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37.通された部屋
「ああ、ハーヤネン国の者だな。
アンリエットを保護してくれたと聞いている。
さぁ、アンリエット。部屋に戻ろう」
「いえ、アンリエットはそちらへは渡せません」
「は?何を言っているんだ?」
怒り出しそうなオーバン様を止めたのは宰相だった。
「オーバン様、旅から戻ったばかりの令嬢に近づいてはいけません。
身支度を整える時間を差し上げてください」
「だが、宰相」
「久しぶりに顔を見れてほっとしたのはわかりますが、
アンリエット様だって身体を清めてから会いたいに決まっています。
ほら、お部屋に戻ってお待ちしましょう?」
「あ、ああ」
強引に腕を引っ張って行かれたオーバン様は一応は納得したようだ。
だが、あれは何だったんだろう。
「アンリ、王太子には嫌われているって言わなかったか?」
「ええ、そうよ。だってずっと目もあわせてくれなかったし、
私が婚約者では嫌だから義妹と交換するって。
ジョアンヌが婚約者になって喜んでいるはずなんだけど」
「いや、あれはどう見てもアンリの帰りを待っていたよな」
「ええぇぇ」
オーバン様は初対面の時から私を嫌っていた。
お茶会には顔を出さず、会えば文句を言われ、
挙句の果てには義妹と目の前でいちゃつき始めたくらい。
私をもう一度婚約者にしたいのは陛下と王妃、
そして宰相と叔父様くらいだと思っていた。
私がいなければオーバン様が仕事をしなくてはいけなくなる。
そうなれば王太子教育が終わっていないのがバレてしまうし、
今後のことを考えても誰かがオーバン様の補佐をしなければいけない。
幼いころから厳しく教育してきた私を手放したくはないだろう。
そこまで考えて気がついた。
「もしかしたら、私がいなくなって仕事が大変なのかも。
王太子教育すら終わっていないオーバン様には無理だわ。
だから私に戻って来て仕事をしろと言いたいのかもしれない」
「……それもあるだろうけど、それだけなのか?」
なんだか納得しきれていないようなシル兄様の言葉に首をかしげる。
「まぁ、いいか。
王太子の気持ちはどうであれ、断ることには変わらないんだし」
「ええ、そうね」
すぐにでも陛下と謁見してもよかったけれど、
たしかに旅の汚れを落とす必要はありそう。
まずは湯あみをして身支度を整えることになりそうだ。
「ハーヤネン国の皆様、お部屋へご案内いたします」
王宮の使用人が案内してくれるのについていこうとしたら、
別の使用人から声をかけらえる。
「アンリエット様はお部屋へお戻りください」
「部屋?」
「ハーヤネン国の皆様は客室に案内しますが、
アンリエット様はご自分のお部屋がありますでしょう?」
「ないわよ。あの部屋は王太子の婚約者に与えられる部屋で、
私の部屋だったわけじゃないもの。
婚約者じゃなくなったんだから使うことはできないわ」
「いいえ、今もあの部屋はアンリエット様のものです。
家具もすべて新しくそろえてあります」
何も残さないでおいたのに、新しい家具を入れた?
まだ私の部屋にしているって、冗談じゃない。
「いやよ。そんなとこは使いたくないわ。
私はハーヤネン国のシルヴァン様の婚約者としてここに来ているの。
婚約者と一緒にいたいのよ」
「……は?いや、でも、宰相からの指示で」
「知らないわよ。王太子の婚約者に戻る気なんてないの。
シルヴァン様と同じ部屋にいくから、もういいわ」
シル兄様の腕に抱き着いて一緒に歩いていくと、
周りにいた侍女たちから悲鳴があがる。
そんなに騒ぐことでもないだろうに……
「アンリエット様、そんなことはおやめください。
王太子様が悲しみます!」
「オーバン様が悲しむ?そんなわけないじゃない」
「本当です!王太子様はアンリエット様を」
「もうどうでもいいの。私はシルヴァン様と毎夜を過ごしているのよ。
今さら王太子の婚約者になんて戻れないわ」
「な、なんてこと……」
ふらりと侍女が倒れそうになって、隣にいた侍女が支える。
あの侍女は古くから王宮にいたものだったのを思い出す。
「アンリ、さっきの発言は……」
「ええ?シル兄様がそういう風に使おうって言ってたじゃない」
「それは最終的な手段として、だ。
こんなとこで侍女に言っても仕方ないだろう」
「だって……私だけ違う部屋に行かされそうだったから」
「わかっているよ。ほら、一緒に行こう」
先頭で案内している使用人がどうしていいかわからず困っているようだったが、
オディロン様に案内するように命じられて歩き出す。
オディロン様とシル兄様はそれぞれに客室を用意されていた。
私が迷わずシル兄様の部屋に入ろうとすると使用人が止めようとする。
「あ、あの!この部屋は客人用のもので!寝台も一つしか!」
「このくらい広かったら大丈夫よ」
「ですが!」
「湯あみしたいから早く出て行って!」
「……はい……失礼いたします」
渋っていた使用人は強く言ったらあきらめて出て行った。
この会話も陛下には報告されるだろうな。
「アンリエット、先に湯を使うか?誰も部屋に入れないように見張っておく」
「ありがとう」
シル兄様がそういうのなら大丈夫だろう。
旅の間、湯あみすることは無理だったから、早くすっきりしたい。
私が湯あみを終えて出てくると、部屋のドアが魔力の糸で固められていた。
「これなら誰も入ってこれないわね」
「俺が湯あみしてくる間、誰が来ても返事しないように」
「はーい」
シル兄様が湯あみしている間、何度かドアがノックされたけれど、
私は何も聞かなかったことにした。
アンリエットを保護してくれたと聞いている。
さぁ、アンリエット。部屋に戻ろう」
「いえ、アンリエットはそちらへは渡せません」
「は?何を言っているんだ?」
怒り出しそうなオーバン様を止めたのは宰相だった。
「オーバン様、旅から戻ったばかりの令嬢に近づいてはいけません。
身支度を整える時間を差し上げてください」
「だが、宰相」
「久しぶりに顔を見れてほっとしたのはわかりますが、
アンリエット様だって身体を清めてから会いたいに決まっています。
ほら、お部屋に戻ってお待ちしましょう?」
「あ、ああ」
強引に腕を引っ張って行かれたオーバン様は一応は納得したようだ。
だが、あれは何だったんだろう。
「アンリ、王太子には嫌われているって言わなかったか?」
「ええ、そうよ。だってずっと目もあわせてくれなかったし、
私が婚約者では嫌だから義妹と交換するって。
ジョアンヌが婚約者になって喜んでいるはずなんだけど」
「いや、あれはどう見てもアンリの帰りを待っていたよな」
「ええぇぇ」
オーバン様は初対面の時から私を嫌っていた。
お茶会には顔を出さず、会えば文句を言われ、
挙句の果てには義妹と目の前でいちゃつき始めたくらい。
私をもう一度婚約者にしたいのは陛下と王妃、
そして宰相と叔父様くらいだと思っていた。
私がいなければオーバン様が仕事をしなくてはいけなくなる。
そうなれば王太子教育が終わっていないのがバレてしまうし、
今後のことを考えても誰かがオーバン様の補佐をしなければいけない。
幼いころから厳しく教育してきた私を手放したくはないだろう。
そこまで考えて気がついた。
「もしかしたら、私がいなくなって仕事が大変なのかも。
王太子教育すら終わっていないオーバン様には無理だわ。
だから私に戻って来て仕事をしろと言いたいのかもしれない」
「……それもあるだろうけど、それだけなのか?」
なんだか納得しきれていないようなシル兄様の言葉に首をかしげる。
「まぁ、いいか。
王太子の気持ちはどうであれ、断ることには変わらないんだし」
「ええ、そうね」
すぐにでも陛下と謁見してもよかったけれど、
たしかに旅の汚れを落とす必要はありそう。
まずは湯あみをして身支度を整えることになりそうだ。
「ハーヤネン国の皆様、お部屋へご案内いたします」
王宮の使用人が案内してくれるのについていこうとしたら、
別の使用人から声をかけらえる。
「アンリエット様はお部屋へお戻りください」
「部屋?」
「ハーヤネン国の皆様は客室に案内しますが、
アンリエット様はご自分のお部屋がありますでしょう?」
「ないわよ。あの部屋は王太子の婚約者に与えられる部屋で、
私の部屋だったわけじゃないもの。
婚約者じゃなくなったんだから使うことはできないわ」
「いいえ、今もあの部屋はアンリエット様のものです。
家具もすべて新しくそろえてあります」
何も残さないでおいたのに、新しい家具を入れた?
まだ私の部屋にしているって、冗談じゃない。
「いやよ。そんなとこは使いたくないわ。
私はハーヤネン国のシルヴァン様の婚約者としてここに来ているの。
婚約者と一緒にいたいのよ」
「……は?いや、でも、宰相からの指示で」
「知らないわよ。王太子の婚約者に戻る気なんてないの。
シルヴァン様と同じ部屋にいくから、もういいわ」
シル兄様の腕に抱き着いて一緒に歩いていくと、
周りにいた侍女たちから悲鳴があがる。
そんなに騒ぐことでもないだろうに……
「アンリエット様、そんなことはおやめください。
王太子様が悲しみます!」
「オーバン様が悲しむ?そんなわけないじゃない」
「本当です!王太子様はアンリエット様を」
「もうどうでもいいの。私はシルヴァン様と毎夜を過ごしているのよ。
今さら王太子の婚約者になんて戻れないわ」
「な、なんてこと……」
ふらりと侍女が倒れそうになって、隣にいた侍女が支える。
あの侍女は古くから王宮にいたものだったのを思い出す。
「アンリ、さっきの発言は……」
「ええ?シル兄様がそういう風に使おうって言ってたじゃない」
「それは最終的な手段として、だ。
こんなとこで侍女に言っても仕方ないだろう」
「だって……私だけ違う部屋に行かされそうだったから」
「わかっているよ。ほら、一緒に行こう」
先頭で案内している使用人がどうしていいかわからず困っているようだったが、
オディロン様に案内するように命じられて歩き出す。
オディロン様とシル兄様はそれぞれに客室を用意されていた。
私が迷わずシル兄様の部屋に入ろうとすると使用人が止めようとする。
「あ、あの!この部屋は客人用のもので!寝台も一つしか!」
「このくらい広かったら大丈夫よ」
「ですが!」
「湯あみしたいから早く出て行って!」
「……はい……失礼いたします」
渋っていた使用人は強く言ったらあきらめて出て行った。
この会話も陛下には報告されるだろうな。
「アンリエット、先に湯を使うか?誰も部屋に入れないように見張っておく」
「ありがとう」
シル兄様がそういうのなら大丈夫だろう。
旅の間、湯あみすることは無理だったから、早くすっきりしたい。
私が湯あみを終えて出てくると、部屋のドアが魔力の糸で固められていた。
「これなら誰も入ってこれないわね」
「俺が湯あみしてくる間、誰が来ても返事しないように」
「はーい」
シル兄様が湯あみしている間、何度かドアがノックされたけれど、
私は何も聞かなかったことにした。
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