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28.すれ違う会話

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固い鎧をつけた護衛たちが守る門をいくつか通り、王宮の奥まで進む。
ミラさんとノエルさんは平然としているけど、
王宮にくることもめったにない私は、心臓が落ち着かなくて、
誰かにすがりつきたくなる。

「ルーラ、魔力が落ち着いてない。大丈夫か?」

「え?そうなの?気持ちが落ち着かないから?
 緊張しすぎて、心臓が痛いくらい。
 どうしたら落ち着くかな…。」

「俺の腕につかまって。大丈夫、エスコートだと思われるから。」

差し出された左腕につかまると、魔力が吸いこまれて行く感じがした。
力が抜けるようなことはないが、本当に魔力があふれ出ていたようだ。
周りに影響が出る前にノエルさんが気が付いてくれて良かった。


「ルーラ、もう少しで寵妃さまの部屋につくわ。大丈夫?」

「はい。もう大丈夫です。」

ほっとした顔でまた歩き出したミラさんに、私とノエルさんがついていく。
すれ違う人たちの驚いた顔が気にはなったが、
私が誰だかわからなくて驚いているんだろう。
王宮薬師になったら、王宮にも顔を出すことになるのだろうか。
少しだけ不安になった。

「王宮薬師見習いのルーラ様をお連れいたしました。」

大きな扉の前にいた女性騎士に向かって、ミラさんがそう告げる。
私の顔を確認したのか頷いて、扉を開けてくれた。

「どうぞ、こちらに。」

中にいた寵妃さま付きの女官と思われる人が案内してくれる。
それについていくとバルコニーに出て、中庭が見える場所のテーブルに案内された。
座らずに待っていると、すぐに奥の部屋から寵妃さまらしい女性が現れた。

近づいてくる女性に頭をさげたまま、声がかかるのを待った。

「あなたが例の愛妾なのね。顔をあげて?」

少し高めの女性らしい声がかかり、顔を上げて見る。
栗色の髪と瞳で、小柄で愛らしい感じの女性が首をかしげてこちらを見ていた。
私の対応が何かおかしかっただろうか。

「まぁ、いいわ。座って話しましょう?」

寵妃さまが座った向かい側の椅子に案内され、
座ると女官たちがお茶や菓子を目の前に置いた。

「あなたの名前は?」

「ルーラです。」

伯爵家の名前を出すか迷ったが、王宮薬師見習いであれば、
家名を名乗る必要は無かったと思い、ルーラとだけ名乗る。
ミラさんとノエルさんは後ろに控えているので、
この答え方で大丈夫なのか顔を見て確認することはできない。
よほど困った状況になれば助けてくれるのだろうけど、
迷惑かけないようにできれば一人で乗り越えたい。

「そう。…ルーラは陛下のこと、好き?」

「好きとか嫌いとか言えるような立場ではありません。
 それと、私は愛妾ではございません。」

これでわかってもらえたかな…そう思ったのに、
寵妃さまの表情は険しいものになった。

「ルーラは平民なのよね?」

「平民として育ちましたが、先日伯爵として認められました。」

「…伯爵。」

平民だと言いたかったが、嘘をつくわけにもいかない。
だが、その辺の話は知らなかったのだろう。
寵妃さまが周りの女官に視線をうつしたが、女官たちは困った顔をしている。
寵妃さまがお茶を飲もうとしたが、
手が震えているのか、うまくカップを掴めないでいる。
それを見ていたら、あきらめたように深いため息をついて、微笑んだ。

「そう、そういうことなのね。
 わかったわ。これからは側妃同士として仲よくしましょうね。」

「は?」




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