つないだ糸は切らないで

gacchi(がっち)

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50.動き出した新しい国

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オビーヌ領に来てから、お祖父様と叔父様、
オディロン様とシル兄様の話し合いは続いていた。

私は話し合いには参加しなかったけれど、
どうやらどちらが王になるかで揉めているようだった。

パジェス家としてはお祖父様に王になってもらいたいけれど、
オビーヌ家としては、もともとの本家はパジェス家だという考えで、
お義父様に王になってもらいたいらしい。

決まったのは六日目のことだった。

「それで、誰が国王になるの?」

「とりあえず、共同統治にすることにした」

「共同?誰も国王にならないってこと?」

「そういうことなんだけど、少し違う」

「違うって?」

言いにくいのか、シル兄様は少し困ったような顔になる。
理由は隣で話を聞いていたオディロン様が教えてくれた。

「シルヴァンとアンリエットの子を最初の国王にすることに決まったんだ」

「……え?」

「オビーヌ家とパジェス家の血を引く子だ。
 最初の国王になるのにふさわしいだろう?」

「……ええ?シル兄様と私の子!?」

言われてみれば、どちらの家の血もひく子になるけれど、
最初の国王にするってどういうこと?

「……つまり、俺たちの子が王太子になって、国王になるまでは、
 二家の代表で共同統治になるってこと」

驚きのあまり無言になってしまったら、
シル兄様は私が怒ったのだと勘違いしたようだ。

「怒ったよな。アンリに聞かずに決めてしまってごめん……」

「え、怒ってはないんだけど、驚きすぎて」

「俺も驚いたけど、どちらの家の血も引いているって言われると、
 一番ふさわしいのはそうだよなって思ってしまって」

「うん、それもわかる」

だけど、まだ結婚もしていないし、子が生まれるかもわからないのに。

「とりあえずの計画だから。
 共同統治してみてまずかったら変えることになると思うし」

「そうだよね……」

「まずはパジェス領に戻って、結婚しよう。
 もう邪魔するものはいないんだし、約束しただろう?」

「うん、パジェス領に帰ったらすぐに結婚する約束したもの」

「じゃあ、話し合いも終わったし、明日準備をして、明後日には戻ろうか」

「うん!」

お祖父様たちと離れるのは寂しいけれど、
これからは会おうと思えばすぐに会える。

落ち着いたら結婚のお披露目をすることになるし、
共同統治するのなら頻繁に行き来するようになるかもしれない。

二日後、お祖父様たちと別れ、パジェス領へと向かう。
パジェス家の屋敷に着くと、まだお義父様たちは戻って来ていなかった。

「予定ではもう戻って来ているはずだ」

「何かあったのかしら」

その理由がわかったのは、その三日後だった。
お義父様たちと一緒に王都に向かった使用人の一人が先に屋敷に戻って来た。
お義父様からの手紙を届けるために早駆けしてきたらしい。

その手紙を読んだオディロン様がため息をついている。
やはり何か問題が起きたのだろうか。

「兄上、父上たちはどうしたんだ?」

「国王との話し合いは難航して、無理やり独立したらしい。
 だが、それに納得しないジョージア様とミュリエル様が騒いで、
 帰る父上たちについてきてしまった」

「ついてきた?ここに来るのか?」

え?王太子様と第一王女様がここに来る?
それって、オディロン様を取り戻しに来るんだよね?

「……簡単には納得しないとは思っていたが。
 仕方ないな。会って、はっきり断ればいいか」

「断れるのか?」

「もう他国なんだ。こちらも王族と同じになった。
 従わなければいけない理由はないからな」

「それはそうだが……。
 結婚の準備で忙しいというのに」

さすがに当主であるお義父様がいないうちに結婚することはできないので、
戻って来るのを待っていたのに、王太子様たちまで来るとは。

やる気のないオディロン様に代わって、
シル兄様が屋敷の者たちに王族を迎える準備をさせる。
泊まらずに帰ってほしいところだけど、馬車の旅をしてきた者に、
休憩もさせずに帰すことは難しい。

使用人や護衛たちもついて来ていることを考えると、
客室はどれほど用意しても足りないかもしれない。

慌ただしく迎える用意をしていると、
屋敷の敷地に馬車が何台も連なって入って来る。

「来たか」

オディロン様は出迎える気がないらしく動かない。
私とシル兄様が玄関先に出ると、まずはお義父様とお義母様が馬車から降りてくる。

「おかえり、父上、母上」

「おかえりなさい」

「ああ、シルヴァン、アンリエット、ただいま」

「アンリエット!ようやく戻って来れたのね!」

「はい、お義母様」

お義母様は私に駆け寄って抱きしめてくれる。
戻って来られないんじゃないかと心配してくれていたらしい。

「ああ、私もアンリエットが戻って来てくれたことを大喜びしたいのだが、
 今はそうも言っていられないんだ」

「連れてきたんだよな?」

「ああ、お二人ともどうしても納得できないと言って。
 あのままだと私たちが帰してもらえなかったかもしれなくて。
 仕方なく連れて帰って来たんだ」

「はぁぁ。まぁ、兄上と会って話さないと納得しないか」

「オディロンはどうした?」

「出迎えたくないらしい。中にいるよ」

「まぁ、気持ちはわかるがな」

そんなことを言っていると、ひときわ大きな馬車のドアが開いて、
中からジョージア王太子が降りてくる。
そして、ジョージア様が手を貸して、ドレス姿の女性が降りてきた。
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