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聖女としての働き

23.遠くにて(一花)

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わけがわからないままここに連れてこられて二か月が過ぎた。
あの脳筋王子のダニエルはどうしているんだろう。
私が連れ去られる時に泣き叫んでいるのが聞こえてたけど、
無事に王宮に戻れたのかな。

崖の上に立つ城は外に出る道が一つしかなく、
そこには騎士がめちゃくちゃいっぱい立っている。
中に入ってくるのはもちろん、出るのも厳しくチェックしているらしい。
そんな感じだから私が外に出るのは不可能で、
城の中は自由に動いてもいいと言われている

迷宮のような庭を一人で歩いているけれど、
どうせどこからか私のことを見ているんだろう。
もう逃げるのは無理だとあきらめて……はいないけど。

「なんだ、また俺に会いに来たのか?」

「…。」

「そうにらむなよ。暇なら茶につきあえ。」

またこの王子に会った。
一人になりたいと思って歩いていると、いつもこの王子に会う。
今日は庭のガゼボでお茶を飲んでいたらしい。
おつきの者はいるようだけど、なんでこんな場所で一人でお茶しているのよ。
絶対に、私のことを待ち伏せしていたでしょう。

城の者が私の行動を報告しているんだろうけど、なんかこの王子むかつくのよね。
水色の髪はさすがに見慣れたけど、真っ青な目が何を考えているかわからなくて嫌だ。

とはいえ、他にやることも無く暇なのも本当で、
しかたなく席に着いた。

「この城での生活も慣れたか?」

「慣れるわけないじゃない。」

「その割には泣いていないようだがな。」

「泣いても外に出してもらえないんじゃ意味無いし。
 悠里に会わせてもらえないなら、めんどくさいことはしないわ。」

「ユウリ…あぁ、一緒に来たという聖女か。」

この城の人たちは私を聖女だと思って連れて来たようだけど、
何か検査するわけでもなく、何かしろというわけでもなく、
ただこの城の中に閉じ込められている。
…何のためにここに連れてこられたんだろう。

「ねぇ、私、なんでここに連れてこられたの?
 聖女として連れてきたのなら、働けとか言わないの?」

「ん?言わないよ。
 聖女として働かせたら、お前がここにいるのがわかられてしまうだろう。
 そうしたらこの国は終わりだ。
 他の五国から一斉に攻撃を仕掛けられることになる。
 そんな真似はしないよ。」

「はぁ?じゃあ、なんで私ここにいるの?」

「お前に子を産ませるためだ。」

「は?」

子を産ませるため?
それを理解するのに時間はいらなかった。
冗談じゃない。目の前の王子をにらみつけて言った。

「嫌よ。」

「相手も聞かずにか?」

「嫌なものは嫌よ。でも、一応聞くわ。誰?」

「現国王のイルラン王。62歳。」

「無理。」

「ちなみに後宮には妃が28人いる。
 王子は17人、王女は3人。
 ほとんどは王籍を外れているから城にはいないけどな。」

「後宮!?嫌に決まってるでしょ。
 なんでそんなじじいの愛人にならなきゃいけないのよ!」

「この国の者なら喜んで泣くんだがなぁ。
 本当に聖女って後宮を嫌がるんだな。」

キモイ、絶対にムリ。
62歳でそんな愛人抱えているような国王、絶対に嫌に決まってる。
全力で拒否ったら、のんびりと王子に肯定された。
え、なに、嫌がらせでこんなこと言ってんの?

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