。
当時のオディロン様は十八歳。
九歳の王女に一目ぼれされて……どう思ったのかな。
「じゃあ、第二王女って何歳なの?」
「今は十七歳だったはず。
第一王女の婚約が決まらないと第二王女の婚約者探しは始まらないと思う」
「ふうん……あれ。
カトリーヌ様の時に、高位貴族の嫡子は結婚しているって言わなかった?」
「カトリーヌ嬢に年が近い嫡子はね。
十五歳と十四歳の公爵家の嫡子が一人ずついる。
どちらも婚約者はいないけど、
さすがに二十五歳のカトリーヌの結婚相手にはならないよ」
十五歳と十四歳……十七歳の王女の相手としては問題ない範囲かな。
「第二王女からシル兄様に婚約を申し込まれることはないの?」
「同じパジェス家に二人も王女を結婚させることはしないよ」
「それもそうね。他家が黙っていないわよね」
「それでもお茶につきあわされたりして、かなりめんどくさかったんだ。
だからあまり王都には行かないようにしていた」
「それは行きたくなくなるかも。聞いておいてよかったわ」
王宮に行けば会うことになるかもしれない。
先に聞いておいてよかった。できる限り王女には関わらないでおこう。
あ、でも第一王女は義姉になるの……?
「とにかく、急いで王宮に行って婚約を認めさせた方がいい。
すぐに出発する準備をしよう」
「明日には出れるな?」
「ああ、王都の屋敷に連絡してくれる?」
「わかった」
式自体の準備はそれほどないが、衣装は縫うのに時間がかかる。
私とシル兄様は採寸をして、どんな意匠にするかお義母様と相談する。
シル兄様と結婚できるなんて思ってもいなかったから、
急に言われてもどんなのがいいかわからなかったし、
シル兄様は自分の衣装には興味がないようで、
二人ともお義母様にお任せすることにした。
それでいいのかと思わなくもないけれど、
お義母様は娘の結婚式のドレスを決めるのが夢だったそうなので、
これも親孝行なのかもしれない。
シル兄様は相変わらず私を甘やかしてくれていたけれど、
距離感はさほど変わったようには見えない。
変わったのは私のほうで、
じっと見つめられると恥ずかしくなって目をそらしてしまうため、
後ろから抱きしめられることが増えたくらいだった。
結婚式の日取りが決まれば、私の覚悟もできるはず。
そう思っていたのだけど。
準備が進められていく中、王家から書簡が届いた。
その書簡には、私とシル兄様の婚約は受理できないと書かれていた。
理由は私の身元が確認できていないから、と。
そのため王宮に私を連れてくるようにとのことだったが、これは異例のことらしい。
書簡を読んだお義父様とシル兄様も困惑しているようだ。
「まさか、王宮から呼ばれるとはな」
「どういうことなんだ?」
「おそらく身分のことが問題ではない。
これはカトリーヌ嬢が何かしたのかもしれない」
「何かって」
「うちの婚約について異議申し立てをしたとか」
「は?」
婚約に異議申し立て?そんなこと他家からできるのだろうか。
オトニエル国では聞いたことがない。
「お義父様、どうしてカトリーヌ様が異議申し立てできるのですか?」
「カトリーヌ嬢と決まったわけではないが、可能性が高い。
これは婚約が決まっていたのに裏切って違う人と婚約をした場合や、
婚約者がいても先に身ごもってしまった場合などにするものだ」
「だからカトリーヌ様かもしれないと?」
「むこうは正式な見合いを申し込んでいたからな。
それをうちは断り切れないままアンリエットと婚約した。
両方の婚約話を同時に進めていたと思われても仕方ない」
「俺はカトリーヌ嬢と見合いするなんて承諾していない!」
「わかってる。これは言い掛かりのようなものだ。
それでも王家としてみれば調査しないわけにもいかない」
これが本当にウガール侯爵家からの申し立てだった場合、
パジェス侯爵家とは同等の爵位からの申し立てになる。
王家としてはどちらの言い分も聞かなくてはならない。
「では、私が王宮に行って、身元を確認できればいいのですか?」
「アンリエットの身元を確認して、
シルヴァンに他の令嬢と見合いをする気がなかったことを証明できれば。
それ以上はウガール侯爵家でも難癖付けられないはずだ」
「じゃあ、行くしかないですね、シル兄様」
「あ、ああ。あまり行きたくはないが、仕方ないな」
何か嫌なことでもあるのか、シル兄様が渋い顔をしている。
シル兄様が王都にいたのは学園にいた五年間。
私と離れて少しして学園に入学し、二十歳までいた場所。
それからは年に一度の王家主催の夜会にしか行っていないらしい。
王都にもパジェス侯爵家の屋敷があるそうだが、
オディロン様が管理している。
「ねぇ、シル兄様」
「なんだ?」
「どうして王都に行きたがらないの?」
「それは……」
「王都っていうか、王宮に行くのが嫌なの?」
「ああ、そうだな……」
「どうして?何かあるなら先に言っておいてほしい」
言いたくないことがあるのか、シル兄様の唇がきつく結ばれている。
そんなに嫌なんだろうかと視線をそらさずにいたら、
あきらめたようにため息をついた。
「俺の自意識過剰かもしれないが、第二王女に好かれている気がする」
「第二王女様?」
「ああ、学園にいた頃は兄上と一緒に呼ばれることも多かったんだ。
その頃から陛下は第一王女の降嫁先にうちを考えていたから」
「それはわかる気がするわ。
オディロン様にもし何かあればシル兄様が継ぐことになるもの」
「そうだと思う。だけど、第一王女は最初から兄上に夢中で。
俺を呼ぶ必要なんてなかったと思うよ」
シル兄様が学園にいた頃から第一王女はオディロン様に夢中?
なのに、婚約の話はこれから……
「ねぇ、第一王女様って何歳なの?」
「来年、学園を卒業する十九歳だよ。
兄上が二十八だから九歳年下になるかな。
今年のうちに婚約して、卒業したらすぐに結婚したいんだと思う」
私より一つ年上なんだ。
当時のオディロン様は十八歳。
九歳の王女に一目ぼれされて……どう思ったのかな。
「じゃあ、第二王女って何歳なの?」
「今は十七歳だったはず。
第一王女の婚約が決まらないと第二王女の婚約者探しは始まらないと思う」
「ふうん……あれ。
カトリーヌ様の時に、高位貴族の嫡子は結婚しているって言わなかった?」
「カトリーヌ嬢に年が近い嫡子はね。
十五歳と十四歳の公爵家の嫡子が一人ずついる。
どちらも婚約者はいないけど、
さすがに二十五歳のカトリーヌの結婚相手にはならないよ」
十五歳と十四歳……十七歳の王女の相手としては問題ない範囲かな。
「第二王女からシル兄様に婚約を申し込まれることはないの?」
「同じパジェス家に二人も王女を結婚させることはしないよ」
「それもそうね。他家が黙っていないわよね」
「それでもお茶につきあわされたりして、かなりめんどくさかったんだ。
だからあまり王都には行かないようにしていた」
「それは行きたくなくなるかも。聞いておいてよかったわ」
王宮に行けば会うことになるかもしれない。
先に聞いておいてよかった。できる限り王女には関わらないでおこう。
あ、でも第一王女は義姉になるの……?
「とにかく、急いで王宮に行って婚約を認めさせた方がいい。
すぐに出発する準備をしよう」
「明日には出れるな?」
「ああ、王都の屋敷に連絡してくれる?」
「わかった」
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