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41.脅迫
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「俺だ。オーバンだ。話がある。開けてもらえないだろうか」
「また来た……シル兄様、どうしよう?」
「……このままだと毎日来るだろうな。俺が話してみる。
アンリエットは少し離れていて」
「わかったわ」
シル兄様がドアを開けるとオーバン様だけが立っていた。
護衛の目を盗んで来たのかもしれない。
「何か用ですか?」
「……話をしたんだ。少しいいだろうか」
シル兄様が私を見ると、オーバン様は慌てて言う。
「いや、アンリエットじゃなく。シルヴァン殿のほうだ」
「は?」
「少しの時間でいい。
アンリエットがいないところで、話せないだろうか?」
「いや、だが、そういうわけにも」
「頼む。このままではあきらめきれないんだ……」
ふり絞るようなオーバン様の声に、シル兄様はため息をついた。
「アンリ、少し出てくる」
「ええ、いってらっしゃい」
オーバン様が引き下がってくれないと思ったのか、
シル兄様はオーバン様と出て行った。
オーバン様はシル兄様と何を話すつもりなんだろう。
早く帰ってきてくれればいいなと思いながら、
ドアには魔力の糸を巻いて開かなくしておく。
一人でいたら狙われるかもしれない。
同じように考えたのか、シル兄様は部屋から出て行く時に、
左手の薬指を指していた。
何かあれば魔力を流して知らせろと言うことらしい。
ランが置いていってくれた荷物を整理し始めたら、
ドアがノックされる。
……来たのかもしれない。
ドアに近づいて誰なのかを聞く。
「誰ですか?」
「私です、アンリエット様。ドアを開けてください」
宰相だ。やはり来たのか。
迷ったけれど、左手の薬指に魔力を流してからドアを開けた。
今の私なら何かされる前に魔力の糸で宰相を捕まえられる。
警戒しながらドアを開けると満面の笑みの宰相が入って来た。
宰相はドアを閉めようとしたけれど、それを止める。
「ドアは開けたままにして」
「おや、どうしてですか?」
「すぐにシル兄様が戻って来るの。
長く話すつもりはないわ」
「そうですか」
「それで、何を話に来たの?
ランたちの審議は終わったのかしら」
ランたちのことも、もしかしたらオーバン様が来たことも、
宰相がしたことなのかもしれない。
「はは。そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか」
「それはするでしょう。
私を騙して契約させたくせに」
「それは仕方がありません。
アンリエット様の魔力は王国のために使うべきですから」
「そんなことは望んでいないわ」
「アンリエット様の意思などどうでもいいのですよ」
にやりと笑う宰相を殴り倒したくなるけれど、
まだダメだとぐっと我慢する。
「アンリエット様は何も考えずに戻ってくればいいのです。
そして今まで通り、結界を維持し王太子妃になる。
それで何も問題はなくなります」
「嫌だって言っているでしょう?」
「あなたが犠牲にならなければ、他の誰かが犠牲になります。
たくさんの者が犠牲になるでしょうね。
見殺しにしても平気ですか?」
「何をする気なの!?」
「結界を維持するのに貴族だけでは足りないのです。
仕方がないので平民の者たちから魔力を奪います。
何人集めればアンリエット様一人分になるでしょうね。
その中にはアンリエット様のお知り合いもいるかもしれません」
「……誰のことを言っているの?」
「たしかヴァネッサと言いましたか。
シルヴァン殿は特別に可愛がっていたとか」
ヴァネッサ?……それはパジェス家の加工場の職人頭クルトの孫娘だった?
どうしてこんなところでその名前が?
「……その娘はパジェス家とは関係がないわ」
「おや、そんな嘘を信じているのですか?」
「嘘?」
「ええ、本当はシルヴァン殿と恋仲だったのですよ。
なのにアンリエット様を嫁がせるために別れさせられた。
あなたの魔力は他国でも魅力ですからね」
「そんなわけないじゃない」
パジェス家は私の魔力なんて求めていない。
それに宰相はヴァネッサがパジェス侯爵家にとって大事な人だと勘違いしている?
クルトはヴァネッサを遠縁に養子に出したと言っていたけれど、
宰相がここに連れて来ているというの?
「まぁ、そんなことはどうでもいいのですけどね。
アンリエット様が戻って来なければ、他の者から魔力を奪わなければいけない。
数十人の少年少女を集めましたが、魔力が少ないものもいる。
何人かは死ぬかもしれませんねぇ」
「なんてことを……陛下がそれを許したと言うの?」
「いいえ、言うわけありません。
ですが、アンリエット様がそれを話してしまったら、
証拠隠滅しなければいけません。
調べられる前に全員を殺してなかったことにします」
「……」
顔色一つ変えず、宰相は当たり前のように話す。
「簡単な話です。
これまで通り、アンリエット様はここで暮らしてくれたらいいんです。
王太子妃になって、王妃になって。
王都を結界で守っていてくだされば皆が助かる」
「そんなことはしないわ」
「ほう。自分のために多くの者が死んでもかまわないと。
意外と性格が悪かったんですなぁ」
「……そうかもしれないわ。
私は自分を犠牲にする気はないの」
「まぁ、ゆっくり考えてください。
四日後、もう一度陛下の前で確認します。
そこで否定するようであれば、パジェス家の者も、
生きて帰すことはできないでしょうね」
「……なんてことを」
結局はどちらであっても私をハーヤネンに帰らせるつもりはないということか。
にらみつけていたら、シル兄様が戻って来る。
「おや、宰相殿。何か?」
「いえ、アンリエット様にご機嫌伺いに来ただけです。
もう帰りますね。
それでは、アンリエット様。また」
さきほどまで私を脅していたのが嘘のように宰相は部屋から出て行った。
「また来た……シル兄様、どうしよう?」
「……このままだと毎日来るだろうな。俺が話してみる。
アンリエットは少し離れていて」
「わかったわ」
シル兄様がドアを開けるとオーバン様だけが立っていた。
護衛の目を盗んで来たのかもしれない。
「何か用ですか?」
「……話をしたんだ。少しいいだろうか」
シル兄様が私を見ると、オーバン様は慌てて言う。
「いや、アンリエットじゃなく。シルヴァン殿のほうだ」
「は?」
「少しの時間でいい。
アンリエットがいないところで、話せないだろうか?」
「いや、だが、そういうわけにも」
「頼む。このままではあきらめきれないんだ……」
ふり絞るようなオーバン様の声に、シル兄様はため息をついた。
「アンリ、少し出てくる」
「ええ、いってらっしゃい」
オーバン様が引き下がってくれないと思ったのか、
シル兄様はオーバン様と出て行った。
オーバン様はシル兄様と何を話すつもりなんだろう。
早く帰ってきてくれればいいなと思いながら、
ドアには魔力の糸を巻いて開かなくしておく。
一人でいたら狙われるかもしれない。
同じように考えたのか、シル兄様は部屋から出て行く時に、
左手の薬指を指していた。
何かあれば魔力を流して知らせろと言うことらしい。
ランが置いていってくれた荷物を整理し始めたら、
ドアがノックされる。
……来たのかもしれない。
ドアに近づいて誰なのかを聞く。
「誰ですか?」
「私です、アンリエット様。ドアを開けてください」
宰相だ。やはり来たのか。
迷ったけれど、左手の薬指に魔力を流してからドアを開けた。
今の私なら何かされる前に魔力の糸で宰相を捕まえられる。
警戒しながらドアを開けると満面の笑みの宰相が入って来た。
宰相はドアを閉めようとしたけれど、それを止める。
「ドアは開けたままにして」
「おや、どうしてですか?」
「すぐにシル兄様が戻って来るの。
長く話すつもりはないわ」
「そうですか」
「それで、何を話に来たの?
ランたちの審議は終わったのかしら」
ランたちのことも、もしかしたらオーバン様が来たことも、
宰相がしたことなのかもしれない。
「はは。そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか」
「それはするでしょう。
私を騙して契約させたくせに」
「それは仕方がありません。
アンリエット様の魔力は王国のために使うべきですから」
「そんなことは望んでいないわ」
「アンリエット様の意思などどうでもいいのですよ」
にやりと笑う宰相を殴り倒したくなるけれど、
まだダメだとぐっと我慢する。
「アンリエット様は何も考えずに戻ってくればいいのです。
そして今まで通り、結界を維持し王太子妃になる。
それで何も問題はなくなります」
「嫌だって言っているでしょう?」
「あなたが犠牲にならなければ、他の誰かが犠牲になります。
たくさんの者が犠牲になるでしょうね。
見殺しにしても平気ですか?」
「何をする気なの!?」
「結界を維持するのに貴族だけでは足りないのです。
仕方がないので平民の者たちから魔力を奪います。
何人集めればアンリエット様一人分になるでしょうね。
その中にはアンリエット様のお知り合いもいるかもしれません」
「……誰のことを言っているの?」
「たしかヴァネッサと言いましたか。
シルヴァン殿は特別に可愛がっていたとか」
ヴァネッサ?……それはパジェス家の加工場の職人頭クルトの孫娘だった?
どうしてこんなところでその名前が?
「……その娘はパジェス家とは関係がないわ」
「おや、そんな嘘を信じているのですか?」
「嘘?」
「ええ、本当はシルヴァン殿と恋仲だったのですよ。
なのにアンリエット様を嫁がせるために別れさせられた。
あなたの魔力は他国でも魅力ですからね」
「そんなわけないじゃない」
パジェス家は私の魔力なんて求めていない。
それに宰相はヴァネッサがパジェス侯爵家にとって大事な人だと勘違いしている?
クルトはヴァネッサを遠縁に養子に出したと言っていたけれど、
宰相がここに連れて来ているというの?
「まぁ、そんなことはどうでもいいのですけどね。
アンリエット様が戻って来なければ、他の者から魔力を奪わなければいけない。
数十人の少年少女を集めましたが、魔力が少ないものもいる。
何人かは死ぬかもしれませんねぇ」
「なんてことを……陛下がそれを許したと言うの?」
「いいえ、言うわけありません。
ですが、アンリエット様がそれを話してしまったら、
証拠隠滅しなければいけません。
調べられる前に全員を殺してなかったことにします」
「……」
顔色一つ変えず、宰相は当たり前のように話す。
「簡単な話です。
これまで通り、アンリエット様はここで暮らしてくれたらいいんです。
王太子妃になって、王妃になって。
王都を結界で守っていてくだされば皆が助かる」
「そんなことはしないわ」
「ほう。自分のために多くの者が死んでもかまわないと。
意外と性格が悪かったんですなぁ」
「……そうかもしれないわ。
私は自分を犠牲にする気はないの」
「まぁ、ゆっくり考えてください。
四日後、もう一度陛下の前で確認します。
そこで否定するようであれば、パジェス家の者も、
生きて帰すことはできないでしょうね」
「……なんてことを」
結局はどちらであっても私をハーヤネンに帰らせるつもりはないということか。
にらみつけていたら、シル兄様が戻って来る。
「おや、宰相殿。何か?」
「いえ、アンリエット様にご機嫌伺いに来ただけです。
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さきほどまで私を脅していたのが嘘のように宰相は部屋から出て行った。
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