上 下
125 / 142
絡み合う運命

22.やり直し

しおりを挟む
「魔力で伝わって…いた?私の気持ちが?」

「…そうだよ。ずっと俺のことで悩んでいたのはわかってたんだ。
 ごめん。これも俺から言うわけにはいかなくて。
 聖女への想いは隊長から言ってはいけないという規則なんだ。
 この世界を何も知らない聖女の気持ちを守るために、
 無理やり隊長に向けさせないようにある規則なんだ。
 あくまでも聖女の気持ちは聖女自身が決めなければいけないものだからって。

 ユウリが俺のことを信じ切れなくて、
 好きにならないって壁を作ったのはわかった。
 だけど、好きになってほしい、
 そのまま俺を信じて欲しいとは言えなかったんだ…。」

「規則…だから?」

「規則というよりも、それがユウリを守ると思っていたんだ。」

私の気持ちを、想いを知られていた。
ずっと、この世界に来てから悩んでいたのも、苦しんでいたのも。
馬鹿にされたような気がして、
怒りなのか悲しみなのかわからない気持ちでいっぱいになる。
だけど…同じように苦しそうなキリルに何も言えなくなる。

「壁を作られてから、ユウリの気持ちがわかりにくくなった。
 それを少しでも何とかしようと思って、ずっと俺の気持ちを魔力で伝えた。
 だけど、そうすればするほど壁は厚くなっていって…。
 そんな状況で聖女の仕事をさせるなんて…俺は嫌だった。」

キリルの気持ちを魔力で伝えていた?
いつも暖かくなるような魔力は、私を想っていてくれたから?
あぁ、そうか。
キリルの魔力を私が冷やしている感じがしていたのは、
私がキリルの気持ちを受け止めようとしていなかったからなんだ。

「ユウリのためだって我慢してたけど、もう無理だ。
 こんなにまでユウリを追い詰めて、ユウリのためになるなんて思えない。
 …魔力切れを起こしかけて…直接魔力を送り込んだ。
 ユウリが泣いたのは、それが嫌だったんだよな?」

私の頬をゆっくりと撫で、涙の痕を消すようにしているキリルと視線が合う。
ちゃんと全部話して欲しい、真剣な目がそう言っていた。
…どうして泣いたんだっけ。あぁ、そうだった。

「…あれが初めてのキスだったの。
 なのに、魔力を送り込むためだけにされたんだと思って…悲しくて。
 キリルにとっては、私とのキスなんて、何とも思わな…」

最後まで言う前に、きつく抱きしめられていた。
キリルの腕の中の匂いに包まれ、身体の力がぬけていく。
さっきまですごく悲しかったはずなのにな…。
こんな風に抱きしめられたら許してしまいそうになる。

「ユウリ…ごめん。俺もあれが初めてのキスだった。」

「え?」

「だけど、ユウリが魔力切れを起こしたら、
 何日もユウリは生命活動を止めて眠り続けてしまう。
 まるで人形のように動かなくなって…
 ずっとユウリはもう起きないんじゃないかって不安に襲われる。
 …耐えられないんだ。ユウリのいない日常なんて無理だ。
 ユウリを失いたくない、そう思ったらキスして魔力を送り込んでいた。
 あんな風に初めてのキスを奪いたかったわけじゃなかった…本当にごめん…。」

そういう理由だったんだ。
魔力切れを起こしても数日間眠るだけなんだと思っていた。
その間、キリルがそんな風に不安になるなんて知らなかった。
うつむいて少しだけ震えているキリルの頭を撫でたら、ようやく私を見てくれた。

「私が…どうでも良かったわけじゃない?」

「そんなわけない!俺は…ユウリが大事で…守りたくて。
 早く聖女の仕事を終えて…想いを伝えようって。
 だけど、もう我慢できなかった。
 ユウリが好きだ…聖女じゃなくなっても、俺をそばにいさせてほしい。」
 
「そばに…いいの?貴族に戻らなきゃいけないんじゃないの?」

「公爵家には戻らない。ジェシカが継いでくれるから大丈夫。
 そんなことは些細なことだから心配しなくていい。
 …ユウリは俺と一緒にいたいって思ってくれる?」

「…一緒にいたい。キリルの隣にいたい。
 ずっと…ずっと、一緒にいても…いいの?」

「あぁ、ずっと一緒にいよう。
 良かった…。ユウリ、やり直してもいい?」

「え?」

「二人の初めてのキスを。」

「…ん。」

ゆっくりと顔を上向きにされ、キリルの顔が近づいてくる。
目を閉じるのが恥ずかしくて、視線を下へと向けた。
ふわっと熱を感じると唇が重なっていた。
魔力を送っているわけじゃないのに、ふれている部分が熱く感じる。
キリルの手が私の両頬から動いて、頭の後ろと背中にまわされる。
唇が、ふれている手が、ぶわりと熱を持つ。
身体の奥をくすぐるような気持ちよさに、めまいがしそうだった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

奪われたので奪い返します

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:39

『運命の番』の資格を解消する方法。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:667pt お気に入り:3,481

【本編完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:34,889pt お気に入り:3,899

婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,229pt お気に入り:1,853

不実なあなたに感謝を

恋愛 / 完結 24h.ポイント:86,982pt お気に入り:3,732

スペアの聖女

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:3,808

処理中です...