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おまけ小説②(完結済)
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大学2年のクリスマス、サークルのメンバーでクリスマス会を開くことになった。
レク係の裕斗に参加する旨を伝えると、「クリスマス空いてるとか非リアじゃんwまあ俺もだけどwてか、お前らまだ付き合ってないの?w」と揶揄われた。
「周も参加しろよー」って何度も言ってたのは誰だったっけ?と聞いてやりたい。
裕斗には僕が彼女のことが好きだと早々にバレていて、よく「早く付き合え」と揶揄われる。
裕斗に自分の気持ちがバレているのは恥ずかしいけど、彼女の前では空気を読んでくれるし、彼女の些細な行動に対して、「あれは脈アリじゃない?w」と言ってもらえるのは、正直悪い気はしない。
彼女にさりげなくクリスマスの予定を確認したら、彼女はサークルのクリスマス会に参加するみたいだったから、僕も参加を決めた。
彼女とクリスマスデートをすることはできなくても、彼女と一緒に(他の人もいるけど)クリスマスを過ごすことが、付き合う前の段階として、まず重要なことだと思っているから。
サークルのクリスマス会当日、早めに着いて彼女を待っていると、普段よりもおしゃれをした彼女がやってきた。
普段から可愛いけど、今日は特に可愛い。
どうしよう?何だか緊張してきた。
とりあえず彼女に話しかけて、さりげなく彼女の隣を死守する。
彼女のそばに居たいのはいつものことだけど、それに加えて、彼女は普段から可愛いのに、今日はさらに輪をかけて可愛いから、彼女の近くにいたら、今まで彼女を恋愛対象として見ていなかった人も彼女のことを意識するかもしれない。
そもそも酔った無防備な彼女が他の男に触れたり可愛く絡んだりするかもしれない。
そう考えると気が気じゃなかった。
彼女のそばを死守する僕を見て、裕斗は何か言いたげにニヤニヤと笑っていた。
クリスマス会も後半になると、みんな酔ってきたみたいで、騒がしくなる。
普段はうちのサークルは、学内の軽音サークルで一番静かだと言われているけど、酒が入ると騒がしくなるのは他のサークルと同じだ。
お酒が飲めない現役の一年生達は、普段と違う先輩達の様子に驚いているようだ。
酔うほど飲まなかった僕は、何となく居た堪れなくなって、「酔いが醒めたら、みんないつも通り大人しくなるから」と後輩達にフォローを入れる。
ほとんど全員酔っている中で、僕と彼女は酔っていない人達同士ということで、部屋の隅に集まっている。
「酔ってない人達で大富豪やろー。大貧民になった人は、このパーカー着て、かえるさんの歌を歌うルールねー」
彼女が嬉しそうにバッグからトランプとかえるのパーカーを取り出す。
あっ、このパーカーは彼女がSNSでいいねしてた弓川パーカーシリーズだ……。
これと店舗限定のかいじゅうパーカーをいいねしてて、かいじゅうパーカーの方にいたっては複数の投稿をいいねしてたけど、結局かえるパーカーにしたんだ。
まあかいじゅうパーカーは、転売で買うか、新幹線を使って店舗に行かないと買えないからね。
彼女が買ったのがかえるパーカーで良かった。
彼女にどこかの機会でかいじゅうパーカーをあげようと思って、指定の店舗まで買いに行ったから。
今日も一応持ってきたけど、彼女と2人きりになれるか分からないし、2人きりになれても、付き合ってもいないのにパーカーをクリスマスプレゼントであげるのは重いかな?
「それ、SNSでバズってる弓川パーカーじゃないですか!」
弓川パーカーを見た後輩達がはしゃぐと、彼女はニヤリと笑う。
「しーっ。このパーカー見たら酔っぱらい達も参加してくるから静かに。大富豪は7人までしかできないから、ここでこっそりやろう」
「カードはもう切ってあるから」
そう言って彼女は僕から順にカードを渡していく。
カードゲームなら得意だから勝てるだろうと思ってカードをめくると、僕のデッキはあまりにも弱いものだった。
強い数字がないことに加えて、特殊効果があるカードもなければ、革命を起こすことも不可能だ。
「私と隣になったのが運の尽きだったね。絶対周のこと、大貧民にするから」
デッキを眺めている僕を見て、彼女は嬉しそうに笑う。
彼女は僕を負かすことに必死みたいだった。
後で不利になることも構わずに、僕の手前で大きい数字ばかり出して、絶対に11バックはしないようにしていた。
まるで僕のデッキを知っているかのように、僕を困らせるカードばかり出してきた。
そうして僕は、彼女が宣言した通り、大貧民になってしまった。
「じゃあ周、罰ゲームね」
そう言って彼女は僕にかえるのパーカーを差し出す。
「酔っぱらい達を周の歌声で醒まさせてあげよ?」
彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「周が歌い始めるまで、みんなが気付かないように、誰か周を隠してもらってもいい?」
「分かりました。俺が隠します。周先輩、すみません」
うちのサークルで一番体格が良い後輩の坂口くんに壁際に追い詰められる。
坂口くんは普段は無口だけど、こういう時は異様にノリが良い。
「えっ……ちょっ……」
「大貧民は口答え禁止ー」
坂口くんと僕の間に彼女が割って入る。
近い……。
彼女に近付かれると恥ずかしいけど、坂口くんの近くに居られるのも不安だから、もっとこっち側に来てくれれば良いのにとも思う。
「分かった……。着て歌えばいいんだよね?」
「うんうん。分かればよろしい」
僕が諦めてパーカーを着る。
パーカーを着た僕を見るなり、彼女は爆笑する。
「ふっwww周、似合ってるよ?www」
坂口くんも近くで笑いを堪えている。
ついでに後輩達も覗き込んできて笑い出す。
「周先輩www可愛いですねwww」
「ネットに載せたらバズりますよwww」
恥ずかしい。
こういうのは彼女みたいな可愛い子が着るから良いのであって……。
「ねえ……もう脱いでいい……?」
「ダメー」
「やーいやーい。アマガエルやーい」
アマガエル?ああ、周がカエルになってるからか。
「貧乏ガエルー。負けガエルー」
ん?それはシンプルに悪口じゃない?
いや、大富豪の話なんだけどね。
まあ、彼女が楽しそうだから良いか。
はしゃいでる彼女は可愛いし、パーカーの上からだけど、僕の頭にも触ってきて、嬉しいような恥ずかしいような気持ちでいっぱいになる。
カシャカシャ!
彼女が僕の写真を何枚も撮る。
僕もすかさずズボンのポケットからスマホを取り出して彼女の写真を撮り返す。
「えっ……ちょっと……」
僕が彼女を連写すると、彼女は恥ずかしそうに坂口くんの後ろに隠れる。
坂口くん、いいなあ。
「君は僕の写真を撮っているんだから、僕も君の写真を撮ってもいいでしょ?」
「ううっ……。周のそういうすぐ反撃するとこやだ……」
別に反撃したいわけじゃない。
本当ははしゃいでる可愛い彼女の写真が欲しいだけ。
「2人とも仲良いっすよね」
そんな僕達を見て、彼女に盾にされてる坂口くんは茶化すように笑うと、彼女はすかさず反論する。
「今敵になった!」
「みんなー!周がかえるさんのうたを歌いたいそうです!」
僕に写真を撮られて困った彼女は、僕の歌でみんなを起こす作戦はやめたらしい。
みんなの注目を僕に集めて、僕が逃げにくい状況を作ることにしたみたいだ。
空気を読んで坂口くんは僕から離れる。
「マジ!?周が歌うの珍しくね!?」
「てか弓川パーカーじゃん!写真撮っとこ!」
みんなの注目が僕に集まる。
ライブ以外で大勢に見られるのは恥ずかしい。
「約束だからちゃんと歌ってね?やらないと、周の弾き語り動画、サークルのみんなに教えちゃうよ?」
僕も彼女が書いたオリジナルソングの歌詞を持っているから、その脅しは通用しないんだけど、彼女に耳元で囁かれると、そんなことを言い返す余裕もなくなる。
「私、周の声好きだから、周のかえるさんの歌、聴きたいなー」
僕は単純なのかもしれない。
彼女にそんな風に言われたら、僕は歌う以外の選択肢を選べなくなる。
彼女は少し僕から離れて追加の要望をしてくる。
「周、今日ギター持ってるでしょ?弾き語りがいいなー」
彼女に言われるまま、ギターを取り出すと、場が更に盛り上がる。
ここが防音室がある裕斗の家で良かった。
深夜でも騒げるようにって、僕達が今居るところも防音室だから、こんな夜でもギターを弾ける。
せっかくなら、良い演奏がしたいな。
少しアレンジを加えて演奏しつつ歌い始めると、何人かが録画を始める。
「ロックなカエルだ……」
「やっぱりギター上手いよな。わんちゃんプロになれるんじゃね?」
「てか香月くん、歌も上手くない?」
「ボーカルとして敗北を感じるわ……」
「ホントにな……。俺ドラム叩こうかな……」
「ドラムはいいぞ」
「ドラムスティックならいつでも貸すからな」
「おすすめのドラム初心者動画を送ってやるよ」
後半は謎にドラム推しが強かったけど、みんなの声が嬉しい。
好きでやってることとは言っても、やっぱり一定以上の評価が得られると自信が付くし、純粋に嬉しい。
彼女はどう思ってるのか気になって、彼女の方をチラ見すると、彼女は「原曲より良いじゃん」と言いながら、動画を撮ることに集中しているみたいだ。
そんなに真剣に撮られていると、僕がいない時も今日の動画を観てくれるのかなって期待してしまう。
彼女に言われれば、僕は何だって弾くんだから、動画なんて撮らなくても、いつでも再現するのにね。
演奏が終わると、みんなに褒められた。
嬉しくてついにやけ顔になる。
彼女はそんな僕を見て、「私が歌ってって言って良かったね。アマガエル嬉しそう」と得意気な顔で言うから、みんなにアマガエルって呼び方が広まってしまった。
たぶん、これからしばらくアマガエル呼びが定着するなと悟った。
盛り上がっているところに、森田さんが近寄って来る。
「周くんっ……すごく上手だったね……!パーカーも似合ってる……!あのっ……しゃ……写真撮ってもいいかな……?」
そっか。弓川パーカーって大人気だもんね。
僕も彼女のSNSのいいね欄で知ったけど、やっぱり現物を撮りたい人もいるよね。
「いいよ。パーカー脱ぐからちょっと待ってて」
パーカーに手をかけると、森田さんは僕を制止する。
「違うのっ……!パーカーを着てる周くんを撮りたいの……」
「えっ……?う……うん……?」
一瞬困惑したものの、すぐに理解した。
森田さんは僕の写真をサークルのアルバムに載せたいんだ。
普段彼女の写真しか撮ってなかったし、彼女の写真は他の人に見せたくなくて、アルバムに載せたことなんてなかったから、サークルメンバーの思い出をアルバムに記録するって発想すら頭から抜けていた。
やばいな……。末期かもしれない……。
「いいよ。サークルのアルバム以外には、載せないでもらってもいい?」
「ありがとう!絶対サークル外とかには載せないから……」
森田さんに便乗して、女子が数人写真を撮りに来た。
弓川パーカーは特に女子に人気があるのかな?
普段彼女のアカウント以外、ほとんど見ないから真相は謎だけど、おそらくそうなんだろう。
「あまねー、そろそろ私のパーカー返して」
女子数人に囲まれて写真を撮られていると、彼女がすぐにやってきた。
パーカーを脱いで彼女に返すと、彼女はそのまま僕の真横に座ってくれる。
「てか周、この前2人で遊びに行った時の話だけどさー。あっ、2人で遊びに行ったって言っても、先週の話じゃなくて、先々週の話ね?」
「2人で出かけたんだ……。楽しそうだね……!どこ行ったの?」
「あー、たぶん森田さんは興味ない感じのところだと思う。周も興味ないけど、ついてきてくれただけだから。私は別に1人でも行こうと思ってたんだけど」
「それでね、周さぁ」
「うんうん」
彼女に話しかけられると、2人きりじゃないのに、あまりにも嬉しくてニヤけてしまう。
彼女といる時、いつもこんな顔をしているから、裕斗にもバレたんだろうな。
僕と彼女が2人で盛り上がっていたせいか、気付くと周りの人達はいなくなった。
みんなが居なくなったところで彼女は僕に耳打ちする。
「周、モテモテじゃんwww」
「モテ……?どういうこと……?」
「森田さん達に囲まれてたじゃん」
「ああ、あれは弓川パーカーが珍しいから気になってたみたい」
「またまた~!そんなのただの口実に決まってんじゃん!」
彼女はやけに楽しそうだ。
別に僕はモテてるわけではないけど、彼女は僕が他の女子から好かれててもいいのかな……?
そんなに僕に興味がないんだ……。
「さっきの中なら誰がタイプ~?あの中から付き合っちゃえば~?」
「誰がタイプとかないから……。サークル仲間だけど、全然そんなんじゃないから……。好きでもない人同士を勝手にくっつけるのは良くないよ……」
少しムッとした言い方をしたかもしれない。
それでも彼女は悪びれもせず、楽しそうだ。
「周冷た~!絶対好かれてるのに!森田さん達可哀想~」
何でそんなに楽しそうなの?
僕は彼女が他の男と喋ってると、不安で仕方ないのに。
ましてや彼女が他の男と噂されたらなんて、考えただけでも吐き気がする。
ありえないけど、もし僕がここで誰かが好きって言っても、彼女は別に気にならないんだろうか。
サークル内の冗談で僕と付き合ってるのか聞かれても、いつもすぐ否定するし。
何か気持ちが沈んできた。
その後はみんなでボードゲームをしたり、ホラーゲームをしたりして盛り上がった。
僕は大学の近くに住んでるから大丈夫だけど、電車通学の彼女はまだ帰らなくても大丈夫なんだろうか。
心配になって彼女に尋ねる。
「ねえ、そろそろ帰らないと終電がなくなるんじゃない?」
「ん。友達に泊めてもらうから大丈夫」
思わず「僕の家に泊まる?」って聞きそうになったけど、あまりにも下心が透けている発言だからやめておいた。
クリスマス会がお開きになる頃には、すっかり深夜になっていた。
家が遠い人達は先に帰ったけど、友達の家に泊まるつもりの彼女は、終電の時間になっても帰らなかった。
「どうしよ……。連絡繋がらない……」
彼女は友達に連絡した時間が遅かったからか、当てにしていた友達はどうやら寝てしまっていたのか返信が来ないらしい。
今から他の友達に連絡しても遅いだろう。
彼女は友達からもう返信が来ないことを悟ったのか、「どうしよう……。ホテル泊まろうかな……」と不安そうにしている。
裕斗は以前、「終電を逃す奴がいたら泊めてやるつもり」と言っていた。
彼女も裕斗の家に泊まればいいんだろうけど、男がいる空間に彼女を寝泊まりさせたくない。
裕斗なら事情を察して、僕も一緒に泊めてくれるかもしれないけど、せっかく彼女が家に帰れなくて困ってるから、このチャンスに乗じて、彼女と2人きりになりたい。
「ねえ、明日って用事ある?」
「ん?ないよ?」
「じゃあさ、朝まで一緒にカラオケしない?」
「カラオケ?」
「うん。僕も久しぶりに君の歌が聴きたいし」
「え……そ……そう……?」
「うん」
「じゃあ……行こうかな……」
嬉しい。
彼女と2人きりでクリスマスの夜を明かせるなんて。
付き合ってないのにいいのかな?
これがきっかけで付き合うことになったりしないかな?
彼女との2人きりの時間を妄想して、1人で勝手に浮かれていたけど、実際の彼女とのカラオケはだいぶイメージと違った。
「かづきあまねのちょっといい~とこみてみたい!」
「あれ?ここ宴会会場だっけ?」
カラオケに着くと、彼女はさっきは全然飲まなかった反動なのか、アルコール飲み放題を注文して、お酒を飲み始めた。
あまりお酒に強くない彼女は、すぐに酔ってしまったみたいで、僕に変な絡み方をしてくる。
「あまね!これうたってよ~!らぶりーまじかるてんしきらりんってやつ」
「何それ……?僕その曲知らないから、君が歌ってお手本聴かせてよ」
「え~?やだー。ていうかりれきにあっただけで、わたしもこれしらなーい!」
彼女は僕の歌に合わせてタンバリンを叩いたり、動画を撮ったりしている。
可愛い。
たぶん酔いが覚めた後に、酔ってる時の自分を思い出して、恥ずかしがるんだろうな。
「おさけおいし~」
彼女は酔っ払ってすっかりフラフラになっている。
酔ってる彼女は可愛いけど、だんだん心配になってきた。
それに、顔を紅潮させて僕に触ってくる(正確には叩いてきてるんだけど)無防備な彼女の姿に、僕も変な気持ちになってくるから、そろそろやめて欲しい。
「もうお酒禁止」
彼女の手からグラスを取り上げて、もう彼女が飲めないように残ったお酒を飲み干す。
やばい、冷静に考えなくてもこれ間接キスだ。
いや、狙ってやったんだけど。
お酒のせいではなく、彼女と間接キスしたことでドキドキしてきた。
そんな僕に構わず彼女は嘆く。
「うわーん!あまねのおさけどろぼう!ちょーえきひゃくねんだから!」
彼女にポカポカと殴られる。
見た目に反して、1回当たりのパンチが重くて、そんなところも可愛いと思う。
そのまま彼女は酔ったまま歌ったり、僕に歌わせたりするうちに、すっかり眠くなったみたいだ。
急に寝息を立て寝始めた。
僕はすっかり眠ってしまった彼女の頭を膝に乗せる。
これくらいは許されるかな……?
彼女の頬に優しく触れる。
ふにふにしていて触り心地が良い。
唇もきっと柔らかいんだろうな。
彼女の唇はどんな感触なんだろう?
彼女とのキスはどんな味がするんだろう?
そんなことを考えていたら、変な気持ちになってくる。
「ま……」
ま?何だろう?あまねのまでありますように……。
「まま……おひざかたい……」
えっ……?ママ……?
もしかして彼女は、僕の前ではお母さんって言ってるけど、家では母親のことをママって呼んでるのかな?
そのまま音がしないカメラアプリで、こっそり寝ている彼女の写真を撮ったり、彼女の寝顔をじっと見つめたりした。
だんだん膝が痺れてきたけど、彼女に膝枕したままでいたくて、気合いで膝が動かないように固定する。
そのまま数時間経ったところで、彼女はパチリと目を覚ます。
「まま……じゃなくて……?え……?あま……ね……?」
「お……おはよう……?」
目覚めてすぐ、僕と目が合うと、彼女はすごい勢いで飛び起きた。
「ぎゃぁぁぁぁ!何で私周の膝で寝てるの!?」
彼女は顔を真っ赤にして僕から距離を取る。
「君が僕にもたれかかってきたから、そのまま寝させておいてあげたんだよ?」
ごめん、嘘。僕が勝手に膝枕しました。
真相を知らない彼女は、恥ずかしさで顔を覆い隠す。
そのまま、「周の膝で寝たとか人生の汚点だ……。黒歴史だ……」とぶつぶつ呟く。
冗談でもそこまで言われると少し凹む。
僕に恥ずかしいところを見られて落ち込んでいる彼女を慰めていると、カラオケのフリータイムの時間が終わる。
「フリータイム終わるし出ようか」
「待って!まだこれ飲み終わってない!」
「分かった。じゃあそろそろ時間まずいし、僕が先に受付に行っておくね」
「ありがと」
エレベーターに乗って、受付で会計を済ます。
「周ー。会計済ませてくれたの?会計いくらになった?」
遅れてやってきた彼女が財布を取り出す。
「お金はいらないよ?僕が誘ったんだし、奢らせてよ」
「いや、そういうわけには……。私アルコール飲んでたし……」
「いいって。いいって」
「だいたいこれくらいで足りる?」
彼女も注文時に料金を確認していたのか、わりと正確な金額で割り勘分を差し出してくる。
彼女は普段は大雑把だけど、お金に関しては几帳面だ。
「受け取れませーん。僕、米粒より重いものは持てないから」
「ギター持ってんのに何言ってんの……?良いから受け取って」
彼女は気まずそうにする。
スマートに奢りたいのに、僕はこういうのは下手だ。
米粒より重いものは持てないって何だろう……?
絶対もっとかっこいい言い方があったよね……。
「じゃあ、今度お昼奢ってよ」
「えっ……?ランチじゃ金額的な釣り合いが……」
そんな細かい額とか全然気にしなくていいのに……。
少し前に読んだ恋愛に関する記事に書いてあった、「女性は興味がない男性に奢ってもらうのは避けたがります」という一文が頭に浮かんで悲しくなる。
「人のお金でランチが食べてみたい時ってあるじゃん?そういう時にお願い」
「あはは。なにそれ。まあじゃあそれで。何回か奢れば今日のカラオケ代くらいにはなるかな」
彼女と少しでも一緒に居たいから、一緒にランチを食べる約束を取り付ける。
実際彼女と一緒にいることは多いけど、ちゃんと彼女の中でも、これからも何回も僕とランチを食べることが前提になっていることに喜びを覚える。
「てかお腹空いたし、まずは今日、モーニング奢るね」
彼女はカラオケの近くにあるファストフード店を指し示す。
彼女と夜を明かして一緒にモーニングを食べるなんて、まるでカップルみたいだ。
もし彼女と付き合って、一緒に旅行に行くこととかになったら、こんな時間が過ごせるのかなと妄想してしまう。
会計時に僕が財布を取り出そうとすると、「私が奢るって言ってんじゃん」と、彼女は僕の両腕を脇で挟んで動けなくしてきた。
「ちょっ……」
挟まれた腕は彼女の胸に少し当たっている。
彼女は特に気にしていないみたいだけど、僕は思わず挙動不審になる。
おそらく同い年くらいの店員さんは、そんな僕達を見て、気まずそうにしている。
「ぎゃっ!」
楽しく2人でお話ししながらご飯を食べていると、彼女の手が飲み物に当たって、こぼれた飲み物がワンピースにかかる。
「大丈夫?」
僕はカバンから染み抜き用のウェットティッシュを取り出してから、立ち上がって彼女のワンピースを拭く。
彼女は困った顔のまま、僕にされるがままになっている。
「今日のために新しく買ったのにぃ……」
彼女が悲しそうにしているから、絶対に染みを抜いてやるぞという気持ちで、ウェットティッシュで染みを叩くと、無事染み取りに成功する。
彼女は時々こうやって飲み物とかをこぼすことがあるからと、ちょっと質の良い染み抜き用品を買っておいて良かった。
「取れたよ」
「良かったぁ~。周、ありがとう」
お店を出た後は、彼女を最寄駅まで送る。
しばらく大学は冬休みだから、彼女と次に会えるのは数日後だと思うと寂しい。
駅までの距離がもっと長ければ良かったのになんて思う。
駅に着いた。
僕は彼女にかいじゅうパーカーをあげるべきか悩んでいる。
彼女のSNSを見ていて、彼女が欲しそうな物といえばと思って選んだけど、彼女のいいね欄まで覗いてクリスマスプレゼントとして渡すのは引かれないかな?
今回は渡さずに、次のお誕生日プレゼントで渡した方がいいかな?
去年はクリスマスには会っていないから、クリスマスプレゼントのやりとりとかしてないし、初なら何かお菓子とかの消え物の方が良かったかなと、今更ながら後悔する。
そんなことを考えていると、彼女がおもむろにカバンからかえるパーカーを取り出す。
「これ、周にあげる」
「えっ?」
「一応……私からのクリスマスプレゼント……的な……」
「いいの……?だって君、SNSでも弓川パーカーの公式アカウントをフォローして、弓川パーカーに関する記事を何件かいいねしてたのに……」
「周……そんなとこまで見てんの?」
思わず彼女のSNSを監視していることがバレバレな発言をしてしまうと、彼女は少し呆れたような顔をするけど、そのまま言葉を続ける。
「周にアマガエルーって揶揄うためだけに買ったから、私には大きいし……。てか私、あの大富豪もわざと周に弱いカードが渡るようにして、周が大貧民になるように頑張ったんだよね」
「あれってそういうことだったの?」
「まあ……ぶっちゃけ出来レースだったよ。とりあえず、周用に買ったやつだから、周がもらってよ」
彼女は恥ずかしがって、僕に押し付けるようにかえるパーカーを持たせる。
余興用兼自分用に買ったのかと思っていたパーカーが、まさか僕用に買ってくれたものだったなんて。
そんなに日頃から僕のことを考えてくれているんだと思うと、心の底から嬉しい。
それに、お互いクリスマスプレゼントを持ってきていたなんて、まるで恋人みたいというか何というか。
「ありがとう……!」
「いいって。普段からお世話になってるし……」
彼女は目線を逸らし気味にする。
「じゃあ僕も……実は君に渡したいものがあって……」
「えっ……?」
カバンの中からかいじゅうパーカーを取り出す。
僕は彼女には、ねこパーカーが一番似合うんじゃないかと思うけど、彼女のいいね欄で複数回見かけたのはかいじゅうパーカーだったから、こっちにしてみた。
「はい、これ」
彼女にかいじゅうパーカーを差し出すと、彼女は明らかに嬉しそうに目を輝かせる。
「これ店舗限定のやつじゃん!えっ?オンラインでは買えなかったけど、この店舗に行ったの!?」
「たまたま出かけた先で見つけたから……君が欲しいかなって思って……」
たまたま見つけたっていうのは嘘。
本当は君が喜んでくれたらいいなって、あわよくば僕のことを好きになってくれたらいいなって思って、わざわざ新幹線を使って買いに行った。
転売で出品されてるのも見つけたけど、彼女に渡すのに、一度よく知らない人の手に渡った物を渡すのは嫌だったから。
自分でも馬鹿だと思う。
「観光してきたからお土産もあるよ。はい、これもあげる」
「すご~。ありがとー!あとで観光地の写真も送ってー」
彼女はスマホを取り出す。
「嬉しいから写真撮ってSNSにあげていい?」
「いいよ。むしろそんなに喜んでくれると、僕もあげた甲斐があったよ。僕もかえるパーカーの写真撮っていい?」
駅で袋に入ったパーカーの写真を撮っている僕達を見て、通りがかった何人かの人達が「あれ弓川パーカーじゃね?」なんて注目してくるから、少し恥ずかしい気持ちになった。
それからホームに向かう彼女を、背中が見えなくなるまで見送って、歩いて帰宅する。
彼女といた間は一切眠気を感じなかったけど、昨日は一度も寝てないから、家に着くと一気に眠気が来た。
シャワーを浴びて、やっとベッドに入る。
彼女はカラオケで寝てはいたけど、彼女も電車で寝落ちをしていないか心配になってメッセージを送る。
彼女も電車の中で暇だったのか、すぐに返信が来たから、さっき送ってと言われた観光地の写真を送ってみたり、他愛もない話をしたりする。
彼女からの無事帰宅したというメッセージに返信をしてから眠りにつく。
しばらく寝ていると、電話の音で起こされる。
「誰だろ?」
スマホを開くと、裕斗からだった。
彼女からの電話じゃないし、無視して寝直そうかなとも思ったけど、一応電話に出る。
昨日の夜から今日の朝まで、彼女と楽しい時間を過ごせたのは、裕斗のおかげでもあるし。
「もしもし。どうしたの?」
「アマガエル~、写真見たぞ~。朝までランデブーしたんだな」
「へっ?写真?何のこと?」
「SNS見てみろよ」
裕斗に言われるままSNSを開くと、彼女はかいじゅうパーカーの写真を載せているみたいだ。
よく画像を見ると、僕の袖が写っている。
「彼女のパーカーの写真のこと?」
「そうそう!これ完全に匂わせじゃね?これはわんちゃん、両想い説あるな」
匂わせ……。
単に僕の袖が写ってただけだと思うけど、匂わせだったら嬉しいな。
「もうこれ、朝まで周と一緒にいましたーっていう、周りの女子への牽制じゃん!」
「そう……かな……?」
「ぜってーそうだよ!」
「でも「友達からクリスマスプレゼントもらった!」だよ?友達って書いてあるし、どうなんだろう……?友達止まりってことかな……」
「お前ネガティブすぎwww匂わせってそういうもんなの!」
裕斗は自分のことのように楽しそうだ。
「てか俺が話したいのはそんなことじゃなくてだな。朝まで一緒にいたってことは……もしかしてホテル行っちゃった……?一線越えちゃった……?童貞卒業しちゃった……?やっぱりセックスってシコるより気持ちいいもんなの……?」
「そういうの本当にやめて。彼女とは一緒にカラオケしてただけだから。それより、彼女でそういう性的なことを考えるの、本気でやめてくれない?怒るよ?」
「ガチトーンじゃんwwwそんなんだから童貞なんだぞwwwまあ俺も童貞だけどwwwてか、周だってどうせ彼女で毎日のように抜いてるくせ」
ブチッ!
通話を切る。
図星だけど……図星だけど……例え僕絡みでも、他の男が彼女について性的な話をするのは耐えられなかった。
とりあえず僕も彼女の投稿にいいねをしようと、もう一度SNSを開くと、彼女の投稿は消されていた。
僕が写っていることが分かって投稿を削除したのかな?
次にサークルに顔を出すと、案の定、今まで僕のことを周と呼んでいたメンバー達が僕のことをアマガエルと呼び始めるようになった。
大学生バンドコンテストで入賞した時には、お祝いとしてカエルの雨合羽を渡された。
僕も最初はアマガエル扱いをされるのは恥ずかしかったけど、だんだん慣れてきたし、彼女も「アマガエルー」って楽しそうに絡んできてくれるから、雨の日はわざと彼女の前でカエルの雨合羽を着てみることもあった。
少しでも彼女の気を引けるなら、何でも良かった。
カエルのパーカーを手に取る。
あの頃は、彼女と僕はすごく仲が良かったんだ。
いつからおかしくなったのかな?
彼女を監禁している間も、パーカーのことで彼女に酷いことをしちゃったこともあったな。
「僕ね、君があんな思わせぶりなことをしてくるから、君に好かれてるんじゃないかなって勘違いしてた。元彼にもそういう思わせぶりな態度取ってたの?」
最近、彼女は抵抗することが多かったから、お仕置きも兼ねて避妊もせずに彼女を抱いている。
「僕は君からもらったもの、全部取ってあるんだよ?それこそお菓子の空箱とかも含めてね。でも君は、僕があげたもの、何一つここには持ってきてないよね?僕との思い出って、君にとっては本当にどうでもいいものだったんだね」
彼女は家を追い出されたんだから、そもそも今まで僕があげた物を持ってくる余裕なんてなかったはずだ。
頭ではそう分かっているのに、彼女に拒絶されることが続くと、それすらもネガティブな意味に捉えてしまって、彼女にぶつけてしまう。
「僕のこと、ちゃんと好き?」
「しゅき!しゅきだかりゃなかにださにゃいで……っ……!」
彼女は泣きながらひたすら「中に出さないで……」と懇願する。
彼女が泣くから、お仕置きの時はあえて中に出しているところがあるけど、実際にここまで泣かれると、そんなに僕との子供を産みたくないんだって、暗い気持ちになる。
「好きだから中に出さないで?それ何か変じゃない?ねえ、どっちが嘘?」
「あ……う……」
「答えられないってことは、好きっていうのが嘘なんだね」
首輪を操作するリモコンを手に取ると、彼女はガタガタと震え出す。
「僕に嘘ついたし、僕のこと拒絶したし、これは電気だね」
「ごめんなさい!でんきだけはやめっ……ああああああああ!」
彼女は痛みを逃すために必死にシーツを掴んで泣き叫ぶ。
「あああああああああ!ごべんにゃざいっ!ゆるぢで!ゆるぢで!」
泣き叫ぶ彼女の中に出す。
最近は電気の威力を前よりも上げたからか、相当痛いらしく、挿入中に電気を流すと、すごく強く締めてくるからすぐに射精してしまう。
射精したところで、電気も止めてあげる。
「電気流すとすごい締まるよね。クセになりそう……。君がこのまま悪い子なら、毎回電気流しながらセックスしようかな」
「ゆるひてくだひゃい……」
「負けガエルー。だっけ?あははっ。君はあれから無職になっちゃったし、僕から逃げる隙を窺ってるみたいだけど、いつも僕にこうやって好き放題されて泣いてるし、負けガエルは君の方じゃないのかな」
「ひぐっ……」
彼女の中から精液を掻き出す。
彼女の愛液と僕の精液がついた指を彼女の口の中に入れて舐め取らせる。
「妊娠したくないんでしょ?僕が中に出す度に、妊娠検査薬を使うまで毎日「妊娠怖い……」って泣いてるもんね?ちゃんと掻き出してあげるから全部舐め取るんだよ?全部舐め取れたら、シャワーでも洗い流してあげる」
彼女は妊娠の確率を少しでも下げるために、何度も気持ち悪さで吐きそうになりながらも必死に僕の指を舐め取る。
何とか全部舐め取ったものの、耐えきれなかったみたいで、彼女は必死に飲み込んだ分を、胃の中の物と一緒に全て吐き出してしまう。
「大丈夫?ごめんね……。全部飲めて偉かったね。吐いた分はこっちで掃除しておくから、少し休んだらちゃんとシャワーで綺麗にしてあげるからね」
それから、体液まみれになった彼女の身体を洗い流してあげて、中もしっかり洗ってあげる。
中を洗うと彼女は小さな嬌声を上げるけど、気持ち良さよりも恐怖の方が優っているみたいで、「まだ奥に残ってる……。お願い……。取って……」と懇願してくるから、奥までしっかり指を入れて綺麗にしてあげる。
お風呂の後は、彼女にご飯を作って食べさせてあげた。
彼女が好きな物を出してみたけど、彼女はずっと暗い顔をしていた。
「そういえばさ、そろそろまた耳掃除しなきゃだよね。僕がやってあげるから、僕の膝に寝転がってね」
そう言うと、彼女は怯えながらも僕の言う通りに、僕の膝に頭を乗せる。
僕が彼女の耳に綿棒を入れると、彼女は僕のことを警戒しているのか、小さく震え出す。
「膝枕懐かしいね。そういえばさ、あの時は君が寝惚けて僕の膝に寄りかかって来たって言ったけど、あれ実は嘘だったんだ。本当は寝ている君が可愛すぎて、僕が勝手に君に膝枕しただけなんだよ」
「………」
「でも安心して?ほっぺ触ったのと、寝顔を撮った以外は何もしなかったから。大切な君を傷付けたくなかったからさ。男と2人きりで酔ったまま寝るって、僕じゃなかったら何されるか分からなかったよ?」
彼女の頭を撫でる。
彼女からの返事はない。
「あの時はね、君に信頼されてるのかなって嬉しくて、君の信頼を裏切らないようにしなきゃって思ったんだ。でも君は、大して好きでもない男に処女をあげたし、風俗で働こうとしたんだもんね。僕が君にアプローチした時は避けたくせに、僕以外の男なら誰でもいいんだね……」
何で何も言ってくれないの?
「でも君のことは、もうここから一生出さないから、もう他の男と会うことなんてないもんね。過去の過ちは許してあげるから、これからはちゃんと僕だけを見てね?」
それからお互いの寝る支度を済ませて、彼女をベッドに寝かせると、彼女は泣きながら独り言を呟き始めた。
最近は毎晩独り言を言っている。
「痛いのも怖いのもやだ……。おうちに帰りたい……。私、悪いことしたけど、いっぱい罰は受けたから……もう許して……。私が全部間違ってたから……。もう二度と幼い子を虐めません……。ちゃんと働きます……。だからおうちに帰らせてください……。ごめんなさい……ごめんなさい……許してください……」
彼女は家族の幻覚でも見ているのか、壁に向かってひたすら謝り続ける。
「何言ってるの?君は家族に捨てられて僕のところに来たんでしょ?帰るところなんてないよ」
正気を失っているように見えても、僕の声は届くみたいで、彼女は僕の言葉を聞いて、さらに泣き出す。
それから彼女の精神状態があまりにも心配になったから、大学時代みたいに楽しい話を振ってみたり、彼女の拘束を片手だけにして、彼女が好きな漫画とか好きな音楽とか好きなゲームを楽しめるようにしたりした。
抱かないようにしてみたり、優しく接してみたりしたけど、それでも彼女は僕に怯えていて、僕の機嫌を取るために卑屈な笑顔を作ったり、僕が好きだと言って僕に抱きついてきてくれたりしたけど、精神が不安定になるといつも、「ここから出して」と泣き始めた。
本当は、彼女を逃してあげないと、彼女の笑顔は二度と戻らないと分かっていた。
もう彼女には、僕への恐怖が刷り込まれているんだから、僕が彼女に優しく接したところで、普通の恋人みたいになれるわけなんてなかった。
その事実が受け入れられなくて、おかしくなって、彼女を心身共に壊してしまった。
皮肉なことに、彼女は壊れてから、ようやく僕を好きだと言ってくれるようになった。いつもそばに居てくれるようになった。
「あまねー、そのかえるさんなにー?」
カエルのパーカーを見つめて、彼女とのこれまでに思いを馳せていると、彼女がベッドから話しかけてくる。
「これはね、僕の宝物の1つだよ」
「たからもの?ぜんぶみせて!」
「あはは。いいよ」
彼女からもらった物を全部見せる。
誕生日プレゼントから、彼女が気まぐれにくれたお菓子の箱まで、全部大切に取ってある。
「たからものいっぱいなんだねー」
全部彼女がくれた物なのに、彼女は他人事のような感想を言う。
「全部同じ人からもらったんだよ」
「へー!あいされてるね!でもわたしのほうがあまねのことすきだけどね!」
「ありがとう。僕も君のこと、愛してるよ」
愛されてる……?
僕は本当は、彼女に愛されてたのかな……?
「あまねー、かえるさんきてみてよー」
「流石に20後半の男が着るのは厳しくないかな?君が着なよ」
「わたしもきたいけど、さきにあまねがきて!」
「あはは。りょーかい」
かえるのパーカーを着る。
彼女との日々が思い出されて、泣きそうになる。
「似合ってるかな?」
「にあってるー!かえるさん!あまがえるさん!かえるさんのうた、うたってよー!」
「かえるさんのうたね。歌うの久しぶりだから懐かしいな。ギターも弾くね」
「わーい!あまねのぎたーすき!」
やっぱり君は同じことを言うんだね……。
当時はロック風にアレンジしたけど、何となく幼くなった彼女の前では、童謡らしく歌った方が良い気がして、原曲の雰囲気のまま歌う。
「どうだった?」
「うーん。はげしさがたりない……」
昔やったアレンジで弾き直してみる。
「良くなった?」
「うん!わたしこっちのほうがすき!」
「そっか……。君もそうなんだね……」
変わったところと、変わらないところ。
僕にとってはどちらも愛しい。
だって彼女は彼女だから。
レク係の裕斗に参加する旨を伝えると、「クリスマス空いてるとか非リアじゃんwまあ俺もだけどwてか、お前らまだ付き合ってないの?w」と揶揄われた。
「周も参加しろよー」って何度も言ってたのは誰だったっけ?と聞いてやりたい。
裕斗には僕が彼女のことが好きだと早々にバレていて、よく「早く付き合え」と揶揄われる。
裕斗に自分の気持ちがバレているのは恥ずかしいけど、彼女の前では空気を読んでくれるし、彼女の些細な行動に対して、「あれは脈アリじゃない?w」と言ってもらえるのは、正直悪い気はしない。
彼女にさりげなくクリスマスの予定を確認したら、彼女はサークルのクリスマス会に参加するみたいだったから、僕も参加を決めた。
彼女とクリスマスデートをすることはできなくても、彼女と一緒に(他の人もいるけど)クリスマスを過ごすことが、付き合う前の段階として、まず重要なことだと思っているから。
サークルのクリスマス会当日、早めに着いて彼女を待っていると、普段よりもおしゃれをした彼女がやってきた。
普段から可愛いけど、今日は特に可愛い。
どうしよう?何だか緊張してきた。
とりあえず彼女に話しかけて、さりげなく彼女の隣を死守する。
彼女のそばに居たいのはいつものことだけど、それに加えて、彼女は普段から可愛いのに、今日はさらに輪をかけて可愛いから、彼女の近くにいたら、今まで彼女を恋愛対象として見ていなかった人も彼女のことを意識するかもしれない。
そもそも酔った無防備な彼女が他の男に触れたり可愛く絡んだりするかもしれない。
そう考えると気が気じゃなかった。
彼女のそばを死守する僕を見て、裕斗は何か言いたげにニヤニヤと笑っていた。
クリスマス会も後半になると、みんな酔ってきたみたいで、騒がしくなる。
普段はうちのサークルは、学内の軽音サークルで一番静かだと言われているけど、酒が入ると騒がしくなるのは他のサークルと同じだ。
お酒が飲めない現役の一年生達は、普段と違う先輩達の様子に驚いているようだ。
酔うほど飲まなかった僕は、何となく居た堪れなくなって、「酔いが醒めたら、みんないつも通り大人しくなるから」と後輩達にフォローを入れる。
ほとんど全員酔っている中で、僕と彼女は酔っていない人達同士ということで、部屋の隅に集まっている。
「酔ってない人達で大富豪やろー。大貧民になった人は、このパーカー着て、かえるさんの歌を歌うルールねー」
彼女が嬉しそうにバッグからトランプとかえるのパーカーを取り出す。
あっ、このパーカーは彼女がSNSでいいねしてた弓川パーカーシリーズだ……。
これと店舗限定のかいじゅうパーカーをいいねしてて、かいじゅうパーカーの方にいたっては複数の投稿をいいねしてたけど、結局かえるパーカーにしたんだ。
まあかいじゅうパーカーは、転売で買うか、新幹線を使って店舗に行かないと買えないからね。
彼女が買ったのがかえるパーカーで良かった。
彼女にどこかの機会でかいじゅうパーカーをあげようと思って、指定の店舗まで買いに行ったから。
今日も一応持ってきたけど、彼女と2人きりになれるか分からないし、2人きりになれても、付き合ってもいないのにパーカーをクリスマスプレゼントであげるのは重いかな?
「それ、SNSでバズってる弓川パーカーじゃないですか!」
弓川パーカーを見た後輩達がはしゃぐと、彼女はニヤリと笑う。
「しーっ。このパーカー見たら酔っぱらい達も参加してくるから静かに。大富豪は7人までしかできないから、ここでこっそりやろう」
「カードはもう切ってあるから」
そう言って彼女は僕から順にカードを渡していく。
カードゲームなら得意だから勝てるだろうと思ってカードをめくると、僕のデッキはあまりにも弱いものだった。
強い数字がないことに加えて、特殊効果があるカードもなければ、革命を起こすことも不可能だ。
「私と隣になったのが運の尽きだったね。絶対周のこと、大貧民にするから」
デッキを眺めている僕を見て、彼女は嬉しそうに笑う。
彼女は僕を負かすことに必死みたいだった。
後で不利になることも構わずに、僕の手前で大きい数字ばかり出して、絶対に11バックはしないようにしていた。
まるで僕のデッキを知っているかのように、僕を困らせるカードばかり出してきた。
そうして僕は、彼女が宣言した通り、大貧民になってしまった。
「じゃあ周、罰ゲームね」
そう言って彼女は僕にかえるのパーカーを差し出す。
「酔っぱらい達を周の歌声で醒まさせてあげよ?」
彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「周が歌い始めるまで、みんなが気付かないように、誰か周を隠してもらってもいい?」
「分かりました。俺が隠します。周先輩、すみません」
うちのサークルで一番体格が良い後輩の坂口くんに壁際に追い詰められる。
坂口くんは普段は無口だけど、こういう時は異様にノリが良い。
「えっ……ちょっ……」
「大貧民は口答え禁止ー」
坂口くんと僕の間に彼女が割って入る。
近い……。
彼女に近付かれると恥ずかしいけど、坂口くんの近くに居られるのも不安だから、もっとこっち側に来てくれれば良いのにとも思う。
「分かった……。着て歌えばいいんだよね?」
「うんうん。分かればよろしい」
僕が諦めてパーカーを着る。
パーカーを着た僕を見るなり、彼女は爆笑する。
「ふっwww周、似合ってるよ?www」
坂口くんも近くで笑いを堪えている。
ついでに後輩達も覗き込んできて笑い出す。
「周先輩www可愛いですねwww」
「ネットに載せたらバズりますよwww」
恥ずかしい。
こういうのは彼女みたいな可愛い子が着るから良いのであって……。
「ねえ……もう脱いでいい……?」
「ダメー」
「やーいやーい。アマガエルやーい」
アマガエル?ああ、周がカエルになってるからか。
「貧乏ガエルー。負けガエルー」
ん?それはシンプルに悪口じゃない?
いや、大富豪の話なんだけどね。
まあ、彼女が楽しそうだから良いか。
はしゃいでる彼女は可愛いし、パーカーの上からだけど、僕の頭にも触ってきて、嬉しいような恥ずかしいような気持ちでいっぱいになる。
カシャカシャ!
彼女が僕の写真を何枚も撮る。
僕もすかさずズボンのポケットからスマホを取り出して彼女の写真を撮り返す。
「えっ……ちょっと……」
僕が彼女を連写すると、彼女は恥ずかしそうに坂口くんの後ろに隠れる。
坂口くん、いいなあ。
「君は僕の写真を撮っているんだから、僕も君の写真を撮ってもいいでしょ?」
「ううっ……。周のそういうすぐ反撃するとこやだ……」
別に反撃したいわけじゃない。
本当ははしゃいでる可愛い彼女の写真が欲しいだけ。
「2人とも仲良いっすよね」
そんな僕達を見て、彼女に盾にされてる坂口くんは茶化すように笑うと、彼女はすかさず反論する。
「今敵になった!」
「みんなー!周がかえるさんのうたを歌いたいそうです!」
僕に写真を撮られて困った彼女は、僕の歌でみんなを起こす作戦はやめたらしい。
みんなの注目を僕に集めて、僕が逃げにくい状況を作ることにしたみたいだ。
空気を読んで坂口くんは僕から離れる。
「マジ!?周が歌うの珍しくね!?」
「てか弓川パーカーじゃん!写真撮っとこ!」
みんなの注目が僕に集まる。
ライブ以外で大勢に見られるのは恥ずかしい。
「約束だからちゃんと歌ってね?やらないと、周の弾き語り動画、サークルのみんなに教えちゃうよ?」
僕も彼女が書いたオリジナルソングの歌詞を持っているから、その脅しは通用しないんだけど、彼女に耳元で囁かれると、そんなことを言い返す余裕もなくなる。
「私、周の声好きだから、周のかえるさんの歌、聴きたいなー」
僕は単純なのかもしれない。
彼女にそんな風に言われたら、僕は歌う以外の選択肢を選べなくなる。
彼女は少し僕から離れて追加の要望をしてくる。
「周、今日ギター持ってるでしょ?弾き語りがいいなー」
彼女に言われるまま、ギターを取り出すと、場が更に盛り上がる。
ここが防音室がある裕斗の家で良かった。
深夜でも騒げるようにって、僕達が今居るところも防音室だから、こんな夜でもギターを弾ける。
せっかくなら、良い演奏がしたいな。
少しアレンジを加えて演奏しつつ歌い始めると、何人かが録画を始める。
「ロックなカエルだ……」
「やっぱりギター上手いよな。わんちゃんプロになれるんじゃね?」
「てか香月くん、歌も上手くない?」
「ボーカルとして敗北を感じるわ……」
「ホントにな……。俺ドラム叩こうかな……」
「ドラムはいいぞ」
「ドラムスティックならいつでも貸すからな」
「おすすめのドラム初心者動画を送ってやるよ」
後半は謎にドラム推しが強かったけど、みんなの声が嬉しい。
好きでやってることとは言っても、やっぱり一定以上の評価が得られると自信が付くし、純粋に嬉しい。
彼女はどう思ってるのか気になって、彼女の方をチラ見すると、彼女は「原曲より良いじゃん」と言いながら、動画を撮ることに集中しているみたいだ。
そんなに真剣に撮られていると、僕がいない時も今日の動画を観てくれるのかなって期待してしまう。
彼女に言われれば、僕は何だって弾くんだから、動画なんて撮らなくても、いつでも再現するのにね。
演奏が終わると、みんなに褒められた。
嬉しくてついにやけ顔になる。
彼女はそんな僕を見て、「私が歌ってって言って良かったね。アマガエル嬉しそう」と得意気な顔で言うから、みんなにアマガエルって呼び方が広まってしまった。
たぶん、これからしばらくアマガエル呼びが定着するなと悟った。
盛り上がっているところに、森田さんが近寄って来る。
「周くんっ……すごく上手だったね……!パーカーも似合ってる……!あのっ……しゃ……写真撮ってもいいかな……?」
そっか。弓川パーカーって大人気だもんね。
僕も彼女のSNSのいいね欄で知ったけど、やっぱり現物を撮りたい人もいるよね。
「いいよ。パーカー脱ぐからちょっと待ってて」
パーカーに手をかけると、森田さんは僕を制止する。
「違うのっ……!パーカーを着てる周くんを撮りたいの……」
「えっ……?う……うん……?」
一瞬困惑したものの、すぐに理解した。
森田さんは僕の写真をサークルのアルバムに載せたいんだ。
普段彼女の写真しか撮ってなかったし、彼女の写真は他の人に見せたくなくて、アルバムに載せたことなんてなかったから、サークルメンバーの思い出をアルバムに記録するって発想すら頭から抜けていた。
やばいな……。末期かもしれない……。
「いいよ。サークルのアルバム以外には、載せないでもらってもいい?」
「ありがとう!絶対サークル外とかには載せないから……」
森田さんに便乗して、女子が数人写真を撮りに来た。
弓川パーカーは特に女子に人気があるのかな?
普段彼女のアカウント以外、ほとんど見ないから真相は謎だけど、おそらくそうなんだろう。
「あまねー、そろそろ私のパーカー返して」
女子数人に囲まれて写真を撮られていると、彼女がすぐにやってきた。
パーカーを脱いで彼女に返すと、彼女はそのまま僕の真横に座ってくれる。
「てか周、この前2人で遊びに行った時の話だけどさー。あっ、2人で遊びに行ったって言っても、先週の話じゃなくて、先々週の話ね?」
「2人で出かけたんだ……。楽しそうだね……!どこ行ったの?」
「あー、たぶん森田さんは興味ない感じのところだと思う。周も興味ないけど、ついてきてくれただけだから。私は別に1人でも行こうと思ってたんだけど」
「それでね、周さぁ」
「うんうん」
彼女に話しかけられると、2人きりじゃないのに、あまりにも嬉しくてニヤけてしまう。
彼女といる時、いつもこんな顔をしているから、裕斗にもバレたんだろうな。
僕と彼女が2人で盛り上がっていたせいか、気付くと周りの人達はいなくなった。
みんなが居なくなったところで彼女は僕に耳打ちする。
「周、モテモテじゃんwww」
「モテ……?どういうこと……?」
「森田さん達に囲まれてたじゃん」
「ああ、あれは弓川パーカーが珍しいから気になってたみたい」
「またまた~!そんなのただの口実に決まってんじゃん!」
彼女はやけに楽しそうだ。
別に僕はモテてるわけではないけど、彼女は僕が他の女子から好かれててもいいのかな……?
そんなに僕に興味がないんだ……。
「さっきの中なら誰がタイプ~?あの中から付き合っちゃえば~?」
「誰がタイプとかないから……。サークル仲間だけど、全然そんなんじゃないから……。好きでもない人同士を勝手にくっつけるのは良くないよ……」
少しムッとした言い方をしたかもしれない。
それでも彼女は悪びれもせず、楽しそうだ。
「周冷た~!絶対好かれてるのに!森田さん達可哀想~」
何でそんなに楽しそうなの?
僕は彼女が他の男と喋ってると、不安で仕方ないのに。
ましてや彼女が他の男と噂されたらなんて、考えただけでも吐き気がする。
ありえないけど、もし僕がここで誰かが好きって言っても、彼女は別に気にならないんだろうか。
サークル内の冗談で僕と付き合ってるのか聞かれても、いつもすぐ否定するし。
何か気持ちが沈んできた。
その後はみんなでボードゲームをしたり、ホラーゲームをしたりして盛り上がった。
僕は大学の近くに住んでるから大丈夫だけど、電車通学の彼女はまだ帰らなくても大丈夫なんだろうか。
心配になって彼女に尋ねる。
「ねえ、そろそろ帰らないと終電がなくなるんじゃない?」
「ん。友達に泊めてもらうから大丈夫」
思わず「僕の家に泊まる?」って聞きそうになったけど、あまりにも下心が透けている発言だからやめておいた。
クリスマス会がお開きになる頃には、すっかり深夜になっていた。
家が遠い人達は先に帰ったけど、友達の家に泊まるつもりの彼女は、終電の時間になっても帰らなかった。
「どうしよ……。連絡繋がらない……」
彼女は友達に連絡した時間が遅かったからか、当てにしていた友達はどうやら寝てしまっていたのか返信が来ないらしい。
今から他の友達に連絡しても遅いだろう。
彼女は友達からもう返信が来ないことを悟ったのか、「どうしよう……。ホテル泊まろうかな……」と不安そうにしている。
裕斗は以前、「終電を逃す奴がいたら泊めてやるつもり」と言っていた。
彼女も裕斗の家に泊まればいいんだろうけど、男がいる空間に彼女を寝泊まりさせたくない。
裕斗なら事情を察して、僕も一緒に泊めてくれるかもしれないけど、せっかく彼女が家に帰れなくて困ってるから、このチャンスに乗じて、彼女と2人きりになりたい。
「ねえ、明日って用事ある?」
「ん?ないよ?」
「じゃあさ、朝まで一緒にカラオケしない?」
「カラオケ?」
「うん。僕も久しぶりに君の歌が聴きたいし」
「え……そ……そう……?」
「うん」
「じゃあ……行こうかな……」
嬉しい。
彼女と2人きりでクリスマスの夜を明かせるなんて。
付き合ってないのにいいのかな?
これがきっかけで付き合うことになったりしないかな?
彼女との2人きりの時間を妄想して、1人で勝手に浮かれていたけど、実際の彼女とのカラオケはだいぶイメージと違った。
「かづきあまねのちょっといい~とこみてみたい!」
「あれ?ここ宴会会場だっけ?」
カラオケに着くと、彼女はさっきは全然飲まなかった反動なのか、アルコール飲み放題を注文して、お酒を飲み始めた。
あまりお酒に強くない彼女は、すぐに酔ってしまったみたいで、僕に変な絡み方をしてくる。
「あまね!これうたってよ~!らぶりーまじかるてんしきらりんってやつ」
「何それ……?僕その曲知らないから、君が歌ってお手本聴かせてよ」
「え~?やだー。ていうかりれきにあっただけで、わたしもこれしらなーい!」
彼女は僕の歌に合わせてタンバリンを叩いたり、動画を撮ったりしている。
可愛い。
たぶん酔いが覚めた後に、酔ってる時の自分を思い出して、恥ずかしがるんだろうな。
「おさけおいし~」
彼女は酔っ払ってすっかりフラフラになっている。
酔ってる彼女は可愛いけど、だんだん心配になってきた。
それに、顔を紅潮させて僕に触ってくる(正確には叩いてきてるんだけど)無防備な彼女の姿に、僕も変な気持ちになってくるから、そろそろやめて欲しい。
「もうお酒禁止」
彼女の手からグラスを取り上げて、もう彼女が飲めないように残ったお酒を飲み干す。
やばい、冷静に考えなくてもこれ間接キスだ。
いや、狙ってやったんだけど。
お酒のせいではなく、彼女と間接キスしたことでドキドキしてきた。
そんな僕に構わず彼女は嘆く。
「うわーん!あまねのおさけどろぼう!ちょーえきひゃくねんだから!」
彼女にポカポカと殴られる。
見た目に反して、1回当たりのパンチが重くて、そんなところも可愛いと思う。
そのまま彼女は酔ったまま歌ったり、僕に歌わせたりするうちに、すっかり眠くなったみたいだ。
急に寝息を立て寝始めた。
僕はすっかり眠ってしまった彼女の頭を膝に乗せる。
これくらいは許されるかな……?
彼女の頬に優しく触れる。
ふにふにしていて触り心地が良い。
唇もきっと柔らかいんだろうな。
彼女の唇はどんな感触なんだろう?
彼女とのキスはどんな味がするんだろう?
そんなことを考えていたら、変な気持ちになってくる。
「ま……」
ま?何だろう?あまねのまでありますように……。
「まま……おひざかたい……」
えっ……?ママ……?
もしかして彼女は、僕の前ではお母さんって言ってるけど、家では母親のことをママって呼んでるのかな?
そのまま音がしないカメラアプリで、こっそり寝ている彼女の写真を撮ったり、彼女の寝顔をじっと見つめたりした。
だんだん膝が痺れてきたけど、彼女に膝枕したままでいたくて、気合いで膝が動かないように固定する。
そのまま数時間経ったところで、彼女はパチリと目を覚ます。
「まま……じゃなくて……?え……?あま……ね……?」
「お……おはよう……?」
目覚めてすぐ、僕と目が合うと、彼女はすごい勢いで飛び起きた。
「ぎゃぁぁぁぁ!何で私周の膝で寝てるの!?」
彼女は顔を真っ赤にして僕から距離を取る。
「君が僕にもたれかかってきたから、そのまま寝させておいてあげたんだよ?」
ごめん、嘘。僕が勝手に膝枕しました。
真相を知らない彼女は、恥ずかしさで顔を覆い隠す。
そのまま、「周の膝で寝たとか人生の汚点だ……。黒歴史だ……」とぶつぶつ呟く。
冗談でもそこまで言われると少し凹む。
僕に恥ずかしいところを見られて落ち込んでいる彼女を慰めていると、カラオケのフリータイムの時間が終わる。
「フリータイム終わるし出ようか」
「待って!まだこれ飲み終わってない!」
「分かった。じゃあそろそろ時間まずいし、僕が先に受付に行っておくね」
「ありがと」
エレベーターに乗って、受付で会計を済ます。
「周ー。会計済ませてくれたの?会計いくらになった?」
遅れてやってきた彼女が財布を取り出す。
「お金はいらないよ?僕が誘ったんだし、奢らせてよ」
「いや、そういうわけには……。私アルコール飲んでたし……」
「いいって。いいって」
「だいたいこれくらいで足りる?」
彼女も注文時に料金を確認していたのか、わりと正確な金額で割り勘分を差し出してくる。
彼女は普段は大雑把だけど、お金に関しては几帳面だ。
「受け取れませーん。僕、米粒より重いものは持てないから」
「ギター持ってんのに何言ってんの……?良いから受け取って」
彼女は気まずそうにする。
スマートに奢りたいのに、僕はこういうのは下手だ。
米粒より重いものは持てないって何だろう……?
絶対もっとかっこいい言い方があったよね……。
「じゃあ、今度お昼奢ってよ」
「えっ……?ランチじゃ金額的な釣り合いが……」
そんな細かい額とか全然気にしなくていいのに……。
少し前に読んだ恋愛に関する記事に書いてあった、「女性は興味がない男性に奢ってもらうのは避けたがります」という一文が頭に浮かんで悲しくなる。
「人のお金でランチが食べてみたい時ってあるじゃん?そういう時にお願い」
「あはは。なにそれ。まあじゃあそれで。何回か奢れば今日のカラオケ代くらいにはなるかな」
彼女と少しでも一緒に居たいから、一緒にランチを食べる約束を取り付ける。
実際彼女と一緒にいることは多いけど、ちゃんと彼女の中でも、これからも何回も僕とランチを食べることが前提になっていることに喜びを覚える。
「てかお腹空いたし、まずは今日、モーニング奢るね」
彼女はカラオケの近くにあるファストフード店を指し示す。
彼女と夜を明かして一緒にモーニングを食べるなんて、まるでカップルみたいだ。
もし彼女と付き合って、一緒に旅行に行くこととかになったら、こんな時間が過ごせるのかなと妄想してしまう。
会計時に僕が財布を取り出そうとすると、「私が奢るって言ってんじゃん」と、彼女は僕の両腕を脇で挟んで動けなくしてきた。
「ちょっ……」
挟まれた腕は彼女の胸に少し当たっている。
彼女は特に気にしていないみたいだけど、僕は思わず挙動不審になる。
おそらく同い年くらいの店員さんは、そんな僕達を見て、気まずそうにしている。
「ぎゃっ!」
楽しく2人でお話ししながらご飯を食べていると、彼女の手が飲み物に当たって、こぼれた飲み物がワンピースにかかる。
「大丈夫?」
僕はカバンから染み抜き用のウェットティッシュを取り出してから、立ち上がって彼女のワンピースを拭く。
彼女は困った顔のまま、僕にされるがままになっている。
「今日のために新しく買ったのにぃ……」
彼女が悲しそうにしているから、絶対に染みを抜いてやるぞという気持ちで、ウェットティッシュで染みを叩くと、無事染み取りに成功する。
彼女は時々こうやって飲み物とかをこぼすことがあるからと、ちょっと質の良い染み抜き用品を買っておいて良かった。
「取れたよ」
「良かったぁ~。周、ありがとう」
お店を出た後は、彼女を最寄駅まで送る。
しばらく大学は冬休みだから、彼女と次に会えるのは数日後だと思うと寂しい。
駅までの距離がもっと長ければ良かったのになんて思う。
駅に着いた。
僕は彼女にかいじゅうパーカーをあげるべきか悩んでいる。
彼女のSNSを見ていて、彼女が欲しそうな物といえばと思って選んだけど、彼女のいいね欄まで覗いてクリスマスプレゼントとして渡すのは引かれないかな?
今回は渡さずに、次のお誕生日プレゼントで渡した方がいいかな?
去年はクリスマスには会っていないから、クリスマスプレゼントのやりとりとかしてないし、初なら何かお菓子とかの消え物の方が良かったかなと、今更ながら後悔する。
そんなことを考えていると、彼女がおもむろにカバンからかえるパーカーを取り出す。
「これ、周にあげる」
「えっ?」
「一応……私からのクリスマスプレゼント……的な……」
「いいの……?だって君、SNSでも弓川パーカーの公式アカウントをフォローして、弓川パーカーに関する記事を何件かいいねしてたのに……」
「周……そんなとこまで見てんの?」
思わず彼女のSNSを監視していることがバレバレな発言をしてしまうと、彼女は少し呆れたような顔をするけど、そのまま言葉を続ける。
「周にアマガエルーって揶揄うためだけに買ったから、私には大きいし……。てか私、あの大富豪もわざと周に弱いカードが渡るようにして、周が大貧民になるように頑張ったんだよね」
「あれってそういうことだったの?」
「まあ……ぶっちゃけ出来レースだったよ。とりあえず、周用に買ったやつだから、周がもらってよ」
彼女は恥ずかしがって、僕に押し付けるようにかえるパーカーを持たせる。
余興用兼自分用に買ったのかと思っていたパーカーが、まさか僕用に買ってくれたものだったなんて。
そんなに日頃から僕のことを考えてくれているんだと思うと、心の底から嬉しい。
それに、お互いクリスマスプレゼントを持ってきていたなんて、まるで恋人みたいというか何というか。
「ありがとう……!」
「いいって。普段からお世話になってるし……」
彼女は目線を逸らし気味にする。
「じゃあ僕も……実は君に渡したいものがあって……」
「えっ……?」
カバンの中からかいじゅうパーカーを取り出す。
僕は彼女には、ねこパーカーが一番似合うんじゃないかと思うけど、彼女のいいね欄で複数回見かけたのはかいじゅうパーカーだったから、こっちにしてみた。
「はい、これ」
彼女にかいじゅうパーカーを差し出すと、彼女は明らかに嬉しそうに目を輝かせる。
「これ店舗限定のやつじゃん!えっ?オンラインでは買えなかったけど、この店舗に行ったの!?」
「たまたま出かけた先で見つけたから……君が欲しいかなって思って……」
たまたま見つけたっていうのは嘘。
本当は君が喜んでくれたらいいなって、あわよくば僕のことを好きになってくれたらいいなって思って、わざわざ新幹線を使って買いに行った。
転売で出品されてるのも見つけたけど、彼女に渡すのに、一度よく知らない人の手に渡った物を渡すのは嫌だったから。
自分でも馬鹿だと思う。
「観光してきたからお土産もあるよ。はい、これもあげる」
「すご~。ありがとー!あとで観光地の写真も送ってー」
彼女はスマホを取り出す。
「嬉しいから写真撮ってSNSにあげていい?」
「いいよ。むしろそんなに喜んでくれると、僕もあげた甲斐があったよ。僕もかえるパーカーの写真撮っていい?」
駅で袋に入ったパーカーの写真を撮っている僕達を見て、通りがかった何人かの人達が「あれ弓川パーカーじゃね?」なんて注目してくるから、少し恥ずかしい気持ちになった。
それからホームに向かう彼女を、背中が見えなくなるまで見送って、歩いて帰宅する。
彼女といた間は一切眠気を感じなかったけど、昨日は一度も寝てないから、家に着くと一気に眠気が来た。
シャワーを浴びて、やっとベッドに入る。
彼女はカラオケで寝てはいたけど、彼女も電車で寝落ちをしていないか心配になってメッセージを送る。
彼女も電車の中で暇だったのか、すぐに返信が来たから、さっき送ってと言われた観光地の写真を送ってみたり、他愛もない話をしたりする。
彼女からの無事帰宅したというメッセージに返信をしてから眠りにつく。
しばらく寝ていると、電話の音で起こされる。
「誰だろ?」
スマホを開くと、裕斗からだった。
彼女からの電話じゃないし、無視して寝直そうかなとも思ったけど、一応電話に出る。
昨日の夜から今日の朝まで、彼女と楽しい時間を過ごせたのは、裕斗のおかげでもあるし。
「もしもし。どうしたの?」
「アマガエル~、写真見たぞ~。朝までランデブーしたんだな」
「へっ?写真?何のこと?」
「SNS見てみろよ」
裕斗に言われるままSNSを開くと、彼女はかいじゅうパーカーの写真を載せているみたいだ。
よく画像を見ると、僕の袖が写っている。
「彼女のパーカーの写真のこと?」
「そうそう!これ完全に匂わせじゃね?これはわんちゃん、両想い説あるな」
匂わせ……。
単に僕の袖が写ってただけだと思うけど、匂わせだったら嬉しいな。
「もうこれ、朝まで周と一緒にいましたーっていう、周りの女子への牽制じゃん!」
「そう……かな……?」
「ぜってーそうだよ!」
「でも「友達からクリスマスプレゼントもらった!」だよ?友達って書いてあるし、どうなんだろう……?友達止まりってことかな……」
「お前ネガティブすぎwww匂わせってそういうもんなの!」
裕斗は自分のことのように楽しそうだ。
「てか俺が話したいのはそんなことじゃなくてだな。朝まで一緒にいたってことは……もしかしてホテル行っちゃった……?一線越えちゃった……?童貞卒業しちゃった……?やっぱりセックスってシコるより気持ちいいもんなの……?」
「そういうの本当にやめて。彼女とは一緒にカラオケしてただけだから。それより、彼女でそういう性的なことを考えるの、本気でやめてくれない?怒るよ?」
「ガチトーンじゃんwwwそんなんだから童貞なんだぞwwwまあ俺も童貞だけどwwwてか、周だってどうせ彼女で毎日のように抜いてるくせ」
ブチッ!
通話を切る。
図星だけど……図星だけど……例え僕絡みでも、他の男が彼女について性的な話をするのは耐えられなかった。
とりあえず僕も彼女の投稿にいいねをしようと、もう一度SNSを開くと、彼女の投稿は消されていた。
僕が写っていることが分かって投稿を削除したのかな?
次にサークルに顔を出すと、案の定、今まで僕のことを周と呼んでいたメンバー達が僕のことをアマガエルと呼び始めるようになった。
大学生バンドコンテストで入賞した時には、お祝いとしてカエルの雨合羽を渡された。
僕も最初はアマガエル扱いをされるのは恥ずかしかったけど、だんだん慣れてきたし、彼女も「アマガエルー」って楽しそうに絡んできてくれるから、雨の日はわざと彼女の前でカエルの雨合羽を着てみることもあった。
少しでも彼女の気を引けるなら、何でも良かった。
カエルのパーカーを手に取る。
あの頃は、彼女と僕はすごく仲が良かったんだ。
いつからおかしくなったのかな?
彼女を監禁している間も、パーカーのことで彼女に酷いことをしちゃったこともあったな。
「僕ね、君があんな思わせぶりなことをしてくるから、君に好かれてるんじゃないかなって勘違いしてた。元彼にもそういう思わせぶりな態度取ってたの?」
最近、彼女は抵抗することが多かったから、お仕置きも兼ねて避妊もせずに彼女を抱いている。
「僕は君からもらったもの、全部取ってあるんだよ?それこそお菓子の空箱とかも含めてね。でも君は、僕があげたもの、何一つここには持ってきてないよね?僕との思い出って、君にとっては本当にどうでもいいものだったんだね」
彼女は家を追い出されたんだから、そもそも今まで僕があげた物を持ってくる余裕なんてなかったはずだ。
頭ではそう分かっているのに、彼女に拒絶されることが続くと、それすらもネガティブな意味に捉えてしまって、彼女にぶつけてしまう。
「僕のこと、ちゃんと好き?」
「しゅき!しゅきだかりゃなかにださにゃいで……っ……!」
彼女は泣きながらひたすら「中に出さないで……」と懇願する。
彼女が泣くから、お仕置きの時はあえて中に出しているところがあるけど、実際にここまで泣かれると、そんなに僕との子供を産みたくないんだって、暗い気持ちになる。
「好きだから中に出さないで?それ何か変じゃない?ねえ、どっちが嘘?」
「あ……う……」
「答えられないってことは、好きっていうのが嘘なんだね」
首輪を操作するリモコンを手に取ると、彼女はガタガタと震え出す。
「僕に嘘ついたし、僕のこと拒絶したし、これは電気だね」
「ごめんなさい!でんきだけはやめっ……ああああああああ!」
彼女は痛みを逃すために必死にシーツを掴んで泣き叫ぶ。
「あああああああああ!ごべんにゃざいっ!ゆるぢで!ゆるぢで!」
泣き叫ぶ彼女の中に出す。
最近は電気の威力を前よりも上げたからか、相当痛いらしく、挿入中に電気を流すと、すごく強く締めてくるからすぐに射精してしまう。
射精したところで、電気も止めてあげる。
「電気流すとすごい締まるよね。クセになりそう……。君がこのまま悪い子なら、毎回電気流しながらセックスしようかな」
「ゆるひてくだひゃい……」
「負けガエルー。だっけ?あははっ。君はあれから無職になっちゃったし、僕から逃げる隙を窺ってるみたいだけど、いつも僕にこうやって好き放題されて泣いてるし、負けガエルは君の方じゃないのかな」
「ひぐっ……」
彼女の中から精液を掻き出す。
彼女の愛液と僕の精液がついた指を彼女の口の中に入れて舐め取らせる。
「妊娠したくないんでしょ?僕が中に出す度に、妊娠検査薬を使うまで毎日「妊娠怖い……」って泣いてるもんね?ちゃんと掻き出してあげるから全部舐め取るんだよ?全部舐め取れたら、シャワーでも洗い流してあげる」
彼女は妊娠の確率を少しでも下げるために、何度も気持ち悪さで吐きそうになりながらも必死に僕の指を舐め取る。
何とか全部舐め取ったものの、耐えきれなかったみたいで、彼女は必死に飲み込んだ分を、胃の中の物と一緒に全て吐き出してしまう。
「大丈夫?ごめんね……。全部飲めて偉かったね。吐いた分はこっちで掃除しておくから、少し休んだらちゃんとシャワーで綺麗にしてあげるからね」
それから、体液まみれになった彼女の身体を洗い流してあげて、中もしっかり洗ってあげる。
中を洗うと彼女は小さな嬌声を上げるけど、気持ち良さよりも恐怖の方が優っているみたいで、「まだ奥に残ってる……。お願い……。取って……」と懇願してくるから、奥までしっかり指を入れて綺麗にしてあげる。
お風呂の後は、彼女にご飯を作って食べさせてあげた。
彼女が好きな物を出してみたけど、彼女はずっと暗い顔をしていた。
「そういえばさ、そろそろまた耳掃除しなきゃだよね。僕がやってあげるから、僕の膝に寝転がってね」
そう言うと、彼女は怯えながらも僕の言う通りに、僕の膝に頭を乗せる。
僕が彼女の耳に綿棒を入れると、彼女は僕のことを警戒しているのか、小さく震え出す。
「膝枕懐かしいね。そういえばさ、あの時は君が寝惚けて僕の膝に寄りかかって来たって言ったけど、あれ実は嘘だったんだ。本当は寝ている君が可愛すぎて、僕が勝手に君に膝枕しただけなんだよ」
「………」
「でも安心して?ほっぺ触ったのと、寝顔を撮った以外は何もしなかったから。大切な君を傷付けたくなかったからさ。男と2人きりで酔ったまま寝るって、僕じゃなかったら何されるか分からなかったよ?」
彼女の頭を撫でる。
彼女からの返事はない。
「あの時はね、君に信頼されてるのかなって嬉しくて、君の信頼を裏切らないようにしなきゃって思ったんだ。でも君は、大して好きでもない男に処女をあげたし、風俗で働こうとしたんだもんね。僕が君にアプローチした時は避けたくせに、僕以外の男なら誰でもいいんだね……」
何で何も言ってくれないの?
「でも君のことは、もうここから一生出さないから、もう他の男と会うことなんてないもんね。過去の過ちは許してあげるから、これからはちゃんと僕だけを見てね?」
それからお互いの寝る支度を済ませて、彼女をベッドに寝かせると、彼女は泣きながら独り言を呟き始めた。
最近は毎晩独り言を言っている。
「痛いのも怖いのもやだ……。おうちに帰りたい……。私、悪いことしたけど、いっぱい罰は受けたから……もう許して……。私が全部間違ってたから……。もう二度と幼い子を虐めません……。ちゃんと働きます……。だからおうちに帰らせてください……。ごめんなさい……ごめんなさい……許してください……」
彼女は家族の幻覚でも見ているのか、壁に向かってひたすら謝り続ける。
「何言ってるの?君は家族に捨てられて僕のところに来たんでしょ?帰るところなんてないよ」
正気を失っているように見えても、僕の声は届くみたいで、彼女は僕の言葉を聞いて、さらに泣き出す。
それから彼女の精神状態があまりにも心配になったから、大学時代みたいに楽しい話を振ってみたり、彼女の拘束を片手だけにして、彼女が好きな漫画とか好きな音楽とか好きなゲームを楽しめるようにしたりした。
抱かないようにしてみたり、優しく接してみたりしたけど、それでも彼女は僕に怯えていて、僕の機嫌を取るために卑屈な笑顔を作ったり、僕が好きだと言って僕に抱きついてきてくれたりしたけど、精神が不安定になるといつも、「ここから出して」と泣き始めた。
本当は、彼女を逃してあげないと、彼女の笑顔は二度と戻らないと分かっていた。
もう彼女には、僕への恐怖が刷り込まれているんだから、僕が彼女に優しく接したところで、普通の恋人みたいになれるわけなんてなかった。
その事実が受け入れられなくて、おかしくなって、彼女を心身共に壊してしまった。
皮肉なことに、彼女は壊れてから、ようやく僕を好きだと言ってくれるようになった。いつもそばに居てくれるようになった。
「あまねー、そのかえるさんなにー?」
カエルのパーカーを見つめて、彼女とのこれまでに思いを馳せていると、彼女がベッドから話しかけてくる。
「これはね、僕の宝物の1つだよ」
「たからもの?ぜんぶみせて!」
「あはは。いいよ」
彼女からもらった物を全部見せる。
誕生日プレゼントから、彼女が気まぐれにくれたお菓子の箱まで、全部大切に取ってある。
「たからものいっぱいなんだねー」
全部彼女がくれた物なのに、彼女は他人事のような感想を言う。
「全部同じ人からもらったんだよ」
「へー!あいされてるね!でもわたしのほうがあまねのことすきだけどね!」
「ありがとう。僕も君のこと、愛してるよ」
愛されてる……?
僕は本当は、彼女に愛されてたのかな……?
「あまねー、かえるさんきてみてよー」
「流石に20後半の男が着るのは厳しくないかな?君が着なよ」
「わたしもきたいけど、さきにあまねがきて!」
「あはは。りょーかい」
かえるのパーカーを着る。
彼女との日々が思い出されて、泣きそうになる。
「似合ってるかな?」
「にあってるー!かえるさん!あまがえるさん!かえるさんのうた、うたってよー!」
「かえるさんのうたね。歌うの久しぶりだから懐かしいな。ギターも弾くね」
「わーい!あまねのぎたーすき!」
やっぱり君は同じことを言うんだね……。
当時はロック風にアレンジしたけど、何となく幼くなった彼女の前では、童謡らしく歌った方が良い気がして、原曲の雰囲気のまま歌う。
「どうだった?」
「うーん。はげしさがたりない……」
昔やったアレンジで弾き直してみる。
「良くなった?」
「うん!わたしこっちのほうがすき!」
「そっか……。君もそうなんだね……」
変わったところと、変わらないところ。
僕にとってはどちらも愛しい。
だって彼女は彼女だから。
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名乃坂さんこんにちは!パーカーSS読みました!周くんとヒロインの幸せだった頃のお話幸せそうで泣けます…
サークルのメンバーにマウントとっちゃうヒロイン可愛かったです~~
からの後半がより一層辛さが増して胸に刺さりました…ありがとうございます性癖です…←
いつも素晴らしいヤンデレ話を作っていただいて嬉しいです!毎回拝みながら読んでいます✨😊
稲崎さん、ありがとうございます❣️🥳❤️
2人の関係性の変化を書きたかったので、大学時代もがっつり書いてみました🥺❤️
ヒロインは姪に嫉妬するくらいには嫉妬深いので、大学時代は周の周りの女子にマウントを取っていました🤭
幸せな頃からの落差を書きたかったので、そう言っていただけると嬉しいです❣️(๑>◡<๑)
私こそいつも感想をくださってありがとうございます❣️😭❤️すごく励みになっています❣️🥳❤️
今回のお話もすごく心臓撃ち抜かれました😭!
幼児退行してるから以前より大胆な行動とってるヒロインがめっちゃ可愛くて周くんと攻めたり攻め返されたりのイチャイチャを繰り広げて………からの罪悪感に押し潰されそうになる周くんの焦燥具合に胸をしめつけられました😢
ヒロインに申し訳ないと思ってる反面ずっと一緒にいてくれて喜んでるところがこれぞヤンデレの真骨頂……みたいでゾクゾクしました❤❤❤🔥ありがとうございます!
私も周くんの弾き語り動画視聴者になって彼のやつれ具合を心配してあげたい………←
稲崎様、今回もご感想ありがとうございます❣️😭💖
心は子供なのに(周にそういうことされまくってたせいで)性的な意味では大人なヒロインのアンバランスさを出してみました☺️
本編はほとんど暗い雰囲気だったので、おまけではイチャイチャさせられて満足です(?)💪
大好きなヒロインを完全に壊したことに対して罪悪感や後悔はあると思いますが、元々ヒロインが骨折した時に、自分を頼ってくれたって喜ぶような男なので、この状況でもヒロインがそばにいて自分に依存してくれるってことに喜びも見出せてしまうかなと考えて書いたので嬉しいです❣️(๑>◡<๑)
元々どちらかというと細身だったのがさらに痩せて、骨とか浮き出ちゃってる感じだと思います🥺
配信者系男子、ちょっとイマドキ(?)っぽくて、設定として書いていて楽しかったです笑