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28.ハーヤネン国の王都
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次の日、王都に向けて数台の馬車で出発した。
私はシル兄様と一緒に馬車に乗り、ランとレン、キールは別の馬車に乗る。
王宮に上がるためのドレスなども持って行かなければいけないため、
荷物も多いし、護衛もたくさんつけている。
大人数での旅は時間がかかるので、王都に着いたのは五日後のことだった。
ハーヤネン国の王都はオトニエル国のように城壁がない。
結界もないため、王都へは自由に入ることができる。
そのせいなのか王都の外も活気づいていて、
地方と結ぶ街道沿いにはたくさんの店があった。
パジェス侯爵家の屋敷は王宮に近いところにあった。
門扉が開けられると、屋敷の使用人たちが出迎えてくれる。
「王都の屋敷も広いのね」
「ああ。もとは王弟の屋敷だったところを賜ったんだ。
だから王宮からも近いし、敷地も広い」
「そうなのね。王宮へはいつ行くことになるの?」
「とりあえず、俺が一度王宮に行って、予定を打ち合わせてくる。
ついでに兄上に会って話してくるよ。
詳しい事情を知っているかもしれないから」
「わかったわ」
たしかにオディロン様なら何か知っているかもしれない。
オディロン様は王太子の側近として王宮にいるそうだ。
もともとはパジェス家を継ぐまでという約束だったそうだけど、
王族になるならこのまま側近として働くのだろう。
王太子はオディロン様を頼りにしているそうだし、
もしかして、王族に残したいのはそっちの理由だったりして。
翌日、シル兄様は昼過ぎに王宮に向かった。
キールと護衛を連れて行ったので、
私は屋敷でおとなしくしているようにと言われていた。
言われなくても一人で外に出て行くようなことはしないけど、
のんびりお茶を飲んで過ごそうと思っていたら、
ランとレンがお目付け役のように私を監視している。
「ラン、レン、そんなに心配しなくても大丈夫よ?」
「ですが、旦那様たちにもアンリエット様から離れるなと言われていまして」
「お義父様たちから?心配性なのね。
数時間もすればシル兄様も帰って来るし、何も問題ないわ……」
二人を安心させるように言うつもりだったのに、
途中で外が騒がしいことに気がつく。
「アンリエット様、門のあたりで揉めているようです。
何かあったのかもしれません」
「門?誰か押しかけて来てるとか?」
考えられるのはカトリーヌ様くらいだけど、
その場合は敷地内に入れずに帰ってもらうしかない。
どうするか使用人が判断を仰ぎに来るだろうと思っていると、
ドアが荒々しく開けられる。
「失礼する!」
「!?」
入ってきたのは騎士のようだ。
ハーヤネン国の紋章をつけているということは王宮騎士?
どうしてこの屋敷に?
「そこにいるレンとランという使用人に指名手配がされています。
連行しますので、おとなしく指示に従ってください」
「は?レンとランがどうして!」
「理由はわかりかねます。とにかく、邪魔はしないでください」
「ちょっと待ちなさい!勝手なことは許さないわ!」
「許さないと言われても、王宮騎士に逆らう権限をお持ちですか?」
「……それは」
私がオトニエル国の貴族であれば、ランとレンが私の使用人であれば、
勝手に連れて行くことは許さないと言えただろうけど、
今の私は平民で、ランとレンはパジェス侯爵家の使用人だ。
……私では文句を言う権利すらない。
「アンリエット様……騎士に従いましょう。
きっと何かの間違いでしょうから」
「レン……でも」
「大丈夫です。すぐに解放されると思います。
アンリエット様はシルヴァン様がお帰りになるまで、
絶対に屋敷から出ないでくださいね」
「ラン……絶対に助け出すから。待っていて」
今は何もできない。シル兄様が戻って来るのを待つしかできない。
ランとレンは抵抗せずに騎士たちに連れて行かれる。
残された私は屋敷の使用人に命じて、
王宮にいるシル兄様にこのことを知らせてくれるように頼んだ。
もしかしたらシル兄様がすぐにランとレンを助け出してくれるかもしれない。
そう願ってシル兄様の帰りを待ったが、
戻ってきたのはシル兄様とキールだけだった。
「アンリ!大丈夫か!?」
「シル兄様!ランとレンが……騎士に連れて行かれて」
「ああ、確認してみたら、オトニエル国から指名手配されていた。
アンリエットを誘拐した罪に問われている」
「ええ!?私を誘拐した……?」
「王宮からアンリが消えたのは二人が連れ出したからだと思われている。
すぐにアンリは誘拐なんてされていないと訴えたが、
オトニエル国が指名手配を解除しない限り解放できないと言われた」
「そんな……」
まさか私が王宮から逃げ出したことが誘拐だと思われていたとは。
たしかに誰にも見つからないようにこっそり抜け出してきたけど、
それがこんなことになるなんて思わなかった。
「アンリ……二人は貴族牢に入れるように言ってきた。
うちで雇っている使用人で元貴族だからな。
丁寧に扱うように命じてきたから、ひどいことにはならないはずだ」
「ありがとう……どうしてこんなことに」
「……アンリがいなくなったことでオトニエル国は大変な状況のようだ。
アンリを探すためにランとレンを指名手配したのだろう」
私はシル兄様と一緒に馬車に乗り、ランとレン、キールは別の馬車に乗る。
王宮に上がるためのドレスなども持って行かなければいけないため、
荷物も多いし、護衛もたくさんつけている。
大人数での旅は時間がかかるので、王都に着いたのは五日後のことだった。
ハーヤネン国の王都はオトニエル国のように城壁がない。
結界もないため、王都へは自由に入ることができる。
そのせいなのか王都の外も活気づいていて、
地方と結ぶ街道沿いにはたくさんの店があった。
パジェス侯爵家の屋敷は王宮に近いところにあった。
門扉が開けられると、屋敷の使用人たちが出迎えてくれる。
「王都の屋敷も広いのね」
「ああ。もとは王弟の屋敷だったところを賜ったんだ。
だから王宮からも近いし、敷地も広い」
「そうなのね。王宮へはいつ行くことになるの?」
「とりあえず、俺が一度王宮に行って、予定を打ち合わせてくる。
ついでに兄上に会って話してくるよ。
詳しい事情を知っているかもしれないから」
「わかったわ」
たしかにオディロン様なら何か知っているかもしれない。
オディロン様は王太子の側近として王宮にいるそうだ。
もともとはパジェス家を継ぐまでという約束だったそうだけど、
王族になるならこのまま側近として働くのだろう。
王太子はオディロン様を頼りにしているそうだし、
もしかして、王族に残したいのはそっちの理由だったりして。
翌日、シル兄様は昼過ぎに王宮に向かった。
キールと護衛を連れて行ったので、
私は屋敷でおとなしくしているようにと言われていた。
言われなくても一人で外に出て行くようなことはしないけど、
のんびりお茶を飲んで過ごそうと思っていたら、
ランとレンがお目付け役のように私を監視している。
「ラン、レン、そんなに心配しなくても大丈夫よ?」
「ですが、旦那様たちにもアンリエット様から離れるなと言われていまして」
「お義父様たちから?心配性なのね。
数時間もすればシル兄様も帰って来るし、何も問題ないわ……」
二人を安心させるように言うつもりだったのに、
途中で外が騒がしいことに気がつく。
「アンリエット様、門のあたりで揉めているようです。
何かあったのかもしれません」
「門?誰か押しかけて来てるとか?」
考えられるのはカトリーヌ様くらいだけど、
その場合は敷地内に入れずに帰ってもらうしかない。
どうするか使用人が判断を仰ぎに来るだろうと思っていると、
ドアが荒々しく開けられる。
「失礼する!」
「!?」
入ってきたのは騎士のようだ。
ハーヤネン国の紋章をつけているということは王宮騎士?
どうしてこの屋敷に?
「そこにいるレンとランという使用人に指名手配がされています。
連行しますので、おとなしく指示に従ってください」
「は?レンとランがどうして!」
「理由はわかりかねます。とにかく、邪魔はしないでください」
「ちょっと待ちなさい!勝手なことは許さないわ!」
「許さないと言われても、王宮騎士に逆らう権限をお持ちですか?」
「……それは」
私がオトニエル国の貴族であれば、ランとレンが私の使用人であれば、
勝手に連れて行くことは許さないと言えただろうけど、
今の私は平民で、ランとレンはパジェス侯爵家の使用人だ。
……私では文句を言う権利すらない。
「アンリエット様……騎士に従いましょう。
きっと何かの間違いでしょうから」
「レン……でも」
「大丈夫です。すぐに解放されると思います。
アンリエット様はシルヴァン様がお帰りになるまで、
絶対に屋敷から出ないでくださいね」
「ラン……絶対に助け出すから。待っていて」
今は何もできない。シル兄様が戻って来るのを待つしかできない。
ランとレンは抵抗せずに騎士たちに連れて行かれる。
残された私は屋敷の使用人に命じて、
王宮にいるシル兄様にこのことを知らせてくれるように頼んだ。
もしかしたらシル兄様がすぐにランとレンを助け出してくれるかもしれない。
そう願ってシル兄様の帰りを待ったが、
戻ってきたのはシル兄様とキールだけだった。
「アンリ!大丈夫か!?」
「シル兄様!ランとレンが……騎士に連れて行かれて」
「ああ、確認してみたら、オトニエル国から指名手配されていた。
アンリエットを誘拐した罪に問われている」
「ええ!?私を誘拐した……?」
「王宮からアンリが消えたのは二人が連れ出したからだと思われている。
すぐにアンリは誘拐なんてされていないと訴えたが、
オトニエル国が指名手配を解除しない限り解放できないと言われた」
「そんな……」
まさか私が王宮から逃げ出したことが誘拐だと思われていたとは。
たしかに誰にも見つからないようにこっそり抜け出してきたけど、
それがこんなことになるなんて思わなかった。
「アンリ……二人は貴族牢に入れるように言ってきた。
うちで雇っている使用人で元貴族だからな。
丁寧に扱うように命じてきたから、ひどいことにはならないはずだ」
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