49 / 58
49.愚か者たちの処罰(エミール)
しおりを挟む
処罰内容を決め、貴族牢へと向かう。
二日前に貴族牢へと入れた元宰相と元侯爵は、
不思議な糸でぐるぐる巻きにされていたが、
牢に入れて数時間で消えたと報告が来ていた。
あれはパジェス侯爵家の特別な魔術だったのかもしれない。
おかげで暴れられることなく牢に入れることができた。
元宰相と元侯爵という身分の高さから、
騎士たちが言うことを聞いてしまいかねなかったので、
二人の牢の近くには行かないように命じてある。
静かな貴族牢の扉を開けると、うなだれた元宰相が目に入る。
寝台以外何もないので、寝台に座るしかないようだ。
俺が牢に来たことに気がついた宰相は目を輝かせた。
「エミール様!私はこの国のために働いていただけです!
早くここから出してください!」
「……とりあえず黙ってくれる?
元侯爵もここに連れて来させるから」
俺が話すつもりがないとわかったからか、
苦虫を噛み潰したような顔で黙る。
ここに来たのが俺じゃなく、兄上だったのなら、
言うとおりに牢から出していただろうな。
騎士たちに両手を捕まれたまま元侯爵が連れて来られる。
俺の顔を見た瞬間わめきだしたから黙るように命じる。
二人を横に並べ、ようやく処罰内容を告げる。
「お前たちの処罰は魔力を吸う腕輪をつけて牢にいてもらう」
「「は?」」
「お前たちに協力したものもすべて同じ刑にした。
王宮の周りに結界を張るくらいはできるだろう」
「わ、私は魔力が少ないのです!そんなことをしたら」
元宰相が顔色を変えて訴えてくるが、そんなのは知っている。
そのせいでアンリエット様に執着したのも。
「魔力が少ないお前たちでは動けなくなるだろうな。それは知っている」
「では、無理だとわかっていますよね!?」
「いや、無理ではないだろう。動けなくなるだけだ」
「そんな!」
うるさいから今すぐにでも腕輪をつけたいくらいだが、
そうすると話を聞くどころじゃなくなる。
「お前たちの爵位は取り上げる。今、この時点で平民とする」
「……へ、平民」
「侯爵位が……取り上げ」
「あと、屋敷などの財産はこちらで処分する」
「「!」」
軽く調べただけでもどちらも財産をため込んでいた。
ため込んで何をするつもりだったのか。
「それは横暴です!」
「横暴?そうか?元宰相の言い分だと、
持っている者は国のために捧げるのが当然なんだろう?」
「それとこれとは違います!」
「いや、違わないよ。
これから食糧を手に入れるのにも金が必要になる。
新しい産業が見つかるまで、一方的に金を払い続けなくてはいけない。
どれだけ金があっても足りないくらいだ。
国のために使うんだから文句はないだろう?」
「文句がないわけがないでしょう!?」
「アンリエット様からは十年も搾取したのになぁ?
多く持っているなら捧げなくてはいけないんだろう?
それなのに自分たちが搾取されるのは許せないなんておかしな話だ」
「そ、それは……」
「国からの命令だ。喜んで差し出すのが当然だよな?」
「「……」」
不満しかない顔だが、文句を言っても仕方ないとわかったようだ。
おそらく牢を出た後のことを考えて財産を残しておきたかったんだろうけど、
ここを出ることなんてできないんだけどな。
「よし、腕輪をつけろ」
「え、エミール様、お許しください!」
「エミール様!私がいなかったらこの国は」
「元宰相がいなくなったら?とても動かしやすい国になるだろうね。
俺は忘れていないよ?
アンリエット様を解放しろといった俺に、
母上の命が惜しければ何も言うなと脅したの」
「っ!!」
アンリエット様が奴隷契約のようなものを結ばされていると気がついたのは、
五年ほど前の話だ。
そんなものはやめろと言った俺に、宰相は俺に第二妃がどうなってもいいのかと言った。
悔しかったけど、それ以上何もできずにあきらめるしかなかった。
ようやくアンリエット様は逃げることができた。
それによってオトニエル国は崩壊するかもしれないが、
それはアンリエット様のせいじゃない。
こいつらがそうさせただけのことだ。
腕輪をつけさせるとすぐに魔力を吸われたのか崩れ落ちる。
「苦しいだろう?アンリエット様がどれだけ魔力が多くても、
すべてを吸われていたのなら同じこと。
アンリエット様と同じように苦しめばいい」
もうそれどころじゃないのか、反応もしない。
つまらないが、それだけ苦しんでいるのならいいか。
「最低でも十年は生きていてもらうよ。
ああ、魔力量が増えたのなら、増えただけ吸うようになっているから。
その苦しみは少しも楽にならないから。
せいぜい長生きして、国のために役に立ってくれ」
もう動くこともできない元宰相と元侯爵を同じ寝台に並べる。
お世話しなければ何もできないのだから、一か所に置いておいたほうが世話が楽だろう。
「こんなことでアンリエット様が喜ぶとは思わないけど、
各国に向けてきちんと公表しないとね」
アンリエット様がいれば愚かな兄上が王太子でもなんとかなると思っていた陛下と王妃も。
もういらないからこのまま幽閉させてしまおうかな。
二日前に貴族牢へと入れた元宰相と元侯爵は、
不思議な糸でぐるぐる巻きにされていたが、
牢に入れて数時間で消えたと報告が来ていた。
あれはパジェス侯爵家の特別な魔術だったのかもしれない。
おかげで暴れられることなく牢に入れることができた。
元宰相と元侯爵という身分の高さから、
騎士たちが言うことを聞いてしまいかねなかったので、
二人の牢の近くには行かないように命じてある。
静かな貴族牢の扉を開けると、うなだれた元宰相が目に入る。
寝台以外何もないので、寝台に座るしかないようだ。
俺が牢に来たことに気がついた宰相は目を輝かせた。
「エミール様!私はこの国のために働いていただけです!
早くここから出してください!」
「……とりあえず黙ってくれる?
元侯爵もここに連れて来させるから」
俺が話すつもりがないとわかったからか、
苦虫を噛み潰したような顔で黙る。
ここに来たのが俺じゃなく、兄上だったのなら、
言うとおりに牢から出していただろうな。
騎士たちに両手を捕まれたまま元侯爵が連れて来られる。
俺の顔を見た瞬間わめきだしたから黙るように命じる。
二人を横に並べ、ようやく処罰内容を告げる。
「お前たちの処罰は魔力を吸う腕輪をつけて牢にいてもらう」
「「は?」」
「お前たちに協力したものもすべて同じ刑にした。
王宮の周りに結界を張るくらいはできるだろう」
「わ、私は魔力が少ないのです!そんなことをしたら」
元宰相が顔色を変えて訴えてくるが、そんなのは知っている。
そのせいでアンリエット様に執着したのも。
「魔力が少ないお前たちでは動けなくなるだろうな。それは知っている」
「では、無理だとわかっていますよね!?」
「いや、無理ではないだろう。動けなくなるだけだ」
「そんな!」
うるさいから今すぐにでも腕輪をつけたいくらいだが、
そうすると話を聞くどころじゃなくなる。
「お前たちの爵位は取り上げる。今、この時点で平民とする」
「……へ、平民」
「侯爵位が……取り上げ」
「あと、屋敷などの財産はこちらで処分する」
「「!」」
軽く調べただけでもどちらも財産をため込んでいた。
ため込んで何をするつもりだったのか。
「それは横暴です!」
「横暴?そうか?元宰相の言い分だと、
持っている者は国のために捧げるのが当然なんだろう?」
「それとこれとは違います!」
「いや、違わないよ。
これから食糧を手に入れるのにも金が必要になる。
新しい産業が見つかるまで、一方的に金を払い続けなくてはいけない。
どれだけ金があっても足りないくらいだ。
国のために使うんだから文句はないだろう?」
「文句がないわけがないでしょう!?」
「アンリエット様からは十年も搾取したのになぁ?
多く持っているなら捧げなくてはいけないんだろう?
それなのに自分たちが搾取されるのは許せないなんておかしな話だ」
「そ、それは……」
「国からの命令だ。喜んで差し出すのが当然だよな?」
「「……」」
不満しかない顔だが、文句を言っても仕方ないとわかったようだ。
おそらく牢を出た後のことを考えて財産を残しておきたかったんだろうけど、
ここを出ることなんてできないんだけどな。
「よし、腕輪をつけろ」
「え、エミール様、お許しください!」
「エミール様!私がいなかったらこの国は」
「元宰相がいなくなったら?とても動かしやすい国になるだろうね。
俺は忘れていないよ?
アンリエット様を解放しろといった俺に、
母上の命が惜しければ何も言うなと脅したの」
「っ!!」
アンリエット様が奴隷契約のようなものを結ばされていると気がついたのは、
五年ほど前の話だ。
そんなものはやめろと言った俺に、宰相は俺に第二妃がどうなってもいいのかと言った。
悔しかったけど、それ以上何もできずにあきらめるしかなかった。
ようやくアンリエット様は逃げることができた。
それによってオトニエル国は崩壊するかもしれないが、
それはアンリエット様のせいじゃない。
こいつらがそうさせただけのことだ。
腕輪をつけさせるとすぐに魔力を吸われたのか崩れ落ちる。
「苦しいだろう?アンリエット様がどれだけ魔力が多くても、
すべてを吸われていたのなら同じこと。
アンリエット様と同じように苦しめばいい」
もうそれどころじゃないのか、反応もしない。
つまらないが、それだけ苦しんでいるのならいいか。
「最低でも十年は生きていてもらうよ。
ああ、魔力量が増えたのなら、増えただけ吸うようになっているから。
その苦しみは少しも楽にならないから。
せいぜい長生きして、国のために役に立ってくれ」
もう動くこともできない元宰相と元侯爵を同じ寝台に並べる。
お世話しなければ何もできないのだから、一か所に置いておいたほうが世話が楽だろう。
「こんなことでアンリエット様が喜ぶとは思わないけど、
各国に向けてきちんと公表しないとね」
アンリエット様がいれば愚かな兄上が王太子でもなんとかなると思っていた陛下と王妃も。
もういらないからこのまま幽閉させてしまおうかな。
1,397
あなたにおすすめの小説
妹は謝らない
青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。
手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。
気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。
「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。
わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。
「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう?
小説家になろうにも投稿しています。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?
百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」
あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。
で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。
そんな話ある?
「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」
たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。
あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね?
でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する?
「君の妹と、君の婚約者がね」
「そう。薄情でしょう?」
「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」
「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」
イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。
あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。
====================
(他「エブリスタ」様に投稿)
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる