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40.話し合い
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「アンリエット!出てこい!今なら許してやるから!」
「……許してやるって、なに?」
「浮気を許すって言っているんじゃないのかな」
「はぁ?」
何というか、これだけ何度もおかしな行動をされると、
シル兄様とオディロン様の言うことが正しいのかと思い始めた。
「まさか本当に私のことを好きだとか言うつもりなのかな」
「俺にはそうにしか見えないな。
どうせ素直になれなかったと言うんだろ」
「はぁぁ。すごくめんどくさい」
「どうする?相手するか?」
それもすごくめんどくさい。素直に聞いてくれなさそうだし。
放っておくことにしたら、しばらくして誰かがオーバン様を連れ戻しに来た。
「おい!離せ!」
「オーバン様、お戻りください!」
「やめろ!アンリエットを取り戻すんだ!アンリエット!!」
私の名を呼ぶオーバン様の声がだんだん遠ざかって行く。
「いなくなったようだな」
「また来たりしないかな?」
「来ないことを祈ろう」
「うん」
今日はいろんなことがあって疲れた。
それでも陛下たちにもう戻らないと伝えたことで気持ちはすっきりしていた。
この王宮にいた十年間、言いたいことも言えなくて。
ずっと苦しかった。
ようやく制限されず自分の言葉で話せたけど、
陛下たちは人形のように従っていた私が、
まったく言うことを聞かなくなっていて驚いたようだ。
「今日ここに着いたばかりだというのに、疲れたよな」
「うん……でもね、陛下たちの驚いた顔見た?
すごく楽しかった」
「そうだな。言いたいこと言えたか?」
「うん、でも、もういい。
早くパジェス侯爵領に帰りたい」
「そうだな」
シル兄様に抱きしめられ安心して目を閉じる。
オトニエル国の王宮でシル兄様と一緒に眠る日が来るなんて。
あの頃の自分に言っても信じないだろうな。
もう幸せになってもいいんだ。
シル兄様への想いを隠さなくてもいい。
それが何よりもうれしい。
次の日、いつもよりも遅めの時間に起きた。
私が疲れていると思って起こさないでくれていたらしい。
身支度を整えるとオディロン様とランが一緒に食事をするために部屋に来る。
「昨日の夜は騒がしかったな。
こちらの部屋にまで聞こえていた」
「ああ、王太子がアンリを連れ戻しに来たんだ」
「あまりにうるさいから、オトニエル国王に苦情を訴えた。
他国の客人の部屋に対して失礼過ぎるのではないかと」
「兄上が言ったから王太子を連れ戻しに来たのか」
「あのままでは眠れそうになかったからな」
オディロン様に言われたら陛下も困るはず。
今の時点ではオディロン様はハーヤネン国の王太子の側近。
将来の宰相候補であり、第一王女の婚約者だと思われている。
王族入りするかもしれないと言われているのだから、
下手なことをして怒らせるわけにもいかない。
残念ながらシル兄様がパジェス侯爵家の次期当主というだけでは、
陛下たちは横柄な態度のままだったと思う。
オディロン様がついてきてくれて助かった。
宰相でさえも無茶なことを言い出さなかった。
後は無事に報酬をもらって帰るだけ、なのだが。
あの宰相がこのまま引き下がるだろうか。
心配していた通り、昼過ぎになって宰相から使いの者が来た。
「ランを引き渡せだと?」
「はい。その者は指名手配されていますので、
こちらで審議して処分を決める必要があります」
「処分?罪を犯したわけでもないのに、おかしな話だな」
「それを決めるのはこちらですので」
昨日の謁見では指名手配の解除をすると言っていたのに、
処分を決めるための審議に連れて行こうとしている。
いつも穏やかなオディロン様が使いの者に笑みを消した。
「ほう。私の恋人を罪人扱いするのか」
「恋人?オディロン様は第一王女の婚約者だと聞いていますが?」
「……ふうん。そういうことを言うのか。
では、その審議には私も一緒に行こう」
「は?」
「宰相殿は謁見で我々とした約束を破った。
私の大事な女性を預けられるような信頼はなくなった。
一緒でなければ審議には出さない。
このままハーヤネン国に連れて帰ることにする」
「……わかりました。それでは一緒に来てもらえますか」
オディロン様がランと一緒に行ってくれるなら安心だけど、
本当に大丈夫なのかな。
シル兄様も同じことを考えたようでオディロン様に声をかける。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫ではないかもしれないが、あと四日だ。
それまでくらいなら守れるよ」
「……ああ」
「ちょっとお待ちください。アンリエット様、こちらへ」
「え?ラン?」
ランは私の手を引っ張って奥の部屋へと連れて行く。
「アンリエット様、私が戻って来なくても大丈夫なように、
こちらに日持ちする食糧を置いていきます。
ドレスなど必要な物もここに」
「あ、そうね。ありがとう。
ラン、何かされそうになったら一人でも逃げるのよ?」
「アンリエット様……」
「できればオディロン様と一緒に逃げて。
宰相に脅されても絶対に言うことは聞かないで」
「……わかりました」
ランは一度私のために男たちの言うとおりにしようとしたことがある。
あの時はシル兄様が助けに来てくれたからいいけれど、
あんな思いは二度としたくない。
使いの者についていくオディロン様とランを見送り、シル兄様と部屋にこもる。
レンも審議に連れて行かれているんだろうか。
何かあればキールと一緒に逃げるようにとは言ってあるけれど、
皆と離れ離れになってしまって不安になる。
連れてきたパジェス家の護衛たちは使用人たちの部屋で待機させられている。
そちらもどうなっているのかわからず、逃げる時はあてにならない。
オディロン様とランの帰りを待っていると、
来なくてもいい人が来てしまった。
「俺だ。オーバンだ。話がある。開けてもらえないだろうか」
「……許してやるって、なに?」
「浮気を許すって言っているんじゃないのかな」
「はぁ?」
何というか、これだけ何度もおかしな行動をされると、
シル兄様とオディロン様の言うことが正しいのかと思い始めた。
「まさか本当に私のことを好きだとか言うつもりなのかな」
「俺にはそうにしか見えないな。
どうせ素直になれなかったと言うんだろ」
「はぁぁ。すごくめんどくさい」
「どうする?相手するか?」
それもすごくめんどくさい。素直に聞いてくれなさそうだし。
放っておくことにしたら、しばらくして誰かがオーバン様を連れ戻しに来た。
「おい!離せ!」
「オーバン様、お戻りください!」
「やめろ!アンリエットを取り戻すんだ!アンリエット!!」
私の名を呼ぶオーバン様の声がだんだん遠ざかって行く。
「いなくなったようだな」
「また来たりしないかな?」
「来ないことを祈ろう」
「うん」
今日はいろんなことがあって疲れた。
それでも陛下たちにもう戻らないと伝えたことで気持ちはすっきりしていた。
この王宮にいた十年間、言いたいことも言えなくて。
ずっと苦しかった。
ようやく制限されず自分の言葉で話せたけど、
陛下たちは人形のように従っていた私が、
まったく言うことを聞かなくなっていて驚いたようだ。
「今日ここに着いたばかりだというのに、疲れたよな」
「うん……でもね、陛下たちの驚いた顔見た?
すごく楽しかった」
「そうだな。言いたいこと言えたか?」
「うん、でも、もういい。
早くパジェス侯爵領に帰りたい」
「そうだな」
シル兄様に抱きしめられ安心して目を閉じる。
オトニエル国の王宮でシル兄様と一緒に眠る日が来るなんて。
あの頃の自分に言っても信じないだろうな。
もう幸せになってもいいんだ。
シル兄様への想いを隠さなくてもいい。
それが何よりもうれしい。
次の日、いつもよりも遅めの時間に起きた。
私が疲れていると思って起こさないでくれていたらしい。
身支度を整えるとオディロン様とランが一緒に食事をするために部屋に来る。
「昨日の夜は騒がしかったな。
こちらの部屋にまで聞こえていた」
「ああ、王太子がアンリを連れ戻しに来たんだ」
「あまりにうるさいから、オトニエル国王に苦情を訴えた。
他国の客人の部屋に対して失礼過ぎるのではないかと」
「兄上が言ったから王太子を連れ戻しに来たのか」
「あのままでは眠れそうになかったからな」
オディロン様に言われたら陛下も困るはず。
今の時点ではオディロン様はハーヤネン国の王太子の側近。
将来の宰相候補であり、第一王女の婚約者だと思われている。
王族入りするかもしれないと言われているのだから、
下手なことをして怒らせるわけにもいかない。
残念ながらシル兄様がパジェス侯爵家の次期当主というだけでは、
陛下たちは横柄な態度のままだったと思う。
オディロン様がついてきてくれて助かった。
宰相でさえも無茶なことを言い出さなかった。
後は無事に報酬をもらって帰るだけ、なのだが。
あの宰相がこのまま引き下がるだろうか。
心配していた通り、昼過ぎになって宰相から使いの者が来た。
「ランを引き渡せだと?」
「はい。その者は指名手配されていますので、
こちらで審議して処分を決める必要があります」
「処分?罪を犯したわけでもないのに、おかしな話だな」
「それを決めるのはこちらですので」
昨日の謁見では指名手配の解除をすると言っていたのに、
処分を決めるための審議に連れて行こうとしている。
いつも穏やかなオディロン様が使いの者に笑みを消した。
「ほう。私の恋人を罪人扱いするのか」
「恋人?オディロン様は第一王女の婚約者だと聞いていますが?」
「……ふうん。そういうことを言うのか。
では、その審議には私も一緒に行こう」
「は?」
「宰相殿は謁見で我々とした約束を破った。
私の大事な女性を預けられるような信頼はなくなった。
一緒でなければ審議には出さない。
このままハーヤネン国に連れて帰ることにする」
「……わかりました。それでは一緒に来てもらえますか」
オディロン様がランと一緒に行ってくれるなら安心だけど、
本当に大丈夫なのかな。
シル兄様も同じことを考えたようでオディロン様に声をかける。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫ではないかもしれないが、あと四日だ。
それまでくらいなら守れるよ」
「……ああ」
「ちょっとお待ちください。アンリエット様、こちらへ」
「え?ラン?」
ランは私の手を引っ張って奥の部屋へと連れて行く。
「アンリエット様、私が戻って来なくても大丈夫なように、
こちらに日持ちする食糧を置いていきます。
ドレスなど必要な物もここに」
「あ、そうね。ありがとう。
ラン、何かされそうになったら一人でも逃げるのよ?」
「アンリエット様……」
「できればオディロン様と一緒に逃げて。
宰相に脅されても絶対に言うことは聞かないで」
「……わかりました」
ランは一度私のために男たちの言うとおりにしようとしたことがある。
あの時はシル兄様が助けに来てくれたからいいけれど、
あんな思いは二度としたくない。
使いの者についていくオディロン様とランを見送り、シル兄様と部屋にこもる。
レンも審議に連れて行かれているんだろうか。
何かあればキールと一緒に逃げるようにとは言ってあるけれど、
皆と離れ離れになってしまって不安になる。
連れてきたパジェス家の護衛たちは使用人たちの部屋で待機させられている。
そちらもどうなっているのかわからず、逃げる時はあてにならない。
オディロン様とランの帰りを待っていると、
来なくてもいい人が来てしまった。
「俺だ。オーバンだ。話がある。開けてもらえないだろうか」
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