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42.王太子の呼び出し(シルヴァン)
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俺と話したいとオーバン王太子に言われ、
仕方なく話に応じた。
このままではあきらめきれないと言っていたが、
あきらめる気があるようには思えない。
おそらくこれも何かの罠なんだろうと思いながら、
アンリエットを部屋に残した。
オトニエル国に向かう間、
俺と兄上でアンリエットには魔力の糸の使い方を教えた。
数人で捕まえに来たとしても逆に捕まえられるくらいにはなっている。
「どこまで行くつもりですか?」
「もう少しだ」
オーバン王太子の後ろをついてきたけれど、
あまりアンリエットから離れたくはない。
万が一の時に助けに行けなくなるのは避けたい。
俺を遠ざけるつもりなら、話をするのを止めて戻ってもいい。
そう思っていたら、オーバン王太子の足が止まる。
「ここだ。入ってくれ」
オーバン王太子が使用人の部屋だと思われる部屋に入る。
どうしてこんな部屋にと思いながら部屋に入ると、
中には一人の侍女がいた。
「シルヴァン様!」
「は?」
「私です!」
「……ヴァネッサ?どうしてこんなとこにいるんだ?」
そこにはなぜか侍女服姿のヴァネッサがいた。
遠くの親類のところに養子にやるとクルトは言っていたのに。
そもそもまだヴァネッサは侍女に採用されるような年齢ではない。
「大事なお仕事を任せてくれるって言われて来たんです。
シルヴァン様が私に会いに来てくれたって聞いてうれしくて!
迎えに来てくれたんですよね?」
「オーバン王太子、これはどういうことですか?」
「お前の恋人はこの女なんだろう?
何を必要としているのかはわからないけれど、
アンリエットをたぶらかさないでくれ」
「何を誤解しているのかわかりませんが、
俺にはアンリエットしかいません。
この者はパジェス領の元領民で、俺には関りがありませんよ」
「ひどい!あんなに可愛がってくれたのに!」
「俺は他の領民と同じように接していたはずだ。
どうしてそんな誤解をするのか理解できない。
俺にとって特別だったのはクルトだ。ヴァネッサではない」
「……そんな」
加工場の職人頭であり、パジェス家の血を引く者でもあるクルト。
クルトは先々代、俺のひい爺様の子だ。
だからこそ、パジェス侯爵家の魔力の糸も使える。
その孫のヴァネッサのことは知っていたけれど、
クルトの実孫ではないのは知っていたから、
それほど関わる気もなかった。
どこでどんな風にしたら勘違いできるのかと思う。
「もてあそんだというのか?」
「違います。俺はこの女にはまったく関りがない。
ただの使用人の孫娘だったという関係です。
うちの屋敷で雇っていたわけでも同じ屋敷内で生活していたわけでもない。
何の関係もないのです」
「それなのに自分が恋人だと思い込んでいると?」
「そうです。誤解されるような行動をしたこともありません」
「……そうなのか。
だが、やはりアンリエットは返してくれ。
王太子妃はアンリエットでなければいけないんだ」
「アンリエットはその気はないですよ」
「……それは少し拗ねているだけだ。
俺が浮気したと思っているから」
「関係ありませんよ。
最初からあなたのことを好きじゃないんですから」
「嘘を言うな!」
真っ赤になって否定している王太子には悪いが、
腹立たしさを抑えきれない。
「アンリエットが好きだったのは俺です。
八歳の時からずっと。
無理やり王太子の婚約者にさせられても、
俺のことを忘れずにいてくれたんです」
「八歳の時からなんて嘘だ。
アンリエットが俺に惚れたから俺たちは婚約したんだからな」
「それは宰相の嘘でしょう。
アンリエットは八歳で王宮に戻った時点で、
王太子の婚約者になることを決められていました。
あなたが王太子になったのはその二年後でしょう?」
「!!」
「宰相に騙されているのはあなたです。
どうせ、今も宰相に言われて俺を連れ出したのでしょう」
さっき、アンリエットが左手の薬指に魔力を流した。
何かがアンリエットに起きている。
早く戻らなくてはいけない。
「ヴァネッサ、ここにいるとろくなことはないぞ。
俺は助けないから自力で逃げろ」
「シルヴァン様と一緒に!」
「俺は助けない」
「そんな!」
何もわかっていないのだろうけど、俺は助ける気はない。
悪いけど、他の誰かにかまっている場合じゃない。
「それでは、私は部屋に戻ります」
「待て!話は終わってない!」
「話す気など最初からなかったのでしょう?
それでは、失礼いたします」
引き留めようとしたオーバン王太子を振り切って部屋に戻れば、
宰相が一人で来ていた。
宰相自身が来るとは思っていなかったから意外だと思ったけれど、
アンリエットの顔色が悪い。
何を言われたのかと思えば、最低な脅しだった。
ああ、だから俺にヴァネッサを会わせたのか。
実際にここに犠牲となる少年少女がいるんだと、
アンリエットに伝えるために。
仕方なく話に応じた。
このままではあきらめきれないと言っていたが、
あきらめる気があるようには思えない。
おそらくこれも何かの罠なんだろうと思いながら、
アンリエットを部屋に残した。
オトニエル国に向かう間、
俺と兄上でアンリエットには魔力の糸の使い方を教えた。
数人で捕まえに来たとしても逆に捕まえられるくらいにはなっている。
「どこまで行くつもりですか?」
「もう少しだ」
オーバン王太子の後ろをついてきたけれど、
あまりアンリエットから離れたくはない。
万が一の時に助けに行けなくなるのは避けたい。
俺を遠ざけるつもりなら、話をするのを止めて戻ってもいい。
そう思っていたら、オーバン王太子の足が止まる。
「ここだ。入ってくれ」
オーバン王太子が使用人の部屋だと思われる部屋に入る。
どうしてこんな部屋にと思いながら部屋に入ると、
中には一人の侍女がいた。
「シルヴァン様!」
「は?」
「私です!」
「……ヴァネッサ?どうしてこんなとこにいるんだ?」
そこにはなぜか侍女服姿のヴァネッサがいた。
遠くの親類のところに養子にやるとクルトは言っていたのに。
そもそもまだヴァネッサは侍女に採用されるような年齢ではない。
「大事なお仕事を任せてくれるって言われて来たんです。
シルヴァン様が私に会いに来てくれたって聞いてうれしくて!
迎えに来てくれたんですよね?」
「オーバン王太子、これはどういうことですか?」
「お前の恋人はこの女なんだろう?
何を必要としているのかはわからないけれど、
アンリエットをたぶらかさないでくれ」
「何を誤解しているのかわかりませんが、
俺にはアンリエットしかいません。
この者はパジェス領の元領民で、俺には関りがありませんよ」
「ひどい!あんなに可愛がってくれたのに!」
「俺は他の領民と同じように接していたはずだ。
どうしてそんな誤解をするのか理解できない。
俺にとって特別だったのはクルトだ。ヴァネッサではない」
「……そんな」
加工場の職人頭であり、パジェス家の血を引く者でもあるクルト。
クルトは先々代、俺のひい爺様の子だ。
だからこそ、パジェス侯爵家の魔力の糸も使える。
その孫のヴァネッサのことは知っていたけれど、
クルトの実孫ではないのは知っていたから、
それほど関わる気もなかった。
どこでどんな風にしたら勘違いできるのかと思う。
「もてあそんだというのか?」
「違います。俺はこの女にはまったく関りがない。
ただの使用人の孫娘だったという関係です。
うちの屋敷で雇っていたわけでも同じ屋敷内で生活していたわけでもない。
何の関係もないのです」
「それなのに自分が恋人だと思い込んでいると?」
「そうです。誤解されるような行動をしたこともありません」
「……そうなのか。
だが、やはりアンリエットは返してくれ。
王太子妃はアンリエットでなければいけないんだ」
「アンリエットはその気はないですよ」
「……それは少し拗ねているだけだ。
俺が浮気したと思っているから」
「関係ありませんよ。
最初からあなたのことを好きじゃないんですから」
「嘘を言うな!」
真っ赤になって否定している王太子には悪いが、
腹立たしさを抑えきれない。
「アンリエットが好きだったのは俺です。
八歳の時からずっと。
無理やり王太子の婚約者にさせられても、
俺のことを忘れずにいてくれたんです」
「八歳の時からなんて嘘だ。
アンリエットが俺に惚れたから俺たちは婚約したんだからな」
「それは宰相の嘘でしょう。
アンリエットは八歳で王宮に戻った時点で、
王太子の婚約者になることを決められていました。
あなたが王太子になったのはその二年後でしょう?」
「!!」
「宰相に騙されているのはあなたです。
どうせ、今も宰相に言われて俺を連れ出したのでしょう」
さっき、アンリエットが左手の薬指に魔力を流した。
何かがアンリエットに起きている。
早く戻らなくてはいけない。
「ヴァネッサ、ここにいるとろくなことはないぞ。
俺は助けないから自力で逃げろ」
「シルヴァン様と一緒に!」
「俺は助けない」
「そんな!」
何もわかっていないのだろうけど、俺は助ける気はない。
悪いけど、他の誰かにかまっている場合じゃない。
「それでは、私は部屋に戻ります」
「待て!話は終わってない!」
「話す気など最初からなかったのでしょう?
それでは、失礼いたします」
引き留めようとしたオーバン王太子を振り切って部屋に戻れば、
宰相が一人で来ていた。
宰相自身が来るとは思っていなかったから意外だと思ったけれど、
アンリエットの顔色が悪い。
何を言われたのかと思えば、最低な脅しだった。
ああ、だから俺にヴァネッサを会わせたのか。
実際にここに犠牲となる少年少女がいるんだと、
アンリエットに伝えるために。
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