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絡み合う運命

21.苦しい

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次に目をあけたら、見慣れている天井だった。
いつも私が使っている部屋のどれかだと思うけれど、どこの部屋だろう。
あのまま運び込まれたのだとしたら、拠点のテントの中の部屋だろうか。

「…ん?」

起き上がろうとしたら、何かに邪魔されて動けなかった。
腕を動かそうとしても少しも動けない。
何かに拘束されているような感じで…寝返りすら無理そうだった。
それでも何とか動こうともぞもぞしていたら声をかけられる。

「ユウリ…起きた?」

耳元でキリルの声がして、見たらすぐ隣にキリルがいた。
横から抱きしめられるように一緒に寝ている。
ベッドの中、キリルの手足に抱え込まれるように寝ていたせいで、
少しも動けなかったらしい。

あぁ、そっか。キリルから魔力供給されていたんだ。
こんな風に抱きかかえられているのはめずらしいけど、
それだけ魔力が足りなかったのかもしれない。
完全に魔力切れを起こすなんて初めてだけど、それに近いことは何度かあった。
その時も回復するまで時間がかかっていたはずだけど、
今回はどのくらい寝ていたんだろうか?

「キリル…私、何日寝てた?」

「ん?何日?まだ、あれから一時間もたってないと思うよ?」

「え?…私、魔力切れ起こしてなかった?」

「あぁ、すんでのところで俺の魔力を直接入れたから大丈夫だった。
 さすがに疲れ切って意識を無くしてたみたいだけど。」

「魔力を直接?」

そう言われ、キリルにキスされたことを思い出した。
あれは魔力供給だったんだ…初めてのキスだったのに、そっか。
悔しくて苦しくて、涙が零れ落ちる。
嗚咽をこらえきれなかった。

「ユウリ!?どうした。どこか痛い?」

聞かれても何も答えられない。
少しでも言ってしまったら…もうそばにはいられない。
こんなに苦しいのに、一度吐き出してしまったら止まるとは思えなかった。

苦しい。苦しい。
なのに、抱きしめてくれるキリルの手を離すことができない。



「…あぁ、もう。規則とか言ってられるか…。」


ぼそりとキリルが低い声でつぶやくのが聞こえた。
規則?何を言ってるんだろうと思ったら、ふわりと抱きあげられた。
そのままベッドの上に座らされ、両頬を手でおさえこまれる。
顔をそむけたいのに、両頬をおさえられているから動けない。

こんな泣いてボロボロになっている顔を見せたくなんて無いのに。
それなのに、覗き込まれるようにキリルの顔が近づいてきて、また苦しくなる。
もう離して…立ち直るまで一人でそっとしておいて…。
泣きながらそう訴えるのに、キリルは離してはくれなかった。

「ユウリ…こんなになるまで我慢させてごめん。
 苦しませたくないのに…。」

「…キリル?」

「俺は…ユウリが好きだ。
 一度規則を破ってしまったから、もう二度と破らないようにしようと…。
 でも、ユウリがこんなに苦しんでるのなら規則なんていらない。」

「…え?」

いま、私のことが好きだって言った?
視線を合わせると、いつものような静かな表情じゃなく苦しそうな顔だった。
キリルも今にも泣きそうに見えた。
まさか…本当に私のことを?

「すぐには信じられないと思うけど、俺の話を聞いてくれる?」

「…うん。」

「まず、謝るけど…ユウリの気持ちは全部わかっていた。」

「え?」

「俺をすぐに信用してくれたのも、好きになりかけていたのも、
 途中からその気持ちを隠そうとして俺に壁を作ってしまったのも。
 魔力を通していると、だいたいの気持ちは伝わってくる。
 …俺も、ユウリに素直な気持ちを魔力で伝えていたつもりだった。
 言葉にできない分、魔力だけでも、態度だけでも伝えられたらって。」

「魔力で伝わって…いた?私の気持ちが?」
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