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聖女ではない新しい私へ
8.贈与式
すべての聖女としての仕事が終わった後、四人は王宮の謁見室へと来ていた。
大きな扉が開かれて中に入ると、中にいた全員が深く頭を下げる。
ざざっと礼をする時の服がすれる音が聞こえたほどだった。
「頭を上げていい。」
キリルが声をかけると、ゆっくりと頭をあげる。
そこには少し背が高くなって大人びた顔のハイドン王子がいた。
ハイドン王子は王太子としてこの場にたっている。
国王は夜会などでの失態で国王代理になっており、
もう二度と私たちの前には顔を出せないらしい。
そのため、王太子のハイドン王子が私たちを出迎えている。
「聖女様、神官隊長様のおかげでこの国、この世界は救われました。
ルリネガラ次期国王として、感謝の意として聖爵位を捧げたく存じます。」
聖爵位とは、聖女と神官隊長の仕事が終わった時に受け取る爵位だという。
これはあくまで形だけのもので、特に仕事があるわけじゃないらしい。
王族と同等で、国王の下につくわけでもない。
臣下になるわけでもないのに爵位が必要なのは、
こうでもしないと貴族たちが馬鹿なことをするからだと聞いた。
たとえば、聖女に嫁に来て欲しいとかだけじゃなく、
産まれた子供と婚約させろとか、無茶を言うことが無いように。
一生涯、王族や貴族の命令を聞く必要が無いように爵位を持つことになる。
これは一代限りの爵位で、私たちに子どもが生まれた場合は、
結婚相手の家に婿入りか嫁入りすることになるらしい。
そうすることで聖女や神官隊長の血は各貴族の家に伝わっていく。
もちろん、結婚相手は自由に選ぶことができる権利を持っていると聞いてほっとした。
政略結婚とかどう考えても無理だと思ったら、歴代の聖女たちもそうだったからと。
聖爵位を示す水晶付きの手鏡を受け取ると、ハイドン王子がため息をつくのがわかった。
何か悩んでそうな顔に、ちょっとだけ心配になる。
まだ学園に通う学生なのに、王族がハイドン王子だけになってしまった。
第二王子だったダニエル王子は、王族から外されていた。
それだけなら母方の貴族を名乗れるのだが、母親は元王妃毒殺の罪で処刑されている。
生家の侯爵家も取りつぶされたということで、ダニエル王子は行方知らずらしい。
ちらっと近くにいるカインお兄ちゃんを見たら、向こうも私を見ていた。
やっぱりお兄ちゃんもハイドン王子のため息が気になったようだ。
「ハイドン…何か悩んでいるのか?」
他の貴族たちが少し離れているのを確認して、小声で聞いている。
ハイドン王子はカインお兄ちゃんと私を見て、ぼそりとつぶやいた。
「…お二人を見ていたら、王家の色を持たない私が国王になっていいのかと…。」
その言葉におもわずハイドン王子を見る。
銀色の髪と水色の瞳。
側妃だった母親は侯爵家だけど、この色は祖母の生家である公爵家の色だそう。
カインお兄ちゃんもダニエル王子も金髪碧眼だった。
元の色に戻った私も金髪碧眼。
なのに、三人とも王族から外れ、王家の色を持たないハイドン王子が王太子になっている。
…考えてみたら、ダニエル王子もハイドン王子も異母兄弟になるんだ。
カインお兄ちゃんと違って、あまり弟という感じはしないけれど、
未成年のハイドン王子にすべての責任を負わせるのはかわいそうになる。
だけど…他に国王になれる人っていないんだよね。
王位継承権を持っていたはずのカインお兄ちゃんもキリルも、
神官隊長になった時点で王政には関わってはいけなくなってしまった。
カインお兄ちゃんは少しだけ考えた後、
ハイドン王子の肩に手を置いて言い聞かせるように伝えた。
「ハイドン、王家の色を持っていたからといっていい国王になるとは限らない。
それは父上を見て理解できただろう?」
「う…それは、はい。」
「大事なのは王家の色じゃない。
この国を守ることを考えてくれる国王だ。
お前なら大丈夫だと思っているよ。」
「…ありがとうございます。」
泣きそうになったハイドン王子が深く深く頭をさげた。
それに合わせるように周りの貴族たちも頭をさげる。
全員が頭を下げたら贈与式は終了だと言われていたから、
その状態のまま私たちは謁見室から出た。
大きな扉が開かれて中に入ると、中にいた全員が深く頭を下げる。
ざざっと礼をする時の服がすれる音が聞こえたほどだった。
「頭を上げていい。」
キリルが声をかけると、ゆっくりと頭をあげる。
そこには少し背が高くなって大人びた顔のハイドン王子がいた。
ハイドン王子は王太子としてこの場にたっている。
国王は夜会などでの失態で国王代理になっており、
もう二度と私たちの前には顔を出せないらしい。
そのため、王太子のハイドン王子が私たちを出迎えている。
「聖女様、神官隊長様のおかげでこの国、この世界は救われました。
ルリネガラ次期国王として、感謝の意として聖爵位を捧げたく存じます。」
聖爵位とは、聖女と神官隊長の仕事が終わった時に受け取る爵位だという。
これはあくまで形だけのもので、特に仕事があるわけじゃないらしい。
王族と同等で、国王の下につくわけでもない。
臣下になるわけでもないのに爵位が必要なのは、
こうでもしないと貴族たちが馬鹿なことをするからだと聞いた。
たとえば、聖女に嫁に来て欲しいとかだけじゃなく、
産まれた子供と婚約させろとか、無茶を言うことが無いように。
一生涯、王族や貴族の命令を聞く必要が無いように爵位を持つことになる。
これは一代限りの爵位で、私たちに子どもが生まれた場合は、
結婚相手の家に婿入りか嫁入りすることになるらしい。
そうすることで聖女や神官隊長の血は各貴族の家に伝わっていく。
もちろん、結婚相手は自由に選ぶことができる権利を持っていると聞いてほっとした。
政略結婚とかどう考えても無理だと思ったら、歴代の聖女たちもそうだったからと。
聖爵位を示す水晶付きの手鏡を受け取ると、ハイドン王子がため息をつくのがわかった。
何か悩んでそうな顔に、ちょっとだけ心配になる。
まだ学園に通う学生なのに、王族がハイドン王子だけになってしまった。
第二王子だったダニエル王子は、王族から外されていた。
それだけなら母方の貴族を名乗れるのだが、母親は元王妃毒殺の罪で処刑されている。
生家の侯爵家も取りつぶされたということで、ダニエル王子は行方知らずらしい。
ちらっと近くにいるカインお兄ちゃんを見たら、向こうも私を見ていた。
やっぱりお兄ちゃんもハイドン王子のため息が気になったようだ。
「ハイドン…何か悩んでいるのか?」
他の貴族たちが少し離れているのを確認して、小声で聞いている。
ハイドン王子はカインお兄ちゃんと私を見て、ぼそりとつぶやいた。
「…お二人を見ていたら、王家の色を持たない私が国王になっていいのかと…。」
その言葉におもわずハイドン王子を見る。
銀色の髪と水色の瞳。
側妃だった母親は侯爵家だけど、この色は祖母の生家である公爵家の色だそう。
カインお兄ちゃんもダニエル王子も金髪碧眼だった。
元の色に戻った私も金髪碧眼。
なのに、三人とも王族から外れ、王家の色を持たないハイドン王子が王太子になっている。
…考えてみたら、ダニエル王子もハイドン王子も異母兄弟になるんだ。
カインお兄ちゃんと違って、あまり弟という感じはしないけれど、
未成年のハイドン王子にすべての責任を負わせるのはかわいそうになる。
だけど…他に国王になれる人っていないんだよね。
王位継承権を持っていたはずのカインお兄ちゃんもキリルも、
神官隊長になった時点で王政には関わってはいけなくなってしまった。
カインお兄ちゃんは少しだけ考えた後、
ハイドン王子の肩に手を置いて言い聞かせるように伝えた。
「ハイドン、王家の色を持っていたからといっていい国王になるとは限らない。
それは父上を見て理解できただろう?」
「う…それは、はい。」
「大事なのは王家の色じゃない。
この国を守ることを考えてくれる国王だ。
お前なら大丈夫だと思っているよ。」
「…ありがとうございます。」
泣きそうになったハイドン王子が深く深く頭をさげた。
それに合わせるように周りの貴族たちも頭をさげる。
全員が頭を下げたら贈与式は終了だと言われていたから、
その状態のまま私たちは謁見室から出た。
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